恋と愛とで抱きしめて

鏡野ゆう

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番外小話 1

初めてのお正月 〇〇始め

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 二人で初めての新年を迎えてから十日ほど経ったある日のこと。

「ねえ信吾さん、信吾さん達もこれに参加したの?」

 そう言いながらテレビでやってるニュース映像を指でさしながら尋ねた。

 そこでは、今日の昼間に陸上自衛隊のどこかの駐屯地で降下訓練始めがありましたっていうニュース映像が流れている。これは年の初めにやる消防士さん達の出初式みたいなもので海上自衛隊や航空自衛隊でもそれぞれ内容は違うけどやってることらしい。飛行機からパラシュートで飛び降りたりバイクで走り回ったり結構色々なことをしていて、まさに私が最初にイメージしていた自衛隊の人達がしていることそのものな感じ。

「俺達が身内にも顔を見せないようにしているってのは知ってるよな?」

 そう言えばそんなこと言ってたっけ。確か式典に参加しても顔を隠しているとかいないとか。

「ってことはこれには不参加だったの?」

 何だガッカリ。もしかして安住さん達が映ってるかなって期待しながら頑張って隊員さん達の顔を見ていたのに。

「観閲式や総火演ほどではないにしろ色んな部隊が集まってくるから少しばかり正体不明の隊員が紛れ込んでいても分からないだろうけどな」

 むむっ、信吾さんが何やら意味深なことを言ってる?!

「え、それってどういうこと? もしかしてこっそり参加してたの?」
「さあ? 少なくとも俺はしてないぞ。俺は一佐に着いて訓練の見物をしていただけだ」
「えっと信吾さんはもう顔出しオッケーなの?」
「いいや。顔出しOKなのは群長の篠原一佐だけだ」

 大っぴらにマスコミとかの前に出たりはしないけど、偉くなってくると名前が出ちゃうから顔を隠しても無意味なんだって。だから群長の篠原一佐さんは顔を隠すことはしないらしい。ちなみにそこそこ偉くなった信吾さんクラスの人達以外は身内の前にも滅多に姿を現わさないんだとか。

 で、安住さん達はシレッと普通の隊員さんの振りして参加していたの?って尋ねたんだけどその辺はニヤニヤするだけで教えてもらえなかった。見た感じだと迷彩色で顔を塗った人やらゴーグルをつけた人ばかりだからこの中に紛れ込んじゃったら誰が誰だか分からないかも。それはそれで保安上どうなの?って感じがしないでもないけどさ。

 知った顔が無いか探すのを諦めて続きを見ていると年配のオジサマが迷彩服を着てヘルメットをかぶって建物の上に立っている。ロープで体をつないで何か叫ぶと、ワッ、飛び降りたよ! バンジージャンプみたいにプラプラしているオジサマの映像を見ながら何処かで見た顔だなって思っていたら何と今の防衛大臣をしている議員さんだった。降下訓練始めと言うだけのことはあって自衛隊の人だけじゃなく議員さんまで飛び降りちゃうのか、すっごーい!

「大臣さんまで高いところから飛び降りるなんて……大変だね、防衛大臣になったらこんなことまでしなきゃいけないなんて」

 私が感心していると信吾さんがプッと噴き出した。

「いや、普通はしない……この人が元自衛官だから飛んでるだけで……っ」
「信吾さん、そんなに笑うことないじゃない!」

 そりゃ私がこの手のことに関しては無知だっていうのは否めないけどそんなにゲラゲラ笑うことないじゃない!! 真剣に心配したんだからね、もし重光先生が大臣になったらこんなことしなきゃいけないのかなって!

「重光さんなら問題ないと思うけどな。あの人、元国体選手なだけあって運動神経は良さそうだし」
「そういう問題?」

 それに重光先生は元国体選手とは言えまったく畑違いの水泳選手だったんでしょ? 飛び込みは上手かもしれないけどこれはちょっと無理だと思うんだけどな……。

「……ところで奈緒」

 ゲラゲラ笑いが一段落したところで信吾さんが何かを思い出したように言い出した。

「なによぅ」

 あまりの笑われようにちょっとムカついている私のことを抱き寄せながら信吾さんがこっちを見下ろしてきた。むむむ、口元がまだニヤニヤしてるよ!!

「年越ししてから今日までお預けになっていたものはちゃんと貰えるんだろうな?」
「お預け?」

 思ってもみなかった言葉に首を傾げた。お正月からのお預け? 何か渡す約束してたっけ? あ、もしかして甲府に新年の挨拶に出向いた時に今までずっと渡せなかったからってお爺ちゃんがくれたお年玉を見て自分も欲しいって思っちゃったとか? 確かにあのお年玉にはびっくりしたものね、まさか一万円札が束になってるものを渡されるとは思ってなかったし。

「そんな紙切れのお年玉じゃなくていい匂いがして柔らかいお年玉」

 そう言いながら私のことを自分の膝に跨らせるようにして座らせると両手で顔を包み込んできた。

「そういう意味のお年玉、なの?」
「ああ、そういう意味のお年玉」

 言われてみれば年末から今日まで甲府や森永先生のところ御挨拶に行ったり重光先生んちの新年会にご招待されたりしていて、結構バタバタ忙しくしていたからゆっくり出来なかったものね。あ、出来なかったっていうのは、信吾さん風に言うところの心行くまでエッチが出来なかったということじゃなくてのんびり過ごせなかったってことだから! 新婚さんなのにって言われるかもしれないけど私は別にエッチできなくても信吾さんと一緒に過ごせたら大満足なんだもの、信吾さん的には大いに異議ありみたいだけどね。

「これってえっと、何て言うのかな、ちょっと遅めの仕事始めじゃなくて……」
「姫始め」
「それそれ。ところでそれってさ、なんで姫なんだろう、殿始めになってもおかしくないのに」

 私がなんとなく浮かんだ疑問を口にすると信吾さんはまたまたプッと噴き出した。え、なんでそこで笑うの? だって我が家なんてどう考えたって信吾さん主導なんだから殿始めでもおかしくないよね? 信吾さんの場合は殿様って言うより俺様って方が似合ってるけどさ。

「そのことに関しては色々と説があるらしいがこれの場合は秘め事の秘めと姫をかけたんだろうな」
「ひめごと」
「昔の人間っていうのは粋な名前を思いつくよな」
「ふーん……」

 ただのエッチしたいだけのエロエロ言葉じゃなくて「秘め事」だなんていうちょっと風流な物言いにかけたものだったのか、一つ賢くなった気分。

「それで? くれるつもりはあるのか?」
「えっとさ、新年早々から腰が痛くてヨロヨロ歩くのは嫌だからね?」

 だって数えてみたところ諸々の理由もあって三週間ほどエッチしてない日が続いているんだもの。こんなに間が空いたのは信吾さんが夏に出張した時以来。つまりはあの時の再来? 助けてクマちゃん……。

「それはくれるってことだな? だったら遠慮なく」

 そう言いながら私のことを引き寄せてキスをする。

 信吾さんのキスに夢中になっていると、セーターの下に大きな手がスルリと滑り込んできてあっという間にブラのホックを外して撫でたり先端を摘まんだりしはじめた。指が先端を撫でるたびに電気が走るような甘い痺れが胸から下腹部へと駆けめぐっちゃってもっと触ってほしくなる。だけどその年の一番最初のエッチがリビングのソファってちょっと考えものじゃない?

「ねえ信吾さん、やっぱり最初はちゃんとベッドでしようよ」

 着ていたセーターがブラの上に落ちたところで信吾さんの両手首を掴んでそう提案する。この家の中で私が信吾さんに抱かれていない場所なんてもうトイレ以外はなさそうだし、ソファでは既に何度もエッチしてるんだから何を今更な感じがしないでもないけどやっぱり最初はベッドだよね。あ、もちろんトイレに関しては信吾さんには言ってないよ、だってそんなことうっかり言って変なスイッチが入ったら洒落にならないもん。

「奥様のお望みのままに」
「あ、セーターとブラ……」
「それは後で」

 どうせ私と信吾さんしかいないんだからリビングにセーターとブラが落ちていても問題ない……と思いたい。たださ、そういう時に限って来客があったりするのよね。ま、夜の十時過ぎに来る来客なんてロクなものじゃないから無視しちゃうけど!
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