11 / 41
六月三日 将太、苛立ち暴れる
しおりを挟む
(国内を震撼させていた、連続女性絞殺魔ですが……真幌市に宿泊している男性が身柄を確保されている、という情報が入りました。現在、任意で事情を聞いているとのことです。今のところ、警察からの発表はありませんが、詳しい情報が入り次第、随時お伝えします)
テレビのワイドショーにて、アナウンサーが神妙な顔つきで臨時ニュースを伝えている。
桜田将太は、不快な表情でそれを観ていた。一週間ほど前から、都内でちょっとした話題になっている連続絞殺魔のニュースだ。若い女性ばかりを狙い、家の中に侵入して灰色のネクタイで首を絞めて殺し、ネクタイを残して立ち去る……という手口である。既に三人の女が、犠牲者となっているらしい。
将太はそのニュースに注目し、聞き耳を立てていた。だが、したり顔のコメンテーターが勝手なことを言い「背筋が寒くなりますね」などといった、ありきたりの言葉を並べたてるだけである。
こんなコメントしか聞けないなら、時間の無駄だ。将太は立ち上がった。
服を着替え、部屋を出て行く。
昨日、叩きのめした男は、虎の威を借る狐そのものだった。少々やり過ぎたかもしれない。グローブには、相手方のものであろう折れた前歯が突き刺さっていた。手応えからして、相手の頬骨も折れているはず。その場を離れた時にはまだ息があったが、ひょっとしたら死んでいるかもしれない。
もっとも、仮に奴が死んだからといって、後悔などしないが。
あいつは、桑原興行なる名前を出してきたが、そもそも桑原興行が何なのか不明だ。名前から察するにヤクザなのだろうが、将太はそんな組織など聞いたこともないし、また興味もない。それに、ああまで痛めつける気はなかった。
ただ、引き上げようとした時にヤクザの名前を出してきた……それが気に入らなかったのだ。さらに、ヤクザの名前を出せば自分がビビって手を引くと判断した、あの男の根性が気に入らなかった。ヤクザは屑以外の何者でもないのだ。死んだからといって誰も困らない。むしろ、世の中は多少住みやすくなったであろう。
まあいい。人を殺したのは初めてではないのだ。今さら、殺してきた人間のリストに一人くらい増えたところで、どうということはない。
そう、自分は表の華やかな世界で活躍している、ルールに守られた格闘技をしているような連中とは、根本的に違う。
自分こそ、本物の格闘家なのだ。格闘技の究極の目的、それは人体の破壊である。ならば、殺人は避けて通れないのだ。いや、むしろ殺人を恐れるくらいなら、初めから格闘技などするべきではない。
かつての武術家たちは皆、闘いの中で人の命を奪ってきていたはずだ。自分もまた、真の格闘家として生きようとする以上……殺人は避けて通れないのだ。
将太は歩き回った。今日の獲物を探し、町を徘徊する。
真幌駅の改札口で立ち止まり、さりげなく周辺を見回した。しかし、獲物にふさわしい連中が見当たらない。
将太は、さらに歩き続けた。歩きながら、あちこちをさりげなく見回し、獲物を探し求める。だが腹の立つことに、今日に限って獲物の候補が全く見当たらない。出歩いているのはサラリーマンや一般学生、あるいはOLなど……少なくとも、将太が普段ぶちのめしているような連中とは、明らかに違う人種ばかりが目に付く。
歩いているうちに、将太はだんだん苛々してきた。誰でもいいから、殴り倒したくて仕方ない。気が付くと、真幌公園に足を踏み入れた。
話し声が聞こえる。男と女の声だ。見ると、いかにも向こう見ずな雰囲気の若い男が、ベンチに腰掛けている。隣に座っている若い女に、大声で何やら語っているのだ。そして、男の方はタバコを吸っていた。
「そうなんだよ! そしたら、そいつが何つったと思う?」
言いながら、男はタバコを吸った。吸殻をその場に投げ捨て、足でもみ消す。
それを見た将太の目に、危険な光が宿った。いつものようにフードを被り、いかにも憤然としているような態度で近づいていった。
男のすぐそばで立ち止まり、睨みつけた。
「おいガキ! 公園に吸殻捨てんじゃねえよ、このクズが!」
挑発的な言葉で注意する。これで、大半の場合は乗ってくるはずだ。
「何だと……てめえ殺すぞ!」
荒々しい言葉と同時に、男は立ち上がる。将太は、内心でほくそ笑んだ。この手の男は、女の前でバカにされることを極端に嫌う。予想通りに乗ってきてくれた。
しかし、隣に座っていた女もすぐに立ち上がった。男の落とした吸殻を、素早く拾い上げる。
そして、将太に向かい頭を下げた。
「すみませんでした。マサト、行くよ」
そう言って、男の腕を引っ張って行った。マサトと呼ばれた男は、将太を睨みながらも、女に腕を引かれて離れていく。
将太は苛ついた。なぜ来ないのだ? 思わず声が出た。
「おい何だよ……その女、お前のママの代わりなのか? 家に帰って、おっぱいしゃぶるのか? 情けない奴だな」
「んだと!」
予想通り、男は逆上した。女の手を振り切り、殴りかかってくる。しかし、素人にありがちな、力任せの大振りのパンチだ。かわすのは簡単だったし、当たっても大したことはない。
パンチを躱した将太は、左のジャブを放つ。左拳はカウンター気味に、男の顔面に炸裂した。
男の動きが止まる。次の瞬間、鼻と口から出血した。男は両手で顔を押さえ、下を向く。
一方、将太の動きは止まらなかった。次いで、左太ももへローキックを放つ──
その一撃は、バットで殴られるような衝撃だっただろう。男は、呆気なく膝から崩れ落ちる。
直後に叫びだした。
「いでえ! いでえよお! ゆるじでぐれえ!」
一方、女はスマホに向かい何やらわめいている。恐らく、警察を呼んでいるのだろう。将太はさっさと、その場を離れた。
情けない奴だ、と将太は思った。ジャブで鼻をへし折ったわけではないし、ローキックで膝を壊したわけでもない。むしろ、ローキックで終わらせたのは情けである。太ももへのダメージなら、人体に深刻な影響はない。本気で痛めつける気なら、もっと危険な技を使っていたのだ。殺すことも、簡単にできていた。
まあいい、これで気は済んだ。さっさと帰るとしよう。
将太は気づいていなかった。今日の彼の行動は、自身がこれまで狩ってきた町のチンピラと同レベル……いや、それ以下であることに。
テレビのワイドショーにて、アナウンサーが神妙な顔つきで臨時ニュースを伝えている。
桜田将太は、不快な表情でそれを観ていた。一週間ほど前から、都内でちょっとした話題になっている連続絞殺魔のニュースだ。若い女性ばかりを狙い、家の中に侵入して灰色のネクタイで首を絞めて殺し、ネクタイを残して立ち去る……という手口である。既に三人の女が、犠牲者となっているらしい。
将太はそのニュースに注目し、聞き耳を立てていた。だが、したり顔のコメンテーターが勝手なことを言い「背筋が寒くなりますね」などといった、ありきたりの言葉を並べたてるだけである。
こんなコメントしか聞けないなら、時間の無駄だ。将太は立ち上がった。
服を着替え、部屋を出て行く。
昨日、叩きのめした男は、虎の威を借る狐そのものだった。少々やり過ぎたかもしれない。グローブには、相手方のものであろう折れた前歯が突き刺さっていた。手応えからして、相手の頬骨も折れているはず。その場を離れた時にはまだ息があったが、ひょっとしたら死んでいるかもしれない。
もっとも、仮に奴が死んだからといって、後悔などしないが。
あいつは、桑原興行なる名前を出してきたが、そもそも桑原興行が何なのか不明だ。名前から察するにヤクザなのだろうが、将太はそんな組織など聞いたこともないし、また興味もない。それに、ああまで痛めつける気はなかった。
ただ、引き上げようとした時にヤクザの名前を出してきた……それが気に入らなかったのだ。さらに、ヤクザの名前を出せば自分がビビって手を引くと判断した、あの男の根性が気に入らなかった。ヤクザは屑以外の何者でもないのだ。死んだからといって誰も困らない。むしろ、世の中は多少住みやすくなったであろう。
まあいい。人を殺したのは初めてではないのだ。今さら、殺してきた人間のリストに一人くらい増えたところで、どうということはない。
そう、自分は表の華やかな世界で活躍している、ルールに守られた格闘技をしているような連中とは、根本的に違う。
自分こそ、本物の格闘家なのだ。格闘技の究極の目的、それは人体の破壊である。ならば、殺人は避けて通れないのだ。いや、むしろ殺人を恐れるくらいなら、初めから格闘技などするべきではない。
かつての武術家たちは皆、闘いの中で人の命を奪ってきていたはずだ。自分もまた、真の格闘家として生きようとする以上……殺人は避けて通れないのだ。
将太は歩き回った。今日の獲物を探し、町を徘徊する。
真幌駅の改札口で立ち止まり、さりげなく周辺を見回した。しかし、獲物にふさわしい連中が見当たらない。
将太は、さらに歩き続けた。歩きながら、あちこちをさりげなく見回し、獲物を探し求める。だが腹の立つことに、今日に限って獲物の候補が全く見当たらない。出歩いているのはサラリーマンや一般学生、あるいはOLなど……少なくとも、将太が普段ぶちのめしているような連中とは、明らかに違う人種ばかりが目に付く。
歩いているうちに、将太はだんだん苛々してきた。誰でもいいから、殴り倒したくて仕方ない。気が付くと、真幌公園に足を踏み入れた。
話し声が聞こえる。男と女の声だ。見ると、いかにも向こう見ずな雰囲気の若い男が、ベンチに腰掛けている。隣に座っている若い女に、大声で何やら語っているのだ。そして、男の方はタバコを吸っていた。
「そうなんだよ! そしたら、そいつが何つったと思う?」
言いながら、男はタバコを吸った。吸殻をその場に投げ捨て、足でもみ消す。
それを見た将太の目に、危険な光が宿った。いつものようにフードを被り、いかにも憤然としているような態度で近づいていった。
男のすぐそばで立ち止まり、睨みつけた。
「おいガキ! 公園に吸殻捨てんじゃねえよ、このクズが!」
挑発的な言葉で注意する。これで、大半の場合は乗ってくるはずだ。
「何だと……てめえ殺すぞ!」
荒々しい言葉と同時に、男は立ち上がる。将太は、内心でほくそ笑んだ。この手の男は、女の前でバカにされることを極端に嫌う。予想通りに乗ってきてくれた。
しかし、隣に座っていた女もすぐに立ち上がった。男の落とした吸殻を、素早く拾い上げる。
そして、将太に向かい頭を下げた。
「すみませんでした。マサト、行くよ」
そう言って、男の腕を引っ張って行った。マサトと呼ばれた男は、将太を睨みながらも、女に腕を引かれて離れていく。
将太は苛ついた。なぜ来ないのだ? 思わず声が出た。
「おい何だよ……その女、お前のママの代わりなのか? 家に帰って、おっぱいしゃぶるのか? 情けない奴だな」
「んだと!」
予想通り、男は逆上した。女の手を振り切り、殴りかかってくる。しかし、素人にありがちな、力任せの大振りのパンチだ。かわすのは簡単だったし、当たっても大したことはない。
パンチを躱した将太は、左のジャブを放つ。左拳はカウンター気味に、男の顔面に炸裂した。
男の動きが止まる。次の瞬間、鼻と口から出血した。男は両手で顔を押さえ、下を向く。
一方、将太の動きは止まらなかった。次いで、左太ももへローキックを放つ──
その一撃は、バットで殴られるような衝撃だっただろう。男は、呆気なく膝から崩れ落ちる。
直後に叫びだした。
「いでえ! いでえよお! ゆるじでぐれえ!」
一方、女はスマホに向かい何やらわめいている。恐らく、警察を呼んでいるのだろう。将太はさっさと、その場を離れた。
情けない奴だ、と将太は思った。ジャブで鼻をへし折ったわけではないし、ローキックで膝を壊したわけでもない。むしろ、ローキックで終わらせたのは情けである。太ももへのダメージなら、人体に深刻な影響はない。本気で痛めつける気なら、もっと危険な技を使っていたのだ。殺すことも、簡単にできていた。
まあいい、これで気は済んだ。さっさと帰るとしよう。
将太は気づいていなかった。今日の彼の行動は、自身がこれまで狩ってきた町のチンピラと同レベル……いや、それ以下であることに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛
MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる