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第1章
第20話:焔の帰還者
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瑞穂と刹那は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
海人が以前より強くなっていることは察していたが――まさか、あれほどの圧倒的な力で健太を叩き伏せるとは。
「……最後の技、見たことないわね。海人のオリジナルかしら。そもそも、術なんて使えなかったはずだけど」
「おそらく、あの桐生という男が鍛えたのでしょう。氣の制御ができていれば、術を扱えるようになっていても不思議じゃありません。それよりも――健太の治療を急がないと、大ごとになります」
「……もう充分大ごとだと思うけどね。そこの人たち!健太を船に運んで!急いで!」
刹那の指示で、様子をうかがっていた健太の取り巻きたちが慌てて動き出し、重傷を負った健太を小舟へと運び始めた。
意識を失い、顔中を焼かれた健太の命は、早急な治療がなければ危ういだろう。
瑞穂は海人の方へ歩み寄り、小さくため息をついた。
「海人……やりすぎです。間違いなく、後々問題になりますよ」
「望むところだ。俺はもう、一族の顔色を窺って生きるつもりはない。来るなら、誰であろうと叩き潰すだけだ」
海人は挑発的に口元を吊り上げる。
島に来る前にまとっていた、あの空虚な雰囲気はもう消えていた。
その姿には、自信と覚悟――いや、“確信”があった。
「いくら強くなったからって、無茶をしたら一族には戻れないかもしれないのよ?」
「構わないさ。焔木一族なんて、もう興味はない。瑞穂、お前の護衛を引き受けるのは、“力”を見せつけるためだ」
瑞穂はその言葉に少しだけ目を伏せた。
やはり彼はとっくに、一族を見限っていた。
だが――もしこの先、少しずつでも心を溶かしていけるなら。
「……ゼロと桐生も、護衛に加えてもらう。もう俺の仲間だ」
「……分かりました。何とかしましょう。当主には、私から話を通します」
「よし。聞いたか、ゼロ、桐生。お前らも護衛入りだ」
「助かるぜ。儂は元罪人だが、まぁ時効ってやつだろ。勝手に島に残ってただけだしな」
「マスターの命令なら従います。……許可が出ない場合は、強行突破しますけど」
「よし、じゃあ行こうぜ。もうこの島には用はねぇ」
海人、ゼロ、桐生の三人は、さっさと小舟へと歩き出した。
その後ろ姿を見送りながら、瑞穂が小声で刹那に問う。
「……刹那、あの二人、どう見える?」
「かなりの実力者よ。特にゼロは、何を考えてるのかすら読めない。あれはちょっと……異質ね」
「……護衛としては頼もしいけれど、いろいろと問題も抱えそうね」
今は健太の処遇が問題だ。
ここまでの重傷を負わせたとなれば、健太の両親――そして一族の重鎮たちが黙ってはいないだろう。
その時、海人たちがどう動くか。あるいは、何も起きずに済むのか。
「……当主にどう説明したものか。頭が痛いわね」
「私には口添えくらいしかできないけど……意外と許されるかもしれないよ?当主って、そんなに頭ごなしに怒るタイプでもないし」
たしかに瑞穂の父、現当主は穏やかな性格で知られていた。
だが、一線を越えた者への裁きは厳格で、容赦がない面もある。
今回はどちらの顔を見せることになるのか――瑞穂にも読めなかった。
「ここで悩んでいても仕方ないわ。私たちも船に戻りましょう。どうせすぐ、当主と顔を合わせることになるのだから」
「そうだね。じゃあ行こうか」
二人も小舟に乗り込み、海人たちの後を追って船へと向かった。
しばらくすると、海人がふと問いかけた。
「……ずいぶん遅かったな。何の話をしてたんだ?」
「今後、あなたたちの扱いについてよ。本島に戻ったら、当主との面談がある。恐らく一族の他の者たちも顔を揃えるはず。……くれぐれも暴れないでよね」
「それは向こうの出方次第だな。……ま、少しくらいは大人しくしてやるよ」
船に着き、小舟から乗り換えたとたん、船内から怒声が飛んできた。
「海人! てめぇ、覚えてろよ!!」
声の主は健太だった。包帯で全身を巻かれ、まるでミイラのような姿になっている。
「その格好じゃ、何を言っても説得力がないな。ずいぶんと“色男”になったじゃないか」
「俺の顔をよくも……! 一族に報告してやるからな! お前は幽閉どころか、また島流しだ!!」
「好きにしろ。……けど、あんまり騒ぐと、また痛い目見るぞ?」
海人がゆっくりと歩を進めると、健太は怯えたように身を引き、捨て台詞を吐きながら船内に消えていった。
「うるさいガキですね。処分してしまいますか?」
ゼロが物騒な提案をさらりと口にしたが、海人は即座に却下した。
「まあ俺は賛成だけどな。ああいう手合いは、後で面倒になる。今なら“魔獣にやられた”ってことにできるし」
桐生も半分本気で言っていた。あの健太には、それなりにムカついていたらしい。
「放っておけ。あんな小物に関わるだけ、時間のムダだ」
海人は遠く、視界の先に見える本島を見つめた。
これから始まるのは、かつての自分の人生とは違う――“力”で切り開く新たな未来だ。
たとえ誰が邪魔をしようと、俺は――すべてを叩き潰す。
その覚悟とともに、焔木海人は静かに拳を握った。
海人が以前より強くなっていることは察していたが――まさか、あれほどの圧倒的な力で健太を叩き伏せるとは。
「……最後の技、見たことないわね。海人のオリジナルかしら。そもそも、術なんて使えなかったはずだけど」
「おそらく、あの桐生という男が鍛えたのでしょう。氣の制御ができていれば、術を扱えるようになっていても不思議じゃありません。それよりも――健太の治療を急がないと、大ごとになります」
「……もう充分大ごとだと思うけどね。そこの人たち!健太を船に運んで!急いで!」
刹那の指示で、様子をうかがっていた健太の取り巻きたちが慌てて動き出し、重傷を負った健太を小舟へと運び始めた。
意識を失い、顔中を焼かれた健太の命は、早急な治療がなければ危ういだろう。
瑞穂は海人の方へ歩み寄り、小さくため息をついた。
「海人……やりすぎです。間違いなく、後々問題になりますよ」
「望むところだ。俺はもう、一族の顔色を窺って生きるつもりはない。来るなら、誰であろうと叩き潰すだけだ」
海人は挑発的に口元を吊り上げる。
島に来る前にまとっていた、あの空虚な雰囲気はもう消えていた。
その姿には、自信と覚悟――いや、“確信”があった。
「いくら強くなったからって、無茶をしたら一族には戻れないかもしれないのよ?」
「構わないさ。焔木一族なんて、もう興味はない。瑞穂、お前の護衛を引き受けるのは、“力”を見せつけるためだ」
瑞穂はその言葉に少しだけ目を伏せた。
やはり彼はとっくに、一族を見限っていた。
だが――もしこの先、少しずつでも心を溶かしていけるなら。
「……ゼロと桐生も、護衛に加えてもらう。もう俺の仲間だ」
「……分かりました。何とかしましょう。当主には、私から話を通します」
「よし。聞いたか、ゼロ、桐生。お前らも護衛入りだ」
「助かるぜ。儂は元罪人だが、まぁ時効ってやつだろ。勝手に島に残ってただけだしな」
「マスターの命令なら従います。……許可が出ない場合は、強行突破しますけど」
「よし、じゃあ行こうぜ。もうこの島には用はねぇ」
海人、ゼロ、桐生の三人は、さっさと小舟へと歩き出した。
その後ろ姿を見送りながら、瑞穂が小声で刹那に問う。
「……刹那、あの二人、どう見える?」
「かなりの実力者よ。特にゼロは、何を考えてるのかすら読めない。あれはちょっと……異質ね」
「……護衛としては頼もしいけれど、いろいろと問題も抱えそうね」
今は健太の処遇が問題だ。
ここまでの重傷を負わせたとなれば、健太の両親――そして一族の重鎮たちが黙ってはいないだろう。
その時、海人たちがどう動くか。あるいは、何も起きずに済むのか。
「……当主にどう説明したものか。頭が痛いわね」
「私には口添えくらいしかできないけど……意外と許されるかもしれないよ?当主って、そんなに頭ごなしに怒るタイプでもないし」
たしかに瑞穂の父、現当主は穏やかな性格で知られていた。
だが、一線を越えた者への裁きは厳格で、容赦がない面もある。
今回はどちらの顔を見せることになるのか――瑞穂にも読めなかった。
「ここで悩んでいても仕方ないわ。私たちも船に戻りましょう。どうせすぐ、当主と顔を合わせることになるのだから」
「そうだね。じゃあ行こうか」
二人も小舟に乗り込み、海人たちの後を追って船へと向かった。
しばらくすると、海人がふと問いかけた。
「……ずいぶん遅かったな。何の話をしてたんだ?」
「今後、あなたたちの扱いについてよ。本島に戻ったら、当主との面談がある。恐らく一族の他の者たちも顔を揃えるはず。……くれぐれも暴れないでよね」
「それは向こうの出方次第だな。……ま、少しくらいは大人しくしてやるよ」
船に着き、小舟から乗り換えたとたん、船内から怒声が飛んできた。
「海人! てめぇ、覚えてろよ!!」
声の主は健太だった。包帯で全身を巻かれ、まるでミイラのような姿になっている。
「その格好じゃ、何を言っても説得力がないな。ずいぶんと“色男”になったじゃないか」
「俺の顔をよくも……! 一族に報告してやるからな! お前は幽閉どころか、また島流しだ!!」
「好きにしろ。……けど、あんまり騒ぐと、また痛い目見るぞ?」
海人がゆっくりと歩を進めると、健太は怯えたように身を引き、捨て台詞を吐きながら船内に消えていった。
「うるさいガキですね。処分してしまいますか?」
ゼロが物騒な提案をさらりと口にしたが、海人は即座に却下した。
「まあ俺は賛成だけどな。ああいう手合いは、後で面倒になる。今なら“魔獣にやられた”ってことにできるし」
桐生も半分本気で言っていた。あの健太には、それなりにムカついていたらしい。
「放っておけ。あんな小物に関わるだけ、時間のムダだ」
海人は遠く、視界の先に見える本島を見つめた。
これから始まるのは、かつての自分の人生とは違う――“力”で切り開く新たな未来だ。
たとえ誰が邪魔をしようと、俺は――すべてを叩き潰す。
その覚悟とともに、焔木海人は静かに拳を握った。
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