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帰ろ
しおりを挟む「ちょっとパン君、28才のにーちゃん迎えに来るとか、恥ずかしいから止めてくれませんか」
なんて余裕こいて言ってるけど、本当はあの……。
何て言うか、その…………。
来てくれたんだって、うんっと……。
目熱くなってないです本当です。
数分前。
オレが話つけてくる、って口にゴム咥えて髪結わきながら出ていく華ちゃんを慌てて追い掛けた。
チラッと携帯見たら、豹から【やっぱ無理です!! 兄さん待ってて】って入ってた。
玄関で三人、お世話係の人は何かあったら呼んでくださいと戻っていった。
豹はスーツ姿で会社でも行ってたのかな。
華ちゃんがサラリと前髪をかいて言う。
「と、君のお兄さんは言っているけど、身の安全は保証しますから帰って頂いて結構ですよ。言葉足らずな弟さん」
「兄をご厚意で保護して下さって感謝してます。ですが、生憎うちは無断外泊禁止なんで引き取りに来ました」
「無断外泊って僕にじゅーはぁち!!」
すんげー広い吹き抜けのある玄関で大理石にバンバン地団駄踏んでみたけど、住民に悪いから直ぐ止めとく。
「駄々こねないの、年齢なんて関係ありませんよ家のルールはルールです。そういうのってありますよね? 世間じゃ理解してもらえないお家ルールみたいなのって、ねぇ華狼さん」
「まああるでしょうね」
「でも、僕は……」
年甲斐にもなくもじついて華ちゃんの裾を握った。
正直に言うよ、嬉しい。
嬉しいよ、豹来てくれたの……でも帰ってどうすんだよって話なんだ。
また帰って心乱されて、ケンカになってってなるなら僕はこのままこっちにいた方がって思っちゃうんだよ。
離れてればこれ以上こじれる事だってないだろ?
今までみたいにたまに会うくらいの一定の距離保ってれば、冗談っぽいブラコンのままいてくれるんだろ?
近付いたらまた気になっちゃうじゃん。
でも、もうごめんなさいが怖くて僕からは何にも言えないのに。
少しうつ向いたら、ぐいっと大きな手が僕の肩を引き寄せた。
「あっ……」
「家に帰らない時点で答えは出てるでしょう。オレ達はこれから恋人の時間を過ごしたいんですよ。なんなら明日は生け花をする約束もしてるし、今だって同じ布団でイチャイチャしてた。 ね、鷹」
「んっ」
首筋から耳まで、舌先でなぞれて体ゾクッてしちゃって豹と目が合う。
あ、やだ。
豹のそんな目、初めて見た。
体がひくついて、思わず服を握ったら、華ちゃんは僕の襟を掴んで片方を胸の所まで下げてきた。
「え、何」
「ほら」
玄関の光に体が照らされて、知らなかった。
腕にも胸にも豹じゃない痕たくさん着いてる。
華ちゃんはその一つにちゅっと音を立てて唇を這わすとまた強く吸って舐めてきた。
「痛いからヤメッ……」
「さっきはもっとしてほしそうな顔してたけど」
見られたくない。
気持ちソワソワする。
泣きそうだ、だってこんなとこ豹に見られるのやだ。
もっとやなのは、チクチクした痛みに声出そうになってる自分でぎゅって目閉じて快感どっかに逃がさなきゃ。
壁に押し付けられて逃げらんなくて、ああ、やっぱりもう無理、ゾクゾク怖い助けてパンちゃっ……。
「わかりました」
歪む視界を少し開けたら弟は眼鏡を直して、僕を見た。
一瞬だけ、にこってしてくれて……バカみたいにそんなのでちょっと安心してる僕がいる。
次いで琥珀の瞳を光らせながら、華ちゃんに視線をやって。
「斑鳩家は無断外泊が禁止なのであって許可があれば外泊は許してます。今その判断をするのは父に兄を任されてる私なんで少し時間貰ってもいいですか」
「時間?」
「はい、兄弟の時間を下さい」
華ちゃんは少し体を離して僕の顔を覗き込んできた。
「どうする?」
「んっと…………」
それは豹が気になるけど……。
豹は僕の事じっと見てて、そしたら華ちゃんは耳元に口を寄せてきた。
小さな小さな僕にしか聞こえない声で…………。
“ごめんなさい”
「っ!?」
心臓がドクンって震えて、思わず華ちゃんの目を見た。
「ここにいな? 大丈夫、オレの所にいるならもう傷付く事はないから」
「あっ…………んん」
そのまま耳に舌が入ってきて、体震えそうでもうこれ以上豹にこんな姿見られんのやだ。
だったら……。
それなら…………帰らないって言うしか……。
「兄さん待って」
僕が口を開くのより先に豹が言う。
「俺はまだ兄さんに話さないといけない事も謝らないといけない事もたくさんあります」
謝るって…………ああ。
またそれか、胸がぎゅってする。
「謝らないと…………ってもういいよ、お前のごめんなさいは聞き飽きた」
「何年も言えなかった言葉、これで最後にするから聞いて貰えませんか」
「…………」
頭下げられて、やだ……。
何かやだ、お別れの言葉みたいで怖い。
やっぱりそうだろ、このまま離れていた方が上部だけでも仲良くいられるんだろ。
僕はもうそれで充分なんだ。
「聞きたくない」
「兄さん」
「もう、嫌なんだ。お前の本心なんて聞きたくない!」
「…………」
「豹は何にもわかってない! 僕はもう話すだけでも怖いんだよ、近くにいるのだって怖いんだ」
本当は近くにいたいのに、ずっと寄り添っていたかったのに。
この気持ちが不毛だと、突き付けたのはお前だろ。
「壊れたくない。また……好きになって目の前から消えられた……ら僕はもう生きていける自信がない。そんなのもう立ち直れない…………から」
「兄さん、泣かないで」
「もう僕は誰も好きにな……」
何度も言い聞かせた言葉だ、恋なんてしないって後はそれを口に出すだけだったのに、目の前の弟の行動に僕の口は固まってしまった。
「ごめんなさい」
冷たい石に膝をついて、額までつけて僕の弟はそう言った。
僕の一番嫌いな言葉。
首がしまるような苦しい言葉。
「俺が臆病だったせいで兄さんにはたくさん寂しい思いをさせた。兄さんは勇気を出して告白してくれたのに、あの時の俺はそれに答えられなかった。長い時間苦しめた、本当にごめんなさい」
またあの言葉を言ってる、だけど僕の胸は苦しいけど熱くてもっとその意味を知りたくて。
「だけど、俺は昔から兄さんへの気持ちは変わってない、ずっと側にいてほしくて兄さんがいないと俺は生きていけないから」
「豹…………」
「だから帰ってきて、今度こそ兄さんを守るから俺を置いていかないで」
こっちに向いてる銀色の頭がわずかに震えてる気がしてその髪に触れたくて、いや、抱き締めてあげなくちゃいけない気がして……。
そんな事思ってる間に体が勝手にその体を抱いていた。
「兄さん」
「格好悪すぎだからパンちゃん」
顔を上げた豹は帰ろう兄さんって目にキスしてきた。
返事はバカっでいいよな。
「まあいいよ、兄弟の時間過ごして話に決着つけてきて。どんな展開になろうとオレが鷹を好きな事実も鷹がオレを好きな事実も覆せないし。生け花する約束は死んでも守ってもらうから、荷物は人質に預かっておく」
「あっ華ちゃ……」
華ちゃんは、ふんっと笑うと僕達に背を向けた。
「ありがとうございます」
豹は背中に頭を下げて投げ掛けると、僕の手を引いて外へ連れ出した。
閉まった扉はオートロックでもう開かなくて、入り口の門まで石畳の長い道が続いていた。
「足元気を付けて下さいね」
「ん? うん」
着流しにスニーカーでスーツの男に手引かれてるって訳わかんないなこれ。
池の音と虫の音と僕達の歩く音しかしなくて何か気まずい。
本当に僕、このまま帰っていいのかな。
豹が重厚な鉄門を開けてくれて、家の横には真っ黒い車が一台停車していた。
僕達が近付いたらサイドミラーに付いたランプが点灯して助手席に誘導されて初めて弟の車に乗る。
す、すげードキドキするじゃん!
そりゃこの服装で電車もキツかったけど、車だとマジ密室で二人きりだし!
運転席に回った豹が直ぐに乗り込んできて、後部座席から何か取るとそれムギュッて頬に押し付けてきた。
「つめたっ!」
「良かったら飲んで下さい」
あ、デカビタ……。
蓋明けて渡してくれて、うんだから兄ちゃんそんくらい出来るから。
「ありがとう豹も一口飲む?」
「大丈夫です。兄さん待ってる間20本位飲んだんで」
「どんだけだよ他にもビタミン取る選択肢あるだろ糖尿になるぞ」
言ったら豹はハンドルに伏せて笑った。
「超緊張しました」
「ん?」
「凄く迷ったんです」
「うん」
「華狼さんの言う通り、兄さんが家を出ていった時点で答えは出ていたんだろうから。兄さんの意思を意見を言葉を尊重しなきゃって思って」
「そっか」
「でももしかしたら兄さんが家飛び出して来るかなって期待してる自分もいて、でもでも兄さん押しに弱いから変な事されてるんじゃって気が気じゃなくて」
「うん」
「やっぱり我慢できなかったです」
「そう……何でここにいるの知ってるのかとかストーカーみたいに張り込んでたのは、もうデフォだから突っ込まないね」
眼鏡直してイケメンが言う。
「ええ、兄愛ここに極まれりです」
飲むタイミング掴めなかったら豹が瓶を口に押し当てて少し傾けてくれた。
あ、超うめー。
瓶を離して、濡れた唇を親指が拭ってくれて。
豹の目が細くなる。
「好きだよ、兄さん」
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