αで上級魔法士の側近は隣国の王子の婚約者候補に転生する

結川

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第1章

第5話(1)ルカ・エドウィンの断罪

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翌朝、自室で目を覚ました僕は、身体の軽さに思わず瞬きをした。
昨夜、医務室を出る前にヨハンが魔力回復の補助魔法を掛けてくれた。
そのおかげで、枯渇していた魔力がすっかり戻っている。
今まで冷たくあしらわれてきた分、ヨハンの気遣いにはどこか落ち着かない。
それでも同時に、胸の奥にじんわりと温かいものが広がっていく。
僕は身支度を済ませ、大広間へと向かった。

大広間は、普段とは違う緊張めいた空気に包まれていた。
アンナ嬢の件で、誰もがまだ混乱から抜け切れていないのだろう。
耳に入ってくる会話は、どれも彼女のことばかりだ。

僕が大広間に足を踏み入れた途端、いくつもの視線が向けられる。
探るような眼差しに、露骨に嫌悪を滲ませるもの。
“アンナ嬢に僕が毒を盛ったのだ”と、すでに噂が流れているのだろう。
昨夜、初対面の医者でさえ、僕を容疑者だと認識していたのだ。
ベネットか、書斎に来た令嬢か、その後駆けつけてきた使用人か……出所は分からないが、多くの者が耳にしている可能性が高い。
身に覚えのない疑いを向けられるのは気が滅入る。
早く疑いを払拭しなければと奮起していると、後ろから声をかけられた。

「ルカ、おはよう!」

背後から明るい声がして、思わず息を飲む。
アリシアとカミラはいつもと変わらない表情で、僕の下へ駆け寄ってきた。

「いつもより遅かったけど大丈夫?」
「昨日、夕飯も取らずに寝に行きましたよね?体調が悪いんですか?」

二人からは、僕を疑う気持ちなどみじんも感じられない。
気遣うような視線に、僕は緊張して強張っていた背筋が緩むのを感じた。

「大丈夫だよ。お腹がすごく空いてるだけ」
「なら良かった!私もお腹空いたなぁ」
「朝食はもうすぐ運ばれてくるそうですよ。もう少し待っていてほしいと、先ほど案内がありました」

僕に話しかけてくれたことで、向けられていた視線が少しずつ散っていく。
ほっと息をつくと、アリシアがぽつりと零した。

「アンナ様、大丈夫でしょうか…」
「昨日の話だと、今朝まで持つか分からないって話だったよね?」
「そうだね…、大丈夫だと信じたいけど」

昨夜の容態では、処置しなければ間違いなく夜明け前に彼女は命を落としていた。
昨日掛けた治癒魔法で医療魔法士の到着までは持ち堪えられるはずだが、確証はない。
魔力の少ないこの体で治癒魔法を使ったのは初めてだ。正直不安は残る。

今から医務室に行って、様子を確かめよう。
ヨハンのおかげで、魔力は回復している。
医療魔法士がまだ到着していなければ、再度アンナ嬢に治癒魔法を掛けることも出来そうだ。

この場を離れようとした時、カツンと床を突くハイヒールの音が広間に響いた。
その音は聞き慣れたもので、胸の奥が嫌な予感でざわつく。
振り向くとそこには、僕を見下すような鋭い目で睨みつけてくるベネット嬢の姿があった。
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