αで上級魔法士の側近は隣国の王子の婚約者候補に転生する

結川

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第1章

第5話(5)ルカ・エドウィンの断罪

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「なんで、あんたが…。あの毒じゃ朝までは持たないはずなのに…!」

ベネット嬢は蒼白になり、動揺で口元が震えていた。

「そうね。医療魔法士の方も言ってたわ。がなければ、とっくに命を落としていたと」

使用人に支えられながら、アンナ嬢は静かに一歩、また一歩とベネット嬢に近付いていく。
その靴音が響くたびに、ベネット嬢の表情が歪んでいった。

「公爵家の人間への殺人未遂。しかも、他者にその罪をなすりつけようとした。きちんと償ってもらうわよ」

ヨハンが使用人へ目配せすると、彼らは即座にベネット嬢の腕を取る。
彼女は茫然自失の様子で、抵抗する気配すらないまま連れられていった。
広間にはしんと冷たい静寂が訪れる。
その静寂を破ったのは、アンナ嬢の声だった。

「心配をおかけして申し訳ございません。私はこの通り無事です。しばらく安静にしていれば、後遺症もなく元通りに生活できると医師から言われました」

広間にいた人々の表情が、一気に明るく綻んでいく。
とりわけアンナ嬢と親しい令嬢たちは、目を潤ませながら胸を撫で下ろしていた。
僕もほっと息を吐く。

「ありがとう。ヨハンから聞いたわ、あなたが治癒魔法で処置してくれたと」

アンナ嬢が僕へと振り向き、お礼を告げる。

「とんでもないです。僕では完治まで出来ませんでしたから」
「それでも、あなたの処置がなければ私は助からなかった。この恩は必ず返すわ」

アンナ嬢の言葉に、僕は口元を緩め深く頭を下げた。
使用人に付き添われてアンナ嬢は大広間を後にする。
朝方まで生死の境をさ迷っていたのだ。今はゆっくり休んでほしい。

「大変お待たせいたしました!朝食が届きましたので、こちらに取りに来てください!」

使用人の掛け声とともに、街から取り寄せられた朝食が大広間に運ばれていく。
先ほどまでの緊張感は消え、広間は穏やかな空気を取り戻しつつあった。

肩の力が抜けると、連日の疲れがどっと押し寄せる。
緊張の糸が切れたのか、目の前がくらっと揺らいだ。

「ルカ!」

カミラの慌てた声が聞こえる。
徐々に上向く視界に、体が傾いているのだと分かった。
けれどもう、踏ん張る力はどこにもない。
床に倒れ込む衝撃を覚悟して目を閉じた瞬間、誰かが僕の背を支え、受け止めてくれた。

「大丈夫か?」

――え?

聞き慣れた声に、目を見開く。
振り向くと、見覚えのある顔がこちらを見ていた。

「王子!夕方ごろのお帰りではなかったのですか?」

ヨハンが、彼に駆け寄る。
僕は耳を疑った。
―――王子?

「早められるところは早めてきたんだ。ご令嬢たちを待たせるわけにはいかないし…それに、色々トラブルがあったと聞いたから」
「今回の件は私の不徳の致すところです。誠に申し訳ございません」
「謝らなくていい、対応に奔走してくれたと聞いている。ありがとうな。後で何があったか詳しく教えてくれ」
「はい」

頭の処理が追いついていかない。
僕は混乱したまま、二人の会話をただ見届ける。

「えっと…ヨハン様、この方は…?」

問いかけると、ヨハンは誇らしげな笑みを浮かべて紹介した。

「彼は、シュバルグラント王国第三王子――ハルト・シュバルグラント王子です」

その名を聞いた瞬間、思考が一気に固まった。
理解が追いつかず、僕はただ呆然と彼――ハルトを見つめる。

この瞬間から運命の歯車が回り始めたことを、僕はまだ知らない。
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