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三章
歌声と魔法 キャロル14歳
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式典は進む。私は今、とても厳しい顔をしてる。退屈な話の連続に欠伸が出そうなのを必死に堪えているからだ。
王族と一緒の会場入りは、思った以上に注目を集めてしまった。いつも以上に周囲から強い視線感じる。せめて、会場に入る時は別にすればよかったなと反省する。隣を見れば同じように口元に力を入ているクロードと目が合う。お互い同じだと、目顔で言い合うと口元に笑みが戻る。
ようやく、式典は最後を迎えて光の女神を称える曲の演奏が始まった。式典の度に歌わる曲は、誰もが覚えていて大合唱になるはずだった。
でも、今日は一点を中心にして波が引くように、歌が止んでいく。ただ一人の美しい歌声だけが会場に響いた。
「すごいな……」
芸術方面は苦手を自負するクロードから称賛の言葉が漏れる。声の主以外の誰もが口を閉ざして、その美声に酔う。
一つ後ろの列にいる歌声の主は柔らかくカールした薄緑の髪を僅かに揺らし、オリーブの瞳が女神を見つめるように天を仰ぐ。白い頬を僅かに上気させて笑みを湛えて歌を紡ぐ。手を僅かに広げて歌声を捧げる姿はまるで天使のように見えた。
「ドニ・ラヴェルですよね?」
「ああ。芸術の伯爵家ラヴェルの誇る天使の歌声か」
最後の攻略対象者のドニは芸術の国と名高いイリタシス教国に長く滞在していた。彼が戻ってくるのはゲーム開始から三か月後だった筈で、入学式典で歌声を披露する物語はシナリオに存在しない。
どうしてドニが今いるのか? ドニから目を外して離れた席にいるヒロインであるルナを探す。突然のイベントを、彼女がどのように受け入れているのか知りたかった。
紺青いジャケットの間に、ピンクの髪を見つける。人の動きの陰に一瞬だけ見つけたルナは、まっすぐドニを見つめていた。その眼差しにまた冷たいものが背中を滑り落ちる。
それは、見惚れるでも、称賛するでもない視線。誰かと恋に落ちる女の子の瞳ではなく、ただ冷静にモノを観察する眼差しだ。
私のモノになってよ、いつかの言葉が頭の中に響く。
なぜ? 出会う度にルナが分からなくなる。私の見つけた孤児院のルナとも、ゲームの中のルナとも重ならない姿を垣間見せる。
歌声が止んで、慌ててドニに視線を戻す。音を楽しむように目を閉じて満足げにドニが微かに頭を揺らしていた。全ての音が鳴りやむと零れそうなオリーブの瞳を開く。両手を交差させて両膝を僅か落とす、イリタシス風の礼を取る。
「あ。間違えた。ここでの礼は、こっちだった」
ドニが慌てたように呟いて小さく舌を出して笑う。左胸に右手を当てマールブランシュ王国の礼を取り直して、会場は賞賛と拍手に包まれた。
式典の後は、各クラスで学園生活についての話と魔力印の儀式が行われる。クロードと移動しながら、できるだけ早くドニとルナに接触する方法を考える。
知らないままでいる事も流されるままに選ぶことも後悔するのなら、自分が選んだ道でやるベき事をやって後悔する方がいい。
「学園生活より魔力が気になるな」
呟くようなクロードの言葉に同意する。悪役令嬢キャロルの魔力は上位という設定だから、ヒロインまたはそれ以上であるトップクラスの魔力を目標にしてきた。父上の書斎やお膝の上、ワンデリアの通路、闇属性の魔力にはできるだけ触れてきた。その努力の結果が今日分かる。そう思うと何だか急にそちらの方が気になってきてしまう。
「ヴァセラン侯爵家は水属性が多いですよね? アングラードは闇属性が一番多いんです。闇属性の地は少ないから、魔力の量がどのくらいか不安です」
「水属性だが、稀に一族でも違う事があるからな。俺も安心できない」
大丈夫。クロードは水属性だ。設定とかイベントは毎晩ベットの中で、何度も読み返して予習した。水属性でトップの魔力量がクロードにはあるはずだ。
「あのね、ラヴェル家は風属性だよ! あっ、挨拶しないとね。こんにちは、ドニ・ラヴェルです」
私とクロードの間に、ニコニコとドニが入ってくる。予想外で、いきなりの接触に驚く。大きなオリーブの瞳が私とクロードを無邪気に覗き込む。
「こんにちは。先ほどは素晴らしい歌声をありがとうございました。ノエル・アングラードと申します」
私が挨拶を終えると、ドニはクロードを見つめる。ニコニコと笑いながら期待に満ちた目で返事を待つ姿は、子犬みたいだ。
「クロード・ヴァセランだ。素晴らしい歌声に感謝する。よろしく」
「うん。よろしくね。クロードとノエルだね。今日から仲良くしようね。ところで、魔法ってそんなに大切なの? 僕は魔法より音楽が好き。本当はあと三か月はイリタシスにいるつもりだったのに、魔法を早く覚えろって呼び戻されちゃった」
頬を膨らませて、やはり予定より早い帰国だったという。なんだか、色々話してくれそうで帰国の理由を聞いておくことにする。
「もっとイリタシスにいたかったですか?」
「うん。イリタシスは大好き。綺麗な国で音楽に溢れてる。歌は心を乗せると、誰かの心にちゃんと届くんだよ。綺麗な歌には美しい夢を乗せて、悲しい歌には泣きそうな物語を乗せる。イリタシスの芸術には歌に乗せるヒントがたくさん溢れてるよ」
歌うようにドニが語る。ドニの歌に皆が惹き付けられるのは、歌声の美しさもあるけど、誰かの心に届くように歌うからなのかもしれない。とっても素敵だと思う。
「いいですね。ドニの歌の考え方は好きです」
「うん。ありがとう。元気の出る歌に頑張れって応援を乗せると、いつも喜ばれる。ノエルとクロードも友達になったから、僕はいつでも歌ってあげるね」
約束といって笑うドニに、私とクロードもつられて微笑む。なんだかドニの無邪気さを見ていると、色々聞き出そうとする自分に罪悪感を覚えてしまいそうだ。
「でも、どうして三か月も早く帰国することになったんですか?」
「ジルベール伯父様がすごく煩くて大変だったんだよ。うちの伯父様は当主のお父様より偉くて、誰も逆らえない。僕たちには芸術しか取り柄がないって普段言うのに、急に魔法覚えろって。本当に勝手なんだよ」
ジルベール・ラヴェルと呟いて隣でクロードが僅かに眉を顰める。私がその表情を見上げると、首を振ってから一度頷いて見せる。今は話せないから後でという意味。私は小さくクロードに頷き返した。
「そうだ! ディエリって知ってる? ジルベール伯父様に仲良くしろって言われたんだよね。知ってたらお友達になれるように手伝ってね」
ディエリと友達という言葉にクロードと顔を見合わせてから、首を振る。御前試合以来すっかり嫌われている。今日も式典の開始間際に、取り巻きに囲まれて現れたディエリと目があった。顎を上げて見下すように一瞥されて久しぶりの再会が終わったばかりだ。
クラスに入っても、私とクロードとドニは並んで座る。ドニはよく喋って、よく笑う。一つ一つの動きや言葉が素直で明るい。見ていてこちらを笑顔にしてくれる子だ。学園生活の説明が始まる前に、無口なクロードもドニに気安く話し掛けるようになっていた。
クラスの扉が開いて白いお髭の優しそうな老人が入ってくる。主管講師はブレーズ・アーロン先生。魔法基礎学の先生でもある。
「本日は学園の決まりを説明した後で魔力印の儀式が行われます。マールブランシュ王国は百年周期で過去三度、魔物の大発生がおきており、四度目はいつ起こるかわかりません」
一応シナリオ通りなら、大規模な発生は学園にいる間は起こらない。魔物関連はルートによって小規模な討伐エピソードがあったぐらいだ。そもそも、ゲーム中にはひずみの崩落なんて言葉は存在しなかった。
でも、この世界が現実ならば、ゲームのその後に魔物の大規模発生に遭遇する危険があることになる。
「騎士団がおりますが、我々も有事に務めを果たす実力を備えるべきです。歴史の講義で過去を学び、魔法を在学中にしっかり身につけて下さい」
そう挨拶した後、学園内のルールや授業についての一通りの説明を始める。
各施設の使用、授業の受け方、校内での魔法使用のルール。ボタン一つで学べたゲームと異なって、自分の力で学ばなくてはいけないのは大変だ。でも、前世の学校に近いルールの中に魔法というエッセンスが入ると途端にわくわくしてくる。
主管講師のアーロン先生の話を聞きながら、私はジルが見せた風魔法や父上が伝達魔法を使う姿に思いを馳せる。魔法よ早く私の手に!
「――以上で基本的な学園内の過ごし方の説明を終えます。これより魔法印の儀式です。皆さんの左胸に儀式の後から、魔力印が現れますが、印は魔力が安定するまで消えません。消えるまでは、外出禁止です。それから、印の名前は魔力の根幹になるので親しい者にも決して口外してはいけません」
滑らかな肌に、薄い緑に輝く流線上を高貴な蝶が舞う魔力印を思い出す。風紋を舞う優美な貴蝶。私を主として魔力の全てを捧げてくれたジルの印と名前。
私の左胸にも同じように魔力印が浮かんで、名前がつく。
何色になるのか?どんな印が現れるのか?
どうしよう、狸だったら。狸の絵ならまだ可愛いけど、名が腹黒子狸とか踊る狸なら絶対嫌だ。
結婚するときは愛する人に魔力印と名前を捧げる人もいると聞いた。父上と母上は捧げ合ってる。変なのだったら、恥ずかしくて、捧げられない。
「ノエル、お顔が大変なことになってるよ?」
ドニが私の顔を覗き込む。クロードもこちらを訝しげに見ている。思った事が顔に出て百面相になっていたらしい。思考に沈むならユーグみたいにだったら良かった。
「ラザール・スーリエ、ノエル・アングラード、クロード・ヴァセラン。まず、三名はエトワールの泉に向かいなさい」
爵位順に名前を呼ばれたので、一緒に呼ばれなかったドニが不満の声を上げる。アーロン先生に一礼してから、講室を退出する。
先に出ていたラザール・スーリエに一礼して、名を名乗る。ラザール・スーリエは、南のスージェル領の辺境伯の子息だ。辺境伯は東西南北に分けて四家しか存在しない。爵位は公爵より下であり、侯爵より上またはほぼ同等とされる。私たちの挨拶を受けると、細い目元をほんの少し緩めてラザールが答える。
「ラザール・スーリエだ。よくお互い学び合って、利益になる関係が築けることを願うよ」
出された手を握る。会話を交わすと几帳面なところはあるがスーリエが悪い人ではなくて安心する。スージェル領もなかなか難しい土地のため、在学中に良い商いを持ち帰るのが目標だと言う。
「よい商いがあればうちが買う。アングラード家は最近、商いにあたりを出しているだろ? ほかに面白いのはないのかい?」
スーリエの言う、我が家の商いはアネモネ石だ。繊細なオーダージュエリーはもちろん、領民の手仕事であるビーズアクセサリーも順調に人気を伸ばしていてまだまだ収益が見込める勢いだ。
「私のところは今は手一杯です。お譲りできる案はありません。でも、スージェルに何か面白い素材があれば、書クラスのユーグ・シュレッサーに持ち掛けるといいです。研究素材になりそうならシュレッサー家とよい取引ができますよ」
ラザールが面白い素材を紹介すれば、カミュ様のお願いと合わせてユーグは忙しくなる。そのまま、アレックス王子の女の子の件が消えるといいなと大いに期待する。
「新入生! こっちだ!」
校舎の裏に出ると上級生と思しき金ボタンの人物が手をふる。丘の道は上級生が要所にたっているので、指示に従って進むように教えてくれる。儀式への道案内と警備は騎士専科の授業の一環らしい。二年後に騎士専科を取ることを決めているクロードは上級生の携える剣に興味深々だ。
上級生に祝いの言葉を貰いながら、丘を登る。時折、クロードと交流のある上級生がいるようで、園内活動の勧誘を受ける。学生という身分での触れ合いは、やはり面白い。
樹々の間の小道を抜けると、穏やかな美しい泉がある広場に出た。教師と思われる人物が数名と、アレックス王子、カミュ様、ユーグ、ディエリの顔を見つける。
「ノエル様!!」
女性の声に顔を向けると美しい令嬢がこちらに歩み寄る。優雅で華やかな礼に、四年前のファーストダンスで手を取った笑顔が重なる。
「カリーナ様ですね。お美しくなられて驚きました」
「私の事を覚えていて下さったのですね。必ず会いに参ります、というお約束がようやく守れました」
いつかという約束に迷っていた私に、必ずと返してくれたカリーナ。あの時、彼女の無邪気な強さがとても眩しかった。「いつか必ず」だったなら果たせる日が来るかもしれない。教えるように約束を果たしてくれたことが嬉しくて、その手を取る。
「ありがとう。約束を果たしてくれたのですね。私も嬉しいです」
真っ赤になったカリーナが嬉しそうに微笑んで、彼女には意外な小さな声でお天気の良さとか入学の祝いの言葉を述べる姿はなんだかとても可愛い。
「では、最初のグループが集まったようなので、魔力印の儀を始めます」
声を上げたのはレノラ・トリスタン。この学園の副学園長で、マールブランシュ王国では非常に稀有な女性の役職者だ。令嬢専科の講義の中心であり、令嬢たちのまとめ役を兼ねるに相応しい落ち着いた夫人である。
「これより、一人一人お名前をお呼びいたします。泉のほとりにて渡された小瓶にエトワールの泉を汲んでください。蓋をしたら、学園長と魔力講義主任の前で小瓶に魔力を注いで頂きます。水は魔力の属性によって色が変わるのですが、魔力が多ければ多いほど変化は早いです」
レノラ副学園長の後を魔力講義主任であるビセンテ・ジャマル先生が引き継ぐように説明を続ける
「エトワールの泉が染まり切ったかは、私と学園長が確認します。確認後は速やかにエトワールの泉を飲み干して下さい。儀式はそれで終了です。」
胸に刻印がすぐに浮かび上がるが、確認は屋敷に帰って行うことと。印を見た時に浮かぶ名は口外しないことを必ず守る様に再度言われる。
エトワールの泉を飲んだ後に印が熱くなるような事や体が重くなることがあるが、魔力の変化によるものだと説明される。なんだかとてもどきどきしてきた。
ナタニエル・パスカル学園長が私たちの興奮の先を見透かすよに言う。
「印が浮かべば魔法を使うことが可能になりますが、講義を受ける前の使用は厳禁ですぞ。最初のグループは特に魔力が大きい方が多いでしょう。知識のないままの使用は暴走を招くことがある。試してみたい気持ちは我々もよくわかりますが、自らの責任をよく理解し自重されることを願います。特に、ユーグ様聞いてらっしゃいますね?」
ナタニエル学園長はユーグを名指しする。ビセンテ先生もユーグの事を見ている。毎年学園に侵入するシュレッサー伯爵家の性格はよく知ってのことなのだろう。当のユーグはどこか遠くを見るような艶のある表情を浮かべているので多分話をあまり聞いていない。
「ユーグ。返事をしろ」
アレックス王子が声をかけるが、ユーグが思考から戻ってこない。
「ユーグ。返事なさってください。使ってはいけませんよ。使ったらご褒美のお話はなしに致します」
カミュ様の言葉にユーグが思考から戻ってきて、にっこりと笑顔で先生たちに頷いてみせる。今のところ、カミュ様のご褒美がユーグの良い手綱になりそうだ。
「では、アレックス殿下より行います」
ナタニエル学園長の言葉にアレックス王子が進みでる。お互いに礼を取り合う。
渡された小瓶は小さな手の平と同じぐらいの大きさのもの。きらきらと日の光を受けた泉にアレックス王子は進み出ると、跪いて小瓶を泉に差し入れた。波紋が広がって水面が揺れる。
ただ、それだけの行動。なのに泉の神聖な雰囲気と儀式の特別さが、現実感のない美しい夢の中の出来事のように映る。
泉の水を小瓶に満たすと、蓋をしてアレックス王子が立ち上がる。
「それでは、魔力を少しずつ流し込んで頂きます。体の中心を意識して、腕を通じて意識を流し込むイメージを持って行ってください。初めは難しい感覚ですが、魔力量が多いはずなので決して時間はかかりません」
アレックス王子は頷くと、ゆっくり息を吐きだしながら小瓶を見つめる。
気付くと私は手を前に組んでいた。アレックス王子が光属性で魔法を使える未来を知っているのに、上手くいきますように一心に願う。
透明だった水の入った小瓶の水がみるみるうちに白く輝きを帯びていく。小瓶を見つめたまま、アレックス王子が少し安堵の笑みを浮かべた。止まることなく水は魔力に応じて輝きを増していき、美しく強く光り輝く。
ナタニエル学園長がお飲みくださいと声を掛けると、頷いて一息で飲み干す。この時を境に、私たちは大人になっていくのだという確信が湧き上がる。
瓶から唇を放すとアレックス王子が左胸に手を当てた。
「うん。確かに左胸が少し熱くなるな。もう、この胸に魔法印が記されたということだな?」
「はい。おめでとうございます。ビセンテが魔力量を計測する魔法を今使わせて頂きました。歴代でも屈指の光属性の魔力です。研鑽をお積みになり、よき国王になられる事を心より願わせていただきます」
ナタニエル学園長を始め、そこに立つ者が次々とが跪く。本来にはない、王族に対する特別な一幕に胸が熱くなる。
アレックス王子の後に、カミュ様が続く。アレックス王子より魔力量は少ないが光属性でもトップクラスと告げられる。次にディエリが続く、黄色い色は土属性だ。こちらもトップクラスで、バスティア公爵家なら歴代でも一番ではないかとビセンテ先生が呟いた。突然、ディエリが左胸を抑えたあと、口元を少し抑える。
「ご気分が悪くなりましたか? 変化酔いでしょう。レノラ夫人、ディエリ様を木陰へ!」
レノラ副学園長が駆け寄る。儀式ではよくある事らしい。魔力の在り方が急激に変わる為、変化に繊細な者だと眩暈などが起こる。一時的ですぐに治まるので、無理をせずに申し出るように改めて告げられる。
「ノエル様。私もすぐに順番ですわ。なんだか少し不安になってしまいました。私が倒れたら助けに来てくださいますか?」
カリーナが不安そうに私を見つめる。ディエリは木陰に移動して、樹に背を預けるよにして目を閉じて休んでいた。不安を感じる気持ちはよくわかる。私も心に影のようなものが広がる気がしていた。
「カリーナ様、何かあれば皆ついております。どうぞ、安心して儀式にお望み下さい。私たちにとって成長する為の一歩ですから、頑張りましょう」
それは不安を感じる自分を鼓舞する言葉。精一杯の笑顔でカリーナの背をおす。ほっとしたように微笑むと、カリーナが頷いてくれる。大丈夫。ちゃんとできる。
ディエリの跡にラザールが続く。赤色の火属性できちんと上位クラスの魔力と判定される。行ってきますと笑顔で向かったカリーナは水色で水属性の上位クラス。
「では、ノエル・アングラード」
カリーナ様が頑張った以上は、私もしっかりしないといけない。進み出てナタニエル学園長から小瓶を受け取った。
王族と一緒の会場入りは、思った以上に注目を集めてしまった。いつも以上に周囲から強い視線感じる。せめて、会場に入る時は別にすればよかったなと反省する。隣を見れば同じように口元に力を入ているクロードと目が合う。お互い同じだと、目顔で言い合うと口元に笑みが戻る。
ようやく、式典は最後を迎えて光の女神を称える曲の演奏が始まった。式典の度に歌わる曲は、誰もが覚えていて大合唱になるはずだった。
でも、今日は一点を中心にして波が引くように、歌が止んでいく。ただ一人の美しい歌声だけが会場に響いた。
「すごいな……」
芸術方面は苦手を自負するクロードから称賛の言葉が漏れる。声の主以外の誰もが口を閉ざして、その美声に酔う。
一つ後ろの列にいる歌声の主は柔らかくカールした薄緑の髪を僅かに揺らし、オリーブの瞳が女神を見つめるように天を仰ぐ。白い頬を僅かに上気させて笑みを湛えて歌を紡ぐ。手を僅かに広げて歌声を捧げる姿はまるで天使のように見えた。
「ドニ・ラヴェルですよね?」
「ああ。芸術の伯爵家ラヴェルの誇る天使の歌声か」
最後の攻略対象者のドニは芸術の国と名高いイリタシス教国に長く滞在していた。彼が戻ってくるのはゲーム開始から三か月後だった筈で、入学式典で歌声を披露する物語はシナリオに存在しない。
どうしてドニが今いるのか? ドニから目を外して離れた席にいるヒロインであるルナを探す。突然のイベントを、彼女がどのように受け入れているのか知りたかった。
紺青いジャケットの間に、ピンクの髪を見つける。人の動きの陰に一瞬だけ見つけたルナは、まっすぐドニを見つめていた。その眼差しにまた冷たいものが背中を滑り落ちる。
それは、見惚れるでも、称賛するでもない視線。誰かと恋に落ちる女の子の瞳ではなく、ただ冷静にモノを観察する眼差しだ。
私のモノになってよ、いつかの言葉が頭の中に響く。
なぜ? 出会う度にルナが分からなくなる。私の見つけた孤児院のルナとも、ゲームの中のルナとも重ならない姿を垣間見せる。
歌声が止んで、慌ててドニに視線を戻す。音を楽しむように目を閉じて満足げにドニが微かに頭を揺らしていた。全ての音が鳴りやむと零れそうなオリーブの瞳を開く。両手を交差させて両膝を僅か落とす、イリタシス風の礼を取る。
「あ。間違えた。ここでの礼は、こっちだった」
ドニが慌てたように呟いて小さく舌を出して笑う。左胸に右手を当てマールブランシュ王国の礼を取り直して、会場は賞賛と拍手に包まれた。
式典の後は、各クラスで学園生活についての話と魔力印の儀式が行われる。クロードと移動しながら、できるだけ早くドニとルナに接触する方法を考える。
知らないままでいる事も流されるままに選ぶことも後悔するのなら、自分が選んだ道でやるベき事をやって後悔する方がいい。
「学園生活より魔力が気になるな」
呟くようなクロードの言葉に同意する。悪役令嬢キャロルの魔力は上位という設定だから、ヒロインまたはそれ以上であるトップクラスの魔力を目標にしてきた。父上の書斎やお膝の上、ワンデリアの通路、闇属性の魔力にはできるだけ触れてきた。その努力の結果が今日分かる。そう思うと何だか急にそちらの方が気になってきてしまう。
「ヴァセラン侯爵家は水属性が多いですよね? アングラードは闇属性が一番多いんです。闇属性の地は少ないから、魔力の量がどのくらいか不安です」
「水属性だが、稀に一族でも違う事があるからな。俺も安心できない」
大丈夫。クロードは水属性だ。設定とかイベントは毎晩ベットの中で、何度も読み返して予習した。水属性でトップの魔力量がクロードにはあるはずだ。
「あのね、ラヴェル家は風属性だよ! あっ、挨拶しないとね。こんにちは、ドニ・ラヴェルです」
私とクロードの間に、ニコニコとドニが入ってくる。予想外で、いきなりの接触に驚く。大きなオリーブの瞳が私とクロードを無邪気に覗き込む。
「こんにちは。先ほどは素晴らしい歌声をありがとうございました。ノエル・アングラードと申します」
私が挨拶を終えると、ドニはクロードを見つめる。ニコニコと笑いながら期待に満ちた目で返事を待つ姿は、子犬みたいだ。
「クロード・ヴァセランだ。素晴らしい歌声に感謝する。よろしく」
「うん。よろしくね。クロードとノエルだね。今日から仲良くしようね。ところで、魔法ってそんなに大切なの? 僕は魔法より音楽が好き。本当はあと三か月はイリタシスにいるつもりだったのに、魔法を早く覚えろって呼び戻されちゃった」
頬を膨らませて、やはり予定より早い帰国だったという。なんだか、色々話してくれそうで帰国の理由を聞いておくことにする。
「もっとイリタシスにいたかったですか?」
「うん。イリタシスは大好き。綺麗な国で音楽に溢れてる。歌は心を乗せると、誰かの心にちゃんと届くんだよ。綺麗な歌には美しい夢を乗せて、悲しい歌には泣きそうな物語を乗せる。イリタシスの芸術には歌に乗せるヒントがたくさん溢れてるよ」
歌うようにドニが語る。ドニの歌に皆が惹き付けられるのは、歌声の美しさもあるけど、誰かの心に届くように歌うからなのかもしれない。とっても素敵だと思う。
「いいですね。ドニの歌の考え方は好きです」
「うん。ありがとう。元気の出る歌に頑張れって応援を乗せると、いつも喜ばれる。ノエルとクロードも友達になったから、僕はいつでも歌ってあげるね」
約束といって笑うドニに、私とクロードもつられて微笑む。なんだかドニの無邪気さを見ていると、色々聞き出そうとする自分に罪悪感を覚えてしまいそうだ。
「でも、どうして三か月も早く帰国することになったんですか?」
「ジルベール伯父様がすごく煩くて大変だったんだよ。うちの伯父様は当主のお父様より偉くて、誰も逆らえない。僕たちには芸術しか取り柄がないって普段言うのに、急に魔法覚えろって。本当に勝手なんだよ」
ジルベール・ラヴェルと呟いて隣でクロードが僅かに眉を顰める。私がその表情を見上げると、首を振ってから一度頷いて見せる。今は話せないから後でという意味。私は小さくクロードに頷き返した。
「そうだ! ディエリって知ってる? ジルベール伯父様に仲良くしろって言われたんだよね。知ってたらお友達になれるように手伝ってね」
ディエリと友達という言葉にクロードと顔を見合わせてから、首を振る。御前試合以来すっかり嫌われている。今日も式典の開始間際に、取り巻きに囲まれて現れたディエリと目があった。顎を上げて見下すように一瞥されて久しぶりの再会が終わったばかりだ。
クラスに入っても、私とクロードとドニは並んで座る。ドニはよく喋って、よく笑う。一つ一つの動きや言葉が素直で明るい。見ていてこちらを笑顔にしてくれる子だ。学園生活の説明が始まる前に、無口なクロードもドニに気安く話し掛けるようになっていた。
クラスの扉が開いて白いお髭の優しそうな老人が入ってくる。主管講師はブレーズ・アーロン先生。魔法基礎学の先生でもある。
「本日は学園の決まりを説明した後で魔力印の儀式が行われます。マールブランシュ王国は百年周期で過去三度、魔物の大発生がおきており、四度目はいつ起こるかわかりません」
一応シナリオ通りなら、大規模な発生は学園にいる間は起こらない。魔物関連はルートによって小規模な討伐エピソードがあったぐらいだ。そもそも、ゲーム中にはひずみの崩落なんて言葉は存在しなかった。
でも、この世界が現実ならば、ゲームのその後に魔物の大規模発生に遭遇する危険があることになる。
「騎士団がおりますが、我々も有事に務めを果たす実力を備えるべきです。歴史の講義で過去を学び、魔法を在学中にしっかり身につけて下さい」
そう挨拶した後、学園内のルールや授業についての一通りの説明を始める。
各施設の使用、授業の受け方、校内での魔法使用のルール。ボタン一つで学べたゲームと異なって、自分の力で学ばなくてはいけないのは大変だ。でも、前世の学校に近いルールの中に魔法というエッセンスが入ると途端にわくわくしてくる。
主管講師のアーロン先生の話を聞きながら、私はジルが見せた風魔法や父上が伝達魔法を使う姿に思いを馳せる。魔法よ早く私の手に!
「――以上で基本的な学園内の過ごし方の説明を終えます。これより魔法印の儀式です。皆さんの左胸に儀式の後から、魔力印が現れますが、印は魔力が安定するまで消えません。消えるまでは、外出禁止です。それから、印の名前は魔力の根幹になるので親しい者にも決して口外してはいけません」
滑らかな肌に、薄い緑に輝く流線上を高貴な蝶が舞う魔力印を思い出す。風紋を舞う優美な貴蝶。私を主として魔力の全てを捧げてくれたジルの印と名前。
私の左胸にも同じように魔力印が浮かんで、名前がつく。
何色になるのか?どんな印が現れるのか?
どうしよう、狸だったら。狸の絵ならまだ可愛いけど、名が腹黒子狸とか踊る狸なら絶対嫌だ。
結婚するときは愛する人に魔力印と名前を捧げる人もいると聞いた。父上と母上は捧げ合ってる。変なのだったら、恥ずかしくて、捧げられない。
「ノエル、お顔が大変なことになってるよ?」
ドニが私の顔を覗き込む。クロードもこちらを訝しげに見ている。思った事が顔に出て百面相になっていたらしい。思考に沈むならユーグみたいにだったら良かった。
「ラザール・スーリエ、ノエル・アングラード、クロード・ヴァセラン。まず、三名はエトワールの泉に向かいなさい」
爵位順に名前を呼ばれたので、一緒に呼ばれなかったドニが不満の声を上げる。アーロン先生に一礼してから、講室を退出する。
先に出ていたラザール・スーリエに一礼して、名を名乗る。ラザール・スーリエは、南のスージェル領の辺境伯の子息だ。辺境伯は東西南北に分けて四家しか存在しない。爵位は公爵より下であり、侯爵より上またはほぼ同等とされる。私たちの挨拶を受けると、細い目元をほんの少し緩めてラザールが答える。
「ラザール・スーリエだ。よくお互い学び合って、利益になる関係が築けることを願うよ」
出された手を握る。会話を交わすと几帳面なところはあるがスーリエが悪い人ではなくて安心する。スージェル領もなかなか難しい土地のため、在学中に良い商いを持ち帰るのが目標だと言う。
「よい商いがあればうちが買う。アングラード家は最近、商いにあたりを出しているだろ? ほかに面白いのはないのかい?」
スーリエの言う、我が家の商いはアネモネ石だ。繊細なオーダージュエリーはもちろん、領民の手仕事であるビーズアクセサリーも順調に人気を伸ばしていてまだまだ収益が見込める勢いだ。
「私のところは今は手一杯です。お譲りできる案はありません。でも、スージェルに何か面白い素材があれば、書クラスのユーグ・シュレッサーに持ち掛けるといいです。研究素材になりそうならシュレッサー家とよい取引ができますよ」
ラザールが面白い素材を紹介すれば、カミュ様のお願いと合わせてユーグは忙しくなる。そのまま、アレックス王子の女の子の件が消えるといいなと大いに期待する。
「新入生! こっちだ!」
校舎の裏に出ると上級生と思しき金ボタンの人物が手をふる。丘の道は上級生が要所にたっているので、指示に従って進むように教えてくれる。儀式への道案内と警備は騎士専科の授業の一環らしい。二年後に騎士専科を取ることを決めているクロードは上級生の携える剣に興味深々だ。
上級生に祝いの言葉を貰いながら、丘を登る。時折、クロードと交流のある上級生がいるようで、園内活動の勧誘を受ける。学生という身分での触れ合いは、やはり面白い。
樹々の間の小道を抜けると、穏やかな美しい泉がある広場に出た。教師と思われる人物が数名と、アレックス王子、カミュ様、ユーグ、ディエリの顔を見つける。
「ノエル様!!」
女性の声に顔を向けると美しい令嬢がこちらに歩み寄る。優雅で華やかな礼に、四年前のファーストダンスで手を取った笑顔が重なる。
「カリーナ様ですね。お美しくなられて驚きました」
「私の事を覚えていて下さったのですね。必ず会いに参ります、というお約束がようやく守れました」
いつかという約束に迷っていた私に、必ずと返してくれたカリーナ。あの時、彼女の無邪気な強さがとても眩しかった。「いつか必ず」だったなら果たせる日が来るかもしれない。教えるように約束を果たしてくれたことが嬉しくて、その手を取る。
「ありがとう。約束を果たしてくれたのですね。私も嬉しいです」
真っ赤になったカリーナが嬉しそうに微笑んで、彼女には意外な小さな声でお天気の良さとか入学の祝いの言葉を述べる姿はなんだかとても可愛い。
「では、最初のグループが集まったようなので、魔力印の儀を始めます」
声を上げたのはレノラ・トリスタン。この学園の副学園長で、マールブランシュ王国では非常に稀有な女性の役職者だ。令嬢専科の講義の中心であり、令嬢たちのまとめ役を兼ねるに相応しい落ち着いた夫人である。
「これより、一人一人お名前をお呼びいたします。泉のほとりにて渡された小瓶にエトワールの泉を汲んでください。蓋をしたら、学園長と魔力講義主任の前で小瓶に魔力を注いで頂きます。水は魔力の属性によって色が変わるのですが、魔力が多ければ多いほど変化は早いです」
レノラ副学園長の後を魔力講義主任であるビセンテ・ジャマル先生が引き継ぐように説明を続ける
「エトワールの泉が染まり切ったかは、私と学園長が確認します。確認後は速やかにエトワールの泉を飲み干して下さい。儀式はそれで終了です。」
胸に刻印がすぐに浮かび上がるが、確認は屋敷に帰って行うことと。印を見た時に浮かぶ名は口外しないことを必ず守る様に再度言われる。
エトワールの泉を飲んだ後に印が熱くなるような事や体が重くなることがあるが、魔力の変化によるものだと説明される。なんだかとてもどきどきしてきた。
ナタニエル・パスカル学園長が私たちの興奮の先を見透かすよに言う。
「印が浮かべば魔法を使うことが可能になりますが、講義を受ける前の使用は厳禁ですぞ。最初のグループは特に魔力が大きい方が多いでしょう。知識のないままの使用は暴走を招くことがある。試してみたい気持ちは我々もよくわかりますが、自らの責任をよく理解し自重されることを願います。特に、ユーグ様聞いてらっしゃいますね?」
ナタニエル学園長はユーグを名指しする。ビセンテ先生もユーグの事を見ている。毎年学園に侵入するシュレッサー伯爵家の性格はよく知ってのことなのだろう。当のユーグはどこか遠くを見るような艶のある表情を浮かべているので多分話をあまり聞いていない。
「ユーグ。返事をしろ」
アレックス王子が声をかけるが、ユーグが思考から戻ってこない。
「ユーグ。返事なさってください。使ってはいけませんよ。使ったらご褒美のお話はなしに致します」
カミュ様の言葉にユーグが思考から戻ってきて、にっこりと笑顔で先生たちに頷いてみせる。今のところ、カミュ様のご褒美がユーグの良い手綱になりそうだ。
「では、アレックス殿下より行います」
ナタニエル学園長の言葉にアレックス王子が進みでる。お互いに礼を取り合う。
渡された小瓶は小さな手の平と同じぐらいの大きさのもの。きらきらと日の光を受けた泉にアレックス王子は進み出ると、跪いて小瓶を泉に差し入れた。波紋が広がって水面が揺れる。
ただ、それだけの行動。なのに泉の神聖な雰囲気と儀式の特別さが、現実感のない美しい夢の中の出来事のように映る。
泉の水を小瓶に満たすと、蓋をしてアレックス王子が立ち上がる。
「それでは、魔力を少しずつ流し込んで頂きます。体の中心を意識して、腕を通じて意識を流し込むイメージを持って行ってください。初めは難しい感覚ですが、魔力量が多いはずなので決して時間はかかりません」
アレックス王子は頷くと、ゆっくり息を吐きだしながら小瓶を見つめる。
気付くと私は手を前に組んでいた。アレックス王子が光属性で魔法を使える未来を知っているのに、上手くいきますように一心に願う。
透明だった水の入った小瓶の水がみるみるうちに白く輝きを帯びていく。小瓶を見つめたまま、アレックス王子が少し安堵の笑みを浮かべた。止まることなく水は魔力に応じて輝きを増していき、美しく強く光り輝く。
ナタニエル学園長がお飲みくださいと声を掛けると、頷いて一息で飲み干す。この時を境に、私たちは大人になっていくのだという確信が湧き上がる。
瓶から唇を放すとアレックス王子が左胸に手を当てた。
「うん。確かに左胸が少し熱くなるな。もう、この胸に魔法印が記されたということだな?」
「はい。おめでとうございます。ビセンテが魔力量を計測する魔法を今使わせて頂きました。歴代でも屈指の光属性の魔力です。研鑽をお積みになり、よき国王になられる事を心より願わせていただきます」
ナタニエル学園長を始め、そこに立つ者が次々とが跪く。本来にはない、王族に対する特別な一幕に胸が熱くなる。
アレックス王子の後に、カミュ様が続く。アレックス王子より魔力量は少ないが光属性でもトップクラスと告げられる。次にディエリが続く、黄色い色は土属性だ。こちらもトップクラスで、バスティア公爵家なら歴代でも一番ではないかとビセンテ先生が呟いた。突然、ディエリが左胸を抑えたあと、口元を少し抑える。
「ご気分が悪くなりましたか? 変化酔いでしょう。レノラ夫人、ディエリ様を木陰へ!」
レノラ副学園長が駆け寄る。儀式ではよくある事らしい。魔力の在り方が急激に変わる為、変化に繊細な者だと眩暈などが起こる。一時的ですぐに治まるので、無理をせずに申し出るように改めて告げられる。
「ノエル様。私もすぐに順番ですわ。なんだか少し不安になってしまいました。私が倒れたら助けに来てくださいますか?」
カリーナが不安そうに私を見つめる。ディエリは木陰に移動して、樹に背を預けるよにして目を閉じて休んでいた。不安を感じる気持ちはよくわかる。私も心に影のようなものが広がる気がしていた。
「カリーナ様、何かあれば皆ついております。どうぞ、安心して儀式にお望み下さい。私たちにとって成長する為の一歩ですから、頑張りましょう」
それは不安を感じる自分を鼓舞する言葉。精一杯の笑顔でカリーナの背をおす。ほっとしたように微笑むと、カリーナが頷いてくれる。大丈夫。ちゃんとできる。
ディエリの跡にラザールが続く。赤色の火属性できちんと上位クラスの魔力と判定される。行ってきますと笑顔で向かったカリーナは水色で水属性の上位クラス。
「では、ノエル・アングラード」
カリーナ様が頑張った以上は、私もしっかりしないといけない。進み出てナタニエル学園長から小瓶を受け取った。
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