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初めても
しおりを挟む僕だってね昔はそれなりの会社に働いていたんだけど、ある事が引き金になって退職してしまったんだ。
ある事っつーのはアレ、格好つけたくて後輩の失敗かぶってるうちにフォローしきれなくなって一緒に自滅しちゃったっつー何ともダサい話。
「いや、一度も働いた事ないですよね兄さん」
「うん、ないよ。ごめん嘘ついちゃった」
はぁ~~~~何か分かんないけどあの謎のマッシーンから出てくるコーヒーうっめーな。
見た目通りのお洒落な部屋に通されて、良い感じに沈むソファーに体を預けた。
ちょっと待っててって言われたから待ってたら弟はコーヒー持ってやって来た。
渡されて飲んで落ち着いて。
何だよこの丁度良い温度と甘さとキメの細かいふわふわしたミルクは。
カップ越しに弟を見たら俺も飲もうってカウンターに置かれたコーヒーマシーンにカップをセットして腕組ながら僕を見てる。
斑鳩 豹、二十五才会うのは三年ぶりくらい……かな。
正月や盆には帰ってきてるけど僕が避けまくって顔合わせてなかった我が家の期待の星である。
うん、そう。
豹が人生が順調すぎてこのままいけば普通に結婚も孫も望めそうなので親はあんまり僕にきつく当たらないんだと思う。
そっか、なら感謝しなきゃなのか。
ありがとう豹君!!
っと心の中で土下座で言っておく。
避けてたのはあれだ、別に弟と比べられたくないからとかそういうんじゃなくて…………。
いやまぁその後ろめたい気持ちがなかった訳じゃないけど。
それにしても本当、働くようになってますます格好良くなりましたね君は。
いつの間にか抜かされてしまったスラッとした長身に、さっきみたいに毎日走ってんのかな? パーカを脱いでTシャツになった体には程よく筋肉もついてるし……あ、ジム行ってんのか。
健康的な肌色に整った目鼻立ち。
賢そうな眼鏡に少し癖のある銀髪って僕と似てるとこ染色体数しかないな!
あ、ヤバイ。
じっと見すぎたせいか豹が首かしげて何か? みたいな目してる。
どうしよう、何話そう。
ここ家賃いくら? いや、違うな。
今仕事何してんの? いや、聞きたくねぇな。
彼女いんの? 興味ねぇし。
お兄ちゃん今なにしてんの? ニートです。
どうしてさっき追い掛けてきたの?
おおお!! こ、これかな、まずこれから聞いてみようかな。
「ああ、あのさ」
「何ですか」
「僕いつも爪切る時左手の親指からなんだ」
「右利きだからですかね。俺は左利きなので右手の親指からです」
「…………そう」
「ええ」
どうでもよかったコレ! どうでもいい事言っちゃったコレ!! でも普通に返してくれた。
ニコッと笑ってマシーンからカップを外すとこっちに来て弟は僕の横に座った。
柔らかいスプリングのせいで弟が座ると体が少しそっちに傾く、急にイケメンが間近にきて顔を引いた。
「ほら兄さんらぶぅ」
「ん?」
コツンっとカップが音を立てて手元を見たらピッタリ合わさったマグカップはハートで繋がっていた。
「ああああああああ! このカップ兄さんと使うの夢だったんですやったぁあ!」
「う、うわ……」
すーごい勢いで写真撮ってすーごい勢いでsnsに上げてますけど。
そうなんだよ、避けてた一番の理由がこの尋常じゃないブラコン…………。
「兄さん兄さん見て! 見て下さい俺の半分のハートが兄さんの半分のハートにくっついて一つのハートな」
「分かってるよ、見てるようるさい、うるさいんだよ飲みにくい」
体を押してハートを離して、ついでだから距離も取っておく、弟はコーヒーを一気に飲み干すとテーブルに置いてまた携帯いじいじ。
こ、この現代っ子め携帯いじりに夢中とは!
「家族のグループラインに兄さんなうって送っておきました!」
「止めろよバカ!」
「何でですか俺達の感動の再会でしょう」
「お前家出しといて結局身内かよ、ってバレちゃうだろ! 早く送信取消したまえよ!」
コーヒー床に置いてめっちゃ笑顔で携帯掲げてる弟に飛び掛かって誤情報バラまいてるアレ取りに行かねば!
「凄い兄さん積極的ッ!」
「あ、おいバカ! もう既読ついちゃってるじゃん! アホ!」
「いいじゃないですか、二人も心配してたと思うし、それに……」
「それに?」
「ふふふ、何でもありません」
携帯取り上げて取消そうと思ったら、良かったとかイイネって二人からポンポン返信が来てああーあ、もういいか。
脱力してたら、膝の間に体を挟まれてしまった。
「ちょっと何だよ、僕まだ飲んでる途中」
「兄さんはこの後どうするんですか」
「え?」
「どこか泊まる所は決まってるんですか」
「んん……」
そっか、落ち着いちゃってたけど僕今宿無しの身だった。
「とりあえず、今日はうちに居るような体になってますし、家出は一日ゆっくり考えてから明日出発したらどうですか」
「うん……っと、まぁ家出っつっても二、三日で帰る予定で……」
「二、三日で良いなら尚更うちにいた方が宿泊費もかからないしセキュリティーも万全なので安全だと思うんですが」
「え? ……そりゃぁ」
こんだけすげーマンションだからうちいるよりも危険はないだろうけど。
黙ってたらなんとまぁドン引きな事に弟は頬にちゅってしてきたのだ。
ちゅってなんだよ!
「おい止めろよ! 兄ちゃんだぞ!」
「わかってますよ、俺の大好きな兄さんでしょう」
「知らねーよ」
顔を突っぱねて膝から抜け出してコーヒー持ったらこっちに迫ってきて近い! 近い!! 近い!!!
「どうしたんですか兄さん、ああ、もしかして公園の事怒ってるんですか?」
「公園? あ! そーだよ! 公園ヤツ! お前急にあんなとこ現れて怪しい格好に尾行してきてストーカーかよ!」
「愛の追求者を人は希にストーカー等と呼称するみたいですけど、僕は兄さんが変な輩に付きまとわれないか心配でボディーガードしてただけですから」
「変な……輩に……付きまとわれ…………?!」
お前だろそれ!
突っ込む前に迫ってきた弟はカップを持つ手を取って甲にまた口づけた。
「可愛い兄さん、最後は俺を頼ってくれてありがとう」
「頼ってねーし!」
「だって兄さんは今ここにこうしているじゃないですか」
「それは無一文になって、どうしようってなって…………住所がわかるのうちかお前のマンションの名前だったから」
ジオ グランシャリオ麻布…………やってるゲームにたまたま同じ名前の技があったから覚えてた。
「で、俺のとこきちゃったんですもんね、ふふふ」
「深い意味はないから」
「遠慮しないで、ここを兄さんの一番のエデンにして下さいね」
「エデンとか……」
気持ち悪いヤツだな全く、じと目で睨んでるのに弟は全く気にしないで立ち上がると奥の部屋から大きな袋持ってきた。
「ほらこれ兄さん専用クッションです」
「僕専用?」
出してきたのはでかい食パンで、ぱかっと割って二枚になって倒れた方に座るらしい。
「座って座って」
「やだよ」
「宿代だと思って」
「宿代? …………チッ」
仕方ないから座ってやるか。
「うーわ、可愛い! やっぱ買いだった神様ありがとう」
やたらとリアルなパンの上に座ったら案の定弟はパシャパシャ写真撮り始めて多分共有しちゃうんだろーなそれも!
もういーや! しかもなんかこのクッション意外と作りよくて気持ち良いし!
あぐらかいて座ってる僕を弟は色んな角度から兄さん兄さん言いながら撮ってて一体これはなんだよ。
一頻り撮り終えたのか、豹は悦った表情で額を拭いて僕を見た。
「どうですか、兄さんのエデンは」
「あ、嘘、僕の楽園ここだけなの?! 狭くない?!!」
「もう~貪欲~あっちもこっちも僕の物にしたいんですか? 仕方ないなも~」
「いや、違ッ」
ニッと口角を上げて豹はクッションに乗ってきて、背中に背もたれの食パンが当たって逃げられなくて顔が目前に迫る。
恥ずかしいのか何なのか反射的に目を伏せれば二秒後には温かい熱を感じて柔らかいのが唇にくっついてきた。
勝手に息が止まって、弟の息が頬にかかって、心臓が走った時みたいにドキドキいって…………。
「止めろって……」
「ファーストキス……」
顎を引いたら唇が離れて豹は俺の顔を覗き込んできた。
「何すんだよバカじゃないの」
「ファーストキスは兄さんでした。二十年ぶりのキスも兄さんでした」
「…………あっそ」
「兄さんは?」
唇を拭おうと思ったら手を取られて、また「ねぇ兄さんは?」と弟は無理矢理視線を合わせて聞いてきた。
「………………僕も」
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