錬金術にしか興味のない最弱職アルケミストの異世界勘違い道中

奏穏朔良

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そんな訳で、ひとまずギルド、東ノッテ支部にやってきたナタ達。
レトゥムとソムヌスはお忍びなので目深にローブのフードを被り、逆に冒険者としてある程度顔の知れているカルロが堂々と先導する形となった。
ナタの冒険者登録が目的なので、ナタ自身はローブのフードは被らずに羽織るだけに留めている。

とは言え2人もフードを被っていると案外人目に付くようで、ギルドに訪れていた冒険者たちにはうたぐるような視線が向けられた。

しかしカルロは気にする素振りも見せず、まっすぐ受付へと向かい「新人の登録を頼めるか?」と声をかけた。

「あれあれあれぇ?誰かと思えば最近更生したカルロさんじゃぁないですかぁ?」

と、声をかけられた受付の少年はどこか煽るような声色で口角を上げる。それに「更生……いや間違ってはいないんだが……」と複雑そうに頭を掻くカルロ。

「こいつの新規登録をしてぇんだ。スラム出身で戸籍がねぇ。」

そう言ってカルロが親指をナタに向ける。その先をたどって少年の目線もナタに向けられた。

「こんなちんちくりんに冒険者ですかぁ?まあいいですけど。弱くて死んでも自己責任なんでぇ。」

なんて、少年が鼻で笑ったため、カルロはナタが魔法をぶっ放すんじゃないかと顔を青くし、レトゥムは神(※違います)へのその態度に怒りで顔を赤くした。

しかし当の本人は「はあ……まぁ死なないと思うんで大丈夫です。」と特に気にする様子もなかった。

だって、ゲームのステラート世界じゃこんなの序の口。オープンワールドで他ユーザーがたくさんいるゲームの中じゃ最弱職アルケミストなんて煽りの的。
執拗に絡んできたり意味の分からん罵倒チャットを延々に送られてくるのに比べたらこんなの可愛いもんである。

というか今更だがゲームのステラート、ユーザーの治安悪いな。

「身元保証人はどぉしますぅ?」
「俺と後ろの奴が身元保証人になる。」

カルロがそう答えれば「ふ~ん?」と今度はローブ姿のレトゥムを品定めするかのように、視線を上から下まで滑らせた受付の少年。

「ま、なぁんか怪しいけど、わかりましたよぉ。はいこれ書いてくださぁい。」

と、失礼なことを言いながらも1枚の紙をカウンターに出した少年は、さっさと書けと言わんばかりにペンをカルロに突き出した。
それに苦笑しつつ受け取ったカルロがさらさらとペン先を動かしてそこに書き込む。そしてレトゥムにペンを渡し、今度はレトゥムが名前を書いた。

そこに書かれた名前を見た少年が「は……?」と呆けた声をもらしたと思ったら、ガタリと椅子を倒す勢いで立ち上がり、

「こ、こ、こちらにどうぞ!!!」

と慌てた様子で手のひらを上に向け一室を指し示す少年。それに「……大事おおごとになっちまったな。」と、カルロはポリポリと頬を掻いた。

「お忍び用の名前を書く予定だったが、ねえ?あんな態度をナタ様に取ったんだ。これは私への宣戦布告と言っても過言ではないだろう?そうは思わないかい?」
「いやそれは過言だろ。」

事を大きくした当事者のレトゥムは真顔で変な事を口走り、カルロはそれに死んだ目でツッコみを入れる。
今度からこの支部に来た時に好奇の目にさらされるのは確定だ。カルロはひっそりとため息をついた。

「これはこれは、初めまして。私、この東ノッテ支部のギルドマスターをしておりますパオロと申します。まさか、レトゥム殿下がいらして下さるなんて、なんて光栄な……」

はは、と無理やり上げた引きつった口角に冷や汗を携えたギルドマスター。案内された部屋は荒くれ者が屯する受付とは反対に小奇麗に整頓されていた。

「気にしないでくれ。あくまでお忍びだからね。」

と、優雅に出された紅茶に口をつけるレトゥムにナタは「早く帰りてぇ。」と顔を歪める。面倒事の予感しかしない。

「と、ところで、殿下が後見人を務めるだなんて、その少年は一体……」

そう言ってちらちらとナタに視線を向けるギルドマスターに、

「余計な詮索は身を滅すと知らないのかい?まあ、警告だけしておこう。」

ニッコリと笑みを張り付けてレトゥムはティーカップをソーサラーの戻した。その笑みにギルドマスターが喉から引きつるような音を出す。

「彼に無礼を働くのなら我々・・を敵に回す覚悟をしなさい。」

そう言ったレトゥムの目は冷めきっていた。
これが狂信者……!威圧感が違う。

「わ、我々と言いますと……」

ちらり、とギルドマスターが目線を向けたのはナタの隣に立つカルロだった。恐らくカルロが後見人として真っ先に名前を書いていたので複数形に含まれるのは彼だろうと予測したのだろう。
しかし、その視線には王子はまだしも一度落ちぶれた冒険者なら別に怖くはない、という驕りが滲んでいた。

それにレトゥムも気づいたのだろう。いまだローブを被ったままのソムヌスに目線を向ける。
するとソムヌスは1つ頷いて、そのフードを外して見せた。

「王族、と取っていただいても構いませんよ。僕にとって、彼は恩人ですから。」

と、その顔と言葉を認識した途端、ギルドマスターは顔を真っ青にし「け、け、け、決して無礼などそのようなことはっ!」と汗を飛ばす。

それをつまらなそうに眺めるナタは「どこの世界も権力には勝てないんだなぁ。」と他人事のように思っているが、これお前の話だぞ。
多分ナタの面の皮の厚さはオークの脂肪並みに厚い。

「……ねぇ、もう終わった?帰っていい?」

なんて最終的には飽き飽きした空気を隠しもせず言い放つ始末。ギルドマスターは白目を向きたくなった。

そんなナタの言葉に「ええ!終わりました!……終わったよね?もう用はないでしょう?」と前半はナタに輝かしい笑顔。後半はギルドマスターに瞳孔かっ開いて威圧感増し増しで告げたレトゥム。
カルロはギルドマスターに向かって手を合わせた。まだ死んでないぞ。

最早青を通り越して白くなった顔でギルドマスターが差し出した冒険者カードをレトゥムが受け取り、さあ支部を出ようか、とした所で

「た、大変ですマスター!!」

と、1人の冒険者が扉を壊しそうな勢いで入ってくるではないか。

即座にフードを被った王族2人に、カルロがいつでも動けるように前に出る。

「いきなりなんだ⁉大切なお客様がいらしてるんだぞ!」

そう唾を飛ばして怒鳴るギルドマスターに「緊急事態なんです!」と一切引かず言葉を返す冒険者。
泥にまみれたその姿に、ナタは僅かに眉を寄せた。

ちなみに汚いからではない。これと言って怪我をしていないからである。このマッドサイエンティストめ。

「ヤクルスの群れが、大群がこの首都の空に!」

「な、何だと!?」

冒険者の言葉に顔色を変えたのはギルドマスターだけではない。レトゥムもカルロもサッとその顔を青くする。

「何でヤクルスがこんなとこに!?」

カルロの言葉に、唯一ピンと来ていないソムヌスが、おずおずとその手を上げた。

「あ、あの、ヤクルスってなんですか……?」

「別名槍蛇やりへび……翼をもつ、龍種に近いと言われる蛇の魔物だ。サイズは小さいが速すぎる厄介な魔物だ……死人が出るぞ。1人や2人じゃねぇ。何百の死人が。」

そう重々しい声色で答えたカルロの言葉にようやく事態の重さに気が付いたソムヌスがその顔から血の気を引かせる。

しかし、

「ふ~ん?ヤクルスが大群で?ふぅ~ん?」

なんでお前はちょっと嬉しそうなんだナタ・ディアーナ。
抑えきれぬ喜びがそのにやけている口角に出ている。

そう実は、このヤクルスという魔物。
全身余すことなく錬金術の素材なのである。

読者の皆様は察した事だろう。そう、勝ち確です。
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