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番外編
番外編 第七話
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「……で、なんでまだあいつがいたんだ?」
内部処分が下った戸川さん……どうしても弟という感じがしなくこう呼んでるんだけど、彼が北海道へと赴任したと聞いて二週間、診察室に隣接している私の仕事部屋に顔を出した信吾さんが、不機嫌そうにつぶやいた。
不機嫌な理由はさっきまで診察室に来ていた加藤さん。
「なんでって、心療内科に患者さんとして来ているんだから、追い出すわけにもいかないでしょ?」
「あれの何処がここに来る必要がある患者なんだ、ずっとヘラヘラしてたじゃないか」
加藤さんは仕事部屋に背中を向けて座っていたから、足音も立てずに部屋に入ってきた信吾さんには気がつかなかったみたいだけれど、信吾さんのほうはそんな加藤さんの様子をジッと観察していたらしい。
「んー……心の病気って風邪気味から重篤まで色々とあるからね、元気そうだからって心も元気って言えないのよ?」
「風邪から重篤まであるなら、当然、仮病もあるんだろうな」
「まあ、それはあるかもしれない……っていうか、信吾さん勝手に仕事部屋に入っちゃ駄目だよ、あそこには患者さんのカルテも置いてあるんだから」
患者さんのプライバシーの問題だよ? 私、事務長に叱られちゃうよ。
「廊下で山口先生に会ったから、一応は断ってはおいたぞ」
「……もう、山口先生ったらいつの間に信吾さんと仲良しになったんだか」
「男同士だからな、色々とあるんだよ」
「なによ、それぇ。だったら同じ男同士で加藤さんとも仲良くできるでしょ? 今回のことではお世話になったんだから」
「それとこれとは別の話だ。山口先生は奈緒に色目を使ったりしないからな。だがあの加藤は駄目だ」
駄目だって断定してるし。
「もう、ワガママなんだから」
「自分の嫁に色目を使われて何とも思わん男が、何処の世界にいるんだ」
そう言うと不機嫌そうな顔をしたまま、私のことを膝に乗せて自分の方へと向かせた。もしもし信吾さん、ここ職場ですよー? 貴方は珍しく平日の休暇かもしれないけれど、私は午後から予約が入ってるんですよー?ってことじゃなくて、ここは職場なんだってば!!
「吉永さんが帰ってくるから……」
「山口先生から伝えてもらうようにした。一緒に昼飯を食うってな」
「だったら早く行こうよ、お昼はカフェも混んでるから、待ち時間とかあるし」
「食うのは俺、食われるのはお前な」
「え? ちょ、ちょっと待ってっ」
だからここは職場だってばあ!
「あいつにニコニコしていたお仕置きはしておかないとな」
「なんでお仕置きなのよ、患者さんに怖い顔を向けるわけにはいかないじゃない!」
「あれのどこが患者なんだ。どう考えても奈緒目的で来ているだけだろうが」
ブラウスのボタンが外されて鎖骨の辺りをきつく吸われて、それと同時に信吾さんの手がスカートの中に滑り込んできた。こんな時に限ってフレアスカートをはいてきちゃって、タイミングの悪さに愕然としちゃうよ……。
「駄目だったら、信吾さん、こんな所で!」
「どうして? せっかく山口先生も吉永さんも気を遣ってくれているのに」
絶対に違うっ! 山口先生も吉永さんも、信吾さんが考えているような意味で気を遣ってくれたんじゃないから、それ絶対に違うから!
「どうしてって、ここ職場だしっ! それに用心するもの無いでしょっ」
「あるぞ」
「へ?」
悪戯っぽい顔をして私を見つめる信吾さん。
「こっち側のケツのポケット、探ってみろ」
「……」
「ほら、探ってみろって」
言われるがまま左側のお尻のポケットに手を伸ばしてみると、何かが指先に触れた。引っ張り出してみればそれは……。
「……クマちゃんの絵柄だ」
な、なんでクマちゃん柄の避妊具? これって信吾さんが買ったの?
「ドラッグストアの店長が試供品をくれたんだ。たまには可愛いので頑張ってみればだとさ。可愛いのはパッケージだけでつけちまえば同じなのにな。あ、色はピンクとか言ってたか。それも見えないから関係ないよな」
「……まさか信吾さんがクマちゃん持ってくるなんて」
「ちなみにドラッグストアに行ったのは、別のモノを買いに行くためだったんだからな? で、邪魔する奴はいないし、用心するものもそろったことだし続けようか」
続けようかじゃなくて。そんなにニッコリ笑ってこっちを見ないで欲しいよ。なんだか、肉食獣に睨まれるより何倍も怖い気がするのはどうして?
「ほ、ほんとにするつもりなの?」
「まさかこれを取り出したのに、冗談だと思ったのか?」
「だって、だってここ、職場なんだもん。信吾さんだって自分の職場でそんなことしないでしょ?」
「俺は自分の執務室が与えられているからな。意外と好き放題できると思うぞ。ここより座り心地の良いソファも置いてあるし、一度、遊びに来てみるか?」
ちがーう、そんなこと言いたいんじゃなーいっ!!
「さあ、お喋りはここまでだ。限られた時間しかないんだからな」
「時間が無いならしなくてもいいのにぃ」
「黙れ」
そんな時に白衣のポケットに入っている携帯が鳴った。
「……電話でなきゃ」
「無視しろ」
「……この着メロ、誰がかかってきたか分かってるよね?」
そう、有名なゲームのオープニングテーマ。これは間違いなくみゅうさんだ。
「出ないと信吾さん、きっと酷い目に遭うよ?」
「くそっ」
悪態をつきながらも私を自分の横におろしてくれたので、携帯に出た。
「もしもーし」
『なおっち、出るのが遅いぞ? もしかして旦那がそこにいて、いけないことでもしてた?』
「相変わらずの千里眼で怖いですよ、みゅうさん。いけないことはしてないけど、信吾さんはいますよ?」
『あら、じゃあ邪魔しちゃったのね、ゴメンっておじさんに謝っておいて』
相変わらずのみゅうさんの言葉に、思わず笑っちゃった。信吾さんは横でしかめっ面しているけど。
「もしかして今、成田ですか?」
『ええ。ちょっと延長しちゃったけど今、ロンドンから戻ったところ』
ん?と首をかしげた。あれ? 門田さんとみゅうさんの新婚旅行の行き先って、ニューヨークじゃなかったっけ? 行きたいところがたくさんあるから、行ったことのある門田さんにガイドさせるんだーって言ってたよね?
「みゅうさん、いつのまに大西洋を渡ったの? 行き先はニューヨークでしたよね?」
『もちろん、なおっちにはニューヨークのお土産はあるわよ。ロンドンはね、ちょっと旦那の野暮用があって足を伸ばしたの。海外慣れしているのが相方だと、何かと便利だってことが良く分かったわ』
電話の向こうで、何やらみゅうさんに話しかけている声。きっと門田さんだ。
『旦那がね、なおっちの旦那と会いたいって言ってるんだけど、明日は仕事かって』
「ちょっと待ってくださいね。信吾さん、門田さんが明日は仕事かって」
「ああ。明日は一日あっちにいる」
「聞こえました?」
『明日は仕事ね。……会いに行くから待ってろですってよ。なおっちはいつも通りのシフト?』
「そんな感じです」
『じゃあ、お土産は週明けそっちに渡しに行くから、おチビちゃん達も含めてランチしましょ』
「はい、是非に」
みゅうさんって、意外と子供好きって言うか子供を従えるのが上手って言うか。小さい頃から友里と渉を連れていっても、すぐに大人しくさせてしまうという特技を持っているんだよね。お陰で私は楽をさせてもらっているんだけれど。
『じゃ、そういうことで。遠慮なく続きをしてちょうだい』
「続きって……」
電話を切ってから信吾さんを見た。
「みゅうさん、続きをどうぞって」
「まったく何てタイミングだよ。嫌がらせか?」
「かも」
信吾さんは溜め息をつくと、私を抱きしめてキスをしてきた。今はこれで我慢ってことらしい。
「続きは家で、だな。今日は三時までなんだろ?」
「うん、そう」
「チビ共は俺が連れて帰ったほうが良いか?」
「ううん。今日はお昼からお誕生日会をするんだって。だから私が連れて帰るよ」
「分かった」
そんなこんなしているうちに、お昼休みの時間が終わろうとしている事に気がついた。あー……食べ損ねちゃったよ、お昼ご飯。ガッカリしている私に、信吾さんがカロリー某の黄色い箱を投げてよこしてくれた。診察が終わる三時まで、これでしのげということらしい。もう、酷いよ、ちゃんとお米食べたいですー!!
「今日は特作嫁の会直伝のカレーを作っておいてやるから、帰るまではそれで我慢しろ」
「ひっどーい、ここで私が飢え死にしらた、信吾さんのせいだからねっ」
「なに言ってるんだ、うちの外地訓練時の携帯食に比べたらご馳走だろ?」
世間一般の通販で手に入る自衛隊飯は美味しいものが多いけど、信吾さん達が外地訓練、つまりはアメリカ本土で行われる米軍との合同訓練なんだけど、そこで携帯する食事というのはこういうものが多いらしい。一度試食させてもらったことがあるけど、確かにアレはモサモサしていて美味しくなかったな。元々は米軍支給のモノらしいんだけどね。陸自では何とか美味しく出来ないものかと、某外食企業と合同で研究中らしいとか。
「私は携帯食なんて食べたくないです、おにぎり食べたい」
「……」
「おにぎり。出来たら院内コンビニで売っている辛子明太子おにぎりが良いなー」
「……」
「信吾さん、聞いてる?」
「……分かった」
「明太子じゃないよ、辛子明太子だからね?」
「分かったよ、買ってくる。その代わり、その辛子明太子おにぎりは高くつくからな」
ん? 部屋を出る時、信吾さんが笑いながら言った言葉に何か引っかかりを感じたんだけど……ま、いっか。信吾さんが戻ってくるまでに、次の患者さんのカルテでも読んでよう。
信吾さんが買ってきてくれた辛子明太子のおにぎりが、どれくらいお高くついたのか? それはまた別のお話ね。
内部処分が下った戸川さん……どうしても弟という感じがしなくこう呼んでるんだけど、彼が北海道へと赴任したと聞いて二週間、診察室に隣接している私の仕事部屋に顔を出した信吾さんが、不機嫌そうにつぶやいた。
不機嫌な理由はさっきまで診察室に来ていた加藤さん。
「なんでって、心療内科に患者さんとして来ているんだから、追い出すわけにもいかないでしょ?」
「あれの何処がここに来る必要がある患者なんだ、ずっとヘラヘラしてたじゃないか」
加藤さんは仕事部屋に背中を向けて座っていたから、足音も立てずに部屋に入ってきた信吾さんには気がつかなかったみたいだけれど、信吾さんのほうはそんな加藤さんの様子をジッと観察していたらしい。
「んー……心の病気って風邪気味から重篤まで色々とあるからね、元気そうだからって心も元気って言えないのよ?」
「風邪から重篤まであるなら、当然、仮病もあるんだろうな」
「まあ、それはあるかもしれない……っていうか、信吾さん勝手に仕事部屋に入っちゃ駄目だよ、あそこには患者さんのカルテも置いてあるんだから」
患者さんのプライバシーの問題だよ? 私、事務長に叱られちゃうよ。
「廊下で山口先生に会ったから、一応は断ってはおいたぞ」
「……もう、山口先生ったらいつの間に信吾さんと仲良しになったんだか」
「男同士だからな、色々とあるんだよ」
「なによ、それぇ。だったら同じ男同士で加藤さんとも仲良くできるでしょ? 今回のことではお世話になったんだから」
「それとこれとは別の話だ。山口先生は奈緒に色目を使ったりしないからな。だがあの加藤は駄目だ」
駄目だって断定してるし。
「もう、ワガママなんだから」
「自分の嫁に色目を使われて何とも思わん男が、何処の世界にいるんだ」
そう言うと不機嫌そうな顔をしたまま、私のことを膝に乗せて自分の方へと向かせた。もしもし信吾さん、ここ職場ですよー? 貴方は珍しく平日の休暇かもしれないけれど、私は午後から予約が入ってるんですよー?ってことじゃなくて、ここは職場なんだってば!!
「吉永さんが帰ってくるから……」
「山口先生から伝えてもらうようにした。一緒に昼飯を食うってな」
「だったら早く行こうよ、お昼はカフェも混んでるから、待ち時間とかあるし」
「食うのは俺、食われるのはお前な」
「え? ちょ、ちょっと待ってっ」
だからここは職場だってばあ!
「あいつにニコニコしていたお仕置きはしておかないとな」
「なんでお仕置きなのよ、患者さんに怖い顔を向けるわけにはいかないじゃない!」
「あれのどこが患者なんだ。どう考えても奈緒目的で来ているだけだろうが」
ブラウスのボタンが外されて鎖骨の辺りをきつく吸われて、それと同時に信吾さんの手がスカートの中に滑り込んできた。こんな時に限ってフレアスカートをはいてきちゃって、タイミングの悪さに愕然としちゃうよ……。
「駄目だったら、信吾さん、こんな所で!」
「どうして? せっかく山口先生も吉永さんも気を遣ってくれているのに」
絶対に違うっ! 山口先生も吉永さんも、信吾さんが考えているような意味で気を遣ってくれたんじゃないから、それ絶対に違うから!
「どうしてって、ここ職場だしっ! それに用心するもの無いでしょっ」
「あるぞ」
「へ?」
悪戯っぽい顔をして私を見つめる信吾さん。
「こっち側のケツのポケット、探ってみろ」
「……」
「ほら、探ってみろって」
言われるがまま左側のお尻のポケットに手を伸ばしてみると、何かが指先に触れた。引っ張り出してみればそれは……。
「……クマちゃんの絵柄だ」
な、なんでクマちゃん柄の避妊具? これって信吾さんが買ったの?
「ドラッグストアの店長が試供品をくれたんだ。たまには可愛いので頑張ってみればだとさ。可愛いのはパッケージだけでつけちまえば同じなのにな。あ、色はピンクとか言ってたか。それも見えないから関係ないよな」
「……まさか信吾さんがクマちゃん持ってくるなんて」
「ちなみにドラッグストアに行ったのは、別のモノを買いに行くためだったんだからな? で、邪魔する奴はいないし、用心するものもそろったことだし続けようか」
続けようかじゃなくて。そんなにニッコリ笑ってこっちを見ないで欲しいよ。なんだか、肉食獣に睨まれるより何倍も怖い気がするのはどうして?
「ほ、ほんとにするつもりなの?」
「まさかこれを取り出したのに、冗談だと思ったのか?」
「だって、だってここ、職場なんだもん。信吾さんだって自分の職場でそんなことしないでしょ?」
「俺は自分の執務室が与えられているからな。意外と好き放題できると思うぞ。ここより座り心地の良いソファも置いてあるし、一度、遊びに来てみるか?」
ちがーう、そんなこと言いたいんじゃなーいっ!!
「さあ、お喋りはここまでだ。限られた時間しかないんだからな」
「時間が無いならしなくてもいいのにぃ」
「黙れ」
そんな時に白衣のポケットに入っている携帯が鳴った。
「……電話でなきゃ」
「無視しろ」
「……この着メロ、誰がかかってきたか分かってるよね?」
そう、有名なゲームのオープニングテーマ。これは間違いなくみゅうさんだ。
「出ないと信吾さん、きっと酷い目に遭うよ?」
「くそっ」
悪態をつきながらも私を自分の横におろしてくれたので、携帯に出た。
「もしもーし」
『なおっち、出るのが遅いぞ? もしかして旦那がそこにいて、いけないことでもしてた?』
「相変わらずの千里眼で怖いですよ、みゅうさん。いけないことはしてないけど、信吾さんはいますよ?」
『あら、じゃあ邪魔しちゃったのね、ゴメンっておじさんに謝っておいて』
相変わらずのみゅうさんの言葉に、思わず笑っちゃった。信吾さんは横でしかめっ面しているけど。
「もしかして今、成田ですか?」
『ええ。ちょっと延長しちゃったけど今、ロンドンから戻ったところ』
ん?と首をかしげた。あれ? 門田さんとみゅうさんの新婚旅行の行き先って、ニューヨークじゃなかったっけ? 行きたいところがたくさんあるから、行ったことのある門田さんにガイドさせるんだーって言ってたよね?
「みゅうさん、いつのまに大西洋を渡ったの? 行き先はニューヨークでしたよね?」
『もちろん、なおっちにはニューヨークのお土産はあるわよ。ロンドンはね、ちょっと旦那の野暮用があって足を伸ばしたの。海外慣れしているのが相方だと、何かと便利だってことが良く分かったわ』
電話の向こうで、何やらみゅうさんに話しかけている声。きっと門田さんだ。
『旦那がね、なおっちの旦那と会いたいって言ってるんだけど、明日は仕事かって』
「ちょっと待ってくださいね。信吾さん、門田さんが明日は仕事かって」
「ああ。明日は一日あっちにいる」
「聞こえました?」
『明日は仕事ね。……会いに行くから待ってろですってよ。なおっちはいつも通りのシフト?』
「そんな感じです」
『じゃあ、お土産は週明けそっちに渡しに行くから、おチビちゃん達も含めてランチしましょ』
「はい、是非に」
みゅうさんって、意外と子供好きって言うか子供を従えるのが上手って言うか。小さい頃から友里と渉を連れていっても、すぐに大人しくさせてしまうという特技を持っているんだよね。お陰で私は楽をさせてもらっているんだけれど。
『じゃ、そういうことで。遠慮なく続きをしてちょうだい』
「続きって……」
電話を切ってから信吾さんを見た。
「みゅうさん、続きをどうぞって」
「まったく何てタイミングだよ。嫌がらせか?」
「かも」
信吾さんは溜め息をつくと、私を抱きしめてキスをしてきた。今はこれで我慢ってことらしい。
「続きは家で、だな。今日は三時までなんだろ?」
「うん、そう」
「チビ共は俺が連れて帰ったほうが良いか?」
「ううん。今日はお昼からお誕生日会をするんだって。だから私が連れて帰るよ」
「分かった」
そんなこんなしているうちに、お昼休みの時間が終わろうとしている事に気がついた。あー……食べ損ねちゃったよ、お昼ご飯。ガッカリしている私に、信吾さんがカロリー某の黄色い箱を投げてよこしてくれた。診察が終わる三時まで、これでしのげということらしい。もう、酷いよ、ちゃんとお米食べたいですー!!
「今日は特作嫁の会直伝のカレーを作っておいてやるから、帰るまではそれで我慢しろ」
「ひっどーい、ここで私が飢え死にしらた、信吾さんのせいだからねっ」
「なに言ってるんだ、うちの外地訓練時の携帯食に比べたらご馳走だろ?」
世間一般の通販で手に入る自衛隊飯は美味しいものが多いけど、信吾さん達が外地訓練、つまりはアメリカ本土で行われる米軍との合同訓練なんだけど、そこで携帯する食事というのはこういうものが多いらしい。一度試食させてもらったことがあるけど、確かにアレはモサモサしていて美味しくなかったな。元々は米軍支給のモノらしいんだけどね。陸自では何とか美味しく出来ないものかと、某外食企業と合同で研究中らしいとか。
「私は携帯食なんて食べたくないです、おにぎり食べたい」
「……」
「おにぎり。出来たら院内コンビニで売っている辛子明太子おにぎりが良いなー」
「……」
「信吾さん、聞いてる?」
「……分かった」
「明太子じゃないよ、辛子明太子だからね?」
「分かったよ、買ってくる。その代わり、その辛子明太子おにぎりは高くつくからな」
ん? 部屋を出る時、信吾さんが笑いながら言った言葉に何か引っかかりを感じたんだけど……ま、いっか。信吾さんが戻ってくるまでに、次の患者さんのカルテでも読んでよう。
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