αで上級魔法士の側近は隣国の王子の婚約者候補に転生する

結川

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第1章

第3話(2)Ωの躍進、令嬢の思惑

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カミラの反抗が気に食わなかったのか、ベネット嬢は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「ベネット・ウィルソン、カミラ・モーリス。前へ」

ヨハンの声に呼ばれ、二人は外庭の中央に進み出た。
ベネット嬢は憎々しげにカミラを睨みつけるが、カミラは怯むことなく真っ直ぐ視線を返す。
僕は一つ深呼吸をし、そっと手の中の魔法石に力を込めた。

絶対にカミラを傷付けさせない。
そして、出来ることなら、降参なんてさせたくない。

「始め!」

ヨハンの号令と同時に、ベネット嬢は右手を空にかざした。

「降参しなかったことを後悔しなさい!」

次の瞬間、手のひらから巨大な火球が生み出される。
その大きさに周りの観衆がどよめいた。
通常の火球はせいぜい手のひらサイズから1メートル程度。だがベネット嬢のそれは、人を丸ごと呑み込めるほどの大きさだった。

ベネットの手の動きに呼応し、火球がカミラめがけて飛んでいく。
まともに当たれば、大怪我は免れない。
周囲の令嬢たちは青ざめ、小さく悲鳴を漏らした。

「っと!」

しかし、火球は後方の壁にぶつかって消えた。
カミラが軽やかに右へ跳んで避けたのだ。
観衆は呆然とカミラを見つめる。

予想外の展開に、ベネット嬢はぽかんと立ち尽くしていた。
やがて避けられたと理解すると、悔しさに顔を歪ませ、次々と火球を生み出しては放っていく。
けれどカミラは右へ左へと軽快に身をかわし、炎は掠りもせずに後方で虚しく消えていった。
メラメラと燃え盛る火球をことごとく避ける姿に、観戦者たちは皆、声を失った。
ごく普通の女性がまるで歴戦の戦士にでもなったかのように、あるいは一流のアスリートのように、軽々と攻撃をかわしていくのだから。

だが、それも当然のこと。これはカミラ本来の身体能力ではない。
今、僕は彼女に身体能力を底上げする補助魔法をかけている。
動体視力、反射神経、脚力、持久力――避けるために必要な能力をすべて底上げし、通常の1.5倍へと引き上げたのだ。

"カミラは攻撃を避けることに集中してほしい。僕は避けやすいように魔法で君の身体能力を向上させる。危険だと感じたら、迷わず降参すること"
これが試合前に伝えた作戦だった。
とはいえ、内心は賭けに近かった。
僕の今の魔力量では1.5倍の補助が限界で、持続も長くはない。
ベネット嬢の攻撃の仕方次第では、カミラが押し切られる可能性もあった。

だがベネット嬢は、己の力を誇示するかのように巨大な火球ばかりを作り続けている。
派手だがその分俊敏さに欠け、魔力の消耗も激しい。
今のカミラなら、恐れずに避け続ければ勝機がある。

「……あれ?」

ベネット嬢の手のひらから、何も生み出されなくなる。
必死に魔力を込めているようだが、形にならない。
魔力切れだ。

「嘘よ……この私がΩなんかに……!」

狼狽えるベネット嬢に、カミラは距離を詰める。

「降参した方がいいんじゃない?」

カミラの言葉に怒りに駆られたベネット嬢は拳を振り上げ、カミラへ殴りかかろうとした。
だが身体能力が向上したままのカミラは素早くかわし、勢い余ったベネットは地面に倒れ込む。
それでも執念で立ち上がり、再び殴りかかろうとしたその時。

「テストは終わりよ。あなたのためにも、これ以上はやめておいた方がいいわ」

ベネット嬢とカミラの間に、透明な壁が展開される。
アンナ嬢がベネット嬢を制止させるために防御壁を展開したのだ。
アンナ嬢がヨハンに視線を向けると、ヨハンは口を開く。

「ベネット対カミラ。勝者、カミラ」

ヨハンの宣言が響くと同時に、カミラの顔に喜びが広がった。
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