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3歳
13
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「おじさま!」
「セリ。どうした?」
ニコニコで、ガイサスおじさまは膝に乗せてくれる。こういう触れ合いをしたのはこの人だけだ。
父の位置にいる当主も、生死不明な母って人も私の人生とは関わりがなかった。
『色が似ているだけで、ここの子供と思わない事だ!』
『私がお母様よ?お顔をよく見せて。ああ、あの人と似ているわあ。』
(誰にだよ)
イラッとくる。乗り込んできたどこの誰とも知らない貴族と、母親だという主張の騙りであった。
貴族絡みなら、お金が得られると思っているらしい。うち、貧乏なの。商人に騙されて余計に!
当主の兄達の関係ではなく、当主の関係者は嘘だとわかる。オジサマが知っているだけの狭い交流だから。
私の母親は不明である。
なので、『教会で祈ってきてください』と遠回しに返し、そこで悔い改めるよう差し向ける。
「めんどうだったなあ。」
「何かあったか?」
おっと、オジサマとお話ししよう。
「入った事ないトコロ、見たいの!」
子供の説明能力なんて、こんなものだよね。
「書庫の部屋です。あそこは掃除も行き届いておりませんし、魔導具も置いております。
危ないと思うのですが。」
「なぜ入りたいんだ?」
「本がいっぱいあるの、楽しい!」
実際に魔導具の本、素材図鑑、地図まである。朧げな記憶の補完をしておけば役に立ちそうだ。
(実質動けない身だ。前倒しでできることをやりたい。)
この行動で未来が変わるのか、微々たる変化だけど。
真剣な目で見つめて、答えを待った。
「許可しよう。」
「今、その部屋は埃だらけで掃除が必要です。」
「お水使わずやる!」
「危ない物には、触っては駄目だぞ。」
「うん。」
刃がついた魔導具とかね。
勝因はわからないけど、入室許可はおりた。
「すまないが案内してやってくれ。」
「承りました。」
山盛りな書類を横目に執務室から出た。胸が高鳴る。
「楽しみ」
コンコンッ
執事がノックをすれば、魔力を流す場所が出た。
そこに師匠執事の魔力が通ると、一閃光る。魔導具が息を吹き返し、扉が少し開いた。
重く、体重をかけても開かなかった扉が。ぼろっと壊した鍵まわりは、記憶にあっても今は違う。
「入れた」
こんなに苦労なく入れると、肩透かしだ。あの時間はなんだったのだろうと言いたくなったけど。
過去の話、いや違う時の事だ。気持ちを変えないと。
(あそこに、図鑑。あそこは当主の趣味で集めた本。魔導具はあっちだっけ。)
「窓を開けてまいります。お手を触れませんよう。」
「うん。」
はいと言いそうなのを、ワザと子供っぽく言い直した。
目にした青い鳥を模した魔導具が置かれていて、その瞳には光がない。
「とりしゃん」
機能は鳴き声と、時間を知らせてくれる。魔力を入れる練習にちょうど良い代物だ。
言葉も少し覚えてくれる。繰り返しが多いけど。
(私の癒しだった。)
この書庫に篭りっきりになって、魔導具の修理に明け暮れて。食事の時間を忘れないように、セットしてあった。
他にも水魔法特化の魔導具が仕舞い込まれている。私には適正のある、まだ壊れた魔導具達。
「この辺りが図鑑で挿し絵も多いです。あちらは魔導具しまってあるので1人では近づきませんように。」
「今、良い?」
場所を指差し、鳥の魔導具を取り出してもらって、奥の机に置いてもらった。
特に壊れていないが、動かしたのはいつなのか。もう言葉も覚えていないだろう。
《朝だ》《キラウェーブ草》《寝る》
「当主様の声でしょうか?」
「消して良い?」
驚いた顔をされたけど、雑音が混じっているし新しく言葉を覚えさせたい。
(調整して、3つ以上にできるだろうか?早く勘を取り戻さないと。)
執事の退室を見送って、青い鳥をひと通りいじって魔力を込め始める。
それが終わったら、持ち出す本を探そう。
食事の頃に迎えに来てくれるはずだ。
「青い鳥に名前をつけないと。」
新しく懐かしい場所に、私は浮かれていた。
「セリ。どうした?」
ニコニコで、ガイサスおじさまは膝に乗せてくれる。こういう触れ合いをしたのはこの人だけだ。
父の位置にいる当主も、生死不明な母って人も私の人生とは関わりがなかった。
『色が似ているだけで、ここの子供と思わない事だ!』
『私がお母様よ?お顔をよく見せて。ああ、あの人と似ているわあ。』
(誰にだよ)
イラッとくる。乗り込んできたどこの誰とも知らない貴族と、母親だという主張の騙りであった。
貴族絡みなら、お金が得られると思っているらしい。うち、貧乏なの。商人に騙されて余計に!
当主の兄達の関係ではなく、当主の関係者は嘘だとわかる。オジサマが知っているだけの狭い交流だから。
私の母親は不明である。
なので、『教会で祈ってきてください』と遠回しに返し、そこで悔い改めるよう差し向ける。
「めんどうだったなあ。」
「何かあったか?」
おっと、オジサマとお話ししよう。
「入った事ないトコロ、見たいの!」
子供の説明能力なんて、こんなものだよね。
「書庫の部屋です。あそこは掃除も行き届いておりませんし、魔導具も置いております。
危ないと思うのですが。」
「なぜ入りたいんだ?」
「本がいっぱいあるの、楽しい!」
実際に魔導具の本、素材図鑑、地図まである。朧げな記憶の補完をしておけば役に立ちそうだ。
(実質動けない身だ。前倒しでできることをやりたい。)
この行動で未来が変わるのか、微々たる変化だけど。
真剣な目で見つめて、答えを待った。
「許可しよう。」
「今、その部屋は埃だらけで掃除が必要です。」
「お水使わずやる!」
「危ない物には、触っては駄目だぞ。」
「うん。」
刃がついた魔導具とかね。
勝因はわからないけど、入室許可はおりた。
「すまないが案内してやってくれ。」
「承りました。」
山盛りな書類を横目に執務室から出た。胸が高鳴る。
「楽しみ」
コンコンッ
執事がノックをすれば、魔力を流す場所が出た。
そこに師匠執事の魔力が通ると、一閃光る。魔導具が息を吹き返し、扉が少し開いた。
重く、体重をかけても開かなかった扉が。ぼろっと壊した鍵まわりは、記憶にあっても今は違う。
「入れた」
こんなに苦労なく入れると、肩透かしだ。あの時間はなんだったのだろうと言いたくなったけど。
過去の話、いや違う時の事だ。気持ちを変えないと。
(あそこに、図鑑。あそこは当主の趣味で集めた本。魔導具はあっちだっけ。)
「窓を開けてまいります。お手を触れませんよう。」
「うん。」
はいと言いそうなのを、ワザと子供っぽく言い直した。
目にした青い鳥を模した魔導具が置かれていて、その瞳には光がない。
「とりしゃん」
機能は鳴き声と、時間を知らせてくれる。魔力を入れる練習にちょうど良い代物だ。
言葉も少し覚えてくれる。繰り返しが多いけど。
(私の癒しだった。)
この書庫に篭りっきりになって、魔導具の修理に明け暮れて。食事の時間を忘れないように、セットしてあった。
他にも水魔法特化の魔導具が仕舞い込まれている。私には適正のある、まだ壊れた魔導具達。
「この辺りが図鑑で挿し絵も多いです。あちらは魔導具しまってあるので1人では近づきませんように。」
「今、良い?」
場所を指差し、鳥の魔導具を取り出してもらって、奥の机に置いてもらった。
特に壊れていないが、動かしたのはいつなのか。もう言葉も覚えていないだろう。
《朝だ》《キラウェーブ草》《寝る》
「当主様の声でしょうか?」
「消して良い?」
驚いた顔をされたけど、雑音が混じっているし新しく言葉を覚えさせたい。
(調整して、3つ以上にできるだろうか?早く勘を取り戻さないと。)
執事の退室を見送って、青い鳥をひと通りいじって魔力を込め始める。
それが終わったら、持ち出す本を探そう。
食事の頃に迎えに来てくれるはずだ。
「青い鳥に名前をつけないと。」
新しく懐かしい場所に、私は浮かれていた。
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