魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記

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王宮

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 エレインの思惑はどうであれ、俺たちの準備が何とか終わったのは公子会の直前だった。王宮での宴の日程が送られてきて、俺たちは執事たちと打ち合わせをした。

「一日目は公式な行事です。俗にいう、公子会がまず執り行われます。そのあと、エレインお嬢様のお披露目の会でございますね」

「時間がちゃんとずらしてあるんだな」
 時間の余裕はあるようだ。重なっていたらどうしようかと思っていたがそこは一安心か。

「お披露目のエスコート役で公子の方々は出席されることが多いものですから、余裕を持った時間になっておりますね」

「公子会をうまく切り抜けられたら、俺とイーサンはエレインに会いに行く、と」

「ほかのお三方は最初から侍女としてエレイン様と一緒に行動してくださいませ」
 不謹慎な真似をしたら、命の保証はありませんよ、とエレイン付きの侍女が脅す。

「特に、アルウィン様」

「大丈夫だ。身も心も女になりきって見せる。いや、心はすでに女だから大丈夫」

「そうですか。それなら……」
 侍女が兄貴を部屋の隅に連れていく。
「これはいかがでしょう」

 侍女の手にした何かを兄貴が覗き込んだ。

「こ、これは何だ。何という……」兄貴の雄たけびが上がる。「おおおおおおお、ま、これは……」

 侍女が急所にきつい一撃を与えた。声も立てずに、兄貴は床でのたうち回る。

「お気を付けくださいませ。このようになりたくなければ」

 彼女が手にした玉の中で不適切な行為の映像が生々しく映し出されている。俺たちは何度もうなずいた。


 公子会の当日、迎えに来たのは黒塗りの豪華な馬車だった。不測の事態が起きないように王室から護衛付きで差し向けられるのが慣習らしい。

「いってらっしゃいませ、ローレンス様、イーサン様」

 ここから先は事情を知らない侍従がついてくる。俺たちは黙ってうなずいた。
 俺は隠し持ったリーフ特製の魔道具を確かめる。うまく光るだろうか。もし、ばれたら……恐ろしい想像に気を取られて、侍従が差し出したお菓子を無意識のうちに食べていた。

 イーサンが咳払いをしたので我に返る。
 そういえば、差し出されるものをむやみに口にするなといわれていたな。名残惜しかったが残りは銀の盆に戻した。ここに乗っているのが兄貴だったらなぁ。いろいろと会話する方法はあるのに。

 俺たちの馬車の外を固めているのは、王室の騎士団だった。彼らのほとんどは魔法士らしく、剣の代わりに杖を持っているものが多い。

「ずいぶん厳重だね」
 俺の視線をくみ取ったイーサンが話しかけてくる。
「去年はここまででもなかったのに」

「そうか。今年は代替わりの年だから」

 また咳ばらいをされた。そうだったよ。儀式に関することは他言無用、におわせることも駄目だといいたいんだな。何と堅苦しい。

 何をどこまで話していいのかわからなかったので、窓の外を見た。
 整然とした街並みが続いている。馬車だとすぐに通り抜けられる北の町とは違う。帝国の繁栄を見せつけられているようだ。
 城を囲む堀を超えて白く輝いている城門へ。近くで見ると見上げるような高さがある。長い城壁の内側を抜けると広い庭園がある。そして、その向こうにさらに大きな門。馬車は正面ではなく、左側にあるやや小ぶりな門に向かった。

 そこで、いったん止められる。内側の兵士と護衛の騎士とのやり取りがあって、再び馬車が進み始めた。

「こちらの門は公子会に出席できる身分の者が使う門なんだ。早く到着できる」

 俺たちが乗っているのとまったく同じ型の馬車が何台も同じ方向に向かっていた。誰がどの馬車に乗っているのだろう。見た目には判断ができない。

 馬車止めで車が止められるまで俺はおとなしく庭を眺めていた。美しく切りそろえられた木々や池が人の目を楽しませるように配置されている。
 だけど……隠れる場所がない。これは逃亡するのに骨が折れそうだ。本当に困った事態になった時にどうやって逃げ出そうか、俺の頭はそれでいっぱいだ。

「どうぞ、こちらです」

 馬車の扉が開いて、俺たちはようやく外に出ることができた。ここからは王室の案内人がついて俺たちをそれぞれの家の控室に案内することになっていた。

「デリン殿、どうぞ。ハーシェル殿はこちらへ」

 俺はイーサンと目配せをして、それぞれの案内人について行く。

 まるで神殿のような作りの建物だった。天井は高く、梁が美しい弧を描いて屋根を支えているのが分かる構造だ。ところどころにある色窓が物語の絵を映し出しているところもそっくりだ。

「ここでお待ちください」

 通された部屋は俺があの儀式のときに待たされた部屋に似ていた。
 嫌な予感がする。中には椅子が用意されており、先客がいた。もう一人のローレンスだ。

「やぁ、ラーク」

 案内人の姿が消えてから、恐る恐るローが話しかけてきた。

「やぁ、ロー。先に来ていたんだ」

「うん。君も……来たんだね」
 まるではれ物に触るような言い方だった。俺が欠席するのを予想していたのか。俺もそうなればいいと思っていた。

「ああ」

 話が続かない。何を話せばいいのだろう。

「叔父様たちはお元気でらっしゃるかな。おばさまにはこの前お会いしたけれど、叔父様にはご無沙汰しているから」

「ああ、うん。元気だ。忙しそうにしているから、気にしなくてもいい」

 ローは何か言いたげなそぶりをしている。

「あの、さ。エレイン様は、どうかな? 怒っていなかったか?」

「いや。……どうして怒っていると思うんだ?」

「あの、本来は君が相手をするはずなのに、僕が割り込む形になって……」

 なんだ。そんなことを気にしていたのか。

「ああ。それは大丈夫。むしろ、君が相手ということで喜んでいた」

 君のほうが踊りはうまいから、そういうとローはほっとしたような顔をした。

「いや、僕は彼女に釣り合わないと思っていたんだ。彼女ほどの女性ならもっと高位の、それこそ王子殿下の隣でも務まるだろう? 彼女も気にしているのではないかと……」

「いや。エレインはそんなことを気にするような子じゃない」

「そうか。そうだよな」
 ローは心から安心したように深く息を吐いた。

 俺もそれを見て安心した。ローはエレインのことを大切に思っている。それが伝わってきたから。彼ならば、あのじゃじゃ馬が暴走してもうまくついて行けるだろう。あの第二王子の取り巻きというのが玉に瑕なんだけどね。

「エレインのこと頼んだ」

 俺がそういうとローは目を丸くして、それから目を泳がせる。
 あれ?何か俺は変なことをいったかな。ローレンスでも同じことをいったと思うぞ。

「そろそろお時間です」

 その時、扉が開いた。二人の神官が入ってきて、うやうやしく頭を下げる。
 今回はちゃんとした神官が案内してくれるみたいだ。俺たちは彼らの後をついて行った。

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