筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫

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襲撃

72.大隈の集落を偵察する

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次の襲撃は早くて3日後、恐らく4日後だろう。
今回は敵の数も多いから、全ての敵を里に殺到させてはまずい。単純に人数だけを比較すれば1/10、戦力で言えば1/20だ。

敵の目的地がはっきりしており、侵攻ルートが明確なのだから、取りうる戦術は漸減邀撃ぜんげんようげきしかない。
旧帝国海軍が立案し敢え無く破綻した作戦。破綻した要因は敵の侵攻ルートと目的地が不明なのに、自分達の都合で敵の侵攻ルートを予想したからだ。

今回は、黒の精霊による監視が上手くいっている間は敵の位置を読み間違えることはないし、打って出るのは最低限の戦力のみ。ただしその戦力は俺か式神である。
相手の出方と地形によっては、とんでもない戦果をあげそうで怖い。



翌日、朝の鍛錬を終えてから、大隈おおくまの集落まで偵察に行くことにした。
邀撃のために地形を把握しておきたいし、何より住民達に生気がなかったとの報告が気になる。

同行者は青、小夜と梅、杉の4名。
集落内部に入るのは小夜と梅、杉に任せる。3名ともこの地域の出身だし、麻の貫頭衣を着て炭でも背負っていれば怪しまれないはずだ。

俺と青は、弥太郎達が野営していた場所で待機し、窓で小夜達を見守る。いざという時は門を使い救出する手筈だ。

大隈の集落に入った小夜達は、近くにいた住人に声をかけた。こういう時は物怖じしない杉が先頭に立つ。

「おじさん!炭持ってきたんだけど、食い物と交換できる人知らない?」

「ああ、小野谷おのだにの子か。炭なら村長のところに持っていけば、たぶん何かと交換してくれる」

住人の男が答える。確かに紅が言う通りどことなく元気がない。
別にガリガリに痩せているとかではなく、生気が足りてない感じだ……ああ、徹夜明けの技術者が夕方まで働いたあとの雰囲気に似ている。

「村長さん?はどちらに?前に来てから結構経つので……」

「そうだったかい。じゃあ案内しよう。っあ痛たた…」

突然男が腹を押さえて蹲うずくまる。

「おじさん!どうしたの?お腹痛い?」

小夜と梅が慌てて駆け寄る。杉が辺りを警戒するように見渡したのは偉い。鍛錬の成果だろう。

「ああ…大丈夫だ…ここ半月ぐらいずっと腹を下していてな。儂だけじゃなく、村の者全員がそうなんだ」

なんと……生気がないのは腹を下しているためだったか。しかも住人全員が。
劇症ではないのだろうが、集団感染か、そうでないなら何かの中毒だ。例えば飲み水が汚染されたりすれば、被害は容易に住人全員に拡がる。

「えっと…お腹が痛い時のお薬は……」

小夜がポシェットから小さな包みを取り出す。
あれは…ビワの葉とヨモギの葉、ドクダミの葉をすり潰して、丸薬状に丸めて干したもの。以前小夜に飲ませたこともあったか。

「おじさん!これお腹痛い時に効くお薬だよ!飲んで!」

そういって小夜が丸薬を男に渡す。梅が竹筒の水筒を男に差し出すと、男は半信半疑といった感じで水筒を受け取り、丸薬を飲む。

「ん??痛みが消えた……腹がどんより重かったのが軽くなった!治ったのか!!」

どうやら効果はあったようだ。

「嬢ちゃんすごいな!その薬もっとあるのか?!他にも苦しんでいる連中がたくさんいるんだ!」

「ううん…あと1粒だけ…またタケルさんに作ってもらわないと」

小夜が残念そうに答える。

「そのタケルって人は、小野谷の薬師か何かかい?」

おじさんの言葉に梅が反応する。

「違います!タケル様は集落をお救いになった人です!何もできなかった祈祷師や薬師と一緒にしないで!」

「救った?……ってことは、噂の神様の遣いが作った薬だったのか!この村にも神様の助けが必要なんだ!みんな腹壊して苦しんでる。なんとかそのタケル様にお救いいただけねえだろうか」

「病で苦しんでいる人は何人ぐらいいるのですか?」

小夜が尋ねる。

「ほぼ全員だから、100人ぐらいだ。小さな子供もずっとグズってるらしいから、たぶん腹がいたんだと思う。食欲もないって話だ」

「100人分の薬を準備するのは、いくらタケルさんでも、ちょっと時間が掛かるかもです。腹痛の原因に心当たりは?井戸の水の味が変わったとか、みんなが同じものを食べる機会があったとか、直前に行商人が訪ねてきたとか…?」

小夜が問診している。

「そうだなあ……特に変わったことはなかったと思う。水は村の中心の井戸水だが、別に味が変わったとかはない。みんなで同じものを食べると言えば田植えか祭の時ぐらいだが、田植えからだいぶ時間が経つし、祭は秋だからなあ」

聞いた限りでは、特に違和感はない。

「行商人はときどき来る。ここは穂波ほなみから田川たがわに抜けるのも、飯塚に向かうにも通る所だからな。そういえば半月ぐらい前に来た行商人は見かけない顔だったな。確かそいつが来てから、神の遣いが現れて助けてくれたって集落が噂になったんだ」

つまり馴染みではない余所者が、俺の噂を吹聴した直後に病が発症したと……あからさまに怪しい。

まあ、実際診たほうが早いだろう。

勾玉を使い、小夜に連絡する。
ちなみにこの勾玉は2代目だ。1代目は三善の爺さんと繋がっていたから、襲撃の翌日に破壊し宇宙空間に打ち上げておいた。2代目勾玉は子供達が河原で拾ってきた綺麗な石を磨いて作ってあり、精霊を使える全員が持っている。

「タケルさん!来てもらえますか?はい、もう近くにおられるのですか?はい!じゃあ杉を迎えに行かせます。はい、お待ちしてます」

杉がこちらに向かって走り出した。
小夜は勾玉を首元に仕舞い、おじさんに言う。

「タケルさんが到着されます。苦しんでる人達を、村の中心に集めてください」

おじさんが人を呼びに駆け出す。

集落の入口にいた杉の傍らに門を開き、集落へと向かう。俺が先についてもお互いバツが悪いだろう。住人達が集まるまで、物陰に隠れて様子を見る。

次々と住人達が集まってきた。

この間に杉にヨモギとオオバコ、スギナなど薬草を集めさせ、手早く丸薬を作り、緑の精霊の力を込める。
あまり強くして里の子供達のように精霊遣いの才能を開花させても困る。最小限に調節し、複製する。
別に薬を飲ませなくても、直接緑の精霊を貼り付ければ済むのだが、それでは余りにも味気ないからな。

あまり待たせても小夜と梅が可哀想だ。ほどほどにして、住人達の前に姿を表す。

「おお!あなたがこの者を癒した薬を作られた方ですか!どうかそのお力で、この村をお救いください!」

年配の男が縋り付く勢いで頼んでくる。

「症状は腹痛だな?とりあえず子供達からだ。その次に女、年寄り、男の順だ。順番に並んでくれ。青と杉は列を誘導。小夜は梅を連れて、一軒ずつ中を確認。動けなくなっている者や、病気の家畜がいないか、他に異変がないか調べてくれ」

住人の列を動かすより俺が動いたほうが早い。
丸薬を入れた小さな麻袋と竹筒の水筒を持ち、人々の間を回って丸薬を飲ませていく。飲んだものから効果が出ている。
小夜と梅が戻ってきた頃には、集まっていた全員が回復していた。

「タケルさん!集落には他に人はいません。病気の家畜も見当たらないです」

「そうか。ご苦労様。こっちももう終わりだ」

最後の一人が、俺に頼みこんできた年配の男だった。

渡した丸薬を飲み込むと、男は腹のあたりを撫で回し、呟いた。

「治った…治りましたぞ!!ここ半月ずっとシクシク痛かった腹が、すっと治りました!」

ほう……シクシクとな。
まさか急性胃炎ではあるまいな。
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