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第1章
第1話(5)ルイス・シュトラールの死
しおりを挟むシュバルグラント王国には、三人の王子がいる。
第三王子の話はあまり耳にしないが、第一王子と第二王子は外交の席につくことが多く、アデルの側近である僕もよく知っている。
確かに彼らは20代前半だが、いまだに婚約さえしていないと聞いていた。
けれど、今までシュバルグラント王家は、王国内の申し分ない家格の令嬢や令息と婚姻を結んでいたはず。
それが、婚約相手を探しに他国を周遊しているとは驚きだ。
国際結婚となれば、国の情勢も変わる。
「他国の王女や令嬢を嫁に迎えるってことだよね?正式な申し出もせず、一介の外交官だけが会談に出るようなそんな気軽さで進めて良いものなのか?別の国と軋轢を生む可能性もあるし、慎重になった方が良いと思うんだけど」
「いや、第一王子と第二王子は従来どおり自国の令嬢とお見合いする予定だ。ただ、第三王子の婚約者候補が」
ハルトはそこまで言いかけて止めた。
少しの間何か考えるように視線を逸らしたかと思えば、こちらに向き直る。
「いや、まだ言わないでおく。いつか婚約者を連れて挨拶にくると思うから、そん時は温かく迎えてくれよ」
ハルトの言葉に、僕とアデルは頷いた。
快諾するような僕たちの様子に、ハルトは嬉しそうに笑った。
「お前らは?婚約者とか気になってる人とかいないのか?」
ドキリと心臓が跳ねる。
「僕は特には。時々"うちの娘はどうだ"みたいな軽口を言われることがあるくらいかな」
「ふーん、軽口じゃないものもありそうだけどな。アデルは?」
「私は最近お見合いの話をもらうことが増えてきたよ」
そう、側近だからよく知っている。
最近アデルは仕事だけでなく、お見合いや交流パーティへの参加など婚活方面でも忙しそうにしている。
数年前からもアデルにはお見合いや婚約の話はあった。
けれど、アデルの両親が乗り気ではなく、全てお断りしていた。
まずは王子として公務に慣れ、滞りなく務めを果たすことに集中してほしいと控えさせていたのだ。
ただ、アデルは彼らが思っていたより優秀で、ずっと早く公務を完遂できるようになっていた。
そのため、最近は断っていたお見合いの話を少しずつ受け入れるようになり、今やアデルに届くお見合いの申し出は後を立たない。
「気になる人はいたか?」
「うーん、特にはいないかな。良いと思う人を見つける気もあまりなくてね」
そうなんだと、意外な発言に心の中で相槌を打つ。
幼馴染で友人で側近で、誰よりもアデルと会話をしている時間は長いと自負しているけど、今まで何となく色恋方面の話題は避けてきた。
「勿体ねーな、アデル王子なら選び放題だろ?」
「そんなことないよ。私は相手を選べるような立場ではないしね。好きな人が出来ても、お互いに思い合える関係になれても、事情が変わって別の人と結婚しなくてはならない可能性もある。なら、私は結婚した相手を愛し、大事にしたいと思ってるんだ」
覚悟を決めた瞳で告げたアデルに、胸の奥が疼いた気がした。
だからこの手の話題は苦手なんだ。
アデルのことが好きなのに、一番近くにいるはずなのに、結ばれることはないと自覚させられるから。
男でαの僕は当然子を成せない。
だから、僕は絶対にアデルの結婚相手になることは出来ない。
遅かれ早かれ、アデルは結婚して僕よりも大事な人を作る。
第一王子としての責務を果たすために。
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