αで上級魔法士の側近は隣国の王子の婚約者候補に転生する

結川

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第1章

第5話(2)ルカ・エドウィンの断罪

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「今、ヨハン様が慌てた様子で医務室に向かっていったわ。もしかすると最悪の事態もあり得るかもね」

ベネット嬢の告げた内容に、周囲がざわつく。
最悪の事態を招いた当人が、よくもまあ他人事のように言えるものだ。
僕を侮辱するだけだった時は、ただの嫌味だと受け流せた。
けれど、カミラとの対戦の時と言い、今回のアンナ嬢の件と言い、あまりに度が過ぎている。
僕はきつく彼女を睨みつける。
けれど、彼女は気にする素振りもなく言葉を続けた。

「私、医者から聞いたの。アンナ様の毒は人工的に作られたものだって。つまり、誰かが意図的に毒を盛ったってこと。ねぇ、さっさと白状したらどう?」

ベネット嬢はわざとらしく首を傾げ、犯人を示すような目でこちらを見てくる。
その視線に引き寄せられるように、周囲の視線が徐々に僕へと集まり始めていた。

「なんなのあんた。ルカがアンナ様に毒を盛ったって言いたいわけ?」

カミラが苛立ちを隠さずに問い詰める。
その瞬間を待っていたかのように、ベネット嬢は大袈裟に僕を指差し、大声で宣告した。

「ええ、そうよ!アンナ様に毒を盛ったのは、この卑しいΩの男よ!」

その声はよく通り、広間中に響き渡った。
人々が一斉に振り返り、僕達に視線を向ける。
僕がどう反論するべきか迷って口を閉ざしたのを見て、ベネット嬢はほんの一瞬、勝ち誇ったように口角を釣り上げた。

――やはり、僕を犯人に仕立て上げる気か。

「ルカがそんなことするわけないでしょ!」

カミラが強く言い返すが、ベネット嬢はにやりと笑みを深めた。

「あら、あなたは知らないのね。昨日、アンナ様が倒れていた場所は、この男が一人で清掃していた書斎だってこと!」

アリシアとカミラは動揺し、僕を見る。
そのことは事実なので否定できずにいると、二人は息を呑んだまま言葉を失った。

「火事が起きた時に外庭に避難していなかったのはアンナ様とあなただけ!そして鎮火後、書斎でアンナ様は倒れていた。アンナ様は厨房を離れる前、あなたに書斎に呼ばれたと言っていたわ。ねぇ、あなた以外の誰が毒を盛れるというの?」

広間は瞬く間にざわつき始める。
ベネット嬢の声が響くたび、周囲の嫌悪と疑念が膨れ上がっていく。
確かに状況として疑わしいのは僕だ。
そう見えるように、仕組まれているのだから。

「だから反対だったのよ、Ωを婚約者候補に加えるだなんて!」

ベネット嬢はわざとらしく悲壮感を漂わせ、震える声で訴える。
背後にいた令嬢たちが、同意するようにこくりと頷いた。

「Ωなんて本来、王室の婚約者になり得ない存在だもの。候補に選ばれたとなれば、手段も選ばず躍起になるのは明白だわ!そんなΩの毒牙にかかってしまったアンナ様はなんて可哀想なの!」

わっと泣き出す真似をすると、取り巻きが寄り添い、彼女の背をさする。
彼女が騒げば騒ぐほど、非難するような眼差しが僕に集まっていく。
周囲はひそひそと話し始め、完全にアウェイの空気が出来上がっていた。

ベネット嬢が犯人でなければ、"僕が書斎に呼んだ"などと嘘をつく必要がない。
彼女が犯人であることは分かっているのに、それを証明する手立てがない。
僕は悔しさに震える手を、ぎゅっと握りしめた。

公爵家の令嬢と、何の後ろ盾もないΩの僕では、言葉の重みも決定的に違う。
何を言ったところで、ただの言い逃れにしか聞こえないだろう。
それでも、黙っているわけにはいかない。
そう覚悟して口を開こうとしたその時、背後の扉が勢いよく開く音が聞こえた。
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