猫と幼なじみ

鏡野ゆう

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小話

カレーは飲み物か食べ物か

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「カレーが食べたい……」

 修ちゃんを送り出して、洗濯機を回していたら、急にカレーが食べたくなった。目の前に護衛艦が停泊しているせいじゃないと思うけど、それなりに食べたくなった理由の一つには含まれているかも。

「ってことは、お買い物に行かなくちゃね」

 今日は平日。桟橋さんばしで見学もできないし、総監部の中にある博物館にも行けない。ってことは、私がいきなりお昼寝して爆睡しない限りは、ゆっくりご飯を作る時間はあるはず。

「あ、修ちゃんとこの艦、レシピ、公開してるのかな」

 洗濯機が回っている時間を利用して、パソコンで検索してみることにする。修ちゃんのパソコンだけど、一応は使っても良いことになっている。ただし、ユーザーアカウントは別に作られていて、修ちゃんのアカウントにはパスワードがかかっているから、のぞくことはできないけど。

「えーと、海自カレーで検索したら良いのかな」

 パソコンを立ち上げてから、修ちゃんが乗っている護衛艦の名前と、海自カレーで検索をしてみた。

「お、出た。ってか、公式サイト!!」

 海自カレーのファンサイトだと思ったら、なんと海上自衛隊のホームページ内。しかもしかも、スイーツのレシピまである!

「あああ、おいしそうなケーキ……は! そうじゃなくて、カレーのレシピを見なきゃだよ!」

 横道にそれそうになったので、慌ててカレーのアイコンをクリックする。

「なるほどなるほど。これなら私にも作れそう。あ、でもニンニクは苦手だからパスしたい」

 材料をメモしながら、そこに含まれているニンニクの文字にうなってしまった。きっとふねの料理長さん的には欠かせない材料なんだろうけど、私的にははずしたい材料だ。

「ま、完全再現しなきゃいけないって決まりはないし、とりあえずニンニクはパスと」

 どんな味になるかわからないけど、あくまでもベースはこれにして、あとは自分流で作ってしまおうと決める。

「……ん? ってことは、レシピを見る必要なかったってこと?」

 ふと、自分で自分の行動にツッコミを入れた。

「ま、いいか。味の違いは修ちゃんに味見してもらえばわかるもんね」

 そう呟きながら、さっき見たスイーツのページに戻る。

「おいしそう……私に作れるかな、これ」

 正直なところ、スイーツ作りは今までやったことがなかった。なぜかって? 理由は簡単。お気に入りのケーキ屋さんで買ったほうが絶対においしいから。

「お義兄にいさんに頼んだら、作ってくれるかな、これ」

 あくまでも自分でつくる選択肢はない。

「レアチーズケーキ、今度たのんでみよう」

 洗濯が終了した音がしたので、パソコンの電源を落とすと、洗濯物を干す作業にとりかかった。


+++++


「ただい」
「修ちゃん、ごめん!!」

 ドアのカギが開く音がしたので、玄関に走った。そして修ちゃんが入ってきたと同時に謝る。

「ま。……どした? 鍋、焦がした?」
「そうじゃなくて! てか、お鍋を焦がしたなんて、どうして考えたかな」
「え? いや、ほら、カレーのにおいがしてるからさ。まこっちゃんのことだし、変に対抗心燃やしてルーから作ろうって思い立って、物の見事に失敗したという流れを想定してみた」
「ごめん言ってから一秒も経ってないじゃん」
「え、俺の頭、スパコンなみだから」

 冗談か本気かわからないことを言いながら、修ちゃんは靴を脱く。

「で? 焦がしたであたってるわけ?」
「あー、良いとこは突いてるよ、修ちゃん」

 少なくともカレーに関することなのは当たり。

「え? 本当になにか焦がした?」
「んなわけないじゃん! そこじゃなくてカレーだよ、カレー!」
「うん。いい匂いだね。まこっちゃんのカレー、久し振りに食べるよ」

 にこにこしながら、台所の前で鼻をヒクヒクされている。そんなところはヒノキ達とそっくり。

「そうじゃないんだって」
「だったらどういうことさ」
「だからさ、今日、木曜日なんだよ!」
「木曜日だね」
「今日が木曜日ってことは、明日は金曜日でしょ?!」
「まあ、いきなり土曜日になることはないかな」

 普段ならこのへんで察してくれるのに、呑気に笑っている修ちゃんに、若干、イラッとなった。

「だからだから! 明日のお昼、修ちゃんとこ、カレーじゃん!!」
「ああ、そうだった。でも俺、カレーは好きだから一週間ぐらい続いても平気だし問題ないよ」
「……」
「なに。安心したろ?」

 部屋に入ると制服を脱ぎ始める。

「なんか心配で大騒ぎした自分がバカバカしくなってきた……」
「職場のカレーと、家のカレーは別物だから」
「でも、ベースは修ちゃんとこの護衛艦のレシピなんだよ」
「調べた?」
「うん、調べた。でもニンニク抜きにした」
「だろうね」

 私の好き嫌いを知っているせいか、修ちゃんは特に驚いた顔はしていない。

「とにかく、久し振りのまこっちゃんカレーだから、楽しみだよ、俺」
「そう?」
「うん」
「なら、あたためてくるね」
「お願いします」


+++++


「ねえ、それ、なにしてるの?」

 次の日の朝、出かける準備をしていた修ちゃんが、台所でなにやら怪しげな動きをしていた。その手にはオタマ。そしてカレーをタッパに入れている。もうイヤな予感しかしない。

「ん? まこっちゃんのカレー、持っていこうと思って」
「ちょっとー、やめてよー。普通にあっちでカレー食べなよー。なんで持っていくのー」

 食事が出るのに、なんで家からカレーを持っていこうなんて考えるのか理解できない。っていうか、それって許されることなの?

「なんで? たくさん残ってるんだから、少しぐらい持っていっても問題ないだろ?」
「そもそも持っていく必要ないじゃん?」
「え、うまかったし、昼にも食べたい」

 そりゃ、おいしいって言ってくれるのはうれしい。だけど、持っていく場所が問題。うん、かなり問題!!

「だーかーらー、そっち、カレーマイスターの集団がいるじゃん」
「マイスターってなんだよ」

 修ちゃんが笑う。

「そんな場所に、なんで持っていこうとするかなあ……」
「そりゃ、俺の嫁のカレーは日本一うまいって言うために決まってるじゃん」
「やーめーてー!! まさか、それ、料理長さんに食べさせるつもりじゃないよね?!」
「ん? 味見ぐらいしたいって言ってくると思うけどな。もちろん俺は拒否らない」
「ぎゃあああ、ちょっと、我が家のカレー、持ち出し禁止!!」

 タッパをとりあげようとしたけど、修ちゃんは素早く逃げた。

「やだね。今日の昼は、まこっちゃんのカレーって決めたんだから。なにがなんでも持っていく」
「うそやーん!!」
「艦長も食べたいって言うかもな。正式に認定されたら知らせるよ」
「やーめーろー! ってか、レシピ通りには作ってないんだから、認定されるわけないじゃん!」
「海自嫁カレーとか、新しいジャンルができるかもね」

 もう笑えない。

「あのさ、ぎゃーぎゃー騒いでるけど、奥さんが作ったカレーでもんくを言ってるヤツなんて、少なくとも俺のまわりじゃ、一人もいないから」
「だからって料理長さんと艦長さんの口に入るとか、こわすぎ!」
「なにをいまら」
「なに? なんで、なにをいまさらなの。なにを食べさせたの、ちょっと修ちゃん?!」

 今、修ちゃんは聞き捨てならないことを言ったような気がする。

「もう時間だから。続きは帰ってからゆっくり聞いてあげるよ」
「帰ってからじゃ遅いやん!!」

 とは言え、ここで遅刻する事態になってもよろしくない。

「一人で食べてね! くれぐれも料理長さんと艦長さんへの献上は禁止!! てかそれ以外の人にも禁止!!」
「艦長命令は絶対なんだけどなあ……」
「禁止!! 絶対だからね!! 艦長命令より私の命令のほうが大事です!!」
「はいはい」

 もー……本当に笑えない。
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