錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

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ソムヌス・テネーブルは王族であるが故に、神を信じていなかった。

だってどんなに女神様に祈って父親の病は治らなかったし、どんなに信仰深くいても友達と思った者は裏切った。

それを女神の与えた試練だなんていう人もいたけれど、そう思い込むにはソムヌスは人の汚い部分を知りすぎてしまっていた。

何故ならソムヌスの生まれた王族という立場が、王宮という場所が、『幼い』なんて関係なく『現実』を見せつけてくるのだから。

(……このまま、死ぬのかな……)

朦朧とした意識では指先1つ動かせやしない。それでも、どこか遠くで兄の声が聞こえる……そんな気がした。

左側が熱い。でもそれ以上に体の中心が、奥が、この心臓が痛い。
魔力が中で渦巻いているのが分かる。きっと、これはよくないものだ。

(兄様、もう僕のことなど見捨ててください……せめて、被害が広がる前に……)

なんて願った所で言葉どころか、その唇を震わせることすらできない。
ああ、自分は本当に出来損ないだ。せめて兄の足だけは引っ張りたくなかったのに。

そんな時だった。
ふと鮮明に

「どうか、弟を。ソムヌスをお助け下さい。」

兄の声が聞こえた。そして

「うん、いいよ。」

と、答えた声は一体誰だったのだろうか。


****


「……ぁ……れ……?」

暖かいい日差しに、瞼が持ち上がった。体が動く。
それに、体の中を渦巻いていたあの気持ち悪さが無くなっている。

とはいえ、ようやく出せた声はあまりにも掠れていて、ソムヌスは今際の夢でも見ているのだろうか、と窓から差し込む暖かい日に目を細めた。

「あ、起きた。」
「ぇ……」

不意にその日差しを遮った人影。
こちらを見やる茶色の髪に瞳というありふれた色をしながらも何処か作り物じみた均等の取れた顔。

その顔にソムヌスは見覚えがなく、咄嗟に逃げようと勢いよく起き上がった。

それに目の前の少年は眉を寄せたが、彼が何か言う前に

「ソムヌス!」

という、兄の声が飛び込んできた。

「ああ、よかった!目が覚めたんだね!ああ、本当に良かった……!」

兄はそう言うや否やすぐさま駆け寄り、痛いほどにこの身を抱きしめる。

その確かな温度に、ようやく夢ではないと気が付くも、やはり茶色い瞳を持つ彼に見覚えはない。

「……ねぇ、診察したいんだけど。」

当の本人は抱き着く兄にどこか冷ややかな視線を送っていた。

「ああ、申し訳ない!……ソムヌス、彼はとても偉大な方だ。失礼のないようにね。」

なんてそんな視線を送られている兄は笑顔で告げるが、王族である我々が失礼してはいけないような程の地位のある者に彼のような人がいただろうか?

しかし、診察、という言葉からしても僕を死の淵から救い出したのは彼なのだろう。ソムヌスは静かに兄の言葉に頷いて見せた。

「はい、まずは水飲んで。」

と、少年に渡されたグラスを受け取る。
それをグイッと飲み干せば

「意識はしっかりしているね。違和感ある場所はある?特に心臓とか。」

と、更に言葉が続けられた。

「いえ、特には……」

そう答えた声には先ほどのような出にくさはなかった。

「そ。じゃあ何か感じたらすぐ言ってね。しばらくは通うつもりだし。」

媚びも嘲笑も含まぬ、あまりにもあっさりとした物言いと態度は何だかとても新鮮で、ソムヌスの胸に言葉で言い表せぬ感情が湧き出でる。

紙に何やら書き込むその御人に、兄が「弟の経過はどうかな……?」とそろりと問いかけた。

「このままなら問題なさそう。もう数日様子見は必要だけど。」

またもやあっさりとそう答えたその人の言葉に、兄がホッと息をつく。

(お医者様なんだろうか……それとも神官様……?)

しかし、彼はシンプルなワイシャツ姿で白衣もローブも着ていない。どちらとも断定できない彼に

「あの……どちら様でしょうか……?」

と、恐る恐るその疑問を投げかけてみる。
すると

「ヒナタ。ただのヒナタ。ただの錬金術師アルケミストね。ただの一般人。」

やたら『ただの』を主張する答えが帰ってきた。

(……それって結局ただの一般人ではないのでは……?)

そもそも錬金術師アルケミスト自体が貴重な職業ジョブ。その時点でただの、という前置きは意味をなさない気がする。

ちらりと横目で兄を見れば、兄も「あちゃー」というような幼子のやらかしを見守る親のような目線を向けていた。
やはり只人、というわけではないらしい。

しかし、

「……僕を救ってくださり、ありがとうございます。」

あの苦しみから解放してくれたのは間違いなく彼なのだ。ベッド上で申し訳ないが深々と頭を下げれば、「別に。」と素っ気ない返事のみで手をひらりと揺らしたヒナタ様。

「というか、そもそも時間なくて最後の最後で力技でどうにかしたようなものだし。あんなの錬金術師アルケミストとして完璧な解呪とは言えない……!必ず呪いに対して完璧な対呪いのポーションを開発してやる。一時的とはいえ効果があったポーションもあるし、持続性がなかった原因を解明して、そこを改良していけば……そうだ、素材がありあわせだったのも良くなかったんだ。確か南の国に聖力を持つ素材が自生してて……」

「わ、わぁ……」

突然の止まらぬヒナタ様の口とペンを動かす手。
何なら早口過ぎて半分くらい聞き取れなかった。

しかし、1つ聞き取れた単語に不穏な物があり「呪い……?」とその言葉を聞き返す。

それにヒナタ様は

「そ。君の心臓に呪いが刻まれてたんだよ。」

と、あっけらかんと言われた言葉にソムヌスはヒュッと喉を引き攣らせた。

「の、呪いなんてものがどうして……!?」

呪いなんて禁忌も禁忌の魔術が何故私に、とソムヌスは底知れぬ悪意にその身を震わせる。
それにヒナタ様は「さぁね。」と肩を竦めてみせる。
やはりその物言いは淡々としていた。

「正直呪いは俺も専門外だし……あ、レトゥムさん、ギルドと役所行くついでに神殿に寄ってもいいですか?」

「ええ。もちろん。」

ヒナタ様の問いかけに兄は直ぐさま首肯する。

「神殿なら呪いについての詳しい話も聞けたら、解呪のポーションのヒントになるかも。」

そう言って紙からペン先を離したヒナタ様に、

「あの!僕もついて行っても良いでしょうか……!?」

ソムヌスは気づけばそう声を上げていた。



**後書き**

前話でエールをしていただきました!
ありがとうございます!
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