魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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思惑

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「それよりも、本当に彼が世話になった。デリン家からもよろしく伝えてくれと言われている」
 急に兄貴はまじめな顔をして、イーサンとリーフに頭を下げる。
「かなり厄介な状況になっているみたいだが、これからも協力をお願いしたいとの当主からの言伝だ」

「あ、え、僕は」
 帝国貴族なら絶対にしないことをされて、リーフは慌てる。
「ぼ、僕はただの平民ですから」

「成績優秀の天才肌の職人なんだろ、そう、こいつから聞いている」
 にやりと兄貴は笑う。
「魔道具職人というだけで、北では尊敬されるぞ、先生」

「せ、先生だなんて」リーフは頬を染めた。

「しかし、兄貴。良くここに潜り込めましたね」
 俺は食事をつつきながら、話をする。
「留学生なんて。どんな裏技を使ったのですか?」

「うん、デリン家当主がな。頑張ってくれたのだ。さすがに状況が状況だけにな。年を食った連中が騒ぎ始めたらしくてな」
 兄貴は何でもないことのように肩をすくめた。

 俺にはよくわからなかった。なぜ、年寄り共が騒ぎ立てるのだろう? 守護獣を呼び出す儀式が大切なのはわかるけれど、それは神殿の仕事だ。俺が貴族共をコケにしたのが悪かったのだろうか。

「ついにですか」
 なぜかイーサンは話が呑み込めているようだ。意味深にうなずく。

「何が大変なんだよ?」
 俺の正体がばれること以上に悪いことがあるだろうか。想像もつかない。

「あのね。これまで帝国の次の王位は第二王子のフェリクス殿下が一番有力視されていた」
「そうなんだ」
「……デリンやファリアスといった有力公家の後ろ盾もあって安泰だと思われていたんだ」
 あの変態が王になるとは……帝国も大変だなと思う。
「ところが、有力公家の子弟である君がああいう騒動を起こして、離反した。デリン家は今ほぼ中立の態度をとるようになっている」

「俺があいつと対立したくらいで、王位が揺らぐものなのか?」
 俺が肉をかみちぎりながら言うと、はぁ、とイーサンはため息をついた。

「君と中立派閥だった僕の家ハーシェルが仲良くすることによって、第三極が生まれたとみられているんだ。つまり、僕か君かが王になる可能性もあるという……」
 ありえない話を聞かされて、俺はあきれた。

「まさか、イーサン、お前までそんな馬鹿な話を信じているなんてことはないよな。王子が二人もいるのになんで大公家から王が生まれるんだよ」
 今度はイーサンがあきれた顔をする番だった。

「まさかだけれど、君はこの儀式で王が選ばれる、ということを知らないのか?」

「ええ?」

「そもそも儀式の参加者は王になる資格のあるものが選ばれるんだぞ」
 初耳だった。そんなこと誰も教えてくれなかった。

「だから、参加者の中で一人は5大家の血をひくものが必要だし、平民は省かれる。従者は例外だが」

「……」
 初耳なのは俺だけか? 兄貴は平然と酒を飲んでいるし、平民のリーフも淡々としている。これは常識だったのか?

「ひょっとして、それはみんな知っていることなの?」
 俺はリーフに聞いてみた。

「うーん、そう説明されたことはないですけど、ああそうなんだな、みたいな?」
 リーフも首を傾ける。
「僕のような平民には関係ないですからね」

「そうなの?」

「ずいぶん、我ら北部とは違うなぁ。そんな複雑な方法で選ばれるなんて」
 兄貴は楽しそうに酒をあおっている。

「今回だけだ。守護獣が入れ替わるときの特別な決まり事なんだ。普通は王の長子が冠を受け取る」
 馬鹿にされたと思ったのか、イーサンは少し怒ったように説明した。

「くだらない風習だな。我らの国はもっと単純だぞ。強いものが王となる。それだけだ」
 兄貴は自慢げに言い放つ。

「そういうのは、ちょっと。争いが生じてしまうと思う」
 イーサンは眉をひそめた。

「当事者が争って戦って、それで回りも納得する。帝国のように他人の血を要求したりはしないからな」

「他人の血だなんて、そんな野蛮なことはしない。そもそも……」

 いい方にムッとしたらしいイーサンに慌てて俺は質問した。

「じゃあ、今は後継者は決まっていないということ? 第一王子が後継者というわけではないのか?」

「ああ。彼は王太子とはいわれないだろう?」

「確かに。でも、第二王子でもない?」

「有力視されているけれど、いまのところは。新しく召喚された守護獣が次の主を選んで、その人が王の資格を得るんだ」
 そういう話をされたと、イーサンは付け加える。

「選ばれたら、そいつが王なのか。つまり、参加者全員に資格があると」
 なんだ。それは?くじびきみたいなものなのか。
 無茶苦茶だと思う。そんないい加減な基準で王を選んでよく帝国が続いたな。

「資格を得るだけだ。結局王になる意思があるものが王になる、らしい」

「じゃぁ、まさかだけれど、イーサン、君が王に選ばれたら王になるのか?」

「まさか」イーサンは即座に否定した。「ハーシェルの家は弱小の家だといっただろう?僕の家門は王をたてる意思なんかないさ。無理だ。むしろ、デリン家子弟の君のほうが家門としてはふさわしい」

「よくわからないな。王になるのに家柄は関係ないだろ。じゃ、なんだ。ないこととは思うが俺が王に選ばれたらどうするつもりなんだよ。デリン家が俺を王として推すとそういいだしたら。偽物でも王になれるとか、いわないよな?」

「君は王になりたいのか?」イーサンは心底驚いたように俺の顔を見た。

「冗談じゃない。どうして俺がこの国の王になるんだよ。俺がここの王になったら国を亡ぼすぞ」
 王というのがいかに大変な仕事かは親父の背中を見て育った俺にはわかる。いざとなったら家門のために学園に殴り込みをかけないといけないんだぞ。大変すぎる。

「確かに。それはおそろしいな。君が王座についているところを想像しただけでぞっとするよ」
 イーサンは身震いをした。

「だろ。俺は嫌で、お前も嫌で、でも、守護獣が王になれといったらどうするんだ」

「そんなことありえないし、あってはならないことだから。仮に、の話だろ。たぶん、第一王子か第二王子かどちらかが王になるだろう」

「ランス、お前は心配しなくてもいいぞ」
 兄貴が楽しそうに俺の肩をたたいた。
「もし、そんな話になったら俺がお前の逃亡を助けてやるからな。まかせておけ」

「逃亡って、どこに行くんですか」
 リーフがへらへらと笑う。
「僕もいろいろなところへ行きたいなぁ」

「どこへでもだ。兄弟」
 兄貴はリーフに新しい瓶を渡す。
「俺たちの前を阻むものは何もないぞ」

「そうですねぇ」そういってリーフはけたけたと笑う。

 リーフの顔が赤い。様子がおかしいと思ったら、彼が飲んでいるのは度数の高い酒だった。

「おい、リーフ。それをよこせ」俺は彼の手から瓶を取り上げようとした。
「駄目ですよぉ、ラークさんでもこれは渡せません」リーフは酒瓶を抱きしめた。
「そうだよな。おい、ランス、新しい酒を持ってくるんだ」

 駄目だ。兄貴もリーフもすっかり出来上がっている。俺はあきらめて食堂から追加の食べ物と飲み物を持ってくることにした。酒はまぁ、あるところにはあるものだ。

 部屋に戻った時には酔っ払いが3人に増えていた。なんてこった。仕方なく、俺もその輪に加わることにする。
 結局、兄貴を歓迎する宴会は夜更けまで続いた。
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