魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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喧嘩

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 よくある話だ。
 大事な人を人質にして、敵を呼び出すという方法。

 やってくれるじゃないか。
 リーフは相手が考えているほど俺と関係のある人物ではないが、釣られてみようかと思うほどの知り合いだ。ご招待にはぜひとも応じないと。

 デキウス先輩というのがどんなやつなのか、知らない。けれど、周りの反応からして少しくらい暴力をふるっても大丈夫そうな人物みたいだ。

 しかし、集会の部屋は非常にわかりにくいところにあった。すでに俺が探索済みの範囲を外れていたので、建物の配置すらわからない。あやうく、全く違う場所に行くところだった。

 途中で本屋のローレンスに出会って、(無理やり)場所を教えてもらえたから、なんとかたどり着けたけれど。

 扉の前に立っていたのは、明らかに素行がよくなさそうな生徒だった。私服を着て、ジャラジャラとこれ見よがしに装飾品をつけて、俺と戦うことなど想定もしてないだらしなさだ。

「おや、ラーク。来たのか。かわいこちゃん」
 彼はいやらしい笑いを浮かべて、扉を開けてくれた。
「どうぞ、どうぞ、みんな、お待ちかねだよ」

 御親切にどうも。

 その部屋はもともと古い教室だったようだ。古い椅子がいくつも並べられて、そこに何人かの生徒が座っていた。その中心に教壇の成れの果てが残っている。リーフはそれにもたれかかるように座り込んでいた。顔を上げた彼の顔に鼻血が付いていた。

「ローレンスさん? 駄目です」
 リーフは俺に警告した。
「来たら、駄目」

「うるさいんだよ。平民が」
 リーフの隣に立っていた男がリーフをけった。

「やぁ、ラーク。よく来たね。まさか、臆病者のお前がここまで来るとは思ってもいなかったよ」
 呻くリーフを見て楽しそうにしているこいつがデキウスだろうか。

「なぁ、俺たちと楽しく遊ぼう……」

 無防備に後ろから近付いてきた男に思い切り頭突きを食らわせる。もう一人には肘打ちを。

「な」
 驚いて動きを止めた男にそばにあった椅子をたたきつけてやった。

 これで、3人。

 椅子の足はちょうどいい長さの棒になった。俺はそれを何度かふって様子を確かめる。

「リーフ、ごめんね。ちょっと下がっていてくれる?」
 俺は目を見開いてこちらを見ているリーフに笑いかけた。

「ラーク、てめえ」
 周りで笑いながら見ていた奴らが血相を変えて立ち上がった。

 数が多いな。冷静に俺は判断する。でも、数だけだ。

 魔道学園という場所柄、魔法や結界の類を使われると厄介だと思っていたけれど、そんなものを使えそうな人はいない。楽勝とはいかないが、なんとかなりそうだ。

「ラーク」
扉のところから叫んだのはイーサンだった。慌てて駆けつけてきたのか、息を切らせている。

「やぁ、相棒。これを使えよ」

 俺は手にした椅子の足をイーサンに投げた。そして、絡んでくる上級生を蹴った。イーサンもわけがわからないながら、うまく足を使って殴りかかる相手を避けている。

「何だ、これは?」

「武器」

「武器?」
 イーサンはそういいながらも見事にそれで相手の脳天をたたいている。さすが武門の生まれだけはある。

 俺も、新しい武器が欲しい。他の椅子の足のかけらを見つけたが、長さが足りなかった。

「この野郎」
 大柄な生徒が飾りで下げていた剣を抜いた。儀礼用とはいえ刃がついている。
 町で買ったあの短剣があったらなぁ。あの切れ味を試す絶好の機会だったのに。

「ローレンス、危ない!」
 叫んだのはリーフだ。

「おっと」
 俺は落ちていた分厚い本で剣を止めた。相手の剣は途中で止まった。なまくらでよかった。

「刃物は反則だろ」
 相手の懐に飛び込んで、腕をひねる。簡単に刃物は落ちた。使ったこともない癖に剣を抜くんじゃないよ。

「怪我させるなよ」
 ものすごい悲鳴にイーサンが警告する。

「相手が先に絡んできたんだよ。不可抗力だ」
 俺は陽気にいいかえす。

「リーフ!」
 そこへ本屋のローレンスが飛び込んできた。
 目の前で繰り広げられている乱闘に口をあんぐり、立ち止まっている。

「兄さん」
「おい、これは一体……」
「くそ、平民が……」

 ローレンスが殴られている。かわいそうに。彼は関係ないのに。しかし、怒ったローレンスもやり返していた。なかなかいい拳だ。彼は加勢しなくても大丈夫そうだ。

 それよりも。

「おい、行くぞ」
 俺はリーフの手をつかんで立たせた。
 リーフのほうが心配だ。早く、逃がしたほうがいい。

「え? ちょっと待って」
 彼は慌てて床に散らばった本を集め始める。
 あ?さっき盾に使った本はリーフの本だったのか。

「行けよ。さっさと」
 俺は一緒に本を拾い集めて、リーフに渡した。

「いいんですか?」
「あと、これ」眼鏡も返す。

「ラーク、さん」

 椅子が降ってきた。危ない、危ない。

「リーフ」
 何とか弟のもとに這ってきた本屋が弟を抱きしめる。

「さっさといけ。邪魔」

 後ろから何かで殴り掛かられた。床に伏せて、その何かをかわす。

「危ないだろ。おい、待てよ」

 本屋の兄弟に追いすがろうとする野暮な奴の襟首をつかんで引き戻した。

「相手はこっち」

 高笑いしたい気持ちだった。最近いろいろと溜まっていたから発散したかったんだ。

 そのとき、扉の向こうにちらりとドネイ先生の姿が見えた。
 先生は扉の前で立ち止まって、目を閉じた。手が印を結ぶ。

 うわぁ。
 嫌な予感がした。

 俺はつかんでいた相手を突き放して教壇の裏に滑り込んだ。

 次の瞬間、光が狭い部屋を照らし出した。目を硬くつむって、光を防ごうとしたけれど、目の裏にチカチカと光が残った。

 魔法だ。厄介な……

「これは、何事ですか」
 目つぶしを食らった生徒たちはふらふらと頭を振っている。

「いったい」
 そろそろと、教壇の陰から覗くと先生と目が合った。
「ラーク……一体ここで何を……」

 うん、なんと言い訳しよう。俺は頭の中でいろいろな理由を考えた。

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