αで上級魔法士の側近は隣国の王子の婚約者候補に転生する

第1章

第3話（4）Ωの躍進、令嬢の思惑

その日の夜、夕食会場となっている大広間で、僕は用意された色とりどりの料理をお皿に盛っていた。
一通り目ぼしいものを取り終えると、アリシアとカミラの姿を見つけ、彼女たちの隣に腰を下ろす。

「ここに来て、今が一番気分がいいわ！」
「私もです！」

自然と話題は今日の実技演習へと移る。
嬉しそうに話す二人を見て、僕の口元も緩んだ。
今日をきっかけに、Ωである二人が少しずつ活躍の場を増やしていけたらいい。

Ωに転生したのも、何かの縁だ。
僕もまた、Ωの地位向上のためにできることをしたい。
そう胸の内で決意していた時、隣の席にお皿が置かれる音がした。

「ここ、失礼してもいい？」

声をかけてきたのは、アンナ嬢だった。
僕もカミラもアリシアも、驚きのあまりぽかんと口を開ける。
そんな僕らを見て、アンナ嬢は小首を傾げた。
返事を待っているようだったので、慌てて着席を促す。

急にどうしたんだろう。
アンナ嬢と僕ら三人は、ほとんど接点がない。
アリシアとカミラは、公爵令嬢と突然同席することになって落ち着かない様子だ。
彼女と会話したのは、初日のベネット嬢との口論を窘められたときと、今日の実技演習のときだけ。

――もし何かあるとしたら、今日の実技演習。
ということは、原因は……僕だ。いや、間違いなく僕だ！
先ほどからアンナ嬢の視線を痛いほど感じる！

「アンナ様、探しました！今日はここでお食事を？」

いつもアンナ嬢のそばにいるご令嬢たちが不思議そうにしながら次々と席に着く。
普段は三人でゆったり使う円卓も、今日はあっという間に満席だ。

「あら、Ωの方々とご一緒だったのですね」
「あ！あなた、今日ベネット様と対戦されていた方じゃない？えっと、確かお名前が」
「カミラさんですよね？あの試合、とても感動しました！火球を軽々と避けていらして。私だったら足がすくんで動けなかったと思います。何かスポーツをされていたのですか？」
「あ、いや、えっと……特には何も。でも体を動かすのは好きで、あとは気力で……」
「まあ！すごいわ。身体だけでなく、精神力の成せる技というわけですね！」

カミラは褒められて頬を赤らめながらも、ご令嬢たちの会話のスピードに少し押され気味だ。

「アンナ様の魔法も、とても素敵でした」
「ありがとう」

ご令嬢のうちの一人がうっとりとした表情で告げると、アンナ嬢は小さく微笑んだ。

「私、遠目だったのでよく分からなかったのですが……あの時、何が起きていたのですか？」
「風魔法を調整して、弾丸のように放たれていたんですよ！」

別のご令嬢が尋ねると、先ほどのうっとり顔のご令嬢が、興奮気味に身を乗り出して答える。

「風魔法で弾丸を？ 想像がつきませんわ……。あなたも見えていたなんて、すごいですね」
「我が国で名高い魔法士であるアンナ様の魔法を、はっきりと見たくて！自分の目に付与魔法をかけていたんです。視力も動体視力も二倍になる魔法をね！」

ご令嬢たちの賑やかな会話を聞きながら、僕は内心で納得する。
なるほど。アンナ嬢の魔法は、国の中でも相当な実力のようだ。
どうりで実戦慣れしているわけだ。

「魔法といえば、今年の上級魔法士試験、ルイス・シュトラール様が合格されたそうですよね」

その瞬間、僕は思わず飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。