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第1章
第3話(3)Ωの躍進、令嬢の思惑
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カミラは顔をほころばせながら、僕たちのもとへ駆けてきた。
「ルカ、ありがとう!本当にびっくりするくらい体が軽くて…魔法ってすごいんだね!」
「あの火球を前にして冷静に動けたカミラがすごいんだよ!」
僕がそう返すと、カミラはますます嬉しそうに笑った。
「アンナ・クロムウェルツ、ルカ・エドウィン、前へ」
次の対戦を告げる声が場内に響く。
呼ばれた僕は一歩ずつ、中央へと進み出た。
対面に立つアンナ嬢は、いつもと変わらない落ち着いた様子だ。
Ωである僕が相手だから気を張っていないのか、それとも魔法による実戦に慣れているのか。
まずは回避に徹して、相手の力量を見極めるべきだ。
僕はそっと補助魔法を発動する。
カミラのときと同じ、自身の身体能力を底上げする魔法だ。
「怪我をしたくなかったら、早めに降参することね」
アンナ嬢が淡々とした声で僕に告げる。
内容こそベネット嬢の煽り文句と似ていたが、口調には侮蔑の色はない。
「始め!」
ヨハンが号令をかけた瞬間、僕は咄嗟に体を捻って左に避けた。
その直後右腕のそばを、鋭い突風が駆け抜ける。
僕は思わず息を呑んだ。
開始の合図と同時にためらいなく攻撃を放ったアンナ嬢にも驚いたが、それ以上にその風が持つ威力に戦慄した。
もしも当たっていたら、腕を抉られていたかもしれない。
突風というより、もはや小型のエアガンに近い。
魔法は何かを新たに生み出すときに多くの魔力を消費する。
火を発生させる魔法よりも、すでに存在する空気を操る風魔法のほうが効率的だ。
そして、アンナ嬢の風魔法はベネット嬢とは対照的に、攻撃の規模を極限まで絞り、その分威力を高めている。
貴族の令嬢という立場でありながら、彼女は実戦に相当慣れているようだ。けれど。
だとしたら、さっきの攻撃はおかしい。
「まだ降参しないの?」
アンナ嬢が、変わらない声色で問いかけてくる。
「しないよ」
僕がそう答えると、アンナ嬢は再び風魔法を放った。
今度は左袖を掠めていく。
確認すると、布地が僅かにほつれていた。
やっぱりそうだ。
一撃目、僕は咄嗟に避けてしまったが、軌道は僕の体から外れていた。
そして今の攻撃、僕は微動だにしなかったが、攻撃は左腕を掠めただけ。
アンナ嬢の風魔法の威力や魔力制御はどちらも高水準だ。
これほどの魔法を扱える魔法士が、二度も狙いを外すとは考えにくい。
アンナ嬢は、おそらく攻撃を意図的に外している。
"怪我をしたくなかったら、早めに降参することね"
思い返すのは、試合開始前のあの一言。
あれは煽りでも脅しでもなく、彼女なりの優しさだったのかもしれない。
おそらく彼女は、自身の魔法の能力の高さを理解している。
だからこそ、不用意に相手を傷つけることを避けているのだ。
ならば、僕はその意図を汲むべきだろう。
「やっぱり降参します!」
僕は右手を高く掲げて、降参を告げた。
審判であるヨハンを見れば、まるで虫けらでも見るかのような視線を返してくる。
確かに自分の行動はあまりにも格好悪い。
けど、そこまで明らかに態度に示さなくてもいいじゃないか。
「アンナ対ルカ。勝者、アンナ」
周囲の視線が痛いほど突き刺さってくる気がして、僕はアンナ嬢に一礼をするとそそくさと踵を返した。
アリシアとカミラを見つけて、一直線にそちらへ向かう。
だから、気付かなかった。
アンナ嬢が、怪訝そうに僕の背を見つめていたことに。
「ルカ、ありがとう!本当にびっくりするくらい体が軽くて…魔法ってすごいんだね!」
「あの火球を前にして冷静に動けたカミラがすごいんだよ!」
僕がそう返すと、カミラはますます嬉しそうに笑った。
「アンナ・クロムウェルツ、ルカ・エドウィン、前へ」
次の対戦を告げる声が場内に響く。
呼ばれた僕は一歩ずつ、中央へと進み出た。
対面に立つアンナ嬢は、いつもと変わらない落ち着いた様子だ。
Ωである僕が相手だから気を張っていないのか、それとも魔法による実戦に慣れているのか。
まずは回避に徹して、相手の力量を見極めるべきだ。
僕はそっと補助魔法を発動する。
カミラのときと同じ、自身の身体能力を底上げする魔法だ。
「怪我をしたくなかったら、早めに降参することね」
アンナ嬢が淡々とした声で僕に告げる。
内容こそベネット嬢の煽り文句と似ていたが、口調には侮蔑の色はない。
「始め!」
ヨハンが号令をかけた瞬間、僕は咄嗟に体を捻って左に避けた。
その直後右腕のそばを、鋭い突風が駆け抜ける。
僕は思わず息を呑んだ。
開始の合図と同時にためらいなく攻撃を放ったアンナ嬢にも驚いたが、それ以上にその風が持つ威力に戦慄した。
もしも当たっていたら、腕を抉られていたかもしれない。
突風というより、もはや小型のエアガンに近い。
魔法は何かを新たに生み出すときに多くの魔力を消費する。
火を発生させる魔法よりも、すでに存在する空気を操る風魔法のほうが効率的だ。
そして、アンナ嬢の風魔法はベネット嬢とは対照的に、攻撃の規模を極限まで絞り、その分威力を高めている。
貴族の令嬢という立場でありながら、彼女は実戦に相当慣れているようだ。けれど。
だとしたら、さっきの攻撃はおかしい。
「まだ降参しないの?」
アンナ嬢が、変わらない声色で問いかけてくる。
「しないよ」
僕がそう答えると、アンナ嬢は再び風魔法を放った。
今度は左袖を掠めていく。
確認すると、布地が僅かにほつれていた。
やっぱりそうだ。
一撃目、僕は咄嗟に避けてしまったが、軌道は僕の体から外れていた。
そして今の攻撃、僕は微動だにしなかったが、攻撃は左腕を掠めただけ。
アンナ嬢の風魔法の威力や魔力制御はどちらも高水準だ。
これほどの魔法を扱える魔法士が、二度も狙いを外すとは考えにくい。
アンナ嬢は、おそらく攻撃を意図的に外している。
"怪我をしたくなかったら、早めに降参することね"
思い返すのは、試合開始前のあの一言。
あれは煽りでも脅しでもなく、彼女なりの優しさだったのかもしれない。
おそらく彼女は、自身の魔法の能力の高さを理解している。
だからこそ、不用意に相手を傷つけることを避けているのだ。
ならば、僕はその意図を汲むべきだろう。
「やっぱり降参します!」
僕は右手を高く掲げて、降参を告げた。
審判であるヨハンを見れば、まるで虫けらでも見るかのような視線を返してくる。
確かに自分の行動はあまりにも格好悪い。
けど、そこまで明らかに態度に示さなくてもいいじゃないか。
「アンナ対ルカ。勝者、アンナ」
周囲の視線が痛いほど突き刺さってくる気がして、僕はアンナ嬢に一礼をするとそそくさと踵を返した。
アリシアとカミラを見つけて、一直線にそちらへ向かう。
だから、気付かなかった。
アンナ嬢が、怪訝そうに僕の背を見つめていたことに。
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