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番外小話 4
コグマちゃんがやってくる
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そもそもあの時は避妊をせずに頑張っちゃったけど、信吾さん的には三人目を意識していた訳じゃなかったと思うんだよね。その後は特に何か言ってくることもなかったし、結局は私のことをベッドに縛りつける口実が欲しかったってだけなんだと思う。現に抗議の意味を込めて三匹目のクマちゃんをリビングのクマちゃん用ソファに並べてみたけどぜーんぜん気が付いていないみたいだし。
「ママー、ご飯炊けたー!!」
「もうちょっとそのままにしておいて」
「分かったー」
ドアの前で友里の声がしてキッチンへと戻っていく気配がした。
だいたい生物学的には女性は三十代になると妊娠する確率が下がってくるってのが常識だけど別に妊娠できなくなるって訳じゃない。それと男性に関しても精子が少なくなるからってゼロになる訳でもないし。どちらの点からも確率が低くなるってやつで全くゼロじゃないってこと。それが私の体とのタイミングが合っていたら尚更のことで……まあ、あの時の信吾さんがそこまで考えていたとは思えないけど。実際のところ微妙なタイミングだったし。
「ふむ……」
便座に座りながら目の前の妊娠検査薬のスティックに出た印を眺める。何度見ても陽性だよね、これ。結果が出てから二度見してブンブンと振ったりしてみたけど結果は変わらず。間違いなく陽性だ。
「……信吾さん、びっくりするんじゃないかな」
出会ってから十五年、信吾さんが本気でビックリすることなんて滅多にお目にかかれないからちょっとだけ知らせるのが楽しみになってきた。
「どんな顔するだろ」
あ、だけどもしかして良い顔をしない可能性もあったりする? ほら、信吾さんだってもう五十代だし自分の年齢のことを考えて子供の将来が心配になっちゃうとか? もしかしたら今更子供ができて恥ずかしいとか思っちゃうとか?
「……」
心配することはあっても恥ずかしがるってのは無いような気はするかな。
「それよりも……」
キッチンで賑やかにお喋りをしている子供達のことを考える。パパよりもあの二人の方が大騒ぎになっちゃうんじゃないかな。前からお友達のところに弟か妹が産まれたって話を聞いては自分達も下に弟妹が欲しいなって憧れみたいなものを持っていたみたいだし。
「コグマちゃんてば大変なところに産まれてきちゃうことになるかもしれないねえ……」
まだ気配すら見えない自分のお腹を見下ろしながら呟いた。
「ママー、もう食べていいー?」
「おかず冷めちゃうよー!」
「分かった分かった、ご飯はママの分もお茶碗にいれてくれる?」
そろそろ空腹虫が我慢できなくなってきたのか二人してトイレの前に押し掛けてきた。こういうところの連帯は相変わらず凄いんだよね、そこに三人目が加わるのか。これはなかなか大変な事態かも。トイレから出ると二人がこっちを見た。
「ママ、お腹痛いの?」
「お薬飲む?」
「大丈夫だよー。ちょっと考え事してただけ」
「まーくんパパは朝になると新聞持ってトイレにこもっちゃうってまーくんママに怒られてるんだって」
保育園の頃からのこのおちびちゃん連絡網のせいでまー君ちの内情が駄々漏れなんだけど、これって同様にうちのこともあっちに駄々漏れってことなんだよね。まーくんママと顔を合わせるたびにうちの子があれこれごめんねって言い合ってるぐらいだし。コグマちゃんのこともしばらくは黙っておかないと大変なことになるかもしれない。
+++++
「あのね、信吾さん、ちょっとこっちに来てくれる?」
「なんだ?」
子供達が眠ったのを確かめてから、リビングでテレビを見ていた信吾さんの腕を取ってリモコンでテレビを消してから寝室へと引っ張っていく。
「珍しいな、奈緒から誘ってくるなんて」
「そんなんじゃなくて」
何を勘違いしたのかニヤニヤしながら私のパジャマを脱がせようとする手を払いのけてからドアを閉めた。
「だったらなんなんだ」
「いいから、そこに座って」
そう言ってベッドを指さす。信吾さんは私の仕事モードの口調に渋々と言った感じで従ってベッドに腰を下ろした。だけど座っている態度は殊勝とは程遠い感じで何て言うか偉そう……ふんぞり返って座っている訳でもないのに凄く偉そう……うん、ものっすごく偉そう。
「それで?」
「そのいかにも“聞いてやる”って態度は何とかならない?」
「奥様の話を謹んで聞かせていただきますが?」
「言葉だけじゃなくてえ……」
まあこれが信吾さんなんだから仕方がないんだけどさあ。
「あのね、今月、ちょっと遅れてたんだよ……そのぅ、生理が」
「そうだったか?」
「うん」
そりゃ一緒に寝てるんだから信吾さんも私が生理になった時は分かるとは思うんだけどこういうのって何年経っても言いにくいものだよね。
「でね、ほら、前に避妊しないで頑張っちゃったじゃない? だからもしかしてと思って今日になって検査薬買って調べてみたんだ……信吾さん聞いてる?」
「ああ、聞いてる」
こういう時もうちょっと表情が読めたらって思うんだよね。本当に信吾さんってそういうの出さない人だから今どんなふうに感じているのかさっぱり分からないよ。
「で、結果は陽性だった……」
私の言葉に信吾さんは無言のまま忙しなく私の顔とお腹を交互に見ている。
「それってつまり……?」
「つまり、コグマちゃんが来たかも」
私の言葉に信吾さんがニヤッと嬉しそうに笑った。
「リビングに増やしただけでは飽き足らなかったのか奈緒」
「え、気が付いてたの?!」
何にも言わないから絶対に気が付いていなかったと思っていたのに!! ん? ちょっと待って。
「じゃあもしかして、三人目ができるかもって思ってた?」
「そりゃ何の予防措置もせずにしたんだからな。たとえ俺の方で薄くなっていたとしても可能性はゼロじゃないだろ? こっちだって薄いだけで全く無いわけじゃないんだろうし」
最後の方は厭味ったらしくニヤニヤしながら言った。
「いつ判明するのか楽しみにしていたっていうのが正しいかな。そうか、三人目か。なんだ、どうした」
「もう、それならそうと言ってよ~!」
信吾さんの肩をポカポカと叩きながら抗議する。
「そんなこと言ったってだな。変にプレッシャーをかけられても嫌だろう? 俺が楽しみにしていると知って万が一妊娠していなかったら気にするだろうが」
「私は信吾さんが何も言わないから喜ばないんじゃないかって心配してた!!」
「そんな訳ないだろ。子供が欲しくなければきちんと避妊する」
真面目な顔をしてそんなことを言いながら私のことを膝に乗せた。そしてお腹に手を当てる。
「そうか、三人目か。いや、三人目と四人目が一気に増えるかもしれないんだな」
ちょっとした分隊になるなと楽しそうに笑っている。
「そんなことになったら一軒家に引っ越さないとさすがに手狭になっちゃうかな」
今のところ何の不自由も無いしここは立地も含めて気に入っているけれど、コグマちゃんの増え具合によっては真面目に考えないといけないかもしれない。
「あーあー、だけどなんか拍子抜けー……」
「なんでだ」
「だって信吾さんがもっと驚くかと思って楽しみにしてたのに」
「そりゃ残念だったな」
ニヤニヤしながら優しくキスをしてくれる。
「ねえ、渉と友里にはいつ話そう?」
「もう少し先で良いんじゃないのか? それこそ大騒ぎだろうからな」
「じゃあ病院で調べてもらってはっきりしてからにするね」
「その辺は奈緒に任せるよ。だが二人に知らせるのは俺がいる時にしてくれ」
子供達に赤ちゃんがやってきたことを知らせた時の二人の騒ぎっぷりを二人して想像しながらニヤニヤと笑い合ってしまった。
「ママー、ご飯炊けたー!!」
「もうちょっとそのままにしておいて」
「分かったー」
ドアの前で友里の声がしてキッチンへと戻っていく気配がした。
だいたい生物学的には女性は三十代になると妊娠する確率が下がってくるってのが常識だけど別に妊娠できなくなるって訳じゃない。それと男性に関しても精子が少なくなるからってゼロになる訳でもないし。どちらの点からも確率が低くなるってやつで全くゼロじゃないってこと。それが私の体とのタイミングが合っていたら尚更のことで……まあ、あの時の信吾さんがそこまで考えていたとは思えないけど。実際のところ微妙なタイミングだったし。
「ふむ……」
便座に座りながら目の前の妊娠検査薬のスティックに出た印を眺める。何度見ても陽性だよね、これ。結果が出てから二度見してブンブンと振ったりしてみたけど結果は変わらず。間違いなく陽性だ。
「……信吾さん、びっくりするんじゃないかな」
出会ってから十五年、信吾さんが本気でビックリすることなんて滅多にお目にかかれないからちょっとだけ知らせるのが楽しみになってきた。
「どんな顔するだろ」
あ、だけどもしかして良い顔をしない可能性もあったりする? ほら、信吾さんだってもう五十代だし自分の年齢のことを考えて子供の将来が心配になっちゃうとか? もしかしたら今更子供ができて恥ずかしいとか思っちゃうとか?
「……」
心配することはあっても恥ずかしがるってのは無いような気はするかな。
「それよりも……」
キッチンで賑やかにお喋りをしている子供達のことを考える。パパよりもあの二人の方が大騒ぎになっちゃうんじゃないかな。前からお友達のところに弟か妹が産まれたって話を聞いては自分達も下に弟妹が欲しいなって憧れみたいなものを持っていたみたいだし。
「コグマちゃんてば大変なところに産まれてきちゃうことになるかもしれないねえ……」
まだ気配すら見えない自分のお腹を見下ろしながら呟いた。
「ママー、もう食べていいー?」
「おかず冷めちゃうよー!」
「分かった分かった、ご飯はママの分もお茶碗にいれてくれる?」
そろそろ空腹虫が我慢できなくなってきたのか二人してトイレの前に押し掛けてきた。こういうところの連帯は相変わらず凄いんだよね、そこに三人目が加わるのか。これはなかなか大変な事態かも。トイレから出ると二人がこっちを見た。
「ママ、お腹痛いの?」
「お薬飲む?」
「大丈夫だよー。ちょっと考え事してただけ」
「まーくんパパは朝になると新聞持ってトイレにこもっちゃうってまーくんママに怒られてるんだって」
保育園の頃からのこのおちびちゃん連絡網のせいでまー君ちの内情が駄々漏れなんだけど、これって同様にうちのこともあっちに駄々漏れってことなんだよね。まーくんママと顔を合わせるたびにうちの子があれこれごめんねって言い合ってるぐらいだし。コグマちゃんのこともしばらくは黙っておかないと大変なことになるかもしれない。
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「あのね、信吾さん、ちょっとこっちに来てくれる?」
「なんだ?」
子供達が眠ったのを確かめてから、リビングでテレビを見ていた信吾さんの腕を取ってリモコンでテレビを消してから寝室へと引っ張っていく。
「珍しいな、奈緒から誘ってくるなんて」
「そんなんじゃなくて」
何を勘違いしたのかニヤニヤしながら私のパジャマを脱がせようとする手を払いのけてからドアを閉めた。
「だったらなんなんだ」
「いいから、そこに座って」
そう言ってベッドを指さす。信吾さんは私の仕事モードの口調に渋々と言った感じで従ってベッドに腰を下ろした。だけど座っている態度は殊勝とは程遠い感じで何て言うか偉そう……ふんぞり返って座っている訳でもないのに凄く偉そう……うん、ものっすごく偉そう。
「それで?」
「そのいかにも“聞いてやる”って態度は何とかならない?」
「奥様の話を謹んで聞かせていただきますが?」
「言葉だけじゃなくてえ……」
まあこれが信吾さんなんだから仕方がないんだけどさあ。
「あのね、今月、ちょっと遅れてたんだよ……そのぅ、生理が」
「そうだったか?」
「うん」
そりゃ一緒に寝てるんだから信吾さんも私が生理になった時は分かるとは思うんだけどこういうのって何年経っても言いにくいものだよね。
「でね、ほら、前に避妊しないで頑張っちゃったじゃない? だからもしかしてと思って今日になって検査薬買って調べてみたんだ……信吾さん聞いてる?」
「ああ、聞いてる」
こういう時もうちょっと表情が読めたらって思うんだよね。本当に信吾さんってそういうの出さない人だから今どんなふうに感じているのかさっぱり分からないよ。
「で、結果は陽性だった……」
私の言葉に信吾さんは無言のまま忙しなく私の顔とお腹を交互に見ている。
「それってつまり……?」
「つまり、コグマちゃんが来たかも」
私の言葉に信吾さんがニヤッと嬉しそうに笑った。
「リビングに増やしただけでは飽き足らなかったのか奈緒」
「え、気が付いてたの?!」
何にも言わないから絶対に気が付いていなかったと思っていたのに!! ん? ちょっと待って。
「じゃあもしかして、三人目ができるかもって思ってた?」
「そりゃ何の予防措置もせずにしたんだからな。たとえ俺の方で薄くなっていたとしても可能性はゼロじゃないだろ? こっちだって薄いだけで全く無いわけじゃないんだろうし」
最後の方は厭味ったらしくニヤニヤしながら言った。
「いつ判明するのか楽しみにしていたっていうのが正しいかな。そうか、三人目か。なんだ、どうした」
「もう、それならそうと言ってよ~!」
信吾さんの肩をポカポカと叩きながら抗議する。
「そんなこと言ったってだな。変にプレッシャーをかけられても嫌だろう? 俺が楽しみにしていると知って万が一妊娠していなかったら気にするだろうが」
「私は信吾さんが何も言わないから喜ばないんじゃないかって心配してた!!」
「そんな訳ないだろ。子供が欲しくなければきちんと避妊する」
真面目な顔をしてそんなことを言いながら私のことを膝に乗せた。そしてお腹に手を当てる。
「そうか、三人目か。いや、三人目と四人目が一気に増えるかもしれないんだな」
ちょっとした分隊になるなと楽しそうに笑っている。
「そんなことになったら一軒家に引っ越さないとさすがに手狭になっちゃうかな」
今のところ何の不自由も無いしここは立地も含めて気に入っているけれど、コグマちゃんの増え具合によっては真面目に考えないといけないかもしれない。
「あーあー、だけどなんか拍子抜けー……」
「なんでだ」
「だって信吾さんがもっと驚くかと思って楽しみにしてたのに」
「そりゃ残念だったな」
ニヤニヤしながら優しくキスをしてくれる。
「ねえ、渉と友里にはいつ話そう?」
「もう少し先で良いんじゃないのか? それこそ大騒ぎだろうからな」
「じゃあ病院で調べてもらってはっきりしてからにするね」
「その辺は奈緒に任せるよ。だが二人に知らせるのは俺がいる時にしてくれ」
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