51 / 82
血統
しおりを挟む
もう破れかぶれだ。俺は逆切れする。
「カリアス、おまえ、大公家の名誉を侮辱する気か。人のことを偽物呼ばわりするとは。
ファリアスの家では公子は偽物といっても許されるのか?我が家を侮辱して、どちらが呪われるかやってみるか?
ああ、でもそんな勇気はないよな。お前の家門はただの猫だよな。ニャーニャー鳴いてミルクでもねだってろ」
「なんだと。鳥頭のくせに。いいよ、受けて立つよ。家門の名に懸けて……」
挑みかかられて、カリアスもかっときたようだ。飛び出そうとするのを周りが抑える。
「やめろ、カリアス」
第二王子が手を挙げた。
「家門同士で争うのはよせ。デリンもファリアスも王権を支える重要な家門だ。そうだろう? ロー?」
第二王子は俺を無視してあえてもう一人のローレンスに話しかけた。
後ろのほうにいたローは顔を赤くして下を向いた。
「原因が何であれ、儀式は失敗だった。それは認めなければならない」
「失敗したというが、何が起こったのだ? フェリクス。私のきいたところでは何も問題は起きなかったということだったが」
「そう、何もおきなかったのですよ。兄上」
金髪の王子は黒髪の王子をにらみつける。
「本来なら、塔に上れば守護獣があらわれ、王座に座るものを祝福する。そういう話でしたよね。
でも何も起きなかった。精霊も、宝珠もない。
私を含め、公家のものたちがみな塔にある王座の岩に座った。でも、誰一人として精霊の祝福を得ることができなかったのです。現れる気配すらなかった。
座ることを拒絶したハートマットを除いて、儀式に参加していなかったのは二人、そこのデリンと兄上だけです」
俺は第一王子のほうをちらりと見た。
「これが呪いのせいでなければなんなのですか? それともなんですか? あなたか、デリンに王の資格があると?兄上」
「違う。フェリクス。私は故意に行かなかったわけではない。本当に行けなかったのだ。何者かが、私たちを妨害したのだ……」
「妨害?妨害したのはどちらです?私は塔に一番乗りしました。それは王の資格があるということ、違いますか」
「お前の継承権に文句をつけるつもりはない。ただ、私たちは本当に洞窟に送られたのだ」
話がかみ合っていなかった。ほとんどみな、俺たちの話を信じていない。
「兄上、そんなに私が王位につくのがおいやですか?」
「なにをいっているんだ? 私はただ……」
「そこの臆病者と手を組んで、わざと儀式に参加せず、あまつさえ私の忠実なるものたちの手で洞窟に閉じ込められたなどと嘘を……」
「アーサー様が嘘をついていると、そういわれるのか?」
ハートマットが気色ばむ。
かちゃりと金属音がした。
「やめろ」
アーサー王子が制止をした。
「フェリクス。私は精霊に誓って本当のことをいっている。案内の神官が私を奇妙な場所へ閉じ込めたのだ。たぶん、ラークも同じ神官に案内されたのだろう。そうだな」
俺はうなずく。
「ラーク、お前は……」
初めて第二王子が俺を見た。薄い青い瞳が俺に向けられる。
目が合った。目を合わせたくなかったが、そらすのもしゃくだった。
王子の目が細められる。
「おまえ、ラークじゃないな」
一言一言区切っていわれた。
「お前は違う。ラークだったら、あの子だったら、私と目を合わせるようなことはしない。こうして挑むようなことは絶対にない」
なぜなのかわからないけれど、それを聞いて俺の中の怒りが沸き起こった。
「あなたの知る、ラークが偽物だっただけだろ。僕は僕だ。記憶がなくても、それは変わりがない。貴方の中のラークは幻だ。そうあってほしいと思っていただけじゃないのか?」
俺は胸の石を握りしめる。
「あなたが僕のことを知らないだけだ」
取り巻きの殺気を感じる。俺の体は戦闘の間合いを図り始めた。
「いい加減にしないか」
第一王子が割って入る。
「ここは礼拝堂だぞ。争うのはやめろ」
「その通りです」
部屋に入ってきたのはあのいけ好かない神官だった。後ろに校長先生も控えている。
どれだけ俺にとって苦手な人物をそろえるつもりなんだろう。
「ここで争っても何にもなりません。今回の儀式の顛末については話を聞いています。失敗だというものもいますが、それは違います。いいですか、これは失敗ではありません」
ざわつく生徒たちに神官は繰り返した。
「過去にも似たような事例はあります。今回の結果は残念でした。終わると思っていた儀式が終わらなかった。だからといって失敗というわけではない。まだ、時間はあります」
「しかし、誰かが儀式をないがしろにして呪いを振りまいているとしたら、それは……」
神官はそういいだした生徒を冷たい目で睨んだ。
「この儀式は聖なるもの。呪いなど発生するはずもない。以前こういったのを忘れたのですか。
一つ、これは神聖な儀式であること。仲間を集めなさい。仲間とのきずなを深め、精霊の恵みに感謝をささげなさい。
一つ、すべての儀式は愛の教えに基づくものであること。儀式は優劣を競ったり、利益を得たりするものではありません。純粋な気持ちで精霊と向き合わなければなりません」
神官はそういってから居合わせた生徒たちの顔をぐるりと見た。
「王位うんぬんはこの儀式の付属にすぎない。この儀式の最大の目的は、偉大なる精霊、国を守る守護獣を呼び出すこと。それを思い出しなさい。
繰り返しますが、王権に関することは二次的な問題に過ぎない」
「し、しかし、身分を偽って儀式に参加しようとするのは精霊の御心に反する行為ですよね」
第二王子の取り巻きの一人が声を張り上げる。
「そうした行為をすれば、呪われ……すみませんでした」
神官に一にらみされて生徒は黙る。
「今回何の問題もなかったと神殿は把握しています」
校長先生が神官に代わって生徒に説明する。
「学園もそうです。不正も妨害行為もなかったと。ですよね」
大神官はうなずく。
今度は第一王子側から抗議の声が上がりかけた。これも、神官の冷たい視線で静かになる。
「血統の証明をしたいのならば、今度おこなわれる公子会で確かめればよいこと。偽物か本物か、その時に明らかになるでしょう。
いいですか、次の儀式は休み明け、それまで、仲間を増やし互いのきずなを深めあうように。以上」
そういいきって、神官たちは部屋を出ていく。
第二王子は燃えるような眼でそれを見ていたが、立ち上がると俺のほうを一顧もせずに同じ扉から出て行った。取り巻きたちが慌てて、その後を追う。
「覚えてろよ」
「公子会が楽しみだな」
捨て台詞を投げかけられた。
彼らが出て行ってから、第一王子とその取り巻きが部屋を去った。
第一王子は心配そうに俺を見たので、俺は深々と頭を下げた。
残ったのはイーサンだけだった。
「ラーク……面倒なことになったな」
「うん。どうしよう。俺……なぁ。ところで、公子会って何?」
「……そこか。君の心配するところはそこか」
イーサンはがっくりと頭を下げた。
「カリアス、おまえ、大公家の名誉を侮辱する気か。人のことを偽物呼ばわりするとは。
ファリアスの家では公子は偽物といっても許されるのか?我が家を侮辱して、どちらが呪われるかやってみるか?
ああ、でもそんな勇気はないよな。お前の家門はただの猫だよな。ニャーニャー鳴いてミルクでもねだってろ」
「なんだと。鳥頭のくせに。いいよ、受けて立つよ。家門の名に懸けて……」
挑みかかられて、カリアスもかっときたようだ。飛び出そうとするのを周りが抑える。
「やめろ、カリアス」
第二王子が手を挙げた。
「家門同士で争うのはよせ。デリンもファリアスも王権を支える重要な家門だ。そうだろう? ロー?」
第二王子は俺を無視してあえてもう一人のローレンスに話しかけた。
後ろのほうにいたローは顔を赤くして下を向いた。
「原因が何であれ、儀式は失敗だった。それは認めなければならない」
「失敗したというが、何が起こったのだ? フェリクス。私のきいたところでは何も問題は起きなかったということだったが」
「そう、何もおきなかったのですよ。兄上」
金髪の王子は黒髪の王子をにらみつける。
「本来なら、塔に上れば守護獣があらわれ、王座に座るものを祝福する。そういう話でしたよね。
でも何も起きなかった。精霊も、宝珠もない。
私を含め、公家のものたちがみな塔にある王座の岩に座った。でも、誰一人として精霊の祝福を得ることができなかったのです。現れる気配すらなかった。
座ることを拒絶したハートマットを除いて、儀式に参加していなかったのは二人、そこのデリンと兄上だけです」
俺は第一王子のほうをちらりと見た。
「これが呪いのせいでなければなんなのですか? それともなんですか? あなたか、デリンに王の資格があると?兄上」
「違う。フェリクス。私は故意に行かなかったわけではない。本当に行けなかったのだ。何者かが、私たちを妨害したのだ……」
「妨害?妨害したのはどちらです?私は塔に一番乗りしました。それは王の資格があるということ、違いますか」
「お前の継承権に文句をつけるつもりはない。ただ、私たちは本当に洞窟に送られたのだ」
話がかみ合っていなかった。ほとんどみな、俺たちの話を信じていない。
「兄上、そんなに私が王位につくのがおいやですか?」
「なにをいっているんだ? 私はただ……」
「そこの臆病者と手を組んで、わざと儀式に参加せず、あまつさえ私の忠実なるものたちの手で洞窟に閉じ込められたなどと嘘を……」
「アーサー様が嘘をついていると、そういわれるのか?」
ハートマットが気色ばむ。
かちゃりと金属音がした。
「やめろ」
アーサー王子が制止をした。
「フェリクス。私は精霊に誓って本当のことをいっている。案内の神官が私を奇妙な場所へ閉じ込めたのだ。たぶん、ラークも同じ神官に案内されたのだろう。そうだな」
俺はうなずく。
「ラーク、お前は……」
初めて第二王子が俺を見た。薄い青い瞳が俺に向けられる。
目が合った。目を合わせたくなかったが、そらすのもしゃくだった。
王子の目が細められる。
「おまえ、ラークじゃないな」
一言一言区切っていわれた。
「お前は違う。ラークだったら、あの子だったら、私と目を合わせるようなことはしない。こうして挑むようなことは絶対にない」
なぜなのかわからないけれど、それを聞いて俺の中の怒りが沸き起こった。
「あなたの知る、ラークが偽物だっただけだろ。僕は僕だ。記憶がなくても、それは変わりがない。貴方の中のラークは幻だ。そうあってほしいと思っていただけじゃないのか?」
俺は胸の石を握りしめる。
「あなたが僕のことを知らないだけだ」
取り巻きの殺気を感じる。俺の体は戦闘の間合いを図り始めた。
「いい加減にしないか」
第一王子が割って入る。
「ここは礼拝堂だぞ。争うのはやめろ」
「その通りです」
部屋に入ってきたのはあのいけ好かない神官だった。後ろに校長先生も控えている。
どれだけ俺にとって苦手な人物をそろえるつもりなんだろう。
「ここで争っても何にもなりません。今回の儀式の顛末については話を聞いています。失敗だというものもいますが、それは違います。いいですか、これは失敗ではありません」
ざわつく生徒たちに神官は繰り返した。
「過去にも似たような事例はあります。今回の結果は残念でした。終わると思っていた儀式が終わらなかった。だからといって失敗というわけではない。まだ、時間はあります」
「しかし、誰かが儀式をないがしろにして呪いを振りまいているとしたら、それは……」
神官はそういいだした生徒を冷たい目で睨んだ。
「この儀式は聖なるもの。呪いなど発生するはずもない。以前こういったのを忘れたのですか。
一つ、これは神聖な儀式であること。仲間を集めなさい。仲間とのきずなを深め、精霊の恵みに感謝をささげなさい。
一つ、すべての儀式は愛の教えに基づくものであること。儀式は優劣を競ったり、利益を得たりするものではありません。純粋な気持ちで精霊と向き合わなければなりません」
神官はそういってから居合わせた生徒たちの顔をぐるりと見た。
「王位うんぬんはこの儀式の付属にすぎない。この儀式の最大の目的は、偉大なる精霊、国を守る守護獣を呼び出すこと。それを思い出しなさい。
繰り返しますが、王権に関することは二次的な問題に過ぎない」
「し、しかし、身分を偽って儀式に参加しようとするのは精霊の御心に反する行為ですよね」
第二王子の取り巻きの一人が声を張り上げる。
「そうした行為をすれば、呪われ……すみませんでした」
神官に一にらみされて生徒は黙る。
「今回何の問題もなかったと神殿は把握しています」
校長先生が神官に代わって生徒に説明する。
「学園もそうです。不正も妨害行為もなかったと。ですよね」
大神官はうなずく。
今度は第一王子側から抗議の声が上がりかけた。これも、神官の冷たい視線で静かになる。
「血統の証明をしたいのならば、今度おこなわれる公子会で確かめればよいこと。偽物か本物か、その時に明らかになるでしょう。
いいですか、次の儀式は休み明け、それまで、仲間を増やし互いのきずなを深めあうように。以上」
そういいきって、神官たちは部屋を出ていく。
第二王子は燃えるような眼でそれを見ていたが、立ち上がると俺のほうを一顧もせずに同じ扉から出て行った。取り巻きたちが慌てて、その後を追う。
「覚えてろよ」
「公子会が楽しみだな」
捨て台詞を投げかけられた。
彼らが出て行ってから、第一王子とその取り巻きが部屋を去った。
第一王子は心配そうに俺を見たので、俺は深々と頭を下げた。
残ったのはイーサンだけだった。
「ラーク……面倒なことになったな」
「うん。どうしよう。俺……なぁ。ところで、公子会って何?」
「……そこか。君の心配するところはそこか」
イーサンはがっくりと頭を下げた。
315
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)
たたら
BL
久々の新作です。
全16話。
すでに書き終えているので、
毎日17時に更新します。
***
騎士をしている公爵家の次男は、顔良し、家柄良しで、令嬢たちからは人気だった。
だが、ある事件をきっかけに、彼は【不能】になってしまう。
醜聞にならないように不能であることは隠されていたが、
その事件から彼は恋愛、結婚に見向きもしなくなり、
無表情で女性を冷たくあしらうばかり。
そんな彼は社交界では堅物、女嫌い、と噂されていた。
本人は公爵家を継ぐ必要が無いので、結婚はしない、と決めてはいたが、
次男を心配した公爵家当主が、騎士団長に相談したことがきっかけで、
彼はあっと言う間に婿入りが決まってしまった!
は?
騎士団長と結婚!?
無理無理。
いくら俺が【不能】と言っても……
え?
違う?
妖精?
妖精と結婚ですか?!
ちょ、可愛すぎて【不能】が治ったんですが。
だめ?
【不能】じゃないと結婚できない?
あれよあれよと婚約が決まり、
慌てる堅物騎士と俺の妖精(天使との噂有)の
可愛い恋物語です。
**
仕事が変わり、環境の変化から全く小説を掛けずにおりました💦
落ち着いてきたので、また少しづつ書き始めて行きたいと思っています。
今回は短編で。
リハビリがてらサクッと書いたものですf^^;
楽しんで頂けたら嬉しいです
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる