猫と幼なじみ

鏡野ゆう

文字の大きさ
42 / 55
帝国海軍の猫大佐 裏話

一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 5

しおりを挟む
帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです


+++++


「あー、ちょっと待って! こらー! ママを置いていくなー!」

 駅に到着してホームに出るが早いか、おちびさんは私に荷物をぜんぶ押しつけて、階段をかけおりていく。

「ちょっとー! 切符ないと駅員さんに怒られるでしょー!!」

 どんだけ早いの!と文句を言いながら、急いで階段をおりる。おりきったところで見えたのは、駅員さんの足の下をくぐって改札口を飛び出していく背中だった。そして改札口の前に立っていたしゅうちゃんは、注意する間もなく飛びつかれ、ひっくり返りそうになっている。

「やーめーてー!! すーみーまーせーん!!」

 切符を持って改札口に走っていく。私がひーひー言いながら走ってきたせいか、駅員さんはものすごく気の毒そうな顔をして切符を受け取ってくれた。

「もー、すみませーん!! かず君! 改札口を出る時は、切符を駅員さんに渡してからじゃなきゃダメって、ママ言ったよね?!」
「……!!」

 私の言葉を聞いて、やっと思い出したようだ。そして駅員さんを見上げる。

「切符はお母さんからもらいました。次からは気をつけてね」
「はい!!」

 そして敬礼をする。駅員さんも敬礼を返してくれた。でもごめんなさい、この子の敬礼は駅員さんの敬礼ではなく、海上自衛隊の敬礼なんです、駅員さんは気づいてないだろうけど。

「それとかず君、これ! あなたのリュックさんですよ! 置いていったらダメでしょ!」
「お疲れ、まこっちゃん」
「もー、電車を降りてからここに来るまでで、エネルギー使い果たした。今日はもう寝たい」
「お寿司はー?!」

 そんな私のことなんておかまいなしに、おちびさんはお寿司お寿司と連呼する。恐るべし幼稚園児の体力。そんな彼らの、しかも集団をみてくれる幼稚園の先生達を、私は心の底から尊敬する。

「お寿司って?」
「回るお寿司に行きたいんだって」
「そうか。でも、夕飯にはまだ早いぞ?」

 修ちゃんは腕時計を見ながら言った。

「先にお買い物して、一度家に帰ってから出かけたら?って話なんだけど」
「ああ、なるほどね。でもまこっちゃん、大丈夫かよ。今にも倒れそうになってるやん」
「お買い物ぐらいなら平気。……多分」

 やっと呼吸も落ち着いてきた。この分なら、お買い物する間ぐらいは元気でいられそうだ。

「アイスたべたい!」
「……て言ってるけど?」
「お寿司の前にアイス?」
「51のアイスー!」
「ああ、そう言えばここ、あったね、51。私もアイス食べたい」

 無性に甘いものが食べたい。今日はレモンシャーベットの気分。

「じゃあ荷物を車に置いて、アイス食って、買い物して、それから家に行くか」
「賛成」
「さんせーい!」

 そういうわけで、私達はまずは車が停めてある場所へと向かった。

「明日は晴れそうだね」
「いつもよりちょっと早めに出るから。二人は寝ててくれたら良いからな」
「起きそうだよー……ってか、今夜は興奮してなかなか寝ないかも」
「まこっちゃんが? それとも俺が? 子供がいるのに、はしたないぞ?」

 ニヤッと笑う。

「なにを言ってるんですか、お父さん。寝ないのは貴方の息子さんですよ、そっちではなく人間の!」

 ひそひそとささやきながら、おちびさんの頭をさした。

「なーんだ、そっちの息子さんか」
「薄情だなあ。和人かずと、パパに会えるって大喜びしてたのに」
「もちろん俺も大喜びだよ。久しぶりに二人の顔が見れてうれしい」

 それは本当なんだと思う。でも、職場に来られるのはイヤなんだよね? そこは昔も今も変わっていない。

「仕事してるところを見られるの、イヤがるくせに」
「それとこれとは別の話さ」
「仕事をしてるところを見てもらうの、うれしくないの? 企業のファミリーデーでは、そういう意見が多いけど」

 少なくとも、私の職場のパパさん達は、子供さん達が職場見学にくるのを喜んでいるけどな。

「ほら、普段は部下に厳しい指示を出してるだろ? だからさ、家族を前にデレると色々とアレなんだよ」
「アレとはなんですか、アレとは」
「上官の権威の危機というか」
「でも、山部やまべさんの奥さん、修ちゃんはすごく部下に優しい幹部だって言ってたよ?」

 たまに甘すぎるとまで言われてるんだけど、そのへんはどうなんだろう。私達が思い浮かべる「優しい」と、修ちゃん達がいう「優しい」は違うんだろうか?

「子供に優しいお父さんが、職場でも甘いとは限らないし、別にイメージどうこうは気にしなくても良いんじゃないかなあ」
「それでも気恥ずかしいよ。特に制服が萌え萌えとか言って、頻繁ひんぱんに写真を撮りたがる奥さんがいると」

 ん? ちょっと待って。それってどういうこと?

「え、もしかして私のせいなの? ねえ、私のせい?!」
「さあ、どうでしょう」
「カメラを持ってきたのに、撮るなってこと?!」
「そこまでは言わないけどね」
「あと、私、萌え萌えなんて言ってないと思うけど?!」
「それは本人が気づいていないだけという話もあるよねー……」

 修ちゃんはポケットからキーを出して、前に差し出した。とめてあった車がピヨピヨと返事をする。

「荷物、後ろのシートに放り込んでおけばいいよ」

 荷物を車に乗せると、私達は三人で手をつないで、ショッピングモールに向かった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-

設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt 夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや 出張に行くようになって……あまりいい気はしないから やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀ 気にし過ぎだと一笑に伏された。 それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない 言わんこっちゃないという結果になっていて 私は逃走したよ……。 あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン? ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 初回公開日時 2019.01.25 22:29 初回完結日時 2019.08.16 21:21 再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結 ❦イラストは有償画像になります。 2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載

白衣の下 第一章 悪魔的破天荒な医者と超真面目な女子大生の愛情物語り。先生無茶振りはやめてください‼️

高野マキ
ライト文芸
弟の主治医と女子大生の甘くて切ない愛情物語り。こんなに溺愛する相手にめぐり会う事は二度と無い。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...