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平民
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案内された大教室はがらんとしていた。まだ開始時刻のかなり前なので数人の生徒しか広い教室にいない。
俺は一番後ろの目立たない席に座ろうと緩い段になった通路を上っていく。
俺の目指していた一番後ろの隅っこで大人しそうな眼鏡をかけた少年が本を開いて何かメモを取っていた。
「やぁ、こんにちは」
俺は小さな声で挨拶をした。
「ここ、座っていいかな」
「ええ……うん」
少年は高い声で答えて、本を少しずらしてくれた。
「君、見かけない顔だね」
「ああ。うん、ちょっと事故にあって……頭を打ったみたいなんだ。それで」
「そうか。それは気の毒に」
「えっと、この授業はこの教科書でいいんだよな」
俺はローレンスの本棚から引っ張り出してきた教科書を少年に見せた。
「あ、これは去年の教科書だね」
「使えないのか?」
「ううん。大丈夫。中身は同じだから」
少年は俺に同じ本をかざして見せた。
「そ、そうか」
俺は教科書を開いてみた。最初のほうを読んでみたけれど、何が書いてあるのかさっぱりわからなかった。
隣の少年はさらさらとノートに何かを書いている。
「何をしているんだ?」
「課題だよ。先週出た」少年は顔を上げずに答えた。「本をまとめているんだ」
「そ、そんな課題があるんだ」
「うん。でも、君は免除されるんじゃないかな? 怪我をして入学が一期遅れたんだよね。それで許されたのならそうなると思う」
「そ、そうだといいね」
単位を取らなくても卒業できる大貴族特権はあるだろうか。俺は他人事だからいいけど、ローレンス、あぶないぞ。
「僕はリーフ。君は?」
「あ、俺、僕はラン……ローレンスだ」
「へぇ、ローレンス。僕の兄さんもローレンスというんだ。よろしく」
眼鏡の少年は手を出してきた。俺はその手を握り返す。
「平民の生徒って少ないから仲よくしようね」
「あ、お、僕は一応貴族……」
言いかけた時だった。教室に生徒の集団が大きな声で笑いあいながら入ってきた。
リーフは下を向いて目をそむける。
「なに? どうした?」
「しっ、下向いて。注意をひかないで」
リーフは勉強をしているそぶりをしながらささやいた。
俺も下を向いて本を読んでいるふりをした。
「あの人たち、貴族なんだよ。それも位の高い」
リーフが小さな声で教えてくれた。
「彼らにかかわると大変だから、ね」
俺はそっと前のほうで騒いでいる連中を観察した。ほとんどの生徒が今はやりの私服で、中にはこれ見よがしに高価な装身具をつけているものもいる。紋章入りの剣を腰に下げているものまでいた。
「静かに。それでは授業を始める」
魔法学の先生が入ってきても、しばらく貴族の子弟は教室の前のほうでたむろし、先生が机をたたいてようやく席に着く。
授業は予想していたように何を話しているのかさっぱりわからなかった。
あまりのわからなさに隣を見ると、リーフが懸命にノートを取っている。
「君、わかるのかい?」
「うん」
「僕にはさっぱりだ」
「基本さえおさえれば簡単だよ」
当たり前のようにいわれて、俺は黙った。
本の最初から読んでみたけれど、まるで頭に入ってこない。
教室の外には穏やかな日が差していた。窓から気持ちのいい風も入ってくる。こういう日こそ外で修練を積むか、森に散策に行くか、川で泳ぐのもいいな。
いつしか俺はうとうとしていたらしい。肩をたたかれて目を上げると、リーフが心配そうにのぞき込んでいた。
「ねえ、大丈夫?」
「あ、ああ。ごめん」
周りを見回すと教室はまた空に近くなっている。
「もう授業終わったよ」
俺は慌てて教科書を片付けた。
「次の授業は?」
「あ、また同じ授業だね。精霊魔法基礎」
「精霊学か」
これは何とかなるかもしれないとひそかに思っていた授業だった。前の学校でもこの授業はあったからだ。
次の教室は前の部屋よりも小さかった。棚がたくさんあって、杖が並べられていた。杖術の訓練でもするのだろうか。それにしては大きな机やいすがたくさんある。杖を振り回す空間がない。
「ここでやるのか?」
「精霊関係の授業は基本この教室だよ」
俺はリーフとまた隅のほうの席に座った。
「さっきはずいぶん気持ちよさそうに寝ていたね」
「うん、授業を聞いていたら眠くなってしまって」
俺は全然理解できなかったと打ち明けた。
「あの教科書の初めは理解しにくいんだよ。いきなり理論から入るから」
リーフが自分のノートを見せてくれた。几帳面な字で魔法の基本についてまとめられている。
「へぇ、これはわかりやすい」
俺の頭でもわかる。
「すごいな、リーフ。僕でも理解できるよ」
「そのノート、貸してあげるよ。もう使わないと思うから」
リーフが少しうれしそうに、でも恥ずかしそうにそのノートを差し出した。
「実はこのノートは別の本をまとめたものなんだよ。教科書が分からないっていったら、兄さんがこっちのほうがいいよって」
「へぇ、君の兄さんは頭がいいんだな」
「うん。とても勉強家で、だからここには入れたんだよ」
リーフの家は本屋なのだそうだ。
「もっとも、家で扱っているのは庶民向けの本で、魔法の本はあまりないんだけどね」
リーフは頭を掻いた。
「ねぇ、そういえばローレンスはどこの出なの? 帝都の出? それとももっと別の地域なのかな」
「僕は……」
何といえばいいのだろう。俺は困った。
「実は覚えていないんだよ」
「え?」
「事故でね。それで、記憶がとんでしまった……らしいんだよ。両親という人があらわれたんだけど」
いきなり肉親だといわれても情が湧かないんだよ。本物の親もいるから。俺はため息をつく。
「ローレンス、君、大変だったんだね」
リーフが同情の目で俺を見る。素直に俺の嘘を信じたみたいだ。きらきらした曇りのない優しさに、俺は心苦しくなって目をそらす。
「何かできることがあったらいってね。力になるから」
ごめんな。リーフ。俺は偽記憶喪失者です。
「それでは、授業を始めます」
精霊学は魔法学よりもずっとわかりやすいはずだった。原理的に精霊の力を使うには一つの方法しかないからだ。
精霊と友達になること。
つまり精霊を見たり聞いたりできる才能と、精霊との相性。力を使うのに必要な条件はこれだけだ。俺達、北の戦士と呼ばれる人間はお友達になれる能力を持っている。才能がなければ、どんなに名家の出であっても戦士になることはできないからだ。
一方魔法は魔道具さえあれば簡単な魔法なら誰でも使える。平民から貴族まで、人を選ぶことはない。ただ高度な魔法や魔道具作成には複雑な手続きや詠唱や道具が必要となるけれど、それはそれ。そういうことは専門家にお任せだ。
「……というわけです」
そんなわけで精霊学の先生の話も当たり障りのない普通の話か、神学の話になるしかない。そのくらい個人の力量と個性に由来するものなのだ。そのくらい俺の学校でもやってきたからなんとかなる、と思ったのだけど。
おかしいな。今まで習ったこともない話を聞いている。これは本当に精霊学なんだろうか。
「次の時間から精霊を呼び出す訓練をしますね」
え?
「うまくいかない人がほとんどだと思いますが、気にしないでください」
ええええ?
こんな初級の授業で、そんな高度な技を? あんなに練習した俺でも今まで一度も精霊を呼び出すことに成功していないのに。
「ど、どうやって呼び出すの?」
俺はリーフに聞いてみた。
「うん? 僕も本でしか見たことがないけれど」
リーフは教科書の後ろのほうを開いて図を見せてくれた。
「こうやって杖をもって、振り回すみたいだよ。こんな感じに」
「剣にのせるんじゃないの?」
「何をのせるの?」
精霊剣の使い方を身振り手振りで教えようとして、俺は自分の設定を思い出した。
「あー、わけがわからない」
中途半端に振り上げた手をぐるぐると振り回した。
「だよね。僕達平民にはあまり縁のない技だよね。精霊の恵みを受けた人はあまりいないからね」
「そ、そうなんだ」
「恵みを受けても、大体が魔道学校には行かずに、神職に進むしね」
「へえ」
聞いていないことばかりで、笑い返す頬が引きつった。
また一つデリン家に文句をつける材料を見つけてしまう。
「次は何の授業?」
教室から出た俺たちは互いの時間割を見せ合った。
「次は神学かぁ。この授業、僕はとっていないんだよね」
リーフが残念そうにいう。
「次に一緒に受ける科目は、来週の魔道学かな? これもこの教室だよ。ちょうど来週から実践に入るところだよ。良かったね」
「もう実戦……ついて行けるかな?」
「ノートを貸してあげるよ。これ、みたら、大体理解できると思う」
持つべきものは賢い友だ。俺はありがたく、ノートを借りた。
「早く食堂に行こうよ。弁当がなくなってしまうよ」
リーフに促されて、俺は食堂に向かった。
そういえば、イーサンは何をしているのだろう。あまり出歩くなといっていたけれど、少しくらいなら大丈夫だよな。
上の学年はまだ授業中らしい。俺とリーフは食堂の端で箱に入れた弁当を受け取った。
「もう少ししたら、身分の高い人たちが来るからね」
リーフは俺を急き立てる。
「庭に出て食べるんだ」
「なぁ、平民は食堂を使えないのか?」
俺はリーフにきく。
「うん。建前上は誰でも使えることになっているけれど、僕達と一緒だと嫌がる人もいるからね」
「食べるものも違うんだな」
俺はベンチに座って弁当のふたを開ける。昨日の晩御飯とは比べにならないほど質素だった。量だけはあるけれど。
「まあね」
リーフはそれを当たり前だと思っているようだった。
前の学校では全校生、同じものを食べていたからな。そして、食事は戦闘だった。ここではだれ一人争うことなく食事にありつけるが、奇妙な区別があるんだな。
そうこうしているうちに、上の学年の授業が終わったらしい。庭を横切る生徒の数が増えてきた。集団になって、食堂に向かっているのは貴族たちということか。その集団の中からも何人かが抜けて、庭に出てくる。
「あ、兄さんだよ」
リーフが手を振る。
「ローレンス兄さん、こっちだよ」
リーフによく似た青年がこちらに向かってきた。リーフの眼鏡をはずして、背を伸ばしたらこんな姿になるのだろう。彼はさわやかな笑顔を浮かべていた。
ふいに彼の笑顔が消えた。ものすごい速さでこちらに近づいてくると、リーフの腕を取っていきなり立たせる。
俺は一番後ろの目立たない席に座ろうと緩い段になった通路を上っていく。
俺の目指していた一番後ろの隅っこで大人しそうな眼鏡をかけた少年が本を開いて何かメモを取っていた。
「やぁ、こんにちは」
俺は小さな声で挨拶をした。
「ここ、座っていいかな」
「ええ……うん」
少年は高い声で答えて、本を少しずらしてくれた。
「君、見かけない顔だね」
「ああ。うん、ちょっと事故にあって……頭を打ったみたいなんだ。それで」
「そうか。それは気の毒に」
「えっと、この授業はこの教科書でいいんだよな」
俺はローレンスの本棚から引っ張り出してきた教科書を少年に見せた。
「あ、これは去年の教科書だね」
「使えないのか?」
「ううん。大丈夫。中身は同じだから」
少年は俺に同じ本をかざして見せた。
「そ、そうか」
俺は教科書を開いてみた。最初のほうを読んでみたけれど、何が書いてあるのかさっぱりわからなかった。
隣の少年はさらさらとノートに何かを書いている。
「何をしているんだ?」
「課題だよ。先週出た」少年は顔を上げずに答えた。「本をまとめているんだ」
「そ、そんな課題があるんだ」
「うん。でも、君は免除されるんじゃないかな? 怪我をして入学が一期遅れたんだよね。それで許されたのならそうなると思う」
「そ、そうだといいね」
単位を取らなくても卒業できる大貴族特権はあるだろうか。俺は他人事だからいいけど、ローレンス、あぶないぞ。
「僕はリーフ。君は?」
「あ、俺、僕はラン……ローレンスだ」
「へぇ、ローレンス。僕の兄さんもローレンスというんだ。よろしく」
眼鏡の少年は手を出してきた。俺はその手を握り返す。
「平民の生徒って少ないから仲よくしようね」
「あ、お、僕は一応貴族……」
言いかけた時だった。教室に生徒の集団が大きな声で笑いあいながら入ってきた。
リーフは下を向いて目をそむける。
「なに? どうした?」
「しっ、下向いて。注意をひかないで」
リーフは勉強をしているそぶりをしながらささやいた。
俺も下を向いて本を読んでいるふりをした。
「あの人たち、貴族なんだよ。それも位の高い」
リーフが小さな声で教えてくれた。
「彼らにかかわると大変だから、ね」
俺はそっと前のほうで騒いでいる連中を観察した。ほとんどの生徒が今はやりの私服で、中にはこれ見よがしに高価な装身具をつけているものもいる。紋章入りの剣を腰に下げているものまでいた。
「静かに。それでは授業を始める」
魔法学の先生が入ってきても、しばらく貴族の子弟は教室の前のほうでたむろし、先生が机をたたいてようやく席に着く。
授業は予想していたように何を話しているのかさっぱりわからなかった。
あまりのわからなさに隣を見ると、リーフが懸命にノートを取っている。
「君、わかるのかい?」
「うん」
「僕にはさっぱりだ」
「基本さえおさえれば簡単だよ」
当たり前のようにいわれて、俺は黙った。
本の最初から読んでみたけれど、まるで頭に入ってこない。
教室の外には穏やかな日が差していた。窓から気持ちのいい風も入ってくる。こういう日こそ外で修練を積むか、森に散策に行くか、川で泳ぐのもいいな。
いつしか俺はうとうとしていたらしい。肩をたたかれて目を上げると、リーフが心配そうにのぞき込んでいた。
「ねえ、大丈夫?」
「あ、ああ。ごめん」
周りを見回すと教室はまた空に近くなっている。
「もう授業終わったよ」
俺は慌てて教科書を片付けた。
「次の授業は?」
「あ、また同じ授業だね。精霊魔法基礎」
「精霊学か」
これは何とかなるかもしれないとひそかに思っていた授業だった。前の学校でもこの授業はあったからだ。
次の教室は前の部屋よりも小さかった。棚がたくさんあって、杖が並べられていた。杖術の訓練でもするのだろうか。それにしては大きな机やいすがたくさんある。杖を振り回す空間がない。
「ここでやるのか?」
「精霊関係の授業は基本この教室だよ」
俺はリーフとまた隅のほうの席に座った。
「さっきはずいぶん気持ちよさそうに寝ていたね」
「うん、授業を聞いていたら眠くなってしまって」
俺は全然理解できなかったと打ち明けた。
「あの教科書の初めは理解しにくいんだよ。いきなり理論から入るから」
リーフが自分のノートを見せてくれた。几帳面な字で魔法の基本についてまとめられている。
「へぇ、これはわかりやすい」
俺の頭でもわかる。
「すごいな、リーフ。僕でも理解できるよ」
「そのノート、貸してあげるよ。もう使わないと思うから」
リーフが少しうれしそうに、でも恥ずかしそうにそのノートを差し出した。
「実はこのノートは別の本をまとめたものなんだよ。教科書が分からないっていったら、兄さんがこっちのほうがいいよって」
「へぇ、君の兄さんは頭がいいんだな」
「うん。とても勉強家で、だからここには入れたんだよ」
リーフの家は本屋なのだそうだ。
「もっとも、家で扱っているのは庶民向けの本で、魔法の本はあまりないんだけどね」
リーフは頭を掻いた。
「ねぇ、そういえばローレンスはどこの出なの? 帝都の出? それとももっと別の地域なのかな」
「僕は……」
何といえばいいのだろう。俺は困った。
「実は覚えていないんだよ」
「え?」
「事故でね。それで、記憶がとんでしまった……らしいんだよ。両親という人があらわれたんだけど」
いきなり肉親だといわれても情が湧かないんだよ。本物の親もいるから。俺はため息をつく。
「ローレンス、君、大変だったんだね」
リーフが同情の目で俺を見る。素直に俺の嘘を信じたみたいだ。きらきらした曇りのない優しさに、俺は心苦しくなって目をそらす。
「何かできることがあったらいってね。力になるから」
ごめんな。リーフ。俺は偽記憶喪失者です。
「それでは、授業を始めます」
精霊学は魔法学よりもずっとわかりやすいはずだった。原理的に精霊の力を使うには一つの方法しかないからだ。
精霊と友達になること。
つまり精霊を見たり聞いたりできる才能と、精霊との相性。力を使うのに必要な条件はこれだけだ。俺達、北の戦士と呼ばれる人間はお友達になれる能力を持っている。才能がなければ、どんなに名家の出であっても戦士になることはできないからだ。
一方魔法は魔道具さえあれば簡単な魔法なら誰でも使える。平民から貴族まで、人を選ぶことはない。ただ高度な魔法や魔道具作成には複雑な手続きや詠唱や道具が必要となるけれど、それはそれ。そういうことは専門家にお任せだ。
「……というわけです」
そんなわけで精霊学の先生の話も当たり障りのない普通の話か、神学の話になるしかない。そのくらい個人の力量と個性に由来するものなのだ。そのくらい俺の学校でもやってきたからなんとかなる、と思ったのだけど。
おかしいな。今まで習ったこともない話を聞いている。これは本当に精霊学なんだろうか。
「次の時間から精霊を呼び出す訓練をしますね」
え?
「うまくいかない人がほとんどだと思いますが、気にしないでください」
ええええ?
こんな初級の授業で、そんな高度な技を? あんなに練習した俺でも今まで一度も精霊を呼び出すことに成功していないのに。
「ど、どうやって呼び出すの?」
俺はリーフに聞いてみた。
「うん? 僕も本でしか見たことがないけれど」
リーフは教科書の後ろのほうを開いて図を見せてくれた。
「こうやって杖をもって、振り回すみたいだよ。こんな感じに」
「剣にのせるんじゃないの?」
「何をのせるの?」
精霊剣の使い方を身振り手振りで教えようとして、俺は自分の設定を思い出した。
「あー、わけがわからない」
中途半端に振り上げた手をぐるぐると振り回した。
「だよね。僕達平民にはあまり縁のない技だよね。精霊の恵みを受けた人はあまりいないからね」
「そ、そうなんだ」
「恵みを受けても、大体が魔道学校には行かずに、神職に進むしね」
「へえ」
聞いていないことばかりで、笑い返す頬が引きつった。
また一つデリン家に文句をつける材料を見つけてしまう。
「次は何の授業?」
教室から出た俺たちは互いの時間割を見せ合った。
「次は神学かぁ。この授業、僕はとっていないんだよね」
リーフが残念そうにいう。
「次に一緒に受ける科目は、来週の魔道学かな? これもこの教室だよ。ちょうど来週から実践に入るところだよ。良かったね」
「もう実戦……ついて行けるかな?」
「ノートを貸してあげるよ。これ、みたら、大体理解できると思う」
持つべきものは賢い友だ。俺はありがたく、ノートを借りた。
「早く食堂に行こうよ。弁当がなくなってしまうよ」
リーフに促されて、俺は食堂に向かった。
そういえば、イーサンは何をしているのだろう。あまり出歩くなといっていたけれど、少しくらいなら大丈夫だよな。
上の学年はまだ授業中らしい。俺とリーフは食堂の端で箱に入れた弁当を受け取った。
「もう少ししたら、身分の高い人たちが来るからね」
リーフは俺を急き立てる。
「庭に出て食べるんだ」
「なぁ、平民は食堂を使えないのか?」
俺はリーフにきく。
「うん。建前上は誰でも使えることになっているけれど、僕達と一緒だと嫌がる人もいるからね」
「食べるものも違うんだな」
俺はベンチに座って弁当のふたを開ける。昨日の晩御飯とは比べにならないほど質素だった。量だけはあるけれど。
「まあね」
リーフはそれを当たり前だと思っているようだった。
前の学校では全校生、同じものを食べていたからな。そして、食事は戦闘だった。ここではだれ一人争うことなく食事にありつけるが、奇妙な区別があるんだな。
そうこうしているうちに、上の学年の授業が終わったらしい。庭を横切る生徒の数が増えてきた。集団になって、食堂に向かっているのは貴族たちということか。その集団の中からも何人かが抜けて、庭に出てくる。
「あ、兄さんだよ」
リーフが手を振る。
「ローレンス兄さん、こっちだよ」
リーフによく似た青年がこちらに向かってきた。リーフの眼鏡をはずして、背を伸ばしたらこんな姿になるのだろう。彼はさわやかな笑顔を浮かべていた。
ふいに彼の笑顔が消えた。ものすごい速さでこちらに近づいてくると、リーフの腕を取っていきなり立たせる。
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