【完結】異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました

樹結理(きゆり)

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カナデ編

第十話 作り笑顔

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 真崎さんと呼ばれたその方が振り向いた。
 端正な顔立ちに涼し気な目元、そして見事な金髪……金髪ですね……とても見事な……。
 いえ、ちょっと驚いただけですよ? 似合っておられますよ? とても。端正な顔立ちにとても良くお似合いです。

「蒼汰か、ん? 誰だ?」

 思い切り睨まれました。でもあまり怖く感じないのはシェスレイト殿下の睨みを知っているからかしら、と少し笑いそうになってしまった。

「真崎さん、こんにちは! 今大丈夫ですか? 彼女は水嶌さんです。イセケンの見学がしたいって」
「イセケンの見学? 本当にか?」

 さらにジロリと睨まれたわ。疑われてますね。後ろめたい気持ちはありますが、興味があるのは本当だし、ここは引きませんよ? ここで引いてしまうと、恐らくこの方に不審がられて見学はさせてもらえないでしょうし。

 睨まれても平静を装いましたよ。これは「リディア」の得意技です。社交界で培われた鉄壁の笑顔。

「胡散臭い笑顔だな」

 ガーン…………、それなりに自信のある笑顔だったのに……、これはもしや今までも頑張って笑顔を作っていたのはバレバレだったのかしら……、ショックです……。

「真崎さん! そんな言い方!」

 蒼汰さんが慌ててフォローしてくれるけれど、最初の一言は効きましたよ。
 あまりのショックに呆然としていたら、間抜けな顔をしていたようで、思い切り笑われた。

「ブフッ、アッハッハ!! 間抜けな顔だな!!」

 再びガーン。笑顔は胡散臭いと言われ、ショックを受けたら間抜けな顔と言われ……、踏んだり蹴ったりです。

「アッハッハ! ブッ、クククッ、…………、ゔゔん、あー、いや、まあなんだ。面白い女子だな。そこで顔崩したら作り笑顔が台無しだぞ」

 ひとしきり笑った後、咳払いをし落ち着いたところでさらに追い打ちを掛けられました。
 つ、作り笑顔……、確かにそうですけど……、そこまでストレートに指摘されるとは思わなかった。

 いまだに笑いを抑えきれない様子の真崎さん。そこまで言われたらもう取り繕っても仕方ないですよね。

「愛想笑いで申し訳ありませんでした。水嶌奏と申します。蒼汰さんから聞いて、イセケンに興味を持ったのは本当なんです。見学させていただけませんか?」

 お母様からの躾の賜物でもあるけれど、笑顔でさえいれば無難に事が済むと思っていたのは私自身。今までの私の未熟さです。ここは素直に謝りましょう。ここはあちらの世界ではない。社交界での振る舞いとは違うのだから。

「あー、まあ上辺だけの女たちよりは、分かりやすい奴みたいだしな。良いぞ」

 そう言うと真崎さんは頭にポンと手を置き、「悪かったな」と呟いた。
 それは睨んだことに対して? 胡散臭い笑顔と言ったことに対して? それとも間抜けな顔と言ったこと? 作り笑顔と言ったこと? それとも爆笑したことに対して?

 どれに対しての「悪かった」なのかしら。そう思うと若干引き攣った笑顔になってしまい、再び笑われました。もう取り繕っても無駄ですね。

 蒼汰さんも苦笑していたけれど、その後真崎さんは笑いながらも丁寧にイセケンについて教えてくれた。

「まあ異世界研究って言っても実際異世界を見たことある訳じゃないから、願望を追い求めている感じだよな」
「願望?」

 蒼汰さんが続ける。

「うん、所謂パワースポットをね、色々探してる感じかな。パワースポットと言われている場所を巡ったりして、その場所を調べたり、パワースポットのある地点の関連性とかを調べたり、とかかなぁ」

 蒼汰さんはそう言うと、棚から地図を出して来ると机に広げた。
 地図にはバツ印が何ヶ所か書いてある。

「このバツ印がパワースポットですか?」
「そう。今まで僕と真崎さん、後二人いるけど、まあ二人はたまに、そうやってあちこち出向いた場所に印を入れてあるんだ」

「ま、旅行がてらな感じだけどな」

 真崎さんか笑った。

「アハハ、まあそれもありますね。パワースポット探しながら旅行も楽しむ、って感じかな。のんびりしたサークルだよ」

 蒼汰さんと真崎さんは旅行した先々を思い出して、和気あいあいと楽しそうだ。

 異世界の何かが分かっているという訳ではないのね。パワースポットというものを探して、そこから異世界に繋がる何かがないか、と探っている、ということね。

 少しだけ安心……、安心というのもおかしいかしら。異世界が知られると何だと言うの? 別に問題はないような。
 蒼汰さんたちならば否定的にはならないはず。
 でも……、カナデの記憶から考えるとやはり異世界なんてものは知られないに越したことはない気がする。

 この世界は他人と違ったり、異質なものであったり、といった今までにないようなものは、珍しいものとして受け入れられるか、逆に徹底的攻撃されるかどちらかだ。

 しかも受け入れられるよりも、攻撃されるほうが圧倒的に多いと思う。ならば、知られないに越したことはない。うん、蒼汰さんたちには悪いけど、私は私のいた世界については話せない。

「水嶌さん? どうかした?」
「え、いえ、何でもありません。楽しそうだな、と思いまして」
「水嶌さんも一緒にパワースポット巡りする!?」

 蒼汰さんが目を輝かせてます。えっと、どう答えたら……。楽しそうだと思ったのは事実ですが、いまだに後ろめたい気持ちはあるままで……。

「んー、まあ気になるなら、お試しで入ってみたらどうだ?」
「お試し……、そんな軽いノリで良いのですか?」
「ブフッ、そんな固く考えるなよ。所詮蒼汰が一人で張り切ってるだけだしな」

「真崎さんだってノリノリじゃないですか!」

 蒼汰さんはムスっとして反論していた。そのやり取りがおかしくてクスッと笑うと真崎さんが急にこちらを向いた。

「お、普通に笑えるじゃないか。そのほうが良いぞ。作り笑顔じゃなくて」

 真崎さんはそう言ってニッと笑った。

「それとそのやたら堅っ苦しい喋り何とかならないのか?」
「か、堅苦しい? それはどのような……?」

 意味が分からず聞き返すと、呆れたような顔の真崎さん。

「それだよ、それそれ」
「?」

 全く分からずポカンとしていると、蒼汰さんが苦笑していた。

「んー、真崎さん、水嶌さんはこの喋り方は変わらないと思いますよ? 良いじゃないですか、可愛いし」

 か、可愛い!? まさか蒼汰さんにそんなことを言われるとは思ってなかったので、おろおろしてしまう。頬が熱くなるのが分かった。
 こちらの世界ではあまり男性はそのようなことを言う印象はないのですが!

「ま、良いか。分からないとか天然にも程があるな、奏」
「え……」

 初めて天然と言われてしまいました……私って天然なんですかね……。いえ、それよりも! さり気なくて聞き逃しそうでしたが、さらりと名前を、しかも呼び捨てで呼ばれましたよね!? え!?

「真崎さん……」

 蒼汰さんが苦笑しながら溜め息を吐いている。

「俺は真崎一哉まさきかずやだ。蒼汰のこと名前で呼んでるなら俺も一哉で良いぞ」
「一哉さん……」
「おう、よろしくな、奏」

 何だか一哉さんのペースに乗せられている気はするけれど、心地良いペースに自然と笑顔になれた。

 自然な会話が出来るようになり喜んでいると、何の前触れもなく部屋の扉がいきなり勢い良く開き、心臓が止まるところだった。
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