魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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余計な知識

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「それで、どこまで」俺は執事に確認した。

「結界の話はお伝えしてあります。そのあとの儀式の話からお願いします」

「あー、儀式の詳細を話すと呪われるといわれたのですけれど」

「ランドルフ様は誓約式に参加されましたか?」
 うん? そんなものはなかったぞ。
「おそらくですが、ランドルフ様は大丈夫だと思います。現に今まで何も起こっていないでしょう?」

 俺は思い返してみた。呪われていると散々言われてきたけれど、呪いらしきものは感じたことはない。

「儀式の詳細はいい。君が何を感じたのか、ローレンスについての情報があれば話してくれ」

 俺は神官もどきに罠にはめられたこと、第一王子と洞窟に閉じ込められたことを話した。儀式が進まなかったこと、それで周りから責められたことも。

「第一王子アーサー様はローレンスのことを知っているようでした。おそらくローレンスと何らかの接点があったのではないかと思います」

「第一王子殿との接点……」
 デリン家の当主は恐ろしく難しい顔をした。
「学園の中で、かね」

「……たぶん、最初の儀式のときに会っていたのではないかと思います。王子殿下ははっきりとは語られませんでしたが、なんとなく」

 俺は記憶石のことは話さなかった。話せなかった。

 デリン公は横を向いて、考え込んでいた。

「ところで、君はフェリクス殿下についてどう思う?」
 うん? あの変態やろうについての俺の評価を聞くのか?

「嫌いですね」
 俺はきっぱり答えた。
「いきなり、触ってくるような人間は信頼できません」

 エレインがゴホッとへんな音を立てて横を向いた。

「う、うむ。そこまではっきりと言い切るとは」
 デリン公はもごもごと言葉を濁した。

「もし、仮に君に第二王子殿下の近習になれという命が下ったらどうするね?」

「即逃げます。ああ、ぶち殺しても許すというのなら、受けますけど」

「ランドルフ様……言い方というものが」
 執事が肩を落とした。

「我が家門はずっとフェリクス殿下を継の王として推してきた。だから、もし関係を修復できるようなら……」
 デリン公は机に肘をついて目を落とす。

「偽物を受け入れる度量が変……第二王子殿下にあるでしょうか。許されない空気を感じました。それに、彼らは俺が偽物だということに気が付いていますよ。公然とそういわれましたからね」

 そろそろ、この仕事を退いてもいいだろうか。それを提案してくれることを俺は期待していた。

 デリン公は黙って机の上の封書を俺に差し出した。ずいぶん立派な紙、きちんと紋章が押してある。

「神殿、ですか?」

 促されて、中身を確認する。グネグネと読みにくい文字で書かれた手紙の内容は一言でいえば出頭命令だった。次の儀式にはローレンス家の公子は参加するように。

 俺は黙って、封書を返した。びりびりと破いて投げ捨てたかったけれど、思いとどまった。

「公式には前回の儀式が進まなかったことに対しての念押しだ。暗に君に参加しろと言ってきている」

「あいつら、俺が別人だと知っていますよ」
 クソ神官め。あの取り澄ました顔を殴りたい。

「だろうな」

「俺が逃亡することを予想していましたね」

 さっさと逃げておけばよかった。俺はごちそうを食べながらのんびりと過ごしていたことを後悔する。あの絶品のケーキがなければ、くそ。

「それで、どうするのですか? 公子会とやらも切り抜けなければいけないのでしょう。本人を確認する儀式があるとイーサンから聞きました」

 さぁ、無理だと判断するんだ。俺は期待を込めて一押しする。

「何とかなるとおもいますわ」
 そんな中エレインは謎の余裕を見せている。
「お兄様が、『僕は記憶喪失だ』と主張を続ける限り、他の家のものは口出しできませんもの。そうでしょう。お父様」

 俺は思わずエレインをみた。すました顔をしていた。
 妹は敵だった。伏兵を発見した気分だった。それも強敵を。

「う、うむ」

「お兄様は堂々としてらっしゃればいいのです。それに、もし万が一のことがあったら私が家を継げばいいだけのこと。ですよね」

 こちらが本題だったのか。俺は目が覚める思いがする。ひょっとしてこれは家督争いなのか? ローレンスに代わって自分が当主になるという。万が一のことがなくてもいいから、さっさと当主になると宣言してくれ。

「それは……しかし、」
 と、デリン家当主。

「女が当主になった事例もございますでしょう? 何も問題はないと思いますわ」
 そうなれば、いつまでもお父様のもとで暮らせますのよ、とエレインは必殺の一撃を加える。

「むむ、それは」
 一瞬、同意しかけたデリン家当主は目を怒らせた。
「駄目だ。お前はよき方のところへ嫁ぐのだ。そのために我らは苦労しているというのに」

「正直申し上げます。私の婚約話、一度白紙に戻していただきたいの。からあの方のお話をいろいろ伺いました。私、あの方と添い遂げる自信がありませんわ」

 エレインはちらりと上みがちに父親を見上げた。

「何を言うのだ。お前が務まらなければ、誰が務めると……」

「お父様は私の幸せを思ってくださるのはよくわかっております。でも、あの方は……ローレンスお兄様と夜を過ごしてらっしゃるのでしょう?」

 ぱたりとデリン公の手が落ちた。

「だ、誰が、そのようなことを」

 一体何を娘に話したのだ、と目でデリン公が聞いてくる。
 俺じゃない。俺はそんなにあけすけな話はしていない。

「私、ローレンスお兄様の身代わりは嫌でございます」
 きっぱりとエレインはいう。
「それは、ここにいるランス兄さまも、ですわよね」

「エレイン、お前は言葉の意味を分かっているのか? よ、夜を過ごすという意味を」

「あら、交配するのではないですか? 馬のように」

 エレインは無邪気にいう。

「ハーシェル様がローレンスお兄様はフェリクス殿下のお気に入りだったと話してくださいました。私、お気に入りというのはどういう意味か侍女のセザンヌにきいたのです。
 そうすると、それは恋人という意味だと教えてくれたのです。それでようやく意味が分かりました」
 ふうとエレインは息を吐いた。
「まさか、フェリクス殿下がお兄様に種付けをしようとしていたなんて……」

 この言葉にその場にいたものたちは固まった。
 この前まで、手をつなぐのが恋人同士の印だと思っていたお嬢様がいきなり種付け……違うだろ。
 誰だよ。こんなこと教えたのは。

 俺のうろたえた顔をエレインは笑う。

「私だって、馬の種付けくらい見たことがあります。が嫌がるのもわかる気がしますわ。私も嫌ですから」

「き、北の蛮族め、余計なことを吹き込みおって……」

 デリン公は怒っている。
 兄貴に対して。

 たぶん、怒りの対象は間違っていない。俺も馬の種付けのようなものだと教わったから。北では当たり前の例えなのだけれど、帝国では侮蔑にあたるみたいだ。

「エレイン、お前は誤解している。その、結婚の秘儀はけして馬の交配のようなものではない。神の下に行われるそれは尊い行為なのだよ……我々は人で獣ではないから」

「お父様、わたくしを馬鹿にしておられますか?」

 エレインはごそごそと冊子を取り出した。薄いペラペラの質の悪い紙に裸の男女が睦みあう絵が……

 兄貴……。

「これを見てください。どこが馬と違うのですか? 私、勉強いたしましたの」
 妹は冊子をめくった。
 うわ、これは……エロい。俺の目は釘付けだ。

「トーマス、あの野蛮人を娘から遠ざけろ」
 我に返ったデリン公は憤然と命じた。
「目の届く範囲に立ち入らせるな」

 怒り狂った当主に俺たちは部屋から追い出された。

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