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第四章 全ての想いの行く末
33話 メイはメイ
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エレナの兄アルスの襲撃により、エレナを連れ去られてしまったイノチたち。
彼女を追いかけるべく、まずは体制を整えるために活動拠点であるジパン国『イセ』に戻ってきた。
拠点である屋敷に向かって敷地内を歩くイノチは、久しぶりの屋敷を見上げる。
「久々の拠点だな…」
「ですわね…」
「でも…やっぱりエレナさんの『お風呂入るわよ!』がないと寂しいね♪…」
アレックスの言葉に一同は肩を落とすが、セイドがそれを鼓舞する。
「おいおい!また辛気臭くなってんぞ!それを取り戻しに行くために今から準備するんだろうが!」
「そうだな…すまん。」
セイドの言葉に気を取り直し、一同は屋敷へ歩き出す。
エントランスの前に着くと、タイミングを合わせたように扉が開き、見慣れた可愛らしいメイドが頭を下げて迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、皆さま。」
「メイさん、留守をありがとうね。」
「いえ、これも私の仕事ですから。それと…」
メイは頭を上げると真っ直ぐな瞳でこう告げた。
「母から全て伺っております。まずは疲れを癒していただき、お食事にしましょう。」
「う…うん…」
いつもの気弱なメイではなく、どこか凛とした態度の彼女を見て、イノチは気圧されたようにうなずいた。
・
目の前のテーブルには色鮮やかな料理が並ぶ。
肉、サラダ、魚、パンなどなど、様々な料理が準備された食卓にイノチは目を丸くしながら座り込んだ。
フレデリカとアレックスもその豪華さに少し驚いているようだ。
「滋養強壮に良い食材を、アキンドさまにかき集めていただきました。これからの旅に向けて、しっかりと精力をつけていただきます。」
「メイさん…これ、すごいね。」
「だねぇ♪食べ切れるかなぁ♪」
「ほんなほとなひへすわ!ほひゅーへす!」
気づけばすでに食事にあり付いているフレデリカ。
それを見てイノチはあきれつつも、アレックスと笑い合い「いただきます!」と声を合わせる。
「お前ら…毎日こんな良いもん食ってたのか…」
その横で、言葉にならない思いを小さく吐き出すセイドのことなど気にしはしない。
まずは手元にあるスープから。
スプーンで一掬いして口に運ぶと、まろやかなコクのある味と香りが鼻を抜け、優しさが喉をゆっくりと下りていく。
「ジャガイモをペースト状にして、スープにしました。スープには滋養に良い『元気鶏』の鶏ガラから出汁をとっています。」
ニコリと笑い、そう告げるメイ。
今度はいくつかの料理を手元の皿に取り、イノチはフォークとナイフを手に取った。
「ところでさ…メイさんに一つ、聞きたいことがあるんだけど…」
「心得ております。我々一族のことですね。」
イノチはフォークに突き刺した肉にかぶりつき、口を動かしながらうなずいた。
フレデリカもアレックスも料理を口にしながら、意識はメイに向けている。
セイドもそれには興味があるようで、食べる手を止めている。さすがは御坊ちゃまというところか、人の話を聞く時の礼儀は弁えている。
メイは少しだけ間をおき、目をつむると静かに話し始めた。
「我々ドメイ一族は、古よりカルモウ一族と共に生きてきた一族です。日々、使用人として雑務などをこなしながら、アキンドさまたちの商売を陰で支えることが、我々ドメイ一族の存在意義なのです。」
一同は静かに話の続きを待つ。
「しかしながら、ドメイ一族にはもう一つの顔があります。それは外には漏らしてはならない秘密の顔…」
メイはそこまで告げると、小さく息をついた。
そして、ゆっくりと目を開いて一同を見渡す。
「我らはカルモウを守る暗殺一族なのです。」
「あ…暗殺一族…!」
フレデリカもアレックスも平然として食事を続けているが、イノチだけは驚いてその手を止めた。
セイドは少し理解が追いついていないようだが…
「はい…ただし、我らはあくまでカルモウを守るために存在しており、エレナさまの御一族のように強大な力を有しているわけではありません。エレナさまのお家…ランドール家は、世界各地で暗躍されるほどの権力と技、そして繋がりを有しておられますから…」
「同業者…という単純な括りではないんだね。」
イノチの問いかけに、メイは少し複雑な表情を浮かべる。
「そうです。ノルデンの地はもともと貴族社会…そこには王族の力でもどうにもならない悪が存在していました。もともとランドール家は、それを『暗殺』という方法で取り除くために存在していたと聞いております。ただし、彼らはその力を利用して裏でその権力を伸ばし、今では王族すらも超える力を手に入れている…我々はあくまでカルモウのために生き、カルモウのために死ぬことが存在意義ですから、そこが少し違うかと…」
「なるほどな…同じ暗殺一族でも目的と利害が異なる。だから、互いの存在は知らなかった。生業が同じなのに、アルスがモエさんのことを知らなかったこともうなずけるな。」
「はい…ランドール家にとってドメイ一族など蟻にも等しいでしょうから。しかしながら、カルモウ一族は商売一族です。ありとあらゆる情報を集めて成り上がった一族ですので、その過程で自ずとランドール家のことも知ることができたそうです。彼らは他国からの依頼も受けますので。」
メイは大きくため息をついた。
そして、リシアで起きたことの裏側を説明していく。
「ランドール家の次期当主であるアルス=ランドールが、リシア帝国に入ったという話は、アキナイさまが事前にその情報を入手されていたようです。」
「アキナイさんは、アルスが近づいていたことに気づいてたってこと?」
「いえ…アキナイさまも、まさかエレナさまのお兄さまだとは思わなかったようで…。エレナさまがイノチさまの仲間であること、そして、余計な詮索はするなとアキンドさまからも念を押されていたため、イノチさま含め、皆さまの経緯などは調べなかったのです。せめて、エレナさまの家名だけでも調べておけば…結果は変わっていたかもしれません。アキナイさまは、それを大変悔やまれておりました。」
メイも深々と頭を下げたが、イノチがそれを止める。
「ダメダメ!アキナイさんやモエさんが悪いわけじゃないし、メイさんが頭を下げる必要もないんだから!」
「ありがとうございます。しかし、結局のところ、アルスさまとエレナさまの関係について、気づくことが遅れてしまったのは事実です。イノチさまたちの危険を察知したアキナイさまは、急ぎ母モエに指示を出し、なんとかあの場に間に合った…そう伺っております。」
メイは頭を上げてそう告げた。
イノチは相変わらずカルモウ一族の義理人情というか、自分に対する敬意の払い方に対して、引け目を感じてしまう。
今回の件で、アキナイがアキンドに怒られる可能性も考えられると推測したイノチは静かに口を開いた。
「メイさん、アキンドさんにこう伝えておいて。アキナイさんやモエさんのことは絶対に責めないこと。俺はそれを望まないって。」
「イノチさまはそうおっしゃるかと思い、アキンドさまにはすでにそう進言しております。」
「さ…さすがだね。なら追加で、お願いがあるから明日伺うってことを伝えてくれる?」
「ここで内容について御伝言くだされば、効率的かと思いますが…」
メイがそう首を傾げる前で、イノチは首を横に振る。
「直接お願いしたいんだ。いいかな?」
メイはイノチの瞳を見て何かを感じたのか、静かにこくりとうなずいた。
イノチは満足げに笑うと食事に戻る。
セイドは一人何かを考えているが、フレデリカもアレックスもイノチ同様に食事を楽しんでいるようだ。
メイは、そんなイノチたちの態度を見て疑問をぶつけた。
「み…皆さま、他に何かお聞きになることは…」
「ないよ!」
「ないですわ!」
「ないよぉ~♪」
「俺も…ない。」
セイド以外は歯切れ良く答えていく。
しかし、それに納得がいかないのか、メイは少し声を荒げて疑問を投げかけた。
「わ…私は暗殺を生業にする一族ですよ!何も疑問をもたれないのですか?!」
メイ自身、皆に正体を隠していたことについて、引け目を感じていたのだろう。
それを明かした今、もしかしたらこの屋敷の使用人をやめなければならない…そう考えての告白だったのに、イノチたちの態度は全く変わっていない。
もどかしい気持ちでいっぱいのメイ。
だが、そんなメイにイノチはこう告げた。
「メイさんはメイさんだよ。暗殺って聞こえは怖いけど、それ以上に俺たちは、メイさんの良いところたくさん知ってるからね。」
イノチの言葉に、皆うなずいている。
それを聞いたメイは、いつの間にか瞳に浮かぶ涙に気づいたのだった。
彼女を追いかけるべく、まずは体制を整えるために活動拠点であるジパン国『イセ』に戻ってきた。
拠点である屋敷に向かって敷地内を歩くイノチは、久しぶりの屋敷を見上げる。
「久々の拠点だな…」
「ですわね…」
「でも…やっぱりエレナさんの『お風呂入るわよ!』がないと寂しいね♪…」
アレックスの言葉に一同は肩を落とすが、セイドがそれを鼓舞する。
「おいおい!また辛気臭くなってんぞ!それを取り戻しに行くために今から準備するんだろうが!」
「そうだな…すまん。」
セイドの言葉に気を取り直し、一同は屋敷へ歩き出す。
エントランスの前に着くと、タイミングを合わせたように扉が開き、見慣れた可愛らしいメイドが頭を下げて迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、皆さま。」
「メイさん、留守をありがとうね。」
「いえ、これも私の仕事ですから。それと…」
メイは頭を上げると真っ直ぐな瞳でこう告げた。
「母から全て伺っております。まずは疲れを癒していただき、お食事にしましょう。」
「う…うん…」
いつもの気弱なメイではなく、どこか凛とした態度の彼女を見て、イノチは気圧されたようにうなずいた。
・
目の前のテーブルには色鮮やかな料理が並ぶ。
肉、サラダ、魚、パンなどなど、様々な料理が準備された食卓にイノチは目を丸くしながら座り込んだ。
フレデリカとアレックスもその豪華さに少し驚いているようだ。
「滋養強壮に良い食材を、アキンドさまにかき集めていただきました。これからの旅に向けて、しっかりと精力をつけていただきます。」
「メイさん…これ、すごいね。」
「だねぇ♪食べ切れるかなぁ♪」
「ほんなほとなひへすわ!ほひゅーへす!」
気づけばすでに食事にあり付いているフレデリカ。
それを見てイノチはあきれつつも、アレックスと笑い合い「いただきます!」と声を合わせる。
「お前ら…毎日こんな良いもん食ってたのか…」
その横で、言葉にならない思いを小さく吐き出すセイドのことなど気にしはしない。
まずは手元にあるスープから。
スプーンで一掬いして口に運ぶと、まろやかなコクのある味と香りが鼻を抜け、優しさが喉をゆっくりと下りていく。
「ジャガイモをペースト状にして、スープにしました。スープには滋養に良い『元気鶏』の鶏ガラから出汁をとっています。」
ニコリと笑い、そう告げるメイ。
今度はいくつかの料理を手元の皿に取り、イノチはフォークとナイフを手に取った。
「ところでさ…メイさんに一つ、聞きたいことがあるんだけど…」
「心得ております。我々一族のことですね。」
イノチはフォークに突き刺した肉にかぶりつき、口を動かしながらうなずいた。
フレデリカもアレックスも料理を口にしながら、意識はメイに向けている。
セイドもそれには興味があるようで、食べる手を止めている。さすがは御坊ちゃまというところか、人の話を聞く時の礼儀は弁えている。
メイは少しだけ間をおき、目をつむると静かに話し始めた。
「我々ドメイ一族は、古よりカルモウ一族と共に生きてきた一族です。日々、使用人として雑務などをこなしながら、アキンドさまたちの商売を陰で支えることが、我々ドメイ一族の存在意義なのです。」
一同は静かに話の続きを待つ。
「しかしながら、ドメイ一族にはもう一つの顔があります。それは外には漏らしてはならない秘密の顔…」
メイはそこまで告げると、小さく息をついた。
そして、ゆっくりと目を開いて一同を見渡す。
「我らはカルモウを守る暗殺一族なのです。」
「あ…暗殺一族…!」
フレデリカもアレックスも平然として食事を続けているが、イノチだけは驚いてその手を止めた。
セイドは少し理解が追いついていないようだが…
「はい…ただし、我らはあくまでカルモウを守るために存在しており、エレナさまの御一族のように強大な力を有しているわけではありません。エレナさまのお家…ランドール家は、世界各地で暗躍されるほどの権力と技、そして繋がりを有しておられますから…」
「同業者…という単純な括りではないんだね。」
イノチの問いかけに、メイは少し複雑な表情を浮かべる。
「そうです。ノルデンの地はもともと貴族社会…そこには王族の力でもどうにもならない悪が存在していました。もともとランドール家は、それを『暗殺』という方法で取り除くために存在していたと聞いております。ただし、彼らはその力を利用して裏でその権力を伸ばし、今では王族すらも超える力を手に入れている…我々はあくまでカルモウのために生き、カルモウのために死ぬことが存在意義ですから、そこが少し違うかと…」
「なるほどな…同じ暗殺一族でも目的と利害が異なる。だから、互いの存在は知らなかった。生業が同じなのに、アルスがモエさんのことを知らなかったこともうなずけるな。」
「はい…ランドール家にとってドメイ一族など蟻にも等しいでしょうから。しかしながら、カルモウ一族は商売一族です。ありとあらゆる情報を集めて成り上がった一族ですので、その過程で自ずとランドール家のことも知ることができたそうです。彼らは他国からの依頼も受けますので。」
メイは大きくため息をついた。
そして、リシアで起きたことの裏側を説明していく。
「ランドール家の次期当主であるアルス=ランドールが、リシア帝国に入ったという話は、アキナイさまが事前にその情報を入手されていたようです。」
「アキナイさんは、アルスが近づいていたことに気づいてたってこと?」
「いえ…アキナイさまも、まさかエレナさまのお兄さまだとは思わなかったようで…。エレナさまがイノチさまの仲間であること、そして、余計な詮索はするなとアキンドさまからも念を押されていたため、イノチさま含め、皆さまの経緯などは調べなかったのです。せめて、エレナさまの家名だけでも調べておけば…結果は変わっていたかもしれません。アキナイさまは、それを大変悔やまれておりました。」
メイも深々と頭を下げたが、イノチがそれを止める。
「ダメダメ!アキナイさんやモエさんが悪いわけじゃないし、メイさんが頭を下げる必要もないんだから!」
「ありがとうございます。しかし、結局のところ、アルスさまとエレナさまの関係について、気づくことが遅れてしまったのは事実です。イノチさまたちの危険を察知したアキナイさまは、急ぎ母モエに指示を出し、なんとかあの場に間に合った…そう伺っております。」
メイは頭を上げてそう告げた。
イノチは相変わらずカルモウ一族の義理人情というか、自分に対する敬意の払い方に対して、引け目を感じてしまう。
今回の件で、アキナイがアキンドに怒られる可能性も考えられると推測したイノチは静かに口を開いた。
「メイさん、アキンドさんにこう伝えておいて。アキナイさんやモエさんのことは絶対に責めないこと。俺はそれを望まないって。」
「イノチさまはそうおっしゃるかと思い、アキンドさまにはすでにそう進言しております。」
「さ…さすがだね。なら追加で、お願いがあるから明日伺うってことを伝えてくれる?」
「ここで内容について御伝言くだされば、効率的かと思いますが…」
メイがそう首を傾げる前で、イノチは首を横に振る。
「直接お願いしたいんだ。いいかな?」
メイはイノチの瞳を見て何かを感じたのか、静かにこくりとうなずいた。
イノチは満足げに笑うと食事に戻る。
セイドは一人何かを考えているが、フレデリカもアレックスもイノチ同様に食事を楽しんでいるようだ。
メイは、そんなイノチたちの態度を見て疑問をぶつけた。
「み…皆さま、他に何かお聞きになることは…」
「ないよ!」
「ないですわ!」
「ないよぉ~♪」
「俺も…ない。」
セイド以外は歯切れ良く答えていく。
しかし、それに納得がいかないのか、メイは少し声を荒げて疑問を投げかけた。
「わ…私は暗殺を生業にする一族ですよ!何も疑問をもたれないのですか?!」
メイ自身、皆に正体を隠していたことについて、引け目を感じていたのだろう。
それを明かした今、もしかしたらこの屋敷の使用人をやめなければならない…そう考えての告白だったのに、イノチたちの態度は全く変わっていない。
もどかしい気持ちでいっぱいのメイ。
だが、そんなメイにイノチはこう告げた。
「メイさんはメイさんだよ。暗殺って聞こえは怖いけど、それ以上に俺たちは、メイさんの良いところたくさん知ってるからね。」
イノチの言葉に、皆うなずいている。
それを聞いたメイは、いつの間にか瞳に浮かぶ涙に気づいたのだった。
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