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第一部
スー=スレイプニル(幼女エルフ:8)
しおりを挟む「ギャハハハ」
「アッパッパッパ」
「ワハッハワハッハ」
「イヒヒヒヒィ」
世界樹の階段の上で、タクローは、あっという間に、両手足を矢で貫かれていた。残った5人のダークエルフの内4人が、狂ったような笑い声と一緒に、タクローの四肢を一本ずつ、射貫いたのだ。今までと打って変わって、全く躊躇や容赦がない連中だった。
残ったもう一人のダークエルフも、ボウガンの照準をタクローの心臓に向けた。だが「ゲバ・・・」とか「ジャバ・・・」とか呟いて「かぶっていない、良い感じの笑い声」を探すのに、苦心しているようだ。
「ロザンヌ殿、最終兵器をお頼み申す!」
タクローは今の隙にと、切り札の起動をロザンヌにお願いした。
「は、はいでしゅ!」
ロザンヌが緊張の面持ちで、でもしっかりと答えた。
相手に容赦がないならば、こちらも容赦はすまい。タクローは思った。ただ両手足を貫かれた彼には、自身で最終兵器を動かすことすら、できなくなっていた。
ロザンヌが、階段の隅にあったレバーを引くのと、5人目のダークエルフがタクローの心臓めがけて引き金を引くのは、ほぼ同時だった。「トフトフトフ」と、ダークエルフの笑い声めいたものが、螺旋階段に、こだました。
ー ガチャ ー
ー ヒュン ー
・・・
・・・
・・・。
■■■■■■
□□□□□□
スー=スレイプニル(幼女エルフ:8)
■■■■■■
□□□□□□
南の柵内エリアのほど近くまで、魔物達が東西から南下して、集まってきていた。普段なら東から南へ、道はつながっているし、西から南へも、素通りできた。だが今は「人が一人、行き来できる分」のスペースだけ残して、有刺鉄線の壁で、南行きの道は、制限してあった。
その空いたスペースから1体ずつ、魔物がときおり南エリアまで入りこんできたが、メリエムの指示によって、すぐさま数名の兵士に処理された。ここで魔物を1体ずつ確実に屠るのも作戦の一つだった。
だが、いかんせん数が多い。魔物がどんどんと、南の封鎖エリアの前に集まりだしている。このままでは封鎖エリアが崩壊しかねない。・・・そのタイミングで、スーが言った。
「メリエム、昨日の作戦に、アレンジ・・・加えるけど、いい?」
「・・・!? ・・・ほぅ? まだ何か策があるか! ・・・よかろうて。やってみい!」
メリエムが驚きながらも、即断した。それと同時に、封鎖エリアの壁が「バターン!」と倒れた! ワラワラと魔物が南エリアへ入ってくる! スーは片手を上げた。
ー パキパキバキッバキッ! ガラッ、ゴロン、キィィィーーーーン! ー
スーは「わざと」大きな音を立てて、上空に氷を生成していった。魔物達の頭上に、いくつもの巨大な氷柱が現れた。それが魔物達の上に大きな影を作る。自我のあるものは、上を見上げて驚き、前後どちらかに逃げようとした。自我のないものは、そのまま、前へ進もうとした。
ネクロマンサー達は、自分の使役している魔物は自分で操作できたが、それ以外は、止められなかった。他のネクロマンサー達が次に魔物を、どう動かそうとしているか? なんてのもわからない。前へ進もうとするもの、後ろへ戻ろうとするもの、それらが入り乱れ、敵軍はパニックに陥った。
「うわーっ」「フゴォ!」「ピギィ!」「ぐはっ!」
前へ進んだ者達は、そこに仕掛けられていた、大きな落とし穴に次々と落ちていった。その場に留まって、魔物の群れに踏み潰されたものがいた。身動きが取れず、上空からの氷柱に突き刺されたものがいた。後ろに逃れようとして、巨大な氷ハンマーにはじき返されて、結局、落とし穴へと、叩き込まれるものがいた。
これら一連の策のほとんどに、スーの案が採用されていた。
・一旦、東西に別れた魔物が、再び南の一カ所に集まるように、導線を作ったこと。
・一カ所だけ人が行き来できる場所を作っておいて、戦時にそれを逆に利用して、一体ずつ仕留める場所にしたこと。
・封鎖エリアの前にわざと魔物だまりを作って、タイミングを見計らって封鎖を解除し、落とし穴に誘導したこと。
ここらへんは、丸々、スーの案だった。
今、スーによるアレンジで、上空からの氷柱と、後ろからの氷ハンマーが加わり、落とし穴はより、凶悪なトラップになっていた。柵に群がった魔物の9割近くが壊滅した。
落とし穴は、急造にしては、とても深く掘られ「出られない」どころか「落下速度で死ぬ」レベルの高低差ができていた。
その落とし穴も、スーの仕事だった。
ーーーーーー
宣戦布告の手紙が来た次の日。つまりは昨日だが、村の会議室では(牢にいる長老を除いた)頭全員で代表会議が開かれていた。
会計頭や狩猟頭に採取頭。衛兵頭やハリティ頭が一堂に会する中、場違い感を含みつつも、門番達4人もそこに招かれていた。・・・スーと一緒に。
最近では「門番が、こんなことをしでかした」という、カトリーヌからスザンヌへの報告は、前向きな情報が多かった。「オネイロが『こどもキッチン』を始めました」「タクローが遊具を作って子ども達を楽しませています」等々。
その背景に、必ずスーの名前があった。「スーのひと言から、それが始まりました」「スーを喜ばせる為に遊具を作ったようです」と。それを告げるカトリーヌ自身も、まるでスーのファンであるかのような誇らしげな口ぶりだった。
村一番のイケメン、ミドウがようやく子作りを始めたのも、娘(スー)の為だとスザンヌは聞いた・・・。スーに手を出さないように自制する為に。導きのネックレスを渡してあげる為に。ミドウはあえてハーレムルートを選んだのだという。
セリーヌ、ジャクリーヌ、コリーヌの3人組はそんな裏話を嬉々として語った。というより、最年少のコリーヌは、まんまとミドウの子を孕み、ハーレムメンバーに入っていた。
ともあれ。スザンヌは、最近何かと噂にあがる、スー及び、4人の門番達と、一度ちゃんと話がしてみたくて、公の場に呼んでみたのだった。この時は「何か現場の意見も少しくらい聞けるかな?」くらいの感覚だった。
ーーーーーー
「そうすれば、こっちに敵をおびき寄せられるのはわかったわ。でも、そこからどうするの?」
「落とし穴を、掘れば、いい、と思う」
「は! そんな広い場所に落とし穴だと!? 一体どんくらい時間と労力がかかると思ってるんだ?」
「スーちゃん的に、穴を早く掘る、方法があるの?」
「氷で、固くておっきな、スコップ、作れば、早いと、思う・・・」
「今のスーちゃんの魔力なら、出来そうねぇ♪」
「・・・なんと・・・」
スザンヌが興味本位で、スーに話を振ってから、作戦会議はこんな感じになった。
スザンヌが聞く→スーが答える→否定的な意見が出る→スザンヌが解決策をスーに聞く→スーが解決策を提示する→門番達は「スーなら、それができる」と後押しする。
「では、実際に見せてみよ、それを!」
・・・どちらかと言うと、昔ながらで、頭の固い、メリエムは、最初、話を聞いた時、スーを否定する側に回った。スーの言うそれが、幼子の語る荒唐無稽な作り話に思えたのだ。・・・スーは穴掘りを実演することになった。
穴を掘るスポットに着いたスーは、ドデカくて固い、氷のスコップと氷のツルハシを4つずつ作った。ツルハシで地面を、柔らかくして、スコップで掘り返していく。スプーンで砂糖を掬うかのごとく、地面は簡単にえぐられていった。
ものの数十分で、スーは深く長い、落とし穴を作ってしまった。余った土でスーは、柵を補強した。否定派は、あんぐりと開いた口が(そこに大きく開いた落とし穴と同じように)塞がらなかった。
「うむ・・・やはりワシは、もう引退すべきじゃの・・・」
無理だと決めつけるところから、入ってしまった自分を恥じ、メリエムが、ショボンとして言った。
「せめて今回の戦いが終わってからに、してください」
メリエムの引退は望むところだったが、その指揮力を買っているスザンヌはそう言った。メリエムはハリティ頭になる前は衛兵頭だったのだ。
その後も、スザンヌが、スーと対話する方式で、作戦が、整えられていった。
・兵の配置場所の決定
・伏兵による挟撃の実行
・世界樹の階段を、避難所にする案と、追い詰められた際の対処方法 などなど。
特にスザンヌは東西の門を、早めに放棄する案に感銘を受けた。
「この人数じゃ、兵力を分けすぎたら、負ける、と思う。西と東は一撃離脱。北と南に戦力を、集中すべき・・・」
スーが淡々とそう語り、また反論が出た。
「そんなことをしたら、東西の建物は、どうなる!?」
「潰される・・・かもしれない。それでも、人が生きていれば、再生は、できる。一番大切なのは、国じゃなくて、人。・・・そう書いてたし、ボクも、そう、思う」
スーは行商が訪れる度、フリイが、毎回かかさず買ってくれていた、本の中の一冊「国と兵法」を思いだしながら語った。
ー 一番大切なのは人 ー
それは、スザンヌの目指した政治を、一言で言い表していた。人さえいれば、村や国は創りなおせる。改めてスザンヌは、スーの全面擁護に回り、案が採用されていった。
そうして作戦が決行され、今に至った。
南に集まった魔物やダークエルフは、あらかた壊滅し、残った魔物も、衛兵達に始末されていった。途中で合流したフリイとミドウも、残った少ない大型を中心に、敵を捌いていった。
南での戦いは収束し、終息に向かったかに見えた。
ーーーーーー
ロザンヌが、レバーを引くと、ダークエルフ達が乗っていた階段は、外側が下に傾き、外に向かって、板が伸びた。5人のダークエルフ達は、世界樹の外側に向かって、滑り落ちていき、そのまま高所から放り出される形で、落下していった。
タクロー特製の「すべり台落とし」だった。
凶悪な性格のダークエルフ達だったが、10000段近く登ったところからの、落下の衝撃には耐えられず、そのまま地面に打ち付けられて死亡した。
心臓を狙われていたタクローは、ロザンヌがレバーを引いてくれたおかげで、相手の狙いが外れ、なんとか生きてはいた。ただ、四肢を貫かれた状態で、新しい矢が腹にグサリと刺さり、世界樹を自分で採ることは、もう出来そうになかった。
「ゴフッ」
タクローが咳き込むと、衣服に血が飛び散った。もう長くないかもしれない・・・。タクローは思った。
(拙者の、人生、いい人生だったでござろうか?・・・せめて幼女とセック・・・いや、せめてキスの一つでも、したかったでゴザルよ・・・)
「タクローしゃん!!!」
世界樹の葉をちぎり取った、ロザンヌがタクローの元へ駆け寄った。葉を自分の口に入れ、噛みほぐすとタクローに口づけをした。
ーーーーーー
一方、北の門のあたりでは、オネイロの喉に血が詰まっているのをモヘイロが発見していた。すかさず、角刈りのテグロムが血を吸い出す為に、丸刈りのオネイロに口づけしていたが、ここは詳しくは割愛しよう。
ーーーーーー
(ふうぅぅーーーーん、やっぱりかー。・・・やっぱり君が一番すごかったんだね♪)
影に隠れ、南の戦況を見守っていたニアは、満足げだった。
ニアは随分昔に、アポストルの脳をいじって「自分が総大将だ」と思い込ませて以来、ずっと付き人の振りをして様子をうかがってきた。その立ち位置の方が安全かつ、そこからしか、見えないものがあったのだ。
今回もアポストルはバカ正直に「北からの正面突破」を選んだので、ニアは南へと向かった。彼は相手の指揮系統の人材を見たかったのだ。ニアは「どっちが勝つ」といったことに興味はなく、ただ「相手がどんな人物か?」が知りたかった。
ニアはエルフっぽく偽装をしていたが「イリシッド」という種族の魔族だった。脳を操ったり、脳を食らったりする化け物だ。相手が知的であればある程、ニアには脳がより美味しく感じられた。
食べる際に、ニアは相手の記憶も取り込む。記憶の定着には時間がかかった。相手が知識を持っていれば、持っているほどに、脳の咀嚼に時間がかかった。でもそれが彼の至福の時間だった。
ニアは、愚者の脳を食らって、生きながらえるのを良しとしなかった。たしかに早く食べられるし、腹は満たされる。だが、高度知的生命体の脳みそに、啜りついて、その考え方を知ることこそが「食事」だと彼は思っていた。
(スザンヌも、メリエムも惜しかったけど、今回は、スーちゃん。君に決めた♪)
ニアは、スーを尾行してから、ずっと隠れて南の戦況を見ていた。その中でスザンヌやメリエム、スーの名前も知り、それぞれが何を行ったか? も見ていた。
小屋から、飛び出した少女は、終始、彼を楽しませてくれた。魔法を使ったり、指揮に加わったり、トラップを強化したり。落とし穴で、ほぼ全滅した自分の兵士達を見て、彼は歓喜した。えげつない魔力と、えげつない作戦を見て「今回はこの子だ!」と決めた。
つまり、今回、脳を喰らうのは、この子だと。
彼は一度の戦いで「脳を食べるのは一人だけ」と決めていた。咀嚼の速度や記憶の定着の問題もあったが、それよりは、彼なりの、強いこだわりだった。
ー 一脳一会 ー
出会った(相手の)「脳」には最大の敬意を。その一つの脳を大事にいただく。彼はそう決めていた。
彼は影の中から飛び出すと、スーの背中へと忍びより始めた。
ーーーーーー
「よくやったな、スー」
「うん、ありがと、フリイ」
フリイは、最後の魔物を倒して、スーの所へ戻ってきていた。大量に氷柱やハンマーを作り出した、スーの魔力が枯渇してないか? 心配だったが、とりあえず労いの言葉をかけた。
「疲れたか?」
「ん、少し・・・」
フリイがスーの頭を撫でていると、スーの頭ごしに、何かがこちらへ近づいてきているのが見えた。敵か味方かもわからない、少年エルフの姿をしたそれは、一見、人畜無害に見えた。
だがフリイは、すぐに気づいた。門番である自分の知らないエルフはこの村にはいない。寄ってくるそれは、明らかにおかしい。フリイが気づくと同時に、そいつの姿は、形を変えていった。
体は肥大化し、顔からは触手が飛び出した。ウジュルウジュルと絡み合うそれは、よだれのような液体を垂れ流していた。「この子はどんな味がするんだろう?」スーに近づくにつれて、ニアは我慢ができなくなり、エルフ形態を維持できなくなっていた。
(なん・・・だ!? こいつは・・・今までで一番、やばい!)
巨大なミノタウロスにすら臆さなかったフリイだったが、正体を現したその異形の執念じみた何かに、たじろいだ。目的を遂行しようと、強い意志が込められた、その燃え上がる赤い瞳に、大切なものを奪われそうな恐怖を感じた。
「スー!!! フリイ!!!」
近くにいたミドウも、異変を感じて、駆けてきた。
ミドウはスーとフリイを守るように、その異形の魔物との間に割って入った。目の前でそいつと対峙した時、ミドウにもわかった。こいつを倒そうとしても、その前にスーを奪われてしまうだろうと。「スーちゃん・・・スーちゃん・・・」そいつはスー以外、まるで眼中になかった。
「・・・フリイ、スーを連れて逃げろ!!! 森の外までだ!!!」
化け物は忌々しそうに、懐から杖を取り出し、それを掲げた。
イリシッドに戻ったニアが杖を振り上げると、杖の先に死体が集まりだした。落とし穴の中からも、吸い上げられるようにして、屍が引き寄せられた。それらは一つの巨大な肉塊になった。手足が雑に生え、肉塊のゴーレムと化したそれは、ニアの体に融合した。そしてスーの元へ、ジュルジュルと道を溶かしながら、進み出した。
ミドウが、双剣で切りつけると、内部から膿のようなものを「ぶしゅー!」と吹き出しはするものの、その歩みは止まらない。
「ミドにぃ!」
フリイは、不安そうに叫ぶ、スーを小脇に抱えて、南の森へ飛び込んだ。
ーーーーーー
ザザザザッ・・・ザザッ・・・ザザザ・・・
草葉をかき分けながら、フリイは走った。
「ミドにぃ! ミドにぃが!! フリィーーー!!」
事の深刻さを感じ取った、スーが泣き叫び、ジタバタした。
「こら、暴れんなってスー!」
今のフリイには、スーをなだめる素敵な言葉を見つけることができなかった。それでもスーを逃がさないといけないことだけはわかった。
「ごめんな、スー、こんなんで」
フリイは懐に忍ばせていた瓶の中身を布にひたすと、スーの口元にあてた。本当に危ない時は、スーを眠らせてでも安全なところへ運ぼうと、4人で決めていたのだ。
眠り薬が効いたスーを抱きかかえると、フリイは再び走り出した。
ーーーーーー
(そろそろ、かなぁー?)
融合した肉塊ゴーレムが溶かして出来ていく道を通って、ニアは「どこで食事をとろうか?」と考えていた。せっかくの上質の脳だ。食事場所も見晴らしのいい場所を選びたかった。低脳を喰らう代わりに、長らく干し肉で我慢してきたのだ。これは彼にとって、久々の「食事」だった。
彼は自分が失敗するなどとは夢にも思っていなかった。偽王アポストルと違い、ニアは準備も怠らないタイプだ。南の森にはまだ、ダークエルフの伏兵が潜ませてあった。そろそろスーを連れた女と遭遇することだろう。
ただ、歩むだけだ。後はもうそれだけで、脳の持ち主、スーちゃんのところへたどりつく。ニアの腹が「ぐー」と鳴り、触手からまた、よだれが垂れ落ちた。
ーーーーーー
ー ヒュヒュン! ヒュン! ー
「ぐっ・・・」
夜が明けても、なお暗い森の中で、フリイは奇襲を受けていた。左足が矢で貫かれて、思わずスーごと、転倒した。
スーはその衝撃で、目を覚ました。意識はまだ朦朧としていたが。
「ここまでか・・・」
フリイは「自分も一緒に逃げる」ことを諦めた。足がこんなでは、それこそ足手まといだ。だが、もちろん「スーを逃がすこと」を諦めたりはしていない。
フリイは、腰のポーチから、スザンヌに預かった「導きの宝珠」を取り出すと、地面に叩きつけた。宝珠が割れ、ケムリが吹き出す。そこには紫色の大きなオオカミが出現していた。
「おいオオカミ、その子を森の外へ!!」
「アォーーーン」
オオカミは了解したかのように吠え、スーを咥えると、森の外へ向かって、走って行った。
「お、おい!!」
「弓だ弓!!」
「狙えーーーっ!」
ダークエルフ達が、あっけにとられている間に、スーを連れたオオカミは、森の闇の中へと消えていった。「フリィィィーー・・・」そう叫ぶ、スーの声と共に消えていった。
「このまま地獄に行くなら、お前らも道連れだ! ひとまず両足へし折って、歩けなくしてやる」
大剣を杖代わりに、なんとか立ちあがったフリイはそう啖呵をきった。
(一緒に森の外まで、行きたかったな・・・)
スーとの森の外での暮らしを思い浮かべ、少し感傷にひたった後、フリイは、ダークエルフ達に向き直った。
ーーーーーー
敵からの夜襲が始まる半日ほど前、フリイは、スザンヌに呼び出されていた。「何か悪いことでもしたかなぁ?」と、己の行動を省みたが、心当たりはなかった。
そんなフリイにスザンヌは微笑みかけて、何かを両手で手渡してきた。ネックレス2つと、宝珠を一つ。
「これは?」
「それは、導きのネックレスよ。なんのために使うものか? は知ってるわね?」
「あ、ああ。ミドウから聞いて知ってる。」
「ミドウは、もうすぐそれを手に入れるでしょうね・・・でも、私は今、あなたにそれを持っていてほしいの・・・」
「なんでまた?」
「スーちゃんの為よ。あの子に危険が迫ったら、迷わず一緒に、逃げて欲しいの」
「あたいらも危なけりゃ、スーは逃がすつもりでいたさ。でも、森の外までか?」
「ええ。私、今回は、何か良くないことが起こる気がするの・・・もし、この集落が潰れちゃったとしても、スーちゃんには生きていてほしいの」
「随分と、スーを高く買ってくれたんだな」
「国よりも人・・・よ。スーちゃんの受け売りだけど。神聖なハズの世界樹の下で、ここの大人達は自己保身の為に、随分と汚れてしまったわ・・・スーちゃんならいつか、私の理想とする国を創ってくれるかもしれない・・・」
「・・・スーがやりたい、って言ったらな。『幼女の意見を尊重する』のが、あたいらのやり方だ」
「そうね・・・それは大事ね・・・」
「それに、あんただって、捨てたもんじゃない、ってあたいは思ってる。あんた自身でもやれるんじゃねぇか? ・・・スーの話をちゃんと聞いて、作戦に組み込んでくれたのは、あたいも親として、鼻が高かった。ありがとよ!」
「フリイ・・・」
「あと、こっちのはなんだ?」
フリイは照れ隠しに、手渡されたもう一つについて尋ねた。
「それは、導きの宝珠よ。割れば、オオカミが出てきて、確実に森の外へと連れて行ってくれるわ・・・一人用だし使い切りだから、できたら、あなたにはスーちゃんと一緒に、ネックレスの方で、森の外まで行ってほしいわね・・・」
「おうよ! この集落とスーを守り切ってから、いっちょ休暇と、しゃれこんでくらー!」
「期待してるわね」
「ああ」
・・・
・・・
・・・。
そんなやり取りがあったと露知らず。スーは、オオカミに咥えられたまま、怒っていた。
(まだ書き取りを全部、教えられてない!)
(まだおねぇに料理を教えてもらってない!)
(まだミドにぃにおまたを触らせてあげてない!)
(まだタクローと新しい遊具を作ってる途中だ!)
(まだフリイにご飯を作ってあげれてない!)
スーはこのまま森の外へ運ばれたら、みんなに二度と会えない気がした。なので村から森の外への道のりを覚えようとした。「鹿の二本のツノに同時に矢を当てるくらい難しい」と言われる道のりを覚えようとした。
もう魔法力がほとんど尽きたスーには、小さな氷、一つしか作れなかったが、スーはその氷を右手に持つと、左手の甲を殴りつけながら、眠気をこらえていた。今この瞬間もきっと、みんなは戦っている。ボクも戦うんだ、とばかりに、スーは自らを痛めつけた。
スーの頑張りもむなしく、スーの意識は次第に薄れていった。
(フリイ・・・ミドにぃ・・・おねぇ・・・タクロー・・・)
ーーーーーー
「隊長、これは・・・」
預言者のお告げがあり、セントルムの兵士達は世界樹の森まで馬を走らせてきた。
預言書曰く
ー 世界樹の村が滅ぶ時、聖女が森の外に現れん ー
焼け焦げた森の外には、およそ聖女とは呼べそうもない、ボロ布をまとった、うつろな目をした、エルフの幼女がいた。
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