こちら京都府警騎馬隊本部~私達が乗るのはお馬さんです

鏡野ゆう

文字の大きさ
31 / 40
小話

第三十一話 都市伝説★京都人とは

しおりを挟む
「いま気がついたんですけど」

 昼休み、ご飯を食べ終えお茶を飲みながら、各自でまったりしている全員を見回す。

「もしかして私以外、皆さん、京都の人だったり?」
「どうかな」

 先輩が首をかしげた。

牧野まきのはたしか実家は下京しもぎょうだよな。ってことは正真正銘しょうしんしょうめいの京都の人間か。ちなみに俺は右京うきょう区民」

 水野みずのさんが言う。

「私は木津川市きづがわしだから府民ね」
「私は城陽市じょうようしだから同じく府民~」

 戸田とださんと井上いのうえさんが続けた。

「俺はきた区民だ。つか水野、右京区は最近広がりすぎだぞ。そっちのせいで北区が頭を抑えられてる。せま苦しいんだよ」
「そんなこと言われても。そもそも早いもん勝ちでしょ、そこは」
「二人とも、そこは陣地取り合戦じゃないんだからさあ……あ、俺は大山崎おおやまざきだから府民ね」

 久世くぜさんと水野さんの言い合いの仲裁に入った脇坂わきさかさんが笑う。

「てことは、全員が京都の人と」
「違う違う。京都の人と認められるのは牧野だけだよ」
「え? でも、水野さんも久世さんも市内住みなんですよね? それに他の人も府内在住なら、全員京都の人で正解では?」

 先輩以外の全員がチチチッと人差し指をふった。

「知らない? 古くから京都に住む人間が京都と認めるのは、京都市内の中心部の区、上京かみぎょう中京なかぎょう下京しもぎょうだけなんだよ。つまり、ここで京都の人間と認められるのは、牧野だけってことになる。あ、隊長も中京なかぎょう住まいだからそうか」
「隊長のほうがバリバリ京都っ子じゃね? 御所南に住んでるぼんって話を聞いたことがある」

 水野さんと脇坂さんが真面目な顔をして言う。

「あの、それってテレビで大袈裟おおげさに言われてる、都市伝説ですよね?」

 もしかして私はからかわれている?と首をかしげた。

「そりゃまあ、俺だって市民税を払ってるんだから、間違いなく京都市民だけどさ」
「都市伝説なんですよね?」
「まあ、そういう古い考えみたいなものも存在するってやつかな」

 つまり、完全な伝説ではないらしい。

「そうなると、私はどうなるんですかね」
馬越まごしさんは東京出身で、こっちは大学からだよね?」
「そうですけど」

 水野さんは、ふむと考えこんだ。

「たった四年とちょっと住んだだけじゃ、とても京都の人とは言えないね。少なくとも、三代ぐらい続けて京都で暮らさないと」
「私は京都の人にはなれそうにないですね」

 つまるところ、私が京都に住んだとしても京都の人間として認められるのは、私の孫の代からということらしい。

「馬越さん、東京ってことは江戸っ子?」
「あ、はい。それこそ三代以上前から、今の場所に住んでいるらしいです」

 大きな地震や空襲があった中で、長く同じ場所に住み続けられるというのは凄いことだ。その点ではお爺ちゃんやお婆ちゃんを尊敬する。

「京都の都市伝説もだけど、江戸っ子の『宵越しの金は持たないって』本当?」

 戸田さんが興味深げに質問をしてきた。

「んなわけないですよ。うちのひいおばあちゃんは、超がつくほどのドケチだったって、お爺ちゃんが言ってました。ひいおじいちゃんが生活費を使い込んだって聞いて、激怒して家から蹴り出したらしいです。あ、もしかしてひいおじいちゃんは、宵越しの金は持たないタイプだったのかな」

 一体どうしてそんなことになったのか、あまり詳しく聞いた記憶がない。帰省したら話を詳しく聞かせてもらおう。

「なかなか女傑じょけつなひいおばあちゃんだね。その血を馬越さんはしっかり受け継いでいるわけだ」
「どうでしょう。そこまでケチってわけじゃないですけど、私」
「んー? どこかで聞いたことがあるような話だよな。旦那を蹴り出したって話」

 脇坂さんが首をかしげ、なぜか先輩が目を泳がせた。

「あ、牧野のおふくろさんの武勇伝だ」
「もうそれ、忘れてくれませんかね」

 先輩がぼそっとつぶやく。

「先輩のお母さんも、同じようなことをしたんですか?」
「んー……原因は違うけど、似たようなことはしたかも」
「うわー、ちょっと聞きたいですね、その話」
「いやあ……聞いてもあまり面白くないと思うよ?」
「そうなんですか?」

 水野さんと久世さんが、こっちを見てニヤニヤしている。先輩はあまり話したくないらしい。でも正直いって、ものすごく興味がある。なんとか聞き出せないだろうか?

「まあ、あれだ。聞きたかったら牧野のお袋さんに直接聞いたらいいよ」
「ちょっと水野さん」

 先輩の顔がギョッとしたものになった。

「そうそう。こいつの実家、小料理屋をしているんだ。話を聞くついでに、京都のおばんざいの味を楽しんでおいでよ。売り上げ貢献も兼ねてさ」
「勝手になに話してるんですか、脇坂さん」
「先輩のご実家、料理屋さんなんですか?!」
「ほら、馬越さん、もう行く気満々だし。ここでダメって言ったら、向こう半月ぐらいは口をきいてもらえなくなるぞ?」
「半月なんて甘いですよ。つれていってくれるまで、口ききません」

 小料理屋さん、しかもおばんざい!

「脇坂さん達は行ったことあるんですか?」
「あるある。最近は御無沙汰ごぶさただな。久しぶりにおふくろさんの料理、食べたくなったぞ」
「来なくていいですよ……」

 先輩がさらにボソッとつぶやく。

「なんだよ。商売っけがないな、牧野」
「次の年次休暇まで帰る予定はないですよ、俺。付き合いませんからね」
「市内なのに? そんなに顔を見せないんですか? めちゃくちゃ親不孝ですね、先輩~」
「「「だよね~~」」」

 全員の声がはもった。

「まあ俺達はともかく、馬越さんはつれていってやれよ。せっかくの東西異文化交流だからさ」
「異文化……」
「私にとって京都の文化は間違いなく異文化ですね。だからおばんざい、気になります!」

 先輩は大きなため息をついた。

「次の休み、引退した比叡ひえいの様子を見に行くんだ。その後なら時間あるけど?」
「お馬さんプラスおばんざい!」
「その顔、断る気なんてなさそうだね」
「もちろんです! あ。ここは断るべきですか?」
「いや、別にかまわないんだけどさ」

 そんなわけで次の休みの予定が決まった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-

設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt 夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや 出張に行くようになって……あまりいい気はしないから やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀ 気にし過ぎだと一笑に伏された。 それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない 言わんこっちゃないという結果になっていて 私は逃走したよ……。 あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン? ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 初回公開日時 2019.01.25 22:29 初回完結日時 2019.08.16 21:21 再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結 ❦イラストは有償画像になります。 2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載

白衣の下 第一章 悪魔的破天荒な医者と超真面目な女子大生の愛情物語り。先生無茶振りはやめてください‼️

高野マキ
ライト文芸
弟の主治医と女子大生の甘くて切ない愛情物語り。こんなに溺愛する相手にめぐり会う事は二度と無い。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

処理中です...