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第2章 ランベルトスの陰謀
第15話 静かに忍び寄るもの
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霧に包まれた街の中、ドミナの錬金術工房から酒場へ戻ったエルスたち。
酒場に着いた頃には霧は晴れ、太陽は夕刻の陽光を放っていた。
「なるほどな……。工房の連中は変わり者らしくてな。まともに話を訊けただけ大したもんさ……」
一行は酒場の店主に大まかな経過を報告し終え、今夜の夕食を注文する。
どうやらランベルトスの料理は米や豆などの穀類や、肉を中心とした物が主のようだ。
壁に接した四角いテーブルにはエルスとアリサが隣同士に着き、目を覚ましたミーファが向かいに、ニセルは空いた一角に着いた。
四人は食事がてらに、現在までに得た情報を整理する――。
「とりあえず〝錬金術〟を狙ってるぽいッてのはわかったけど、他は全然わからねェな」
「うーん。〝魔導義体〟を使って、兵士さんを強くするとか?」
「おー! 改造人類の製造とは、まさに悪の所業なのだー!」
「それって、自分の腕とか足を切り落とすんだろ? さすがにやるとは思えねェけどなぁ……」
「ああ。それにランベルトスには、兵士や騎士といった軍隊は無い。形式上は国家を名乗っているが、領土は商業都市のみだからな」
かつて古の創生紀において、ランベルトスはアルティリア王国の一都市だった。
しかし、当時から街を牛耳っていた〝商人ギルド〟によって、国王から領土ごと街を買い取られる形で独立を果たした。
後にさらなる国難を招くとも知らず――腐敗しきっていた当時のアルティリアは国土と引き換えに、僅かばかりの小銭を手にした――。
このことは〝失政の典型例〟として多くの歴史書に記され、再世紀となった現代となっても尚、アルティリアの〝恥〟として語り継がれている。
「んー。降魔の杖のこともあるし、あとはクレオールだっけ?――依頼人からの情報次第ッてとこか」
「ドミナさん、杖のことは知らないみたいだったねぇ」
エルスは木製の椀に入った豆のスープを一気にすすり、黒いマントの縁で口を拭う。汚れるのを避けるためか、アリサは純白のマントを既に、冒険バッグの中へ仕舞っていた。
「あッ、そういえば――ドミナさんから、腕輪もらったのを忘れてたぜ!」
「ミーファちゃんと同じ腕輪だっけ? 武器が入るっていう」
「そうなのだ! ミーの正義の斧も、おかげで持ち運びやすくなったのだ!」
「せっかくだし、両手に着けとこうぜ! なんか大量にくれたしさ!」
「――ああ、オレは持っている。左手はこの通りだし、な」
そう言ってニセルは、銅製の左手首をクルクルと回転させてみせる。魔導義体となっている彼の左腕には、他にも仕掛けが隠されているのかもしれない。
「でも、肝心の武器が無いねぇ。お家に置いてきた剣、今度取りにいこっかな」
「あの馬鹿デカイ剣だろ? アリサのジイちゃんが造った――。おッ、すげェ! 簡単に出し入れできるぜッ!」
エルスは話しながら――別れ際にジニアから貰った、ウサギの飾りの付いた短杖を右手に出現させてみせる。そして今度は、それを瞬時に収納してみせた。
「わぁ、どうやってるの? わたしにも出来るかなぁ?」
「なんかわからねェけど、出そうと思ったら出てくる感じ?――ほらッ!」
「ふっ、腕輪には魔導義体の技術を応用しているらしい。要は、自分の手足を動かすのと同じことさ」
「不思議だねぇ、錬金術。わたしたちのバッグも、こんな小さいのに色々入っちゃうし」
「そんなモン、〝冒険バッグ〟だからに決まってるだろ?――どんッ!」
疑問を口にするアリサをよそに――
エルスは新しい玩具を手に入れた子供のように、腕輪を使って遊んでいる。
「うーん。じゃ、このお財布は? 魔物を倒すと、少しずつお金が増えてるし」
「そりゃ、〝財布〟だからだろ?――ほいッ!」
「もー。わたしの目の前で遊ばないでっ!――そのウサちゃんは可愛いけど」
バッグや財布は、古来より世界中の人々に愛用されている生活必需品なのだが、製作している当の錬金術士たちも、その詳しいメカニズム自体は知らない。
「そういった仕組みを解明しようとした連中も居たんだがな。ある日を境に、消えてしまったのさ」
「まさか、それが古代人って奴か?」
「――おそらくな。まっ、今回は関係ないだろうさ」
「んー。俺としちゃ、そっちの方が気になるけどよ。確かに、今は依頼の方に集中すッか」
「なんだか色々と繋がってるねぇ」
「まさに悪の陰謀なのだ! 邪悪な芋が、蔓々してるのだー!」
――やがて夕食を終えた彼らは翌日に備え、早めの床に就くことにした。
エルスとアリサはいつも通りに、二人用の部屋へと入る。
新たな街へ来たこともあってか、ベッドを目にするなり眠気がエルスを襲う。
「ふわぁ……。今日もたっぷり頑張ったぜ。眠ィ……」
「ツリアンからずっと、動きっぱなしだったもんねぇ。お疲れさま」
エルスは眠気を訴えるや、すぐさまベッドへと飛び込む。宿場町を自称するツリアンの宿には劣るものの、こちらのベッドもなかなかの寝心地だ。
アリサはエルスが床に放り投げたマントや軽鎧を拾い、衣装棚へと丁寧に並べはじめた。
「あー。なんか勢いで請けちまったけど、頭ばっか使って疲れたぜ……」
「今回は、剣で戦う感じじゃなさそうだね」
整頓を終えたアリサも剣や防具を外し、据えつけの鏡の前で髪を解く。そして手早く就寝の準備を整え、彼女も自分のベッドに入る。
「まッ、いいさ! 店番でも盗賊退治でも、何だってやってやるぜ!」
「うん。そろそろお金も稼がないと。けっこう減っちゃったし」
「そうなんだよなァ……。ニセルの真似して、ちょっと大盤振る舞いしすぎたかもしれねェ……」
ファスティアでの依頼を終え、充分な路銀は稼いだはずの二人だったが、すでに多くをツリアンで消費してしまっていた。
「ニセルさん、この街に詳しいみたいだね。長く居たのかな?」
「そうかもしれねェな。まッ、何にせよ――ニセルは頼りになるぜ!」
「うん。それじゃ、そろそろ寝よっか。わたしも眠くなったかも」
「だな――。おやすみ、アリサ」
「おやすみ、エルス」
いつも通りの挨拶を交わし――エルスは大きな欠伸と共に目を閉じ、ゆっくりと眠りの世界に入ってゆく――。
その夜エルスは、いつも通りの〝夢〟を見た。
それは、焼け焦げた魔法衣を着た銀髪の少年が現れ――邪悪な笑みを浮かべながら、こちらへ向かって手を伸ばす――。
そんな、不吉な〝夢〟だった――。
酒場に着いた頃には霧は晴れ、太陽は夕刻の陽光を放っていた。
「なるほどな……。工房の連中は変わり者らしくてな。まともに話を訊けただけ大したもんさ……」
一行は酒場の店主に大まかな経過を報告し終え、今夜の夕食を注文する。
どうやらランベルトスの料理は米や豆などの穀類や、肉を中心とした物が主のようだ。
壁に接した四角いテーブルにはエルスとアリサが隣同士に着き、目を覚ましたミーファが向かいに、ニセルは空いた一角に着いた。
四人は食事がてらに、現在までに得た情報を整理する――。
「とりあえず〝錬金術〟を狙ってるぽいッてのはわかったけど、他は全然わからねェな」
「うーん。〝魔導義体〟を使って、兵士さんを強くするとか?」
「おー! 改造人類の製造とは、まさに悪の所業なのだー!」
「それって、自分の腕とか足を切り落とすんだろ? さすがにやるとは思えねェけどなぁ……」
「ああ。それにランベルトスには、兵士や騎士といった軍隊は無い。形式上は国家を名乗っているが、領土は商業都市のみだからな」
かつて古の創生紀において、ランベルトスはアルティリア王国の一都市だった。
しかし、当時から街を牛耳っていた〝商人ギルド〟によって、国王から領土ごと街を買い取られる形で独立を果たした。
後にさらなる国難を招くとも知らず――腐敗しきっていた当時のアルティリアは国土と引き換えに、僅かばかりの小銭を手にした――。
このことは〝失政の典型例〟として多くの歴史書に記され、再世紀となった現代となっても尚、アルティリアの〝恥〟として語り継がれている。
「んー。降魔の杖のこともあるし、あとはクレオールだっけ?――依頼人からの情報次第ッてとこか」
「ドミナさん、杖のことは知らないみたいだったねぇ」
エルスは木製の椀に入った豆のスープを一気にすすり、黒いマントの縁で口を拭う。汚れるのを避けるためか、アリサは純白のマントを既に、冒険バッグの中へ仕舞っていた。
「あッ、そういえば――ドミナさんから、腕輪もらったのを忘れてたぜ!」
「ミーファちゃんと同じ腕輪だっけ? 武器が入るっていう」
「そうなのだ! ミーの正義の斧も、おかげで持ち運びやすくなったのだ!」
「せっかくだし、両手に着けとこうぜ! なんか大量にくれたしさ!」
「――ああ、オレは持っている。左手はこの通りだし、な」
そう言ってニセルは、銅製の左手首をクルクルと回転させてみせる。魔導義体となっている彼の左腕には、他にも仕掛けが隠されているのかもしれない。
「でも、肝心の武器が無いねぇ。お家に置いてきた剣、今度取りにいこっかな」
「あの馬鹿デカイ剣だろ? アリサのジイちゃんが造った――。おッ、すげェ! 簡単に出し入れできるぜッ!」
エルスは話しながら――別れ際にジニアから貰った、ウサギの飾りの付いた短杖を右手に出現させてみせる。そして今度は、それを瞬時に収納してみせた。
「わぁ、どうやってるの? わたしにも出来るかなぁ?」
「なんかわからねェけど、出そうと思ったら出てくる感じ?――ほらッ!」
「ふっ、腕輪には魔導義体の技術を応用しているらしい。要は、自分の手足を動かすのと同じことさ」
「不思議だねぇ、錬金術。わたしたちのバッグも、こんな小さいのに色々入っちゃうし」
「そんなモン、〝冒険バッグ〟だからに決まってるだろ?――どんッ!」
疑問を口にするアリサをよそに――
エルスは新しい玩具を手に入れた子供のように、腕輪を使って遊んでいる。
「うーん。じゃ、このお財布は? 魔物を倒すと、少しずつお金が増えてるし」
「そりゃ、〝財布〟だからだろ?――ほいッ!」
「もー。わたしの目の前で遊ばないでっ!――そのウサちゃんは可愛いけど」
バッグや財布は、古来より世界中の人々に愛用されている生活必需品なのだが、製作している当の錬金術士たちも、その詳しいメカニズム自体は知らない。
「そういった仕組みを解明しようとした連中も居たんだがな。ある日を境に、消えてしまったのさ」
「まさか、それが古代人って奴か?」
「――おそらくな。まっ、今回は関係ないだろうさ」
「んー。俺としちゃ、そっちの方が気になるけどよ。確かに、今は依頼の方に集中すッか」
「なんだか色々と繋がってるねぇ」
「まさに悪の陰謀なのだ! 邪悪な芋が、蔓々してるのだー!」
――やがて夕食を終えた彼らは翌日に備え、早めの床に就くことにした。
エルスとアリサはいつも通りに、二人用の部屋へと入る。
新たな街へ来たこともあってか、ベッドを目にするなり眠気がエルスを襲う。
「ふわぁ……。今日もたっぷり頑張ったぜ。眠ィ……」
「ツリアンからずっと、動きっぱなしだったもんねぇ。お疲れさま」
エルスは眠気を訴えるや、すぐさまベッドへと飛び込む。宿場町を自称するツリアンの宿には劣るものの、こちらのベッドもなかなかの寝心地だ。
アリサはエルスが床に放り投げたマントや軽鎧を拾い、衣装棚へと丁寧に並べはじめた。
「あー。なんか勢いで請けちまったけど、頭ばっか使って疲れたぜ……」
「今回は、剣で戦う感じじゃなさそうだね」
整頓を終えたアリサも剣や防具を外し、据えつけの鏡の前で髪を解く。そして手早く就寝の準備を整え、彼女も自分のベッドに入る。
「まッ、いいさ! 店番でも盗賊退治でも、何だってやってやるぜ!」
「うん。そろそろお金も稼がないと。けっこう減っちゃったし」
「そうなんだよなァ……。ニセルの真似して、ちょっと大盤振る舞いしすぎたかもしれねェ……」
ファスティアでの依頼を終え、充分な路銀は稼いだはずの二人だったが、すでに多くをツリアンで消費してしまっていた。
「ニセルさん、この街に詳しいみたいだね。長く居たのかな?」
「そうかもしれねェな。まッ、何にせよ――ニセルは頼りになるぜ!」
「うん。それじゃ、そろそろ寝よっか。わたしも眠くなったかも」
「だな――。おやすみ、アリサ」
「おやすみ、エルス」
いつも通りの挨拶を交わし――エルスは大きな欠伸と共に目を閉じ、ゆっくりと眠りの世界に入ってゆく――。
その夜エルスは、いつも通りの〝夢〟を見た。
それは、焼け焦げた魔法衣を着た銀髪の少年が現れ――邪悪な笑みを浮かべながら、こちらへ向かって手を伸ばす――。
そんな、不吉な〝夢〟だった――。
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