魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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魔法の才能

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 俺がそのことに気が付いたのは、昼時だった。

 町に外出して戻った日から変だなと思っていた。俺の周りに人がいない。食堂に行けば、いつの間にか周囲の席がぽっかりと空き、気がつけば一人で食事をしていた。談話室に顔を出しても、先ほどまで騒いでいた生徒たちがそそくさと部屋に戻ってしまうのだ。

「なぁ、イーサン。なんか、俺、みんなに避けられてないか」
 弁当箱の追加を持ってきてくれたイーサンに俺は聞いてみた。

「……今まで気が付いていなかったのか?」

 いや、なんとなく変だと思っていたんだ。でも、確信がなかった。
 俺が避けられているのか、もともとローレンスが避けられていたのか。一体どちらなんだろうかって。

 今朝は同じ学年の授業に出席したのだが、イーサンを除いて誰一人俺に声をかける奴はいなかった。イーサンには話しかける人はいたけれど、俺はまるでいない存在みたいに扱われていた。
 生徒どころか、先生も俺と目を合わせようとはしない。

 先ほど行った食堂の配膳係もそうだ。俺にはスープをついでくれなかった。
 たまたまかと思って、自分でスープをよそったら、腰を抜かして驚いていたけれど。

「ひょっとして、昨日からずっと?」

「……いい神経をしているよ」

「くそが」
 あのくそ変態王子の差し金だな。
 俺は肉をかみちぎった。
 一発じゃなくて、三発くらい殴っておくんだった。いっそのこと玉をつぶして……

「変なこと、考えるなよ」
 ぼそりとイーサンがつぶやく。
「仮にも相手は王子だぞ」

 どうしてイーサンには俺の考えが読めるのだろう。本当に不思議だ。

 別にこの状態は俺にとってどういうことはない。もともと、誰一人として知らないのだから。相手は俺が困ると思っているみたいだけれど、割り切っている俺の受ける心の痛手はほとんどない。当てが外れてざまあみろ、といってやりたい。

 ただ、問題もある。ローレンスと親しかった人物に接触して、彼がどこに行ったかを聞き出すことができないということだ。親しくしていたらしい変態王子の取り巻きたちは当然のこと、関係ない同級生や先生まで俺を無視するのだったら、誰から話を聞けばいいのだろう。

 本当に困った。

 こうなったら、どんな手段を使ってもなるべく早くローレンスを探す。探して、入れ替わって、この針のむしろ状態を奴に押し付ける。

 その手段を思いつかないのが一番の問題なんだけどな。

 頭をひねっていたらあっという間に休みの時間が終わってしまう。

 俺はイーサンと別れて魔道術の教室に向かった。あの杖がたくさん置いてある部屋だ。

 部屋に入るとリーフが前のように隅に座っていた。俺は目を伏せて、反対側の隅っこに座る。

 まだ、リーフの貸してくれたノートはそのままだった。ちらりとリーフを見たが、彼は顔を伏せてかたくなにこちらを見ようともしない。

 俺はため息をついてリーフのノートを開いてみた。

 読み進めていくうちに本当に驚いた。この前のノートだけじゃない。どのノートもわかりやすいのだ。あれほどわけのわからなかった魔法理論がすっきりとまとめてある。あの分厚い本じゃなくて、これを教科書に使えばみんな理解できるんじゃないか。魔法学初心者の俺でも読めるくらいだから。

 あいつ、本当に優秀なんだ。
 平民ということで機会にも恵まれず、ろくな先生もいなかったはずなのにこの水準。俺の親父なら即養子に取るというだろう。
 これも手紙に書いておかなければ。

「みなさん、きょうはお待ちかねの実践の時間です」

 魔道学の教員は教室にいる生徒を何人かまとめて班にした。俺とリーフはもちろんあまりものの班だ。

「皆さんの前に魔道器をお配りします。その中を開けて、仕組みを確認してみましょう」

 俺はリーフと距離を取って作業を見ていた。作業はリーフが中心になって淡々と進む。あっという間に魔道器はバラバラになり、部品が丁寧に並べられた。他のどの班よりも俺たちの班の作業は早かった。

「素晴らしい」

 魔道学の教員は俺たちの班をほめた。それから、杖を配って各々に渡す。

「それでは、基本となる魔石から魔法を解放してください。方法は以前に説明しましたね」

 複雑な文様を書いた紙に魔石をのせて、杖で文様を描いて見せた。

「これは火の魔石ですから、火の文様を描きます。そうすると、魔石本来の力を解放できます」

 先生が文様を杖でなぞると、小さな火が魔石から現れた。

「暴走しないように抑えてありますから、このくらいの炎を出せれば合格ですよ」

 みんな次々と挑戦した。
 俺もやってみたが、いい加減な文様では起動しないらしい。炎のかけらも現れない。
 生徒の中で先生と同じくらいの炎を出すことができたのはリーフだけだった。

「すばらしいですね。リーフさん」
 先生は手放しでほめた。
「よく、訓練しています。皆さんも、リーフさんも見習いましょうね」

 何人かが拍手した。しりすぼみに小さくなってしまったけれど。

 その実習の後、今度は魔道具の組み立て作業だ。これも俺たちの班が一番早くできた。これもリーフの力が大きい。

 その次の時間も、同じ教室でほぼ同じ生徒が参加する授業だった。

 今度は、杖を使って文様を描く練習の授業だ。

「この杖なしに文様を描けるようになるのが理想です」

 わかりやすくするために杖を使うのであって、できれば杖なしで、もっと高度になれば思い描くだけで使えるようになるのが理想だと先生は言う。
 それって結局、俺たちが精霊を呼んで動かすというのと似た感じになるのだろうか。

 前の時間と同じようなことがこの時間でも起きた。

 いろいろな魔石の力を引き出す訓練をして、完ぺきにできたのはリーフただ一人。
 先生は驚きながらも褒めていたけれど、他の子供たちの中には文句を言うものが現れ始めた。

「先生、あいつ、ズルしてるんじゃないですか」
「平民なのに、魔法を使えるなんておかしいですよね」

 先生は確かに貴族のほうが魔法の扱いがうまい人が多いこと。でも、平民の中にも能力を持った人は少なからずいることを丁寧に説明した。

 俺は素直に納得した。もともと、精霊力とはそういうものだと思っていたから。だけど、俺は少数派だったみたいだ。

 同じ授業を受けていた生徒たちは、特に貴族の子弟は、まったくそのことを理解していなかった。貴族だから魔法を使えると信じているみたいだった。家柄ですべてが決まるのなら養子を迎えたりしないだろうに。帝国では養子を迎えたりしないのかな?

 その授業が終わってから、俺はしばらく教室に残っていた。リーフにノートを返そうかどうしようか迷っていたのだ。こんな素晴らしいノートを取っておいてくれと言われても、渡した本人が困るだろう。

 なかなかリーフに近付く機会がなくて、教室を出るのは最後になってしまう。

 リーフの後ろ姿を探してあたりを見回すと、同じ学年の生徒たちに囲まれて図書館のほうへ向かうリーフを見つけた。なるほど図書館で勉強するのか。リーフに教えてもらったら、さぞわかりやすいだろう。最初はそんなことを考えていた。

 様子がおかしいことに気が付いたのは、すぐそのあとだ。

 生徒たちの集団は図書館ではなく、そのさらに先の建物に向かっている。確か地図では神殿の宿舎や古い礼拝場があると書いてあったあたりだ。

 これは怪しい。


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