【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【8】空前絶後~コミケ参加、それが俺のジャスティス

私の身長は180あるぞ

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「ワガハイ、どうせ入学辞退するのならそれもいいかとそのように書いてみたでごわす。そうしたら」
「そしたら?」
 ふー、と大佐はひとつため息をついた。
「まあ、来るわ来るわ、罵倒の嵐が」
 さっきまで自慢の道具に使っていた人たちが、あっという間に手のひらをかえして大佐を叩き始めたのだという。
「どうせお前がうかるはずないと思っていた、とか、外見どおりクソだなとか、散々でごわした」
「……そりゃー、散々、っしたね」
「まあワガハイも、本当は受かっておきながら嘘をついたわけでごわすから、心が苦しくはあったのでごわすが、どうにもおかしいと思いはじめて」
「おかしい?」
 幾久の言葉に大佐が頷く。
「そもそも、ワガハイが受かろうが落ちようが、そんなことはこの人たちには全く関係のないことでごわす。勝手にワガハイを自慢しておきながら、恥をかかせたな責任取れ、みたいに言われて訳がわからなくなったんでごわす」
 どんだけガタ先輩は混乱させるのが好きなんだよと幾久は呆れた。
「心が折れそうになった時に、ガタどのがおっしゃったでごわす。『な?実際なにがどうだとかこいつら全然確認もしねーだろ?なにが嘘で何が本当かなんて考えもしねーで目の前の単語で脊髄反射、こんな昆虫レベルにモテて、大佐嬉しいか?マジで』」
 確かに山縣が言いそうな台詞だ。
「本当におめーを心配してるよーな奴がいたら、ちゃんと連絡くっだろって。実際その通りでごわした」
 大佐が言うには、やはりそれなりに親しかった人が『どうしたんだ』とか『なんかあったのか』とか、様子を調べてくれたらしい。本当に心配してくれる人がいたことにほっとして、大佐はその人たちには正直に謝罪したのだという。
「人間不信になりかかった、って言ったら許してくれたでごわす」
 急に大佐と親しくなろうとか、勝手に友達面しはじめたり、そういったのを元から親しい面々はどうしようかと思ってはいたらしい。
「堂々と威張ってマウントとりゃーいいのに、大佐って気にしぃだよな」
「や、ガタ先輩が気にしなさすぎなんですよ」
「大佐の敗因は、肩書きで満足するタイプじゃなかったってことだよな。自分でも肩書きに囚われてりゃ、堂々と胸はれたのに」
 実際スゲーよ東大、と山縣は言うが、大佐は「そうではござるが」とため息をついた。
「亀みたいにノロマ扱いだったのが、あんなに手のひらを返されるとどうにもついていけないでごわす。勉強なんかしていてもバカにしかしていなかった女子が、きゃーきゃー言いながら近づいてくるでごわすよ?これまで違う意味でキャーキャー言って逃げてたくせに」
「まあ仕方が無いこったな」
「結果モテてるならいいんじゃないんすか?」
 山縣と幾久の言葉に、「ほんっと、そう言うところ、兄弟でごわすな」と大佐は嫌そうに言ったが、やはりまた二人は「こいつだけはねーわ!」と同時に言ったのだった。

「でも大佐の言ってること、うちの先輩も同じような事言ってましたよ」
「ほう」
 興味深そうに大佐が幾久を覗き込んできた。
「どのようなことか、お尋ねしても?」
 幾久は頷く。
「その先輩、すごいモテるんすけど」
「モテるのでごわすか」
「おい大佐、そこ反応すんな」
 山縣が突っ込みを入れる。
「そんとき、オレもモテるっていいなあ、みたいな事を言ったら先輩が『あんなのは自分の自慢に使いたいだけで、僕を好きなわけじゃない』ってきっぱりと」
 夏休みに入る前、久坂に告白しに来た女子がいた。
 幾久もなぜかそれに巻き込まれてしまったのだが、久坂は幾久が引くくらい、女子達を毛嫌いしていた。
「自分に対して告白してきただけで、なんで自分の功績をわが事のように言われなくちゃならないんだと。彼女ってだけで先輩の立場を自分のものにするのは単純に図々しい女だからお断りだし、好きにもならないし感情を押し付けてくるのは、むしろそれだけで嫌いだと」
「そうでごわすなあ」
「人に好かれるって、すごく良いことみたいに思ってたんすけど、そういうの見たら、確かに好きっていうのも複雑だなーって。だってオレだって、正直、その先輩らがオレの先輩っての、けっこう自慢なんす」
 最初はよく判らない人達だったけれど、面倒見はいいし、なんだかんだ優しい。
 それに、成績も優秀で目立つし人気もあるので、あの先輩に可愛がられるなんて、と幾久は何の努力もなく、『いいポジション』を手に入れている。
「実際、オレけっこう成績上がったんですけど、それも先輩らのおかげなんす。ずっと勉強見てくれて、スゲー判りやすいし。ちょっとスパルタなとこもたまにあるけど。あ、ガタ先輩は何もしてないっす」
「そういう報告はいらねーよ、なにわざわざ説明してんだボケ」
 山縣が舌打ちするが、幾久はいつものことなので気にせず言った。
「いや、一応言っておかないと、ガタ先輩の株が上がったらシャクじゃないっすか」
「はっ、高杉の株を奪うような真似を俺がするかよ」
「ハル先輩のは、しないでしょうけど」
 なんだと、と言いかけた山縣を無視して幾久は続けた。
「オレは家族みたいなもんだから、自慢に思っていいって、別の先輩が教えてくれて。オレなんもしてないのに」
「なんもしてないっていうのは、ないと思うでごわす。後輩殿がなにもしていないと思っていても、先輩達にとって後輩殿はなにかしてくれているのかもしれないでごわすよ」
「そうかなあ」
 幾久が寮でやっているころなんて、普通に茶碗を出したり下げたり洗ったり、あとは洗濯や掃除くらいで、特に変わったことをしているとは思えない。
「ワガハイとて、今回ガタどのが後輩殿を連れてくるってだけで嬉しかったでごわすからな」
「役に立つぜ、コイツは」
 山縣の言葉に幾久は思わず顔を上げたのだが。
「コイツの家が区内にあるおかげで、移動が楽だったもんなー今回」
「……それって役に立ってんの、オレじゃなくて家の場所じゃないっすか」
「褒めてやってんのに」
「家の場所をですよね」
「そうとも言う」
「そうとしかいわねえ」
 幾久と山縣のやり取りに「やはり兄弟……」と大佐が呟いたが、「ちげー!」と言ったのもやはり同時に、だった。

「どうせ兄弟なら、オレ別の先輩とがいいっす」
「はっ、久坂か吉田かよ」
 あえて高杉を入れないのは、山縣いわく『俺の嫁』だからだろう。
「違いますよ、雪ちゃん先輩っす」
 幾久の言葉に、山縣は「はぁ?」と顔をゆがめた。
「あの優等生のどこがいいんだよ」
「ガタ先輩と真逆なとこ」
「おお、新キャラ登場でごわすか」
 大佐はわくわくした表情で幾久に尋ねた。
「どんな先輩でごわすか」
 幾久は笑顔で答えた。
「すごい格好良くて、イケメンで、上品で、背が高くてスタイルもよくて、武術もできるし成績もトップで、頼りがいがあって、オレが他の奴と喧嘩になったときも、鶴の一声でその場をおさめてた」
「なんでごわすかそのチートキャラは」
「夢見すぎだぞ後輩。お前は女子か」
「本当の事じゃないっすか」
 実際、雪充の人気は凄い。
 他校の女子からはもちろんの事、同じ学校の生徒にも信頼されているし、下手な教師に頼むより、雪充に相談したほうがいいとされているくらいだ。
「あー、ガタ先輩と雪ちゃん先輩が寮変わればいいのに」
「てめーふざけんなし。俺様と高杉を離れさすつもりか」
「ハル先輩もその方が喜ぶし」
 すると山縣は自分の喉を手の甲で叩きながら『アアアアアアアア』とヘンな声を出した。
「うわあ、ヘンな生き物がいる」
「俺には見えるぜ、高杉が俺を」
「見えませんしありえません」
「せめて最後まで言わせろ」
「まあまあ、お二人ともおさめておさめて」
 大佐がにこやかにそう言うが、さめた表情の山縣が言った。
「言っとくけど大佐が親近感覚えた奴、クソイケメンだぞ」
 山縣の言葉に大佐の表情が固まった。山縣はさっとスマホを取り出して、いつ撮ったのか、久坂の写真を出して見せた。
「ホラ見てみろ」
「ウワーやめて心が死にそうでごわす……」
 両手で顔を隠してテーブルに突っ伏す大佐に、なにをやっているんだと幾久は呆れるが、山縣が言った。
「大佐はイケメンを見るとコンプレックスをこじらせて自爆する」
「あー……」
「おい後輩、コイツの特徴を説明しろ」
 山縣の言葉に幾久は反応して答えた。
「えーと、イケメンというか美形です。超美形っす」
「ウワー」
「あと、成績も優秀で、親友と毎回トップ争いです」
「ひぃいいいい」
「身長は百八十超え」
 がばっと大佐が起き上がった。
「ワガハイも百八十はあるでごわす!」
 得意げに告げたが山縣が言った。
「更にお坊ちゃんで武術も複数たしなみ、女子からの人気は絶大な上に、複数のピアスが全く嫌味ではなく、おまけに美声だ」
「あ、確かに久坂先輩、めちゃくちゃ声いいですもんね」
「チートばかりじゃないでごわすか……」
 大佐が落ち込み膝を抱えるので、山縣は少しやりすぎたか、という顔になって幾久を見つめたが、そんな顔で見られても幾久も困る。
「……大佐には大佐のいいところがあると思いますけども」
 幾久が言うと大佐は膝を抱えたまま、「どこにでごわすか」と言うので山縣を見たが、山縣は「え?俺が?」とかいう顔になっている。
 他に誰がいるんだ、と幾久が山縣を肘でつつくと、山縣は腕を組んだまま、うーん、と考えて、ぽんと手を打った。
「おお、そういや大佐、この前人命救助したらしーじゃん!」
「えっ、本当っすか?」
 人命救助とは凄い、と幾久は驚いて大佐を見る。
「居酒屋で急性アルコール中毒の人がいたので、救急車を呼んだだけでごわす」
 たいしたことじゃない、と大佐は言ったが幾久にはたいしたことだ。
「そんなん出来るなんて凄いっすよ」
 救急車を呼んでいいのかどうかの判断なんか、幾久には出来ない。

 見て判断して、それが出来たらたいしたものだ。
 ちょっと気をよくしたらしい大佐が笑顔になり、山縣がそこを逃さず「後輩が興味持ってるから是非」と言うとすっかり元気になった。
「まあ、後輩殿もこの先必要になるかもでごわすから、ささっと説明するでごわすね」
 幾久は頷いた
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