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15:平和ボケ
しおりを挟む「ここの公式ってこれに使うんですか?」
「いや、これは前のページにあったこれを使うんだ」
タマはスラスラと希樹のノートへと答えを書き込んでいく
その手つきに淀みが一切なく、わかりきっていることをただ書き込んでいるようだ。
そのことに彼女は感心しつつ次の問題へと取り掛かる。
希樹とセフィラは妖精の呪いが解けたらタマの記憶を消すつもりだった。
単純に異端な力のことを噂として広めて欲しくないのもあるし
万が一にでもタマが魔を消している謎の団体の一人だとして
もし自分たちと敵対した場合、情報の漏洩を防ぎたいからだ。
問答無用で希樹は消そうとしたがセフィラの方から待ったがかかった。
タマがもし謎の団体の諜報部員だったとして、泳がすのはどうだろうかということだった。
テレパシーで二人はいくつか考えられるリスクを考えたが
今のところ手がかりらしい手がかりもないので、記憶はそのままの案が採用された。
二人がこんなにも慎重になるのはなにもタマを信用できなかったわけではない。
昔魔を倒す旅をしていた際に、信用していた騎士からの裏切りがあったからだ。
希樹はその事件の記憶を思い出し、胸が痛くなり、緩慢な動作で瞼を閉じた。
――あまりあのことは思い出したくないし、思い出せない。
息が苦しくなって、手元に力が入りすぎてペンがバキッと音を立てて粉砕された。
破片が飛び散っていくのを見たタマは顔を歪めて『ゴリラかよ…』と呟く。
ちなみに希樹がタマに勉強を教えてもらう経緯としては
呪いの解けた次の日、復習するために早めに学校へ行くとタマが校門前で一人プルプル震えていて
声をかけると呪いが解けたので、普通にクラスに行こうとしたが、過去のトラウマで足が竦んでいたらしい。
可哀想なので始業時間まで一緒に図書室で勉強することになったのだ。
学校に通っていないタマは勉強できるのか不安に思っていたが
なんと彼は学年トップ様であらせられたのだ……!
「教室で勉強できない分、こうして点数稼いどかないと進級できないからな…」
そういった彼の顔は哀愁が漂っていて、希樹は哀れみぽんぽんと肩を叩いた。
そしてこれからも定期的に勉強を教えてもらうことになった。
今回の妖精の件でお世話になったお礼と、あまりにも希樹が勉強を出来無さ過ぎて哀れに思われたようだ。
◇◆◇
昼休みそのニュースはクラスメイトによってもたらせれた。
「2年にすっごい美少年が転入してきたらしいよ!!」
「えー!!うっそ!どんな?」
「金髪で細身!!はぁ~色が白くて王子様みたいだった…」
「でもこんな微妙なときに転入生なんて珍しいねぇ~」
小耳に挟んだ情報はこれだけだったけれど、希樹にはピンと来た。
転入といっているが、これはタマのことだろう。
「……タマ先輩大丈夫かな」
「ん?希樹ちゃんなにかいった?」
「ううん、なんでもないよ」
色んな人に代わる代わるはなしかけられ
教室の隅でプルプル震えいるところが想像出来すぎたのだった。
◇◆◇
希樹は放課後は寄り道をして、昨日の廃工場へと向かった。
昨日はタマもいたからあまり長くいなかったけれど、手がかりを探しに来た。
セフィラはこの周辺で他に異変がないか聞きまわったり痕跡を探ってくれている。
気絶していた魔に憑かれていたであろう猫たちは元気に毛繕いしている。
そっと近づいて、持ち上げると猫が手の中で暴れた。
匂いを軽く嗅ぐが、もう魔の香りは薄い。
だけれど魔の香り的に初期型の弱い魔であろうことは分かる。
ごめんね、と耳の後ろをかいて、猫を離すとそそくさと猫は離れていった。
戦闘があったのだろうことは廃工場が荒れていることで一目瞭然だ。
そっと焦げ跡や足あとを注意深く観察して、戦闘のあとを分析する。
猫の魔を発見した『誰か』は最低でも3人はいることは足跡と靴の模様の違いで分かる。
不自然な水溜りと打撃の攻撃跡から氷を魔法で使う術者が1人、性別は男
薄く焦げた跡から光線みたいな攻撃をする術者が1人、性別は不明
あとの1人は術の種類は分からないけれど、体重の重さと靴の大きさ的に女性だろう。
分析してわかったことは、大した実力をこいつらは持っていないということだ。
あの弱い魔を相手に廃工場を半壊させるほど苦戦している様子からも分かっていたが
もしかしたら、油断させるために戦闘後、荒らしたのかと思っていた。
だけれどその様子もない
そして彼らの目的などもわかるかと思ったけれど、わからない。
もやもやする心を隠しながら希樹はセフィラに報告に向かった。
◇◆◇
廃工場からは電車にのんびりと乗って地元へと帰ることにした。
空を飛んで帰りたいところだが妖精の粉はもうないのだ。
――分けてもらおうかな。
ぼんやりと景色を見ながら考えているとあっという間に駅につく。
ICカードをぴっと改札に触れさせると見慣れた街並みが広がる。
アイスを手にした小さい男の子が嬉しそうに希樹の横を通り抜ける。
危なっかしい動作についつい見つめていると、段差につまづいてアイスから手を離してしまった。
すると、アイスがポーンとまるで空を飛ぶ生き物のように綺麗に放物線を描いて飛んでいった。
しかもそのアイスの着地点は沸点の低そうな、金髪のガラの悪い高校生の頭。
――ホールインワン……。
不謹慎にも希樹は心の中でそうつぶやいた。
あとの展開は出来すぎた漫画のように子供相手に大人気なく絡む高校生とその仲間たち。
一体彼らはなにがしたいのだろう。子供相手に凄んでアイスが頭からなくなるわけでもないのに
金銭をたかるにしろ、子供相手では金額はたかが知れている。
冷静に親からクリーニング代を貰うくらいならそのまま放置しようと思ったけれど
男の子を軽くどついたりし始め、そんな様子を見てそのままにしておくことも
出来ないので割って入ることにした。
「クリーニング代ならこの子の親に払ってもらえばいいじゃないですか。
……殴る必要はないんじゃないでしょう?」
「そんなことねー!!折角1時間もかけてセットした髪の毛なんだぜ!?
金もらうだけじゃ腹の虫がおさまらねーよ!!」
「え、その寝癖みたいな髪の毛…」
1時間もセットしてたのかよ、というツッコミがぽろりと出てしまい
目の前の不良くんはみるみるうちに顔を赤くして怒りの形相を浮かべた。
あ、失言だったと思ったと同時に拳を高く振り上げられ、防御の為に肘をやや曲げて腕を前に出す。
「女の子に手を上げるなんて、男の風上にも置かないねぇ~」
希樹の目の前に紫がかった黒髪がいっぱいに広がる。
殴られる寸前、希樹と不良の間に誰かが割って入った。
後ろ姿と声だけだけれど、確か彼は……。
「ちっ、西鳥羽か!行くぞ…」
「ふ~ん、逃げちゃうんだぁ?」
「なんだと!?」
「ほっておけ!!あいつは、」
西鳥羽は挑発するように不良に首をかしげながら声をかけた。
不良の取り巻きがその様子に怒鳴ったが軽く耳打ちし。みるみるうちに顔色が悪くなり、すごすごと立ち去っていく。
希樹はその様子を見て、戦わずに済んで本当によかった、と息を付いた。
手加減もできない、それに人を傷つけたくはない、そして力のこともバレたくない。
つい前の世界の癖でおせっかいをしてしまったが、今後は気をつけなければとぼんやり考える。
それにしても
「君、結構大胆なんだねぇ♥
こんな大人しそうな顔してるのに」
…西鳥羽といえば前に留香くんとの関係を聞かれた
ちょっとチャラチャラしたタレ目の先輩だ。
彼がゆっくりとこちらを振り向く。タレ目で笑った口から控えめに八重歯が覗く。
確かに前にみた人物で合っていた。
にやっと口の端を片方上げ、からかうような表情で彼は希樹に問いかけた。
「そうですか?
――それよりも助けていただいてありがとうございました。」
深く頭を下げると、西鳥羽は表情を柔らかくした。
「…似てるね、君」
――似ている?
ああ、確か私と留香くんが幼馴染だと知っているんだっけ?
「留香くんとですか?あんまり、言われないですけど…」
「ぷっ!あはは!!違う、違う!
ていうかちょっと図々しいんじゃない?あの美形と似てるって自分で言うの!」
「ああああ!!顔は全然似てるとは思ってないですけど!」
西鳥羽は笑いがツボに入ったようでお腹を抱えて蹲る形でずっと笑っている。
希樹は久しぶりに恥ずかしくて顔が赤くなった。
確かになんでも出来るプレイボーイの留香と自分が似ているなど、図々しいにも程がある。
でもこんな笑うことないではないか、と唇を尖らせた。
笑いが収まったのか西鳥羽は、息を整えながら軽い調子で言った。
「いや、他の知り合いだよ~。
弱いのにそういう正義感が強いところ、そっくり。まぁそういうの、俺嫌いじゃないよ。
あ、そろそろ集合時間だから、行くね。じゃあね~!」
「はい!――ありがとうございました!」
西鳥羽は軽やかに走りながら投げキッスをし、去っていってしまった。
美形だからか、キザな言動が様になるのに希樹は苦笑いを浮かべる。
――前はあんまりいい人だと思わなかったけれど優しくはあるんだ。
チャラくて少し軽いノリの人だから、ああいうの見過ごすと思っていた。
それに、と西鳥羽の後ろ姿をぼんやりと見つめた。
彼は武術を嗜んでいるんだろう、筋力はそこまでないが身体がしなやかで戦う人の体つきだ。
訓練された足運びで、希樹でさえ突然割り込まれたのに一瞬驚いたほどだ。
ただ武術を嗜んでいるだけ、とは考えられない実践的な動きだ。
ふと、魔を倒したのは彼かと考えたけれど
逆にあの体のこなし、戦い慣れした雰囲気ならばもっとスマートだろうと考える。
……きっとあんなにベタベタと足あとはつけない。
それに彼が魔法を使えるのかは微妙なところだ。もしかしたらただ武術家なだけかもしれない。
希樹は割ってはいられたことを思い出し、夕焼けを見て肩の力を抜く。
――随分と、平和ボケしてしまったものだ。
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