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第1章
第1話(9)ルイス・シュトラールの死
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「アデル?」
名前を呼ぶと、アデルはこちらに振り返る。
「ごめん、待たせた?」
「待ってないよ、私もさっき来たばかりだ」
慌てて駆け寄ると、アデルは顔を緩ませた。
「解読は順調?」
「うん。けどやっぱり、あの魔導書の解読はやめた方が良い気がする」
「そうか」
アデルは僕の言葉に、口元に人差し指を置きながら少し思案する。
「また明日研究室に立ち寄るよ。午前中なら時間が作れるはずだから」
「ありがとう。でも無理はするなよ」
多忙を極めるアデルを気遣うと、アデルは目を細めて頷いた。
「で、話したいことって何?」
「え?」
「ん?何か話したいことがあって呼ばれたんだと思ってたんだけど」
「あぁ…、うん…」
アデルは歯切れの悪い返答をする。
僕はアデルらしくないその様子に首を傾けた。
「何でもないんだ。ただ、ルイスと久しぶりに2人で他愛もない話がしたかっただけ」
「嘘」
間髪置かずにダウト宣言をした僕に、アデルは虚をつかれた顔をする。
あまりにも分かりやすい態度で嘘をついておいて、何故ぽかんとしているのか。
嘘が下手すぎて、今後王子として外交や交渉ごとをこなしていけるのか心配になる。
「話したいことがあるんだろ?言えよ」
僕がそういうと、アデルは迷う素振りを見せた。
じっとアデルが話し始めるのを待つが、一向に口を開く気配がない。
「言わないなら、このまま解散する」
「え!?待ってよ、ルイス!」
痺れを切らして、僕はスタスタと扉の方へ向かう。
すると、慌てて追いかけて来たアデルに腕を掴まれた。
力強く腕を引かれ、アデルの方へと向き直る。
拘束するように僕の両肩を掴んで、アデルは僕に尋ねた。
「ルイスは、ずっと私の傍にいてくれる?」
予想もしていなかった問いに意表を突かれた僕はその場で固まる。
ただ月明かりに照らされるアデルの顔を見つめた。
アデルの表情から切実さが伝わってくる。
軽口で聞いているわけではなさそうだ。
どうして急にそんな質問をするのかが分からない。
意図が掴めず困惑するが、答えは昔から決まっている。
「いるよ」
僕の返答に、肩に置かれた手の力が僅かに緩むのを感じた。
「てか急に何だよ。珍しく歯切れが悪いから、もっと深刻なことかと思ったわ」
「あ、いや、ルイスに言ってもいいのか、分からなくなって」
「なんだそれ。僕はお前の側近だ。アデルの側についてサポートし続けるのが俺の役目なのに、側にいないわけないだろ」
「そっか、そうだね、安心した」
アデルは表情を緩ませて、言葉を続けた。
「今日ルイスが上級魔法士になった時の話をしたでしょう?自国からも他国からも引き抜きや仕事の斡旋の声が掛かっていた時、私の側近を辞めてどこかに行ってしまうんじゃないかと、私は毎日ヒヤヒヤしていたんだ」
知らなかった事実を告げられて僕は驚く。
確かにあの時は、魔法の研究員やら講師やら護衛やら、各所から仕事の打診を受けていた。
アデルは上級魔法士になった僕を自分事のように喜んでお祝いしてくれていたので、その裏で僕がいなくなることに怯えていたとは思いもよらなかった。
思わず声を上げて笑うと、アデルはきまりが悪そうに目を反らした。
こちらに視線を戻させるように、僕はアデルの頬に手を置いて告げた。
「僕が上級魔法士になれたのはアデルのおかげだよ」
「え?」
「誰よりも強くなれば、アデルを守り抜けると思って魔法の上達に励んだんだ。アデルの側近を辞めたら意味がない」
アデルは僕の言葉に嬉しそうに目元を緩ませる。
そうして、頰に置かれた僕の手に、その手を重ねた。
「私も同じだよ。そんなルイスに感化されて、自分の身やルイスを守る力が欲しくなって、魔法の習得に努めた。今年は不合格だったけど、来年は私も合格してみせるよ」
お互い目を細めて笑い合う。
その時、遠くで何かが光るのが見えた。
名前を呼ぶと、アデルはこちらに振り返る。
「ごめん、待たせた?」
「待ってないよ、私もさっき来たばかりだ」
慌てて駆け寄ると、アデルは顔を緩ませた。
「解読は順調?」
「うん。けどやっぱり、あの魔導書の解読はやめた方が良い気がする」
「そうか」
アデルは僕の言葉に、口元に人差し指を置きながら少し思案する。
「また明日研究室に立ち寄るよ。午前中なら時間が作れるはずだから」
「ありがとう。でも無理はするなよ」
多忙を極めるアデルを気遣うと、アデルは目を細めて頷いた。
「で、話したいことって何?」
「え?」
「ん?何か話したいことがあって呼ばれたんだと思ってたんだけど」
「あぁ…、うん…」
アデルは歯切れの悪い返答をする。
僕はアデルらしくないその様子に首を傾けた。
「何でもないんだ。ただ、ルイスと久しぶりに2人で他愛もない話がしたかっただけ」
「嘘」
間髪置かずにダウト宣言をした僕に、アデルは虚をつかれた顔をする。
あまりにも分かりやすい態度で嘘をついておいて、何故ぽかんとしているのか。
嘘が下手すぎて、今後王子として外交や交渉ごとをこなしていけるのか心配になる。
「話したいことがあるんだろ?言えよ」
僕がそういうと、アデルは迷う素振りを見せた。
じっとアデルが話し始めるのを待つが、一向に口を開く気配がない。
「言わないなら、このまま解散する」
「え!?待ってよ、ルイス!」
痺れを切らして、僕はスタスタと扉の方へ向かう。
すると、慌てて追いかけて来たアデルに腕を掴まれた。
力強く腕を引かれ、アデルの方へと向き直る。
拘束するように僕の両肩を掴んで、アデルは僕に尋ねた。
「ルイスは、ずっと私の傍にいてくれる?」
予想もしていなかった問いに意表を突かれた僕はその場で固まる。
ただ月明かりに照らされるアデルの顔を見つめた。
アデルの表情から切実さが伝わってくる。
軽口で聞いているわけではなさそうだ。
どうして急にそんな質問をするのかが分からない。
意図が掴めず困惑するが、答えは昔から決まっている。
「いるよ」
僕の返答に、肩に置かれた手の力が僅かに緩むのを感じた。
「てか急に何だよ。珍しく歯切れが悪いから、もっと深刻なことかと思ったわ」
「あ、いや、ルイスに言ってもいいのか、分からなくなって」
「なんだそれ。僕はお前の側近だ。アデルの側についてサポートし続けるのが俺の役目なのに、側にいないわけないだろ」
「そっか、そうだね、安心した」
アデルは表情を緩ませて、言葉を続けた。
「今日ルイスが上級魔法士になった時の話をしたでしょう?自国からも他国からも引き抜きや仕事の斡旋の声が掛かっていた時、私の側近を辞めてどこかに行ってしまうんじゃないかと、私は毎日ヒヤヒヤしていたんだ」
知らなかった事実を告げられて僕は驚く。
確かにあの時は、魔法の研究員やら講師やら護衛やら、各所から仕事の打診を受けていた。
アデルは上級魔法士になった僕を自分事のように喜んでお祝いしてくれていたので、その裏で僕がいなくなることに怯えていたとは思いもよらなかった。
思わず声を上げて笑うと、アデルはきまりが悪そうに目を反らした。
こちらに視線を戻させるように、僕はアデルの頬に手を置いて告げた。
「僕が上級魔法士になれたのはアデルのおかげだよ」
「え?」
「誰よりも強くなれば、アデルを守り抜けると思って魔法の上達に励んだんだ。アデルの側近を辞めたら意味がない」
アデルは僕の言葉に嬉しそうに目元を緩ませる。
そうして、頰に置かれた僕の手に、その手を重ねた。
「私も同じだよ。そんなルイスに感化されて、自分の身やルイスを守る力が欲しくなって、魔法の習得に努めた。今年は不合格だったけど、来年は私も合格してみせるよ」
お互い目を細めて笑い合う。
その時、遠くで何かが光るのが見えた。
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