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準備
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「なに? それはなに?」
俺は身を乗り出す。
「公子会とそのあとの舞踏会ですわ。あの時は私たち、正式に招待されておりますもの。堂々と王宮に滞在して、中を散策することができますわ」
「……俺、それは欠席しようかと思っていたんだけど……」
本人かどうか確認されるのだろう? 偽物だとばれたら、その場で斬られても文句は言えないぞ。
「その公子会とかを切り抜ければいいのでしょう? まかせてください。僕がぴかっと光る道具を制作します」
なぜかリーフは乗り気だった。
「いや、でも……」
「大丈夫ですわ。お兄様。やりましょう。行きましょう」
エレインも目を輝かせている。
「ここまで来たら、秘密を知りたいとそう思うでしょう、ね。イーサン様もそう思いますよね」
「い、いや……」
イーサンは同意を求められて後ろに下がった。
「しかし、たとえ入ることができてもそれと図書館を調べるのは別……」
「侵入なら、任せておけ」いきなり赤い頭が地下から湧いてきた。
「私とその精霊も力を貸すぞ」
兄貴……出禁だったのでは。俺は巨大な体が器用に小さい穴から抜け出す様子を呆然と見つめる。
「偵察任務はお前の得意とするところだっただろう。ランス」
任務? これは任務なのか?確かにローレンスを探すという大本にはかなっているけれど。
「事前の情報収集はお任せください。私、王宮勤めの女官から話を聞いてまいりますわ」
「困難があれば燃える。それが漢の道だ。正面突破あるのみ」
「小道具は僕に任せて」
三人が三様、好きなことをいっている。彼らは俺を死地に追い込む気満々だった。
「イーサン」
助けて……俺は目で訴える。
「待てよ。今のランスには無理だ。公子会で何をするのか知っているのか。王族方との食事会だぞ。究極の礼儀作法が試される。特に今回は偽物と疑われての宴会だ。いろいろな嫌がらせをされるに決まっているだろう」
その通り。行ってもろくなことにならない。だから、俺は欠席をしようと思っていた。神殿の儀式を抜けるのは無理でも、ただの宴会だ。一人くらいいなくても大丈夫。
「何を言っている。漢なら相手の喉笛をかみ切るくらいの気合で進むべきだ」
「気配を消す特別製の魔道具を作ってみますよ」
「あら、恥をかくとか気にしている場合ですか。お兄様にそんな繊細な精神があるようには見えませんわ」
なんでみんな俺を追い込むんだ?
きっと、無謀な計画だといって大人が止めてくれるに違いない。俺はデリン公や執事たち、そういった大人がこの思い付きを止めてくれると思っていた。
「ランス様、なぜ計画を思いとどまろうとなさるのですか?」
しかし、執事に逆に驚かれてしまった。
「散々、学園の中では無謀なことをやっておきながら。ただ舞踏会に出席するだけでございますよ。法にも道理にも反することではありません。それなのになぜ?」
ええ? 止めないの? 予想が外れて俺は戸惑った。
「エレイン様の調べていただいた資料によると、かなりいいところまで調査が進んでおります。あと一押しでございます。ローレンス坊ちゃまの行方を探す最後の手段でございますよ」
「あー」
ローレンス坊ちゃまの行方。そのことを考えると、胸が詰まる。
「あの……さ」
ローレンスのことを本当に心配して、探している家族に何といえばいいのだろう。
「もし、俺が、ローレンスを見つけることができなかったら……」
執事の目がふっと和らいだ。
「その時はその時でございますよ。……ランドルフ様は本当によい仕事をしていただきました。でも、あともう少し、もう少しだけ、お願いしたいのです」
「その結果、家門の……方針に、方針を変更する必要が出てくることがあっても?」
執事は言葉を探しているようだった。
「ランドルフ様がそのようなことを気にされるとは思っても見ませんでした。
……御心配なさらず。すでに方針は転換されていると思います。少なくとも御当主様は覚悟を決めておいでで
す。……私共は家門というものを重要視しすぎていたのかもしれません。こうあるべきという思いで、大切なものを見逃していたのかも。今さら悔やんでも仕方がないことではありますが」
執事は目を伏せた。
「ですから、私共はやらなければなりません。たとえ結果が何であれ、やりきらなければ先に進めない、そう当主様はお考えなのです」
親父に頭を下げて頼み込んでいた大公の姿が頭に浮かぶ。俺のやらかしを黙認し、兄貴を呼び寄せ、およそできることはすべてやってきたのだろう。一人息子のために。
「ローレンスは皆に愛されてきたんだね」
「はい、私共は坊ちゃまが大好きでした。私の中では坊ちゃまはいつまでも昔のままのお方なのです」
そういってから、執事はいつもの嫌な笑顔を浮かべた。
「それでは、ランス様。今日は踊りの練習をいたしましょう。舞踏会までに完ぺきに礼儀や作法を身に着けていただきます。大丈夫でございます。魔法の授業で可をとるよりは簡単なことですよ。ええ」
俺は身を乗り出す。
「公子会とそのあとの舞踏会ですわ。あの時は私たち、正式に招待されておりますもの。堂々と王宮に滞在して、中を散策することができますわ」
「……俺、それは欠席しようかと思っていたんだけど……」
本人かどうか確認されるのだろう? 偽物だとばれたら、その場で斬られても文句は言えないぞ。
「その公子会とかを切り抜ければいいのでしょう? まかせてください。僕がぴかっと光る道具を制作します」
なぜかリーフは乗り気だった。
「いや、でも……」
「大丈夫ですわ。お兄様。やりましょう。行きましょう」
エレインも目を輝かせている。
「ここまで来たら、秘密を知りたいとそう思うでしょう、ね。イーサン様もそう思いますよね」
「い、いや……」
イーサンは同意を求められて後ろに下がった。
「しかし、たとえ入ることができてもそれと図書館を調べるのは別……」
「侵入なら、任せておけ」いきなり赤い頭が地下から湧いてきた。
「私とその精霊も力を貸すぞ」
兄貴……出禁だったのでは。俺は巨大な体が器用に小さい穴から抜け出す様子を呆然と見つめる。
「偵察任務はお前の得意とするところだっただろう。ランス」
任務? これは任務なのか?確かにローレンスを探すという大本にはかなっているけれど。
「事前の情報収集はお任せください。私、王宮勤めの女官から話を聞いてまいりますわ」
「困難があれば燃える。それが漢の道だ。正面突破あるのみ」
「小道具は僕に任せて」
三人が三様、好きなことをいっている。彼らは俺を死地に追い込む気満々だった。
「イーサン」
助けて……俺は目で訴える。
「待てよ。今のランスには無理だ。公子会で何をするのか知っているのか。王族方との食事会だぞ。究極の礼儀作法が試される。特に今回は偽物と疑われての宴会だ。いろいろな嫌がらせをされるに決まっているだろう」
その通り。行ってもろくなことにならない。だから、俺は欠席をしようと思っていた。神殿の儀式を抜けるのは無理でも、ただの宴会だ。一人くらいいなくても大丈夫。
「何を言っている。漢なら相手の喉笛をかみ切るくらいの気合で進むべきだ」
「気配を消す特別製の魔道具を作ってみますよ」
「あら、恥をかくとか気にしている場合ですか。お兄様にそんな繊細な精神があるようには見えませんわ」
なんでみんな俺を追い込むんだ?
きっと、無謀な計画だといって大人が止めてくれるに違いない。俺はデリン公や執事たち、そういった大人がこの思い付きを止めてくれると思っていた。
「ランス様、なぜ計画を思いとどまろうとなさるのですか?」
しかし、執事に逆に驚かれてしまった。
「散々、学園の中では無謀なことをやっておきながら。ただ舞踏会に出席するだけでございますよ。法にも道理にも反することではありません。それなのになぜ?」
ええ? 止めないの? 予想が外れて俺は戸惑った。
「エレイン様の調べていただいた資料によると、かなりいいところまで調査が進んでおります。あと一押しでございます。ローレンス坊ちゃまの行方を探す最後の手段でございますよ」
「あー」
ローレンス坊ちゃまの行方。そのことを考えると、胸が詰まる。
「あの……さ」
ローレンスのことを本当に心配して、探している家族に何といえばいいのだろう。
「もし、俺が、ローレンスを見つけることができなかったら……」
執事の目がふっと和らいだ。
「その時はその時でございますよ。……ランドルフ様は本当によい仕事をしていただきました。でも、あともう少し、もう少しだけ、お願いしたいのです」
「その結果、家門の……方針に、方針を変更する必要が出てくることがあっても?」
執事は言葉を探しているようだった。
「ランドルフ様がそのようなことを気にされるとは思っても見ませんでした。
……御心配なさらず。すでに方針は転換されていると思います。少なくとも御当主様は覚悟を決めておいでで
す。……私共は家門というものを重要視しすぎていたのかもしれません。こうあるべきという思いで、大切なものを見逃していたのかも。今さら悔やんでも仕方がないことではありますが」
執事は目を伏せた。
「ですから、私共はやらなければなりません。たとえ結果が何であれ、やりきらなければ先に進めない、そう当主様はお考えなのです」
親父に頭を下げて頼み込んでいた大公の姿が頭に浮かぶ。俺のやらかしを黙認し、兄貴を呼び寄せ、およそできることはすべてやってきたのだろう。一人息子のために。
「ローレンスは皆に愛されてきたんだね」
「はい、私共は坊ちゃまが大好きでした。私の中では坊ちゃまはいつまでも昔のままのお方なのです」
そういってから、執事はいつもの嫌な笑顔を浮かべた。
「それでは、ランス様。今日は踊りの練習をいたしましょう。舞踏会までに完ぺきに礼儀や作法を身に着けていただきます。大丈夫でございます。魔法の授業で可をとるよりは簡単なことですよ。ええ」
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