【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【21】東走西馳~今年も君といる幸運と幸福

年末らしいイベント

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 頼まれた仕事も終わり、夜中の十一時すぎにまた集合する事になった。
 高杉、御堀、幾久の三人は歩いて報国院から久坂の実家まで戻ると、久坂が掃除させられている最中だった。
「あ、おかえりいっくん!御堀!」
 久坂がぱあっと笑顔になったので、あ、これ、なんか押し付けられる奴、と幾久は察した。
「ちょうど良かった。ぼちぼち、僕の掃除の時間は終わりでさ」
 そういうと六花が現れた。
「ぬかせ瑞祥。テメーの仕事を後輩に押し付けてんじゃねえ」
 六花の言葉に瑞祥が舌打ちする。
「オレ、別に手伝いますけど」
 幾久が言うと、久坂が喜んだ。
「やっぱりいっくんは分かってるね」
「瑞祥先輩のお手伝いっすよ?先輩も掃除するんすよ?」
 そう言うと、御堀と高杉が苦笑した。

 御堀は六花の料理を手伝うことになり、幾久と久坂、高杉の三人で掃除をすることになった。
 とはいえ、もう時間も遅く、久坂の家はよく手入れされていて、することといえばガラス窓を軽く拭いたり、風呂掃除といった程度だった。
「瑞祥先輩、ぐずってたけど大した掃除はないじゃないっすか」
 幾久が言うと久坂がむっとして言った。
「大した掃除は僕がやらされたんだよ。いっくんはラッキーだね」
 はあ、とわざとらしくため息をつくが、高杉が苦笑した。
「お前、自分の家じゃろうが。幾久に手伝わせるとはずうずうしいのう」
「いっくんが僕の家に泊まりに来てるんでしょ?ずうずうしいのはいっくん」
「ってわかってるからこうしてお手伝いしてるんス」
 掃除は寮でもやっているし、もともとがきれいなので別に大変とも思わない。
「飯も家も心配しなくていいし、寮とおんなじなんて最高っす。掃除くらいいくらでも」
「だったら掃除してもらったらよかった」
 げんなりと言う瑞祥に高杉が言った。
「しょうがなかろう。今回は殿のお達しじゃからの。それにお前が団子を捏ねるはずもないしのう」
「団子なんか僕が作るはずがないだろ」
「だったら善哉、いらないっすか?折角持って帰ったのに」
 団子を作った褒美として、家で食べる分の善哉もしっかり貰って帰ってきたのに、と幾久が言うと餡子好きの久坂は言った。
「食べるよ!勿体ないだろ!」
「食べたいんじゃないっすか」
「勿体ないからね。それに御堀が作ったなら安全だし」
「オレだって手伝いました」
「御堀が見張ってるなら安心」
 そう久坂が言うので、幾久は絶対久坂のお茶はものすごく苦めに入れてやろうと思ったのだった。


 のんびりと全員で夕食に温かい蕎麦を食べ、十一時を過ぎたあたりで家を出た。
 高杉と久坂は警備の手伝い、幾久と御堀は善哉を売る手伝いだ。
 六花も日付が変わるころ、神社へ向かうという。
 すでに境内には毛利やマスターが居た。
「こんばんは、毛利先生、と三吉先生」
「おー、こんばんはー」
 珍しく今日は煙草を吸ってないな、と思ったら、餅つきの最中だ。
 しかもやたらガタイのいい人たちがいる。
「お!いっくんじゃないか!こんばんは!」
 そう声をかけてきたのは、八木のパン屋のご主人だ。
 報国寮にいるめーちゃんの飼い主で、いつもパンを差し入れてくれる気のいいパン屋のおじさんだ。
「こんばんは。皆さんは餅つきっスか?」
「そう!力仕事は俺らの仕事よ!」
 そういってもりっと力こぶを作って見せる。
 マスターの主催する社会人プロレスに参加しているだけあって、ガタイが良い。
 他にも五月に見知ったレスラーの人たちが居て、幾久はひとしきり挨拶を交わした。
「いっくんは?お参りにしちゃ早いな!」
 そう尋ねたマスターに、毛利が答えた。
「こいつらは善哉の係。昨日も手伝ってくれたんだよ」
「へー!えらいな!」
「じゃあ絶対に食いにいかないとな!」
 そう口々に褒めてくれて、幾久は照れた。
「団子作るの手伝っただけっス」
「いやいや、えらいぞ!さすがはいっくんだ!」
 なにがさすがかは分からないが、マスターはとにかく褒めるタイプなので、いつものように幾久を褒めた。
「餅とっといてやるから、あとから取りに来い。ゴリラの分な」
「ウィーっすって、先生、また六花さんに怒られますよ」
「黙っとけ。信用してるぞ」
 そう言って毛利はひらひらと幾久に手を振った。


 善哉を用意している社務所に向かいながら、御堀は幾久に尋ねた。
「ねえ、幾。さっきのゴリラって何のこと?」
「あー、モウリーニョさ、六花さんのことすぐゴリラって言うんだよ。そんでいっつも殴られるの」
「なんで」
 ぷっと噴出しながら御堀が訪ねる。
 六花は普通に奇麗にしているお姉さんで、どこにもゴリラの要素がない。
「六花さんが強いから、悔しいみたい」
「あー、なんか判る」
 でも、ゴリラはひどい、と御堀が笑う。
「確かに強いよね。うちの姉さんそっくり」
「えっ、誉のお姉さんもゴリラなの」
「幾、六花さんに叱られるよ。割と整ったほうじゃない?僕ら似てるって言われるし」
 確かに王子様のように整った御堀と似ているのなら、お姉さんもととのった美人に違いない。
「ただ、まあ、雪ちゃん先輩のお姉さんは桁違いだよね」
「そうだよね。普通に女優だもん、あれ」
「普通に女優って。へんなの」
 でも判る、と御堀も頷く。
 喋っているうちに社務所に到着した。
 すでに河上や佐久間が忙しそうに動いていたので、どうしようかな、とのぞき込むと河上が二人に気づいていった。
「よっ!来てくれたのか!思ったより早かったな!」
「なに手伝いましょうか」
 そういって幾久が社務所に上がろうとすると、河上が苦笑した。
「それがさ、思った以上に集まってくれて、実は仕事、なんもねーんだ。かえって人が多すぎて困るくらいで」
「えっ、そうなんすか?」
 足りないかも、と心配していたのにそうではなかったらしい。
 横から佐久間が出てきて言った。
「そうなんだよ。今回は祭示部にSP部隊が入ったから人数が多くてさ、こっちにも人が回ってきたんだ」
 だったら、幾久と御堀には何も仕事がないことになる。
「人数足りてるんだったらいいんすけど」
 けどなんか暇かな、と思っていると、ばたばた走り回っていた伊藤が二人に気づいた。
「お!幾久、丁度良かった。おーい、児玉!幾久と御堀来てんぞ!」
 え?と幾久と御堀は顔を見合わせた。
 児玉はすでに冬休みは実家に帰っているはずなので、なぜここに居るのだろうか。
 驚いている間に、社務所の奥から児玉が出てきた。
「おー、幾久、誉も」
「なんでタマがいんの?」
 てっきり家で年末を満喫しているのかと思っていたのに、幾久が訪ねると児玉は笑った。
「だって俺ん家、ここの氏子だからさ。こういう時学校とは別口で参加してんだよ。夏の祭りの時もそうだったろ」
 そういえばあの時、児玉は祭示部でもないのに祭りに参加していたなと思い出す。
「じゃあ、今回も?」
「そう。年末はいつも手伝いしてたんだけどさ、今年はハル先輩のおかげで手伝いの希望者多くて仕事殆どねーの」
「タマもかあ。じゃあなにしようかなあ」
 暇かも、と幾久が言うと、児玉が幾久に尋ねた。
「なあ、幾久。お前、除夜の鐘ついたことある?」
 ふるふると幾久は首を横に振った。
「ない」
「御堀は?」
「ないよ。このシーズンは家が忙しいから」
「そっか」
 そういうと、児玉はジャケットを羽織った。
「伊藤、俺ら三人とも抜けていいかな」
「いいぞ。どうせ人数余ってるし。なんなら後で顔出してくれくらい」
「じゃ、後頼む。俺、こいつらと出かけてくっから」
 え?と幾久と御堀が顔を見合わせると、児玉はスニーカーの紐を結んだ。
「どうせやることねーんだ。鐘、つきにいこうぜ」
 幾久と御堀はもう一度顔を見合わせて、首を傾げた。


 三人は境内を抜けて、商店街側の鳥居から階段を降り、商店街のアーケードへと向かっていた。
 夏に久坂が女子に告白された階段を降りてゆく。
 境内の中は駐車場の準備がされてあって、早速車が入って来ていた。
「タマ、どこ行くんだよ」
 幾久が訪ねると児玉が言った。
「言ったろ。鐘つきにいくの」
「どこに」
 城下町なのでお寺も神社も沢山あるが、もうこんな時間になって、何も関係のない幾久達に鐘をつかせてくれるところなんかあるのだろうか。
「この先のお寺さん。毎年、希望者に鐘つかせてくれるんだよ。俺も弟と妹つれてよく行ってた。多分今年もやってる」
「でも、あれって百八つだろ?行っても間に合うのかな」
 御堀が言うと、児玉が笑った。
「そこんち、そういうの緩くてさ。やりたいひとはどんどんやっていいって回してくれるの」
「煩悩の数増やしてんじゃん」
 幾久が言うと、児玉も「だよなー」と笑った。
 向かった寺は商店街の屋根付きのアーケードを抜けて、神社から歩いて十分程度の場所にあった。
 大きな門があって、きれいに門松が飾り付けられてある。
 向かう途中も、ごーん、という音がしていたのでこの寺の鐘の音だったらしい。
 沢山人が並んでいて、なるほど、みんな順番待ちなのかと幾久は寺の中を覗き込んだ。
「タマ、鐘つくのって無料なの?」
 幾久が訪ねると、児玉は笑った。
「あったりまえだろ。でもたいていの人は、お賽銭入れてるぞ」
 ほら、と示した所はお寺の大きな本堂で、この寒いのに開け放してあった。
 本堂の前に大きな賽銭箱があり、そこにお賽銭を入れてから鐘をつくようだ。
「ちょっと待って、小銭出す」
「僕も」
 幾久も御堀も財布を出し、児玉も小銭を出して三人で賽銭箱に入れる。
 手をあわせて、さて、鐘をつく列に並ぼうかとしていたその時だった。
「あれ?ひょっとしていっくんじゃないのかな?」
 名前を呼ばれ、立ち止まって見ると、そこに立っていた人に幾久は驚いた。
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