αで上級魔法士の側近は隣国の王子の婚約者候補に転生する

結川

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第1章

第2話(1)転生先は王子の婚約者候補

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意識が沈んでいく。
深い眠りにつく僕を、誰かが肩を揺らして起こそうとする。
けれど、このまま寝させてほしい僕はそれを無視した。
肌に感じる暖かな日差しと定期的な振動が心地いい。
あともう少しだけこのまま眠らせてほしい。

「ルカ!」

叱るように名前を呼ばれて慌てて瞼を開ける。
目の前には僕を睨みつける老齢のご婦人が座っていた。

ここはどこか確認しようと辺りを見回す。
最大4人が限界だろう狭い木造の空間に、足元から伝わる定期的な振動。
小さな窓から見える景色はゆっくりと移り変わっていく。
どうやらここは馬車の中のようだ。

「何眠ってるんだい!」
「す、すみません…!」

頭を下げると耳元で金属同士がぶつかる音がした。
驚いて耳のあたりに手をやると、耳飾りが付いていることに気付く。
僕は目線を下に向けて自分の身なりを確認した。
質の良い黒の燕尾服に身を包んでいるが、見覚えのあるものではない。
体格も以前より小さく、手足も幾分か細い気がする。

"ルカ"と、先程目の前のご婦人は僕のことを呼んだ。
"ルカ"としての記憶はないが、"ルイス・シュトラール"としての記憶はある。
死の間際、転生魔法を発動したこともきちんと覚えている。
どうやら僕は、"ルカ"という人間への転生に成功したようだ。

「もう時期着くそうだ。その寝ぼけた顔を早く整えなさい」

ご婦人とルカは、きっと仲が良くないのだろう。
先程から口調はきつく、見下すような視線を送られている。
「自分はルカではなく転生した別の人間だ」などと言い出せば、即座に一蹴されそうだ。

沈黙の中、蹄の音が聞こえる。
この馬車は一体どこへ向かっているのだろうか。
目的地に着く前に、出来る限り情報が欲しい。

「あの」
「……なんだい?」
「あなたも初めて行かれるんですよね?」

僕は情報を引き出すためご婦人に問う。
彼女は僕に"着くそうだ"と言った。
行ったことのある場所なら伝聞ではなく、"着く"と言うだろう。
おそらく僕が寝ている間に馭者が教えてくれたのではないかと推測する。
口調が普段と合っているかは一か八かだが、何も聞き出さないよりはマシだ。
僕は早くなる鼓動を感じながら、彼女の返答を待った。

「当然さ。こんな縁もゆかりもない国に来る用なんてないからね。金払いさえ良くなきゃ、こんな長旅断ってるさ」

どうやら僕と彼女は、誰かから金銭を受け取り、遠方から国境を跨いで目的地に向かっているらしい。
僕も彼女も身なりは良い方で、そこそこ裕福であることが窺える。
彼女が金払いが良いと発言するならば、相手は僕達を迎えるためにかなりの大金を支払ったのだろう。

「あちらの方とは会ったことがあるんですか?」

ご婦人が怪訝そうな顔をする。

しまった、何か間違えたか?
背筋がヒヤリとしたが、口から出た言葉は取り消せない。
動揺を悟られないように、返答を待つ。

「お前、急によく喋るじゃないか。普段返事さえままならないのに」
「え、あ、いえ、少し気になって…」

ルカ、無口キャラだったのか!
僕は笑ってその場を取り繕う。
ご婦人は眉を顰めたままだったが、「あぁ」と合点のいったように呟くと、意地の悪い笑みを浮かべた。

「お前はいつものように品を作ればいい」

彼女は卑しい者を嘲笑うように言葉を続けた。

「Ωを嫁候補にしたいだなんていう酔狂な王子だ。Ωとのセックスに興味があるんだろう。でも絶対にお前は本妻には選ばれない。Ωはせいぜい妾として性欲の捌け口にされるだけさ」


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