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第二部
スーの授業と、ポチタロウの実証
しおりを挟む映像の中の僕は、すごかった。
一番大きな敵に、迷わず突っ込んでいった。「怖がってそうな尻尾」のままで、勇者としてちゃんと、勇気を示した。
突出することで、後ろが手薄になるのも把握していた。ワフルにちゃんと、サポートを頼んだ。ワフルを守る火壁を展開した。
ー どういう意図で、そういう動きをしたのか? ー
これについては、説明が不足している感は否めなかった。でもそれは、客観的に見た今だからこそ言えることなのかもしれない。現場のあの状況では、そんな余裕はなかったのかもしれない。
少なくともバフ、デバフ、攻撃、回復と、やれることが多くて、パニックに陥りがちだった(あの当時の)サファへのフォローを、僕は忘れていなかった。
あの映像時点での僕は、自分にできる精一杯をちゃんと遂行していた。頑張ってるのは見ていてわかった。
「頑張ってる感」がすごい時点で「達人の動き」ってわけではなかった。「達人」なら、難しいことを簡単そうにやってのける。
(また料理の話になってしまうんだけれども)中が半熟で、上部に包丁で縦に切り込みをいれたらトロッと広がるオムレツを、達人は笑顔でしゃべりながら、あっという間に作ってしまう。(僕はそんな映像をY○uTubeで見たことがある)
僕の動きはそんな「達人の領域」には到っていなかった。
(いや、そうじゃなくて!)
それでも遮二無二、頑張っていた。それがちゃんと、みんなを突き動かす原動力になっていた。
(僕が今、考えるべきことはこっちだ!)・・・そう思い直した。
探せば改善点なんて、いくらでも見つかるだろうけど、それは今の僕のすることではないだろう。
スーはいつも「ポチにぃは、すごい」と言ってくれていた。でもそれを僕は、ずっと信じてあげられずにいた><。
今は、過去の自分のアラを探すより、スーのその想いをちゃんと受け入れるべき時だ・・・。
そう思った。
「ごめ・・・えっと・・・。『ポチにぃは、すごい』って・・・。僕をずっと信じててくれて、ありがとね、スー。スーが正しかった。僕は、自分で思ってたよりは・・・すごい、と思った」
ー うぬぼれるな、ポチタロウ! ー
調子に乗るとすぐに失敗する僕は、自分にそう言い聞かせるのが、もはや習慣になっていた。ダニングクルーガー効果の放物線は、僕にとって、ある意味「呪い」になっていた。
そんな僕にとっては、この言葉だけで精一杯だった。「僕はすごい」って言葉を「断定すること」は、できなかった><。後には、どうしても「思った」なんて言葉がついてしまった><。
それでもスーは、ちょっと嬉しそうな顔になってくれた。そうしてこう言った。
「今の、映像は、あくまで、参考。旅に出て、一ヶ月、くらいの、時のもの。これは、ポチにぃの、すごさの、片鱗・・・でしか、ない」
「そう・・・なんだ」
「うん」
僕のすごさを、僕に語って。僕の言葉にうなずいて。スーは言葉を続けた。
「この後の、ポチにぃは、もっとすごかった。・・・でも、ボクも、全体を、見るように、なった、から・・・。全部のポチにぃは、映って、ない・・・。これを見て?」
スーがそう言うと、スクリーンに、別の映像が映し出された。
・・・
・・・
・・・。
今度は、空からの映像だった。映像はやっぱりスー視点のようだった。
魔王城への旅が、ちょうど中盤に差し掛かったあたりから、スーは空を飛んで俯瞰して、全体を見るようになってくれた。そこからみんなをサポートしてくれた。(空中からのスーの援護に、僕はいっぱい助けられた)今回の映像は、それ以降のものなのだろう。
スクリーンには眼下のゴツゴツした焦げ茶色の岩肌の荒野や、どんよりした灰色の空が映っていた。
それより何より・・・。その空からの映像を見て、まず僕は、敵の多さにビックリしてしまった。
地表には、ワラワラと敵がいた。空中にも無数に見えた。僕たち4人を取り囲む形で、魔物の群れ・・・ってよりは、魔物の「軍」がせまっていた。少なく見積もっても、その数は、優に200を超えていた。
鎧の立てる金属音が、規則正しく「ガチャッ、ガチャッ」と、重なり合って聞こえた。「ドスン・・・ドスン・・・」と、大型の魔物が歩いてくる重低音も響いてきた。その音の主達が進軍して来るところが見えた。
僕らの装備よりも、高級そうな金ぴかのフルアーマーで身を固めたガイコツ兵士が、盾とヤリを構えて、隊列を組んで押し寄せてきた。魔法の効かない巨大なミスリルゴーレムや、物理攻撃の効かないレイスなんかの、厄介な敵も多くいた。
これらが「糸目の仕業」だったのを思い出して、僕は「糸目を小一時間くらい、問い詰めたい!」・・・なんて、一瞬また、思ってしまった。そう思ってしまうくらいに、敵の構成がイヤらしすぎた。数も多すぎた。
飛竜にまたがった、何体ものリザードマンの上位種が「バッサバッサ」と聞こえる羽音の中で「ギシャァァァアア! ギシャァァァアア!」と空気を引き裂くような叫び声をあげながら、僕らを威嚇していた。(僕はこいつが嫌いだったのを思い出した)
スクリーンに映し出された映像は、360度、グルリと回転しながら、上下にもブレた。その視点の入れ替わりの早さに、少し酔いそうになった。(スーが全体の把握をしたのだろうと、僕は推測した)
地表では、ワフルが石壁で砦を作って、僕らを囲ってくれていた。(さすがに、その砦のことは覚えていた)ワフル本人は、周りから鉱石を集めて、ハンマーの打突部を巨大化させているところだった。
サファが石壁の隙間から、敵へ向かって、水のレーザーを何本も放っていた。(サファはもう、オロオロなんて、していなかった)
画面の手前側では、スーが小さなロッドを左右の手に1本ずつ持っているのが見えた。その2本のロッドは、テンポの速い曲を指揮しているみたいに振られていた。竜巻を作りながら、切り裂く風を作りながら、早く、リズム良く、振られていた。
僕の姿は、ほとんど見えなかった。画面が風で遮られがちだったし、物理的に敵と対峙して足止めしているわずかな時間以外は、「ゴオォォォー」という音と、炎の残像の映像が多かった。
僕の動きはより、立体的になっていた。ワフルの作ってくれた石壁で、ピンボールみたいに跳ねたかと思えば、そのまま空中に踊り出す火炎の軌跡だけが残った。
スーとサファを中心として、半径5m程度を球形に動いて、敵を寄せ付けないように立ち回っていた。敵を貫きながら、火の壁をいくつも別方向に展開していた。
ー バシュッ! バシュバシュッ! ー
そんな音と共に、画面に向かって、ミスリルゴーレム達が巨大なボーガンで矢を放ってきた。映像の中の僕がこちらへ近づいてきて、それらをことごとく、2刀の短剣で叩き落とした。スーは全く防御をしていなかった。まるで「僕が守る」のが「わかっている」ようだった。
スーのロッドを振る手は、一瞬たりとも止まらなかった。その姿がやけに印象に残った。
うんざりするような、魔物の大群をそれでも僕らは、かなりの速度で殲滅していった。
ー グワッシャーーーーン! メキメキメキメキィ!!! ー
そんなワフルのハンマーの音がする度に、地面には魔物の残骸まみれのクレーターが一つずつ増えていった。(映像を見ていた僕は、その度に、自分自身が条件反射的に、ワフルの背後の敵を警戒しているのに気付いた)
ー ゴォォォォーーー! ビュオオオーーー! メギィ! グワッシャーーン! ギャリリリィ! ドォオオーーー! ギャアァーーー! ー
終始画面はめまぐるしく切り替わって、そんな音や声だけがなんとか認識できる状態が続いた。(それだけスーが全体を見てくれていたのだろう)
魔物の屍が、辺りを埋め尽くしているのを、すごい速度でグルリと、画面に全部収めた後で・・・。その映像は終わった。
・・・
・・・
・・・。
「こんな、感じで。あんまり・・・ポチにぃが、映って、なかった」
スーは少ししょんぼりして、そう言った。
映像の中のスーは、前回の映像の「僕の上位互換」な動きをしていた。的確な場所に、的確な援護や攻撃を行っていた。
(ってか、スーがすごすぎない!?)
映像を見てそう思ったけど、言わなかった。これも今、スーが望んでいる言葉ではないだろう・・・。
それに・・・。
僕自身も、魔物を近づけないようにうまく立ち回っていた。あいかわらず必死な感じは残っていたけど、ちゃんと全ての攻撃をしのいでいた。
短い言葉ではあるものの、行動の意図をうまく伝えていた。(明らかに前の映像よりは良くなっていた)みんなを安心させようと、明るく振る舞っていた。
そんな過去の僕を、さすがに賞賛してあげないわけにはいかなかった。
(すごいこと・・・してたんだな・・・。エラかったぞ、ポチタロウ・・・)
自分で自分を(心の中でひっそりと)褒めてあげた。(でもどうしてもそれは「過去形」になってしまった><)
スーが言葉を続けた。
「ボクは、たまに、ポチにぃの・・・。次の指示を、先読み、した・・・。ポチにぃは、ボクの、先読みを、わかった上で・・・。そのさらに、次の、指示をくれたよ? ・・・気づいてた?」
寝耳に水で、初耳だった。
「・・・気付いてなかった・・・。ただ、必死だった」
素直にそう答えた。戦闘中の僕は、無我夢中でそんなことまでしていたらしい・・・。
スーにとっては「やっと話が通じた」って感じだったのかもしれない。スーは饒舌だった。目を輝かせていた。僕のすごさをいろいろと語った。
「ポチにぃは、ボクを、賢いね、って褒めて、くれるけど・・・。オネェや、ミドウも、ボクを、そうやって、褒めてくれた、けど・・・。ポチにぃは、そんな、ボクを、凌駕、する、瞬間が、あった! そんな人は、今までどこにも、いなかった! ポチにぃは、本当に・・・すごい!」
スーにしては珍しく「フンス」って感じで、興奮気味にそう言った。
そんなスーを見ながら、僕は映像の中のスーを思い出していた。
スーは「防御ガン無視」で、みんなのサポートに徹してくれていた。基本的には、僕から一番遠い、仲間を援護してくれていた。
僕が「みんなを守る」ことを「優先順位の1番」から、外せないことをスーは見抜いていたんだと思う。自分がそうして援護をしたら「僕がみんなを守りきる」ことを、スーは信じてくれていたんだと思う。スーの戦い方は、そんな「僕への信頼」で成り立っていた。
そんな風に、スーが信じてくれた僕を・・・。僕自身、もっと信じてあげるべきだと思った。
でも(正直にお伝えしておくと)具体的に何をすればいいのか? は、僕にはまだわからなかった。
ー 大丈夫だよ♪ 僕がみんなを守るから。 ー
今回の映像の最初の方で(敵がせまりくる中で)僕が、そう言っているのが聞こえていた。気軽な感じでそう言っていた。そこに何か、ヒントがあるような気はした。
「ポチにぃ・・・。続き、始めていい?」
いろいろと思考しているうちに、スーが少し首を傾げてそう言った。その言葉で僕は今、「スーによるわからせ」の最中だったのを思い出した。
「いいよ・・・ってより、お願いしていいかな?」
スーにそう問いかけた。
「いいよ」
スーは笑って、そう答えた。
スーのその笑顔を見て、僕はなんだかまた、泣きそうになった。
僕はスーが信じてくれた自分のことを、もっと「わかる」べきだと思った。それがスーの想いを受け止めることに、つながる気がした。スーが言う「わからせ」から、僕は学ぶべきだと思った。
こうしてスーによる「わからせ」が・・・。僕にとっての「授業」が再開された。
■■■■■■
□□□□□□
スーの授業と、ポチタロウの実証
■■■■■■
□□□□□□
「次は。ポチにぃの・・・やさしさに、ついて」
黒板を消して、新しい紙を貼り終えて、スーがそう言った。(スーは少しウキウキした感じだった)
僕は学習椅子に腰掛けながら、自分の尻尾を(右手を後ろに回して)握りしめていた。
スーに「続き」をお願いをしたんだけれども、次の授業は「僕のやさしさについて」だった・・・。
どれだけ、スーを受け入れようと思っても・・・。どれだけ、もっと自分を信じようと思っても・・・。「自分のやさしさ」について語られるのは、なんだかムズ痒い感じがして仕方がなかった><。
そんな想いをなんとかコントロールしようと、僕は自分の尻尾をギュムっていたのだ。
後ろにいるネオリスの視線が、少し気になったけど、それを気にしている場合ではなかった。
スーの授業をちゃんと聞けるようにと、僕は「(スーが言うところの)平静な時の尻尾」の位置を探っていた。
(・・・ここか!? この位置か!)
なんとか、スーが尻尾を握っていてくれた時の感覚を思い出して、僕は尻尾を一定の位置で固定した。そうしてそのまま、座りながら握りしめていた。
「大丈夫? ポチにぃ?」
「大丈夫・・・。続けてくれていいよ、スー」
「わかった」
少し心配そうな顔をしたスーにそう答えて、僕はスーが貼り出してくれた紙を見てみた。そこにはこんな数値データが示してあった。
ーーーーーー
ケガをした回数
ポチにぃ 326回
(内、軽傷323回 重症3回 自損3回)
サファ 39回
(内、軽傷39回 重症0回 自損35回)
ワフル 18回
(内、軽傷18回 重症0回 自損11回)
リリ 56回
(内、軽傷56回 重症0回 自損56回)
スー 16回
(内、軽傷16回 重症0回 自損14回)
ーーーーーー
それはケガの回数で、どうやら僕が読み取るべきは、僕の「ケガの回数の多さ」と「重症回数」についてのようだった。
でもその前に「数値について」よくわからない部分が、いくつかあって気になった。
「ねぇスー・・・先生?」
僕は、右手で尻尾を固定しながら、左手を上げて、スーにそう言った。
「うん?」
スーが素で返事したので、僕も素でこう質問した。
「その『自損』っていうのは、なんの数字なの? 自分でケガした回数・・・とかで良かった?」
「うん。それで、合ってる。石で、つまづいて、盛大に、こけたり。着地に、失敗して、ケガ、したり。その数」
それで、わからなかった「自損」については理解できた。
「ありがとね、スー。続けてくれる?」
「わかった」
もう一つ、聞きたいことがあったけど、僕は一旦それを保留して、スーに先を促した。
すでに話を遮っちゃったし、これ以上、スーの授業の進行を妨げたくなかった。
今は、僕の知的好奇心を満たす時でもないのだ。スーの話をしっかり聞く時なのだ。
後で、きっとスーが「質問はないですか?」って聞いてくれるだろう。その時に答えてもらおうと思って、僕はとりあえず、気になったことをメモしておいた。(一瞬だけ、尻尾から手を離して、すばやくメモをとった)
「ケガをした、回数から・・・。自分の、せいで、ケガをした、回数を、引くと。こう、なる」
スーはそう言いながら、貼りつけた紙の右側の黒板に、赤いチョークで、数字を書いていった。
ーーーーーー
ポチにぃ 323回(重症3回)
サファ 4回(重症0回)
ワフル 7回(重症0回)
リリ 0回(重症0回)
スー 2回(重症0回)
ーーーーーー
そうすると、僕の数字がさらに浮き彫りになった。
「323回。ポチにぃは、敵の攻撃を、受けて、ケガした」
スーはそこまで言って、一旦区切ってから、言葉を続けた。
「そのうち。誰かを、守ったのが、306回。94.7パーセント。・・・これが、ポチにぃの、やさしさの、証・・・で。みんなの、重症回数が、0回なのも、やさしさの、証。・・・だった・・・ん、だけど・・・」
スーはそこまで言うと、目を伏せて、息を吐いた。
・・・
・・・
・・・。
次に顔を上げたスーは、なんだか慈しむような優しい顔をしていた。少し笑っていたようにも思う。(いつもの無表情ではなくて、その顔は、とても柔らかいものだった)
「でも、今の、ポチにぃの、姿の方が・・・。数値よりも、もっと・・・。ポチにぃの、優しさの、証だと、思う」
スーは、僕を(というより僕の尻尾を握った右手の方を?)指さしながら、そう言った。
僕はまだ、なんとか必死に右手で、尻尾を固定して平静を保っている状態で・・・。スーはそれを見て、そう思ったようだった。
・・・っていうか。僕が尻尾を握りしめていたのは、スーにバレバレだった><。
先生一人に、生徒が、一人。よく考えたら、その状況でバレないわけがなかった><。
思わず恥ずかしくなった。さらに尻尾を強く握りしめて、その恥ずかしさを堪えた。そうしながら僕は、スーの言った言葉の意味を考えてみた。
スーは「今の僕の姿がやさしさの証」・・・ってなことを言ったのだ。
でも、今の滑稽な僕の、どこがスーにそう映るのか? それが僕には、良くわからなかった。
「ポチにぃは、褒められる、のも、苦手・・・だよね?」
スーに質問をしようとしたら、逆にスーにそう尋ねられた。
「うん・・・。あんまり、得意ではな・・・いや。苦手だと思う><」
正直にそう答えた。
「カッコよく、ありたい。・・・とも、思ってる・・・よね?」
(! ・・・そんなことも、スーにはお見通しだったんだ!><)
少し情け無くは感じたけど、これにも僕は正直に答えることにした。スーが僕を非難しているわけではないのは、顔を見ればわかった。
「・・・うん。できたら、僕は。みんなの前で、カッコ良くありたいと思う」
そう言いながら、若干、顔を「キリリ」とさせてしまった><。
「褒められるのが、苦手で。カッコ良く、ありたいのに・・・。でも。どんなに、不格好に、なっても・・・カッコ悪く、なっても・・・。それでも、ポチにぃは・・・」
スーはそこまで言って、一旦止まってしまった。スーの瞳に涙が光ったような気がした・・・。(呆れて少し笑っているような感じもあった)
「それでも・・・。ボクの、話を、ちゃんと、聞こうと、して、くれて・・・る。ボクの『わからせる』って、言葉を・・・怒らずに、ちゃんと、受け止めて、くれた。それが・・・。今の、ポチにぃの、姿で・・・。それが、ちゃんと、証に、なってる」
スーの言葉はいつも以上に、とぎれとぎれになった。
「ボクは、それを、とっても、優しく、感じるし・・・。とっても・・・カッコいいと、思う」
「スー・・・」
スーは、ローブの裾で目を拭った後で、そう言いきった。
「この項目は、これで、おしまい。・・・それでいい? ポチにぃ? ・・・頑張ってくれて・・・ありがと。無理をさせて・・・ごめんなさい」
スーはそう言って、ペコリと頭を下げた。
ー 僕が優しいか、どうか? ー
究極に突き詰めれば、答えは否だと思った。
糸目に対して、僕は殺意を覚えた。ネオリスを殴りつけもしたし、ビンタもした。でもそれも今、考えるべきことではないんだろう。
謙虚っていうやつも、たぶん、やり過ぎは良くないどころか、嫌みにすらなるだろう。
そもそもの話、僕がもう少し自分のことをちゃんと認めてあげられていれば、スーが僕を「わからせる」なんて、言い出すこともなかったんだろう。
僕は完全に優しい人なんかじゃない。でも、優しくあろうとは努めてきた。それがちゃんとスーには伝わっていた。今はそれでいい気がした。
「うん、それでいいよ。こちらこそ・・・いろいろ教えてくれて、ありがとね、スー」
そう言いながら、僕も急いで立ち上がって、スーに頭を下げた。
ー ガタッ・・・ゴン! ー
学習机が後ろに倒れて、そんな音を立てた。
(どうにも締まりがないな・・・><)
そんな風に思いもしたんだけれども・・・。
(きっとスーは・・・。こんな僕ですら、受け入れてくれるんだろうな)
そう思えた。
そう信じられた。
(僕が頑張ってたから、そんな風に受け入れてくれるようになった・・・って部分もあったのかな?)
疑問形にはなっちゃったけど、そんな風にも思えた。
こうして、スーのわからせの2つめが、僕にとっての2時間目が、終了した。
ーーーーーー
ー 余談 ー
ここからは、後日譚になる。
授業が途中で終わってしまったので、僕は「気になったもう一つの数値」についてを聞きそびれてしまった。
この数値については、もっと後になってから、教えてもらった。
リリのケガの回数→56回。
僕が気になったのは、この数値だった。
リリ以外の僕たちは、大精霊(見習い)の加護で守られている。ちょっと転んだくらいでは、ケガなんてしない。(スーが言っていたように、盛大にこけたら、さすがにケガをする)
激化する戦いの中で、相手の攻撃の威力がドンドン上がっていった中で、僕以外のみんなのケガの回数が少なかった部分については、ちゃんと、その当時の僕の頑張りを評価してあげたいと、これを書いている今は思っている。
逆に精霊の加護がなかったとはいえ、ほとんど戦闘に参加していなかったリリが、どこでそんなにケガをしたのか? これがわからなかったのだ。
その数値は、リリが「むんず」と掴まれた時に、ケガをした回数だった。(キュウロクは、その数値を「自損」としてカウントしていた)
これがわかった時に、どれくらいのケガをしてたのか? 心配したんだけれども、その全部が、羽がちょっとだけ毟れたくらいの軽傷だったことがわかった。
これは、リリ本人が僕に教えてくれた。
その際に、僕はリリの羽が体の傷と同じで「自然に治ること」を、リリに教えてもらった。(「妖精さんの秘密」を知れた気がして、僕は少しテンションが上がった)
補足的にスーが「リリが掴まれた回数」も、僕に教えてくれた。(スーはどうやら、そんな数値まで、出力していたらしい)
往路:218むんず。
復路:68むんず。
合計:286むんず。
これがリリが「むんず」とされた回数の内訳だった。
こうして僕は、リリが「むんず」とされた回数の詳細を知ることとなった。
「むんず数」にツッコミを入れたくなったんだけれども、その数値は、帰り道では随分と減っていた。これもリリの成長の証だった。
僕は、ツッコミたい気持ちを忘れて・・・なんだかほっこりした。
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