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第一部 人も馬も新入隊員
第五話 初めての騎乗 2
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「じゃあ今日はまず、牧野にお手本を見せてもらわなきゃな。先輩なんて呼ばせてるんだ、後輩の前でぶざまに落馬なんてするなよ?」
「俺が呼ばせてるわけじゃないのに……」
馬からおりた水野さんがニヤニヤしながら言うと、牧野先輩はぼやきながら馬に近づく。ちなみに、水野さんが乗るお馬さんの名前は音羽号。なんでも最初はポンポン山にちなんで、ポンポン号とをつけようとしていたらしい。私が思うに、水野さんが噛まれたりむしられたりしたのは、そんな名前をつけようとしたからでは?と思わないでもない。
「じゃあ、お先に」
牧野先輩はそう言うと、水野さんから手綱を受け取った。音羽号は「あれ? あいつ乗らないの?」という顔つきで、私と先輩を交互に見つめる。
「意外と表情が豊かなんですね」
「そうだろ? 悪だくみしている時は特にね」
「え、それって手荒い歓迎ってやつですか?」
今の音羽号は、そういう顔つきをしているということなんだろうか?
「牧野におどされた? 馬越さんが乗る時は、俺が手綱をつかんでおとなしくさせるから心配ないよ」
「それを聞いて安心しました。でも、そういうのがあるのは事実なんですか?」
「あるよ。だって俺、初っぱなから噛まれたわけだし」
「あー……」
そうでしたと首を縦にふる。
「今いる連中は俺達がおとなしくさせるから問題ないけど、明日くる新参者に関してはその限りじゃない。牧野もいるし大丈夫だとは思うけど、馬になめられないようにね。最初が肝心だから」
「でも、やる時はやるんですよね?」
そう言いながら、馬場の中を周回している馬たちに指を向けた。
「まあねー。ただどうかな。音羽号以外の馬は、馬越さんには手荒い歓迎ってやつはしないと思うけど」
「その根拠は?」
「馬たちの様子を見ての、先輩騎馬隊員としてのカン、かな」
「けど音羽号は違うと」
「だから俺がおとなしくさせます」
私達の前を、先輩を乗せた音羽号が悠々と横切っていく。ギロリとその目がこっちを見た。私はあえて、その視線に気がつかなかったふりをする。
「なんか、もうケンカふっかけられてるんですけど」
ヒソヒソと横にいる水野さんにささやいたが、本人は呑気な顔をして笑うばかり。笑い事じゃないと思うんだけどな、あの目つき。
「ところで、牧野先輩、すごく姿勢が良いですね」
「あいつ、白バイ時代はマラソンの先導役をつとめたぐらいだからね。安定した姿勢を保つのがすごくうまいんだよ。運転技術も高かったし、隊としては手放したくなかったろうなあ」
「先輩、もう白バイには乗らないんですか?」
「どうかな。たまにあっちの訓練には参加しているらしいけど。あ、心配ないよ。少なくとも馬越さんが一人前になるまでは、ここにいるだろうから」
周回していくうちに、歩くスピードが速くなった。いわゆる速歩というやつだ。
「ほーん……」
水野さんが変な声をあげた。
「なんですか?」
「あいつ、音羽の悪だくみに気づいたみたいだな。先に発散させて、馬越さんが乗る時はおとなしくさせる魂胆か」
「え、水野さんが手綱をとるから、大丈夫なんなじゃないんですか?」
「そうだけど、今日は午前中の訓練がなかったからね。馬たちはそれなりに、フラストレーションをためこんでる。そういう時って普段はおとなしい馬でも、指示に従わなかったり落ち着きがないことが増えるんだ」
そう言えば先輩も、今日の午前は騎乗訓練がなかったと言っていたっけ。
「それをみこして牧野は、さらに保険をかけることにしたわけだ。ちゃんと先輩してるじゃないか、あいつ。かんしんかんしん」
その場を離れた水野さんは、踏み台を持って戻ってきた。
「一応、これね。乗り方を正しく覚える時には、これがあったほうが指導しやすいから。馬に乗ったことは?」
「あります。騎馬隊を目指そうって決めた時に、ここの近所にある乗馬クラブに短期入会してました」
「だったら話は早いね。ちゃんと馬越さんが覚えているか、確かめてみよう」
しばらくして、先輩と音羽号が私達の前に戻ってきた。
「水野さん、思うんですが馬越さんの騎乗訓練、音羽じゃないほうが良くないですか? こいつ、なにか良くないこと考えてそうだし」
「いやいや。いまさら馬越さんを乗せなかったら、逆にすねちゃって大変だから」
「大変なのは水野さんだけですよね」
「そこ、重要だろ?」
先輩がひらりと降りる。
「さて、じゃあやってみようか、馬越さん」
「はい!」
水野さんが踏み台の横に音羽号を立たせた。
「……私のこと、にらんでますよ」
「誰だ、こいつって思ってるんだよ」
「さて音羽君や。おとなしくしないと、行儀の悪いやつが騎馬隊にいるって、馬越さんにあきれられちゃうぞ?」
水野さんは音羽号の鼻面をなでながら話しかけ、口元近くの手綱をしっかりとつかんだ。音羽号はそんな水野さんの様子に、不満げに鼻を鳴らし足踏みをする。
「じゃ、馬越さん、乗ってみようか」
「はい!」
手綱を持ち、鞍の前橋に手を置く。そして鐙に足をかけた。
「足は馬の体に平行になるようにね。乗る時につま先で、馬のお腹を蹴らないように」
「はい」
足元に気をつけつつ、鞍に手をやって体を持ち上げる。そして鞍の上に落ち着いた。
「うん。乗り方はちゃんとしてるね。姿勢も問題ない。事前に乗馬クラブに通うのは、基本を覚える上では良いことかもしれないね」
「ちゃんと真ん中に乗れてますか? 初めての鞍なのでイマイチ中心ポイントが分からなくて」
先輩が前に立ち、そこからぐるりと馬のまわりを一周して、再び前に戻ってくる。
「もうちょっとこっちかな」
手を右のほうへ動かした。それに合わせてお尻を鞍から浮かせて動く。体を動かしてから納得。今の位置のほうがさっきよりずっと安定している。
「どうです?」
「うん、そんな感じ。馬越さんのほうはどう? 安定してる?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、歩かせる前に準備運動ね。両肩を軽く上げ下げして」
「?」
どうしてそんなことを?と思いつつ、先輩がやっているのと同じように、両肩を上げ下げした。
「OK。少しは力が抜けたかな? 体の力は極力抜いて、リラックスして乗るように。あ、ダラけて乗ってかまわないと言ってるわけじゃないよ。それと足は、ふんわりとお馬さんのお腹を包むようにね」
「お馬さん」
その言い方に思わず笑ってしまう。
「馬好きの馬越さんだから、こういう言い方のほうがふさわしい気がしました。じゃあ水野さん、よろしくお願いします」
「任されました。じゃあ行くよ」
水野さんに引かれて音羽号が歩き出した。歩調に合わせて体が揺れる。
「どう? 馬上から見た風景は。乗馬クラブに通っていたのなら、初めての光景じゃないだろうけど」
「なんていうか、週末の風景じゃなくて、これが自分の仕事の風景なんだって思うと、格別な気持ちですね。それに……」
手をのばしてタテガミをなでつけた。
「やっぱり可愛いです、お馬さん」
「音羽、お前、可愛いってさ」
音羽号は軽く頭をふり、ブルルルッと鼻を鳴らす。
「照れてる照れてる」
「あ、馬越さん、次はうちの子に乗ってみないか? こいつも新しく来た隊員を乗せたそうにしてるんだ」
すれ違いざま、他の先輩隊員に声をかけられた。
「え、良いんですか? 水野さん、かまいませんか?」
水野さんはニコニコしながらこっちを見上げる。
「良いもなにも。どの馬にでも乗れるようにしておくのは良いことだよ。馬たちもその気みたいだし、今日はあいさつ代わりに、他の馬たちに乗せてもらうと良い」
「手荒い歓迎は大丈夫でしょうか?」
「音羽がおとなしくする気になったんだ、他の子達は大丈夫だと思うよ」
つまり、音羽号が一番のヤンチャ者ってことのようだ。
「皆さんに挨拶をする前に厩舎に行って、馬を紹介してくれた隊長には感謝しないと」
「ああ、そのせいもあるのかも。馬は賢いからね。隊長がつれてきたのが騎馬隊の新人だって、わかったんだろう」
そんなわけで、私はそれぞれのお馬さんに乗せてもらうことになった。初日からこれだけの時間、馬に乗るのは初めてのことだったと思う。そのせいもあってか、翌日はかなりの筋肉痛に悩まされることになったけど。
「俺が呼ばせてるわけじゃないのに……」
馬からおりた水野さんがニヤニヤしながら言うと、牧野先輩はぼやきながら馬に近づく。ちなみに、水野さんが乗るお馬さんの名前は音羽号。なんでも最初はポンポン山にちなんで、ポンポン号とをつけようとしていたらしい。私が思うに、水野さんが噛まれたりむしられたりしたのは、そんな名前をつけようとしたからでは?と思わないでもない。
「じゃあ、お先に」
牧野先輩はそう言うと、水野さんから手綱を受け取った。音羽号は「あれ? あいつ乗らないの?」という顔つきで、私と先輩を交互に見つめる。
「意外と表情が豊かなんですね」
「そうだろ? 悪だくみしている時は特にね」
「え、それって手荒い歓迎ってやつですか?」
今の音羽号は、そういう顔つきをしているということなんだろうか?
「牧野におどされた? 馬越さんが乗る時は、俺が手綱をつかんでおとなしくさせるから心配ないよ」
「それを聞いて安心しました。でも、そういうのがあるのは事実なんですか?」
「あるよ。だって俺、初っぱなから噛まれたわけだし」
「あー……」
そうでしたと首を縦にふる。
「今いる連中は俺達がおとなしくさせるから問題ないけど、明日くる新参者に関してはその限りじゃない。牧野もいるし大丈夫だとは思うけど、馬になめられないようにね。最初が肝心だから」
「でも、やる時はやるんですよね?」
そう言いながら、馬場の中を周回している馬たちに指を向けた。
「まあねー。ただどうかな。音羽号以外の馬は、馬越さんには手荒い歓迎ってやつはしないと思うけど」
「その根拠は?」
「馬たちの様子を見ての、先輩騎馬隊員としてのカン、かな」
「けど音羽号は違うと」
「だから俺がおとなしくさせます」
私達の前を、先輩を乗せた音羽号が悠々と横切っていく。ギロリとその目がこっちを見た。私はあえて、その視線に気がつかなかったふりをする。
「なんか、もうケンカふっかけられてるんですけど」
ヒソヒソと横にいる水野さんにささやいたが、本人は呑気な顔をして笑うばかり。笑い事じゃないと思うんだけどな、あの目つき。
「ところで、牧野先輩、すごく姿勢が良いですね」
「あいつ、白バイ時代はマラソンの先導役をつとめたぐらいだからね。安定した姿勢を保つのがすごくうまいんだよ。運転技術も高かったし、隊としては手放したくなかったろうなあ」
「先輩、もう白バイには乗らないんですか?」
「どうかな。たまにあっちの訓練には参加しているらしいけど。あ、心配ないよ。少なくとも馬越さんが一人前になるまでは、ここにいるだろうから」
周回していくうちに、歩くスピードが速くなった。いわゆる速歩というやつだ。
「ほーん……」
水野さんが変な声をあげた。
「なんですか?」
「あいつ、音羽の悪だくみに気づいたみたいだな。先に発散させて、馬越さんが乗る時はおとなしくさせる魂胆か」
「え、水野さんが手綱をとるから、大丈夫なんなじゃないんですか?」
「そうだけど、今日は午前中の訓練がなかったからね。馬たちはそれなりに、フラストレーションをためこんでる。そういう時って普段はおとなしい馬でも、指示に従わなかったり落ち着きがないことが増えるんだ」
そう言えば先輩も、今日の午前は騎乗訓練がなかったと言っていたっけ。
「それをみこして牧野は、さらに保険をかけることにしたわけだ。ちゃんと先輩してるじゃないか、あいつ。かんしんかんしん」
その場を離れた水野さんは、踏み台を持って戻ってきた。
「一応、これね。乗り方を正しく覚える時には、これがあったほうが指導しやすいから。馬に乗ったことは?」
「あります。騎馬隊を目指そうって決めた時に、ここの近所にある乗馬クラブに短期入会してました」
「だったら話は早いね。ちゃんと馬越さんが覚えているか、確かめてみよう」
しばらくして、先輩と音羽号が私達の前に戻ってきた。
「水野さん、思うんですが馬越さんの騎乗訓練、音羽じゃないほうが良くないですか? こいつ、なにか良くないこと考えてそうだし」
「いやいや。いまさら馬越さんを乗せなかったら、逆にすねちゃって大変だから」
「大変なのは水野さんだけですよね」
「そこ、重要だろ?」
先輩がひらりと降りる。
「さて、じゃあやってみようか、馬越さん」
「はい!」
水野さんが踏み台の横に音羽号を立たせた。
「……私のこと、にらんでますよ」
「誰だ、こいつって思ってるんだよ」
「さて音羽君や。おとなしくしないと、行儀の悪いやつが騎馬隊にいるって、馬越さんにあきれられちゃうぞ?」
水野さんは音羽号の鼻面をなでながら話しかけ、口元近くの手綱をしっかりとつかんだ。音羽号はそんな水野さんの様子に、不満げに鼻を鳴らし足踏みをする。
「じゃ、馬越さん、乗ってみようか」
「はい!」
手綱を持ち、鞍の前橋に手を置く。そして鐙に足をかけた。
「足は馬の体に平行になるようにね。乗る時につま先で、馬のお腹を蹴らないように」
「はい」
足元に気をつけつつ、鞍に手をやって体を持ち上げる。そして鞍の上に落ち着いた。
「うん。乗り方はちゃんとしてるね。姿勢も問題ない。事前に乗馬クラブに通うのは、基本を覚える上では良いことかもしれないね」
「ちゃんと真ん中に乗れてますか? 初めての鞍なのでイマイチ中心ポイントが分からなくて」
先輩が前に立ち、そこからぐるりと馬のまわりを一周して、再び前に戻ってくる。
「もうちょっとこっちかな」
手を右のほうへ動かした。それに合わせてお尻を鞍から浮かせて動く。体を動かしてから納得。今の位置のほうがさっきよりずっと安定している。
「どうです?」
「うん、そんな感じ。馬越さんのほうはどう? 安定してる?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、歩かせる前に準備運動ね。両肩を軽く上げ下げして」
「?」
どうしてそんなことを?と思いつつ、先輩がやっているのと同じように、両肩を上げ下げした。
「OK。少しは力が抜けたかな? 体の力は極力抜いて、リラックスして乗るように。あ、ダラけて乗ってかまわないと言ってるわけじゃないよ。それと足は、ふんわりとお馬さんのお腹を包むようにね」
「お馬さん」
その言い方に思わず笑ってしまう。
「馬好きの馬越さんだから、こういう言い方のほうがふさわしい気がしました。じゃあ水野さん、よろしくお願いします」
「任されました。じゃあ行くよ」
水野さんに引かれて音羽号が歩き出した。歩調に合わせて体が揺れる。
「どう? 馬上から見た風景は。乗馬クラブに通っていたのなら、初めての光景じゃないだろうけど」
「なんていうか、週末の風景じゃなくて、これが自分の仕事の風景なんだって思うと、格別な気持ちですね。それに……」
手をのばしてタテガミをなでつけた。
「やっぱり可愛いです、お馬さん」
「音羽、お前、可愛いってさ」
音羽号は軽く頭をふり、ブルルルッと鼻を鳴らす。
「照れてる照れてる」
「あ、馬越さん、次はうちの子に乗ってみないか? こいつも新しく来た隊員を乗せたそうにしてるんだ」
すれ違いざま、他の先輩隊員に声をかけられた。
「え、良いんですか? 水野さん、かまいませんか?」
水野さんはニコニコしながらこっちを見上げる。
「良いもなにも。どの馬にでも乗れるようにしておくのは良いことだよ。馬たちもその気みたいだし、今日はあいさつ代わりに、他の馬たちに乗せてもらうと良い」
「手荒い歓迎は大丈夫でしょうか?」
「音羽がおとなしくする気になったんだ、他の子達は大丈夫だと思うよ」
つまり、音羽号が一番のヤンチャ者ってことのようだ。
「皆さんに挨拶をする前に厩舎に行って、馬を紹介してくれた隊長には感謝しないと」
「ああ、そのせいもあるのかも。馬は賢いからね。隊長がつれてきたのが騎馬隊の新人だって、わかったんだろう」
そんなわけで、私はそれぞれのお馬さんに乗せてもらうことになった。初日からこれだけの時間、馬に乗るのは初めてのことだったと思う。そのせいもあってか、翌日はかなりの筋肉痛に悩まされることになったけど。
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