「恋もお付き合いもまだいいかなって思ってるんです~」と言いながら婚約者を盗んでいった聖女には、そいつ以外のすべてを盗み返してさしあげますわ

松ノ木るな

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⑥ 見られてたなんて──!!

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 デザートのフィッシュサンドを食べ終え、私は大きくため息を吐く。

「はぁ。私も早いところパートナーを見繕わないと」

 そこで周囲の目がギラっと光る。ガタっと椅子から立ち上がった者もいる。しかし彼らは何も言えないでいる。

 それはそうだ。私と組めば確実に合格できることは分かっている、が、その後のことを考えると誰しも躊躇するだろう。私の隣で任務の重責に耐えられる者など、そういるものではない。いたとしてもとっくに組む相手など決まって……。

「お前、卒試の相手いないのか」

 ずいぶん鷹揚おうような、よく通る逞しい声が私の背後から上がった。
 振り返るとそこにいたのは、“特盛カレーライス山鳥の親子添え”をがつがつと食している居丈高な男だった。体格の良い……と言っても、戦士クラスならこれが普通だろう。飄々とした態度であるのに、ギラギラした青い目から赤い闘志が隠し切れていない。

「あなたは……6年、戦士クラスの級長」

「ジオライオン・グラセスだ」

 まぁ、知っている。だって彼は私の実家、ヴァレロの政務上のライバル、グラセス侯爵家の跡取り息子。同じ剣士最上級職・剣聖ソードエスカトスを何代にも渡り排出している同士、代々しのぎを削ってきた。

 そんな家の次期当主が、私の家名を知ってて声を掛けたというの?

「そういうあなたは? まだ契約ダブル相手いないの?」

せんせい独りソロで行きたいと言ったら却下されたんだ」

 周囲もさすがに彼には敵わないと、私の相方ポジを得る意欲を引っ込めたようだ。さすがジオライオン様だ、という声も聞こえる。

「私と一緒に行きたいの?」
「そうだな、まぁ来い」
「は?」



**

 唐突に試験会場にでも連れていかれるかと思ったら、ここは学院内の「寂れた女神の塔」。

 もう鳴ることはない、大きな鐘が吊るされている。その屋根に彼はひょいひょいと跳び乗っていった。

「あ、ちょっと待ってよ」
 私もそれに付いていく。

 私をダブルに誘っているのではないの? どういうつもりなのか。

 正直、私も時間の余裕がそれほどないし、多少はこちらから歩み寄ってあげる。

「あなたほどの実力者でも、私の才能を欲しているの? まぁ素直に頼んでくるなら、ダブル組んであげなくもないわ。私もちょうどいい相手がいなくて」

「才能? お前ポンコツじゃねえか」

 ……は??

「なに? あなた私の何を知っててそう言うの? 私のこと何も知らないの??」

「まぁ、はっきり言ってあんまり知らないんだが」
「私を知らないって何!? ずっと登校拒否してた!?」

「いや、聞けよ。みんなが思っているほど天才の塊じゃねえだろってことだ」
「どういう意味よ」

「魔クラスにいて剣技の腕が落ちないように、休み時間にこっそり素振りしてたりな。6年間」

「えっ!!」

 なんで知ってるの!

 そう、私はこの6年間、いつも休み時間この人気ひとけのない塔に来て、この鐘の下で腕立てと腹筋と素振りをしていた。なんでこの人知ってるの……。

「俺6年間ずっと、休み時間ここで昼寝してたんだよ」

 ずっと見られてた~~!? 誰にもバレない様にここに来ていたのに……。

「それをポンコツって、ひどいわ……」

 顔が一気に熱くなってしまった。見られてたなんて、恥ずかしい……。

「ああ、どんな課題もなんてことないなんて涼しい顔しておいて、こんなところで汗振り乱して素振りしてるのはポンコツ精神だろ」

「何度もポンコツって……!」

 そこで彼は私の後ろ頭を大きな手で包み寄せた。

「でも俺は嫌いじゃねえよ」

「え?」

「血筋の才能に慢心せず、努力を怠らない。そんな人間でなきゃ組む気にならねえ」

「……!」

 分かるわ。私もそう思ってる。努力を人に見せつける気は更々ないけど、努力を認められる人が好き。

「俺と組むか?」

「そんなあっさり……。先のことを考えているの? あなたの家と私の家は……」

「あ──なんかいろいろメンドくさいこともあるが、いいさ。親父でもなんでもぶん殴ってやろう」

 ものすごい脳筋!

「……でも、いいか」

「ん?」

「組んであげるわ! 私の足引っ張らないでよ!」

「いや、俺が先を行くからな。お前はサポやれ」
「ダメよ私が前衛。ボスのトドメは私が刺す」

「じゃあ競争だ。卒試までに狩ったモンスターの総量でボス戦の役割決めるぞ」

 彼は立ち上がった。今日は昼寝しないようだ。

 私には分かる、彼は今、ウズウズしている。とにかく狩りたがってる。実力を見せつけたがってる。戦意がオーラとなって身体中から逆立ってる!

────なにこれ、もう。ゾクゾクするぅ!

「望むところよ。負ける気はないから」



 数日後、私たちは勇んで卒業試験に飛び込んで、制限時間の半分でクリアしてきた。

 盗賊の血を一滴も汲んでいないこの男に、いろんな大事なものを私が“奪取スティール”されてしまうのは、もうちょっとだけ先の話である。



                ~FIN~

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感想 3

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みんなの感想(3件)

おゆう
2023.01.02 おゆう

悠然としているようで、見えないとこでは白鳥のように足をバタバタさせていたなんてギャップがまたたまりません(*´艸`*)。ヒーローとはアッサリエンドでしたね(笑)。

2023.01.02 松ノ木るな

ギャップ萌ぇ……げふん、努力を認めていただけるとアネモネ喜びます~♪

うーん、このふたりのイチャイチャ(=このストーリーの先)書きたかったのですけど、
脳筋×脳筋って
恋愛ジャンルというよりファンタジージャンル一直線になってしまいそうで。
しばらく脳筋カップルのラブ構想の修行に行ってきますε=(((((ノ`・Д・)ノ

解除
おゆう
2023.01.02 おゆう

圧倒的強者感、最高です😆。こんな男に費やした全てがもったいなくなりますね(笑)。

2023.01.02 松ノ木るな

赤髪スレンダー剣豪美女、気に入っていただけたら嬉しいです!
そのうえ情に厚い生真面目優等生なので、イキり系ダメ男を面倒見ちゃうのもお約束(笑)

解除
おゆう
2023.01.02 おゆう

これは自業自得なスカッとざまぁが期待出来そう(((*≧艸≦)ププッ。

2023.01.02 松ノ木るな

いやぁざまぁスベりに定評あるヘタレ作者なので、期待値7割引きでお願いしますっ!(滝汗)(←値引き求めすぎやん…。

解除

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