αで上級魔法士の側近は隣国の王子の婚約者候補に転生する

結川

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第1章

第1話(2)ルイス・シュトラールの死

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「待ってましたよ」

立派な白髭を蓄えた恰幅の良い男性が、扉を開けた僕たちを出迎える。

「ウィンストン博士、ご一報ありがとうございます。新たに発掘された古書とは」
「これのことです」

博士の前のテーブルの上には、傷んだ本が開かれたまま置かれていた。

「新しい魔導書の発掘は数年ぶりです。君達は幼い頃から私の研究を熱心に手伝ってくれていました。君達もこの魔導書に興味を持つだろうし、私も君達の力を貸してもらえれば、解読を進める一助になると思って声を掛けたんですが…」
「ウィンストン博士?」
「まずは目次だけ解読を進めてみたんです。どうやらここには未知の魔法について書かれているようでね」

博士は机の上に目を落としたまま言い淀む。
魔導書の隣のノートには、解読の一部が記されていた。
アデルと二人でその書き込みに目を通す。
―――"麻痺"、"爆破"、"意識喪失"、"操作"、"蘇生"、"転生"。

「これを解読することはパンドラの箱を開けることになるかもしれないと、ちょうど筆を止めていたところです」

不穏な言葉の羅列に、アデルと目を見合わせる。
ウィンストン博士の懸念はもっともだ。
解読を進めるべきか、止めるべきか、難しい判断に僕はごくりと固唾を飲んだ。
緊張感が漂う空気を破ったのは、アデルだった。

「今日はひとまず信用できる人だけに制限をして解読を進めませんか?ウィンストン博士も上からの指示で解読を進めているのでしょう?解読を中止するよう提言するにも、これだけでは少し情報が足りないような気がします。もう少し概要を把握した上で、解読が危険だと判断した場合には直ちに中止し、上に相談してみましょう」

アデルは博士に進言する。
その声色は凛とした中にも穏やかな色が滲んでいて、張り詰めた空気を緩ませた。

「今日は誰と解読を進める予定でしたか?」
「ニックとジャミルの二人が手伝いに来てくれる手筈です」
「でしたら、ルイスと二人で解読を進めるのはいかがです?私も博士もルイスのことは幼い頃から知っている。信用できるでしょう?」

突然白羽の矢が立ったことに、驚いて目を丸くしたままアデルを見やる。
にこりと笑ったアデルに、ウィンストン博士は勿論だと大きく頷いた。

「ルイスも問題ないかな?今日の君の仕事は大方片付いていると思うし、残りの仕事は他の人に回しておく」
「それなら、問題ないけど」

話がまとまったところで、アデルはちらりと研究室の壁掛け時計に目を遣った。

「本当は私も手伝いたいんだけど、この後の会議はどうにも外せそうになくて」

アデルは申し訳なさそうに言うと、博士に軽く声をかけて、研究室を後にする。
彼を見送ったまま扉に視線を向けていると、博士がぽつりとつぶやいた。

「アデル様は年々忙しさが増してるようですね。もう彼を気軽に呼ぶのはやめた方がいいかな」

博士はどこか寂しそうな顔をしていた。
高等学院を卒業し、公務が多くなったアデルは確かに年々忙しくなっている。
自由な時間も少なくなって、二人で頻繁に訪れていたこの研究室にも今ではなかなか足を運べていない。

アデルは第一王子として、ゆくゆくはこの国の王になる存在だ。
博士も僕も、本来なら立場を弁えて、気安く声を掛けるのはやめた方がいいのかもしれない。

「いえ、アデルはウィンストン博士のことが大好きですから、これからも呼んでいただけると喜ぶかと思います」

だけど僕は、アデルが僕たちにそうすることを望んでいないような気がした。
博士は僕の言葉に嬉しそうに表情を緩ませる。
僕は博士に一声かけると、アデルを追いかけるように部屋を出た。

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