魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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密談

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「それで、アルウィンさんは本邸に出入り禁止に……」
 リーフが宙を仰いだ。

「兄貴……何をやっているんだ」
 イーサンも腕組みをしている。

 デリン公の怒りはまだ収まっていない。かわいい愛娘に余計な知識を教えた兄貴には本堤への出禁を命じている。兄貴は不満を申し立てたけれど、デリン公は頑としてはねつけた。
 兄貴のしでかしたことだけでなく、若い時の親父との関係も影響していると思うのは俺だけだろうか。執事のほのめかしによると、親父も若いときにいろいろとやらかしたらしい。

 それを話すと、イーサンはデリン公の怒りに共感していた。

「デリン公のお気持ちはよく理解できる」
「あ、僕もですよ」
 リーフもうなずいている。

「北部の人は突拍子もない行動をとりますからね」

「巻き込まれる周りは大変だからな」

 しみじみと語り合っている。確かに兄貴は読みにくい行動をとるからな。俺も驚くことが多いくらいだから。

「それで、何かわかったことがあるのか」
 俺は呼び出された本題に切り込んだ。

「例の内乱の話ですが」
 リーフが本をどんと積み上げた。
「エレイン様のお力もお借りして調べてみたのです」

 彼は丁寧な字で書かれた紙も机に広げた。

「見てください。こちらが内乱の期間、そしてこちらが儀式があったであろう年です。ずれているものもありますけれど、小さな事件も含めればほぼ重なっています」

「ここ100年くらいは重なっていないな」

「はい。このころから内乱よりも外征が多くなったこともありますが、学園内で儀式を行うようになったことも一因なのではないかと」

「それはどういう……」

「それ以前の古い文章には守護獣をめぐる争いをにおわせる記述が頻出しています。それが、ある時点からぴたりとなくなります。中興の祖フェリクス王の後からですね。魔道学園の歴史は授業で聞きましたよね」

「そんなものあったか?」

「一緒に授業を受けたじゃないですか」
 リーフは非難した。そうだったかな? 全く記憶にない。

「フェリクス王が、今の学園の形を作ったんだ。それまで学園は神官の育成が主で貴族子弟が全入することはなかった」
 イーサンが俺の反応を見て顔を曇らせた。
「君、本当に聞いていなかったみたいだね」

 どの寝ていた授業だったのだろう。いろいろ心当たりがあって、特定できない。

「なんだ? つまり内乱の代わりに学園での儀式をしているということなのか?」

「今、ローレンス兄さんが調べているのだけれど、古い結界のこと。兄貴が言っていたことが当たっているみたいです」

 兄貴が何を言っていたっけ? ああ、精霊の呼び出し方か。

「つまり、血と魂……死体の山を積み上げないといけないという」

「死体の山はいりませんけどね」
 どこの黒魔術ですか、とリーフが文句を言う。
「何か依り代になるものが必要みたいでした。今、古文書を解読中です」

「つまり学園で殺し合いを……」

「それはないわ」
 あーびっくりした。エレインが話に加わっていた。

「私、調べてまいりましたの」
 妹は得意げに胸を張った。
「そんな事件が起こったなら、必ず記録が残っているはずです。調べてみたけれど、そんな記録はどこにもありませんでした」

 俺はエレインが出てきた机の下をのぞく。

「ここ、入り口じゃないだろ」

「隠し通路ですわ。この館にはいざというときのために無数の通路が用意されているのです」
 妹は服から埃を払う。

「お父様は私が皆様方とお話しするのを嫌がっておいでのようなの。また変な本に興味を持つのではないかと、心配されているのね」

 ああ。確かにそれは大問題だ。あの後、エレインの部屋から大量のその手の本が出てきて大事だった。

「でも、神殿の記録は当てにならないだろ。あいつら、平気で握りつぶすからな」
 俺たちに対する妨害工作をなかったことにされて以降、俺は彼らの記録は信頼しないことにしている。

「もし、そういう殺し合いがあれば極端人数が少ない学年があるはずなのです。でも、多少の変動はあっても卒業生の数はそんなに変わらなかったわ」
 妹は紙に書いてある年をトントンとたたいた。
「おそらく、今回の前に3回ほど代替わりがあったのではないかと思うの。最初の回はちょっと小競り合いがあったようだけれど、後の二回に内乱はないですわ」

「その代わりに儀式があった、かもしれない?」
 イーサンが尋ねる。

「ええ。それでさらに神殿の公式記録を調べていたのだけれど」
 エレインは分厚い本を開く。

「これは神殿の記録の写しです。公式な記録で、写された部数も少ないわ。おそらく初めて学園での儀式が始まった年ね」
 またあのくねくねしたいやらしい文字だ。
「ここの記述を読んでみて」

 うん? そして……る……タイ……
 読めない……

「あれ? おかしいな」
 イーサンがぶつぶつ言っている。

 俺はほっとする。イーサンも読めない謎文書だったか。俺が読めないのも当たり前だね。

「文章がつながっていない?」

「よく見て?」

 エレインが本をさした。
 俺はじっと文字を眺めた。こう、斜めから見ると別の文字が浮かび上がるような仕掛けになっているとか?それとも縦読みかな?
 イーサンは本の折り目のあたりをなでている。

「切り取られている?」

「ええ。物理的に消されているわ」

「なんと」
 リーフも話に加わる。
「それでは、魔法で再生することもできませんね」

「おそらく、儀式につながるくだりだと思うの。ね、いきなり王太子の立位式に飛んでいるでしょう。不自然だわ」

「つまり、一度は写したけれど、それを消したということか」

「二回目も同じように切り取られているの。三回目はきれいにつながっていたわ」
 そもそも飾り文字を読めなかった俺ももっともらしくうなずいた。

「さすが、エレイン様。さすがですね」

 成績優秀な三人組は互いに互いをたたえあっている。俺だけ外れていて、少し寂しい。

「ようするに、切られた頁を見つければいいわけだな。どこかにもう一冊予備はないのか?デリン家には? ないのか。イーサンの実家は」
 イーサンは首を振る。

「うちは一度没落した家系だから、こういった蔵書の類はほとんどない。後、考えられるのは他の大公家、ファリアスとかエシャンとか」

「デリンですら切り取られているとすると、他の家も同様なのではないかしら。可能性があるとしたら、原本。さすがに原本を消すことはないと思うの」

「で、それはどこにある?」

「こういった公式な記録のほとんどは王宮にある図書室に収められていると聞くわ」

「うーん」

 俺は王宮に忍び込む方法を考えてみた。きっと結界やら罠やらたくさん仕掛けてあるんだろうな。北の戦士が侵入したという話も聞かないくらいだ。厳重に警備されているのだろう。

「ほかには? 学園の神殿図書館とか、あの秘密の場所とか?」

「今の学園は休暇中で学生が立ち入り禁止ですよ。それに、あそこにある資料はもっと古い時代のものが多いから……」
 リーフは考え込んだ。

「何とかして、その王宮図書館に入り込めないかな?」

「賊のように入り込んだら、即刻処刑だぞ。僕は手助けしないぞ」
 イーサンが当たり前に念押ししてくる。

「そもそも、王宮の中に入ることは難しい……あ」
 エレインが口に手を当てた。
「ありますわ。王宮に入る方法が」
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