魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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宴の後

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 俺たちは、少なくとも俺と兄貴は楽しく食事をした。やはり、縁者がいると話が盛り上がる。兄貴は北の狩りの話ということで家族の近況を伝えてくれた。

「北では魔獣が出るという話を聞きましたが、事実ですか?」

 最初は遠慮がちだったイーサンも兄貴の面白い話に引き込まれているようだ。それはそうだろう。イーサンも武門の出だ。魔物退治にあこがれるのが普通だろう。

「そうだな。山奥にはまだまだ魔獣がいるぞ。帝国ではもうあまり見かけなくなったようだが……」

 そこへ、二人組の私服姿の生徒が近づいてきた。貴族出身の上級生だ。

「特に、高い山には巨大な鳥がいて……」
『敵か』
 兄貴がさりげなく机をたたく。

『敵です』俺も合図を返した。『二番目の王子』

「彼らの羽は素晴らしいぞ。魔道具の道具として使われていると聞く。なぁ、リーフ。そうなんだろう?」

「失礼だが」
 二人組は咳払いをしてこちらの注意を引いた。
 兄貴が話を中断して尊大に椅子にもたれかかる。

「なんだ? 君たちも我々の宴会に加わりたいのか」

「いや、そうではなく……」

 彼らはちらりと後ろを見た。私服の生徒たちの集団が陣取って、その中心にきらめく金髪が見える。

「失礼だが、そこは我らの席だ。空けてほしい」

 そうなのか? 
 兄貴は俺たちに確認を求めた。
 そんな話聞いたことがない。俺やイーサンが首を振ると、兄貴は肩をすくめた。

「兄弟たちの話ではそうではないということだが?」

「この時間はいつも我々が使っていた席なんだよ、ですよ」
 明らかにそう言えと言われていたのだろう。兄貴の圧に言葉が乱れている。

「それなら、こちらに来ればいいのに」
 兄貴は空いている周りのテーブルを見回す。
「こんなに空いているぞ。私たちは気にしないから、どうぞ、席についてくれ」

「我々は自分たちだけで静かに食事がしたいんだ」

「なんと、我らとともに食卓を囲めない理由があるのか? 我らにはないぞ。きたければくればいい。我らは拒みはしない」

 二人組はちらりとまた後ろを見た。このころになると、食堂中の生徒がこちらのやり取りに注意を向けていた。

「なあ」片方の生徒がもう片方の腕をつかむ。「戻ろう」
「だめだ。ダメに決まっている」
 もう一人の生徒は腕を振り払った。

「はっきり言おうか。ここをどいてくれ。ここは、学園の食堂だぞ。高貴な方々がおられるのだ。獣臭い野蛮人が酒を飲む場所じゃない」
 その言葉が放たれた瞬間に、空気が凍り付いた。

「ほおー」
 兄貴はゆっくりと立ち上がった。兄貴の背は二人よりもずっと高い。その動きだけで二人組を押しつぶすだけの圧を発している。
「獣臭い野蛮人ねぇ。誰に向かってそんなことを言っているつもりなのかな」兄貴は歯を見せて笑った。「まさか、高貴なオオカミの血を引く我らコンラートのものに向かってそんなことを言う勇者が現れるとは思ってもいなかったぞ」

「お待ちください」
 そこへもう一人乱入してきたものがいた。彼の顔は知っている。第一王子がハートマットと呼んでいた男だ。

『味方? 一番目の王子』俺は素早く兄貴に知らせる。

「わが主が、コンラート家の高貴なる血筋の方にご挨拶をと申しております。どうか、こちらの卓にお移りいただけないでしょうか」

「主とは、誰だ」
 兄貴は腕組みをしてハートマットを見下ろした。

「帝国の第一王子、アーサー様です」

「ほう、ここには帝国の星がおられたのか」
 兄貴は第一王子の姿を探して、そちらに向かって一礼をした。
「帝国の星には敬意をしめそう。だが……」

 イーサンが必死に首を振っているのを見て、兄貴は口調を変える。

「正式な挨拶に後程伺ったほうがよさそうだな。いくぞ」

 兄貴は俺たちに合図をした。俺は慌てて残った食事をかき集める。

「どこへ?」
 俺に料理の残りを渡されて、イーサンは途方に暮れているようだった。

「それは、お前たちの部屋だろう?」

「僕達の部屋ですか!」

「まだ、兄貴の部屋はどこだかわからないんだよ」
 俺はイーサンに伝える。

「宴会の続きと行こうか」
 悠々と立去る兄貴の後ろを俺たちはついて食堂を出た。

「それで、お前たちの部屋はどこだ?」
 兄貴は腕組みをして、リーフにきく。

「ぼ、僕の部屋、ですか?」

「三人は同室ではないのか? ランス、手紙の書きようが悪いぞ」

「すみません。こちらですよ。兄貴」

 俺は自分たちの部屋に兄貴を案内した。
 部屋につくまで、俺たちは注目の的だった。周りの生徒たちは兄貴がとおるとまるで魔獣でもあらわれたかのように道を開けていく。これは目立ちすぎじゃぁないかな?戦争を布告するわけでもなし。
 兄貴に会えたことを心から喜んでいる俺ですら、少し心配になる。

 イーサンも不安そうだった。

「なぁ、君の手紙の相手って、アルフィン殿?」

「ああ、兄貴を含む家族あての手紙だったけど、それがどうした?」

「ひょっとして、君もコンラート家の一員だった?」

「あれ? いってなかったかな? 血の縁者じゃないけどね」
 まさか、あれでまさかの王族? イーサンは何かぶつぶつ言っている。そんなに気にすることだろうか。それよりも、今は周りの目のほうが怖い。俺は警戒を解かなかった。

「なかなかの住み心地のようだな」

 ようやくたどり着いた俺たちの部屋を見て兄貴は満足そうだった。
 そして、当たり前のように俺の寝台に腰を下ろす。

「ああ、食事はそのあたりにおいてくれ」
 俺は勉強道具をのけて、食事をのせる。
 兄貴は俺の勉強道具をちらりと見て、笑った。

「ランス、まじめに勉強しているみたいじゃないか」

「外出禁止だったからね。暇だった」

 俺は石のように固まっているリーフを部屋の中に招き入れる。

「それに、ほら、いい先生がいるから」

『彼には話していない』
 俺は合図を送る。

「それじゃぁ、食堂の続きといこうか」
 兄貴は懐から酒瓶を出す。

「あ、そんなものをどこで」
 イーサンが目を見張った。

「せっかくの祝宴だからな。いるだろう? これが」

 部屋で酒を飲むのは規則違反、とイーサン。もちろん、兄貴はきいてもいない。

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