猫と幼なじみ

鏡野ゆう

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帝国海軍の猫大佐 裏話

一般公開に行くよ! in 帝国海軍の猫大佐 6

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帝国海軍の猫大佐の裏話的エピソードです


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和人かずと、なに食べる?」
「いくら!」

「かず君、なに食べたい?」
「いくら!」

「いくらばっかだね」
「いいのー!」

 おちびさんリクエストの、回るお寿司のお店にやってきた。で、さっきから食べるのは、いくらの軍艦巻きばかりだ。

「本当に好きだねえ、いくら」
「すきー♪」
「ま、大好きなものがあるって良いよね。それを食べただけで幸せになれるし」
「しあわせー♪」

 本当は寝ちゃいたかったんだけど、こんなに喜んでいるから、ま、いっか。

「まこっちゃんは? 流れてこないのはパネルで注文できるよ」
「私はサーモンさえあれば幸せ」
「炙りサーモン、うまそうだよな。これ、注文するか」
「しようしよう!」
「了解。あとは、トロサーモンと、ヒラメと」

 しゅうちゃんがタッチパネルを操作して注文してくれた。

「お、プリンが流れていくよ、かず君」

 最近の回るお寿司屋さんはおもしろい。お寿司じゃないものもたくさん回っていて、カレーや天丼まであるんだから驚きだ。

「あ、副長?」

 奥の席に行こうとしていたお客さん達の中の一人が立ち止まった。

「ああ、伊勢いせ。お疲れさん。今日も問題なかったか?」
「はい。少なくとも自分がおりるまでは、艦内は問題なしでした。どうも、お久しぶりです」

 その人は私を見て頭をさげる。

「こんばんは」
「こんばんわー!」

 いつもの制服じゃなかったから一瞬、誰かわからなかったけど、この人は修ちゃんと同じふねに乗っている伊勢さん。修ちゃんが率いている分隊の海曹長さんで、あと、立入検査隊たちいりけんさたいの責任者さんだ。

「明日の一般公開に来られるんですか?」
「そのつもりです」
「お茶会もあるんですよね。艦長がゴリゴリ張り切って、コーヒー豆をひいてましたよ」
「そうなんですか。楽しみです」

 残念ながら、私は飲まないけどねー。

「お子さんは大人のお茶会、退屈でしょ。もしトレーニングルームでよければ、相手しましょうか?」
「良いんですか?」
「ええ。明日は特に展示があるわけでもないので、見張りに立つ以外は手はあいていますから。かまいませんよね?」

 伊勢さんは修ちゃんに確認をとる。

「うちの子だけじゃないかもしれないが?」
「かまいませんよ。自分権限で動かせる人手はありますので」

 それを聞いた修ちゃんが笑った。

「立検隊が幼稚園の先生役をするのか。ちょっと見たい気もするな。適当に連れ出すから頼む」
「了解です。ではまた明日」
「ああ。……なに? 俺の顔になにかついてる?」

 私と目が合うと、修ちゃんは首をかしげる。

「ヒヒヒッ」
「ヒヒヒて。気持ち悪いな。なんだよ」
「ほんとに口調も声色こわいろも、普段と全然違うよね」

 とたんに修ちゃんはしかめっつらになった。

「だからイヤなんだよ、まこっちゃんが仕事場に来るのがさー」
「いやー、でも、かっこいいよ、修ちゃん。制服を着た修ちゃんに、今の口調と声色こわいろで話しかけられたら、私、卒倒しちゃうかも。他の幹部さんもあんな感じなんだよね? 皆、よく平気だよね?」
「あのさ。幹部がしゃべるたびに乗員があっちこっち卒倒してたら、仕事にならないだろ?」
「アヒャヒャヒャ、そりゃそうだ」

 想像したら変な笑いが込み上げてくる。

「アヒャヒャヒャじゃないから。なあ和人かずと、うちのママは変態ママかー?」
「へんたい?!」
「ちょっと、し――っ! そんな大きな声で叫ばないで」

 お寿司のレーン内にいた店員さんがこっちを見たので、あわてて口に指を押しあてた。

「そういう言葉を教えないでよ」
「俺が教えなくても、変態って言葉ぐらい自然に覚えるだろ?」

 また「変態」と叫ぼうとしたおちびさんの口をふさぐ。

「静かに、かず君。なんでパパをほめたら変態あつかいされるのか、さっぱりわからないよ。パパ、かっこいいと思わない?」
「おもう」
「でしょー?」
「でも和人は、アヒャヒャとか笑わないだろ?」
「どうかなあ。どうですか、和人君?」

 手をマイクにして質問をしてみる。

「……あっひゃっひゃひゃっ?」
「ほら」
「ほらじゃなくて。それ、どこかの時代劇のマネだろ」

 修ちゃんはあきれたように笑った。

「ほら、まこっちゃん。食べたかった炙りサーモンとトロサーモンが来たぞ。和人は? なにが食べたい? もうデザートいくのか?」
「いくらとプリン!」
「わかった、両方な。じゃあ、まとめて頼むぞー」

 お仕事モードの修ちゃんと、おうちモードの修ちゃんの違いって、本当に面白い。本人はそれを私に見られるのが、非常に気恥ずかしいらしい。

―― かっこいいからほめてるんだけどなあ…… ――

 昔は先輩達に冷やかされるのがイヤとか言っていたけど、年をとって偉くなると、また違った理由でイヤになるらしい。偉くなって威厳が出てきて、それはそれで良いんじゃないの?って思うんだけどな。

―― さすがにヒヒヒとアヒャヒャヒャはまずかったか ――

 少しばかり素直に感情をあらわしすぎたかもと、少しだけ反省した。あくまでも少しだけだけどね!
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