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終わりの始まり⑨
しおりを挟む「そのキレッキレな返しは紛うことなきユニたんっ!」
「…………は?」
目が覚めたらあまり直視したくないタイプのオタクがいた。
「…………おやすみ」
「ノォオオオオ! 寝たら駄目でござるよ! ウェイクアップ! ウェイクアップでござるよ、ユニたん!」
今ここで俺が此奴を殴っても許されるだろうか。というか殴りたい。なんで今日に限ってこんな頭痛を催すモーニングコール受けてまで此奴の顔を拝まねばならないのか。そも起きての発音も微妙に外しててこれもまた腹立つ。
「お願いだから少し黙るか声量落として。……いや、ちょっと待て。なんでお前が此処にいんの?」
「? なんでもなにも此処が拙者の家だからでござるよ?」
「…………は?」
腕の力だけで上半身を起こし、慌てて見渡した景色は確かに宿の自室ではなく、貴族の家。ルディに宛がわれた部屋によく似た場所だった。
瞬間移動? 一体何がどうなっているのやら。まるで意味がわからない。
目をぱちくりとさせる俺にナウシュヴォーナは若干感極まった様子で事の成り行きを説明しだす。
「実はユニたんがここ最近悪夢に魘されていたのは理由があったそうで」
「すみません。俺いま起き抜けで上手く頭が働いてないので手短に要点だけお願いできますか」
「了解にござる。えっと、此処に運ばれたユニたんがヘルブリンの呪いで眠ってる間に、奴の招待を受けたレオたん達は今、アウグスブルク侯爵邸に殴り込みに行ってるでござるよ!」
「…………なんて?」
「分かりにくかったでござるか? じゃあ、ユニたん目覚めずレオたん此処にHey。呪い判明、ルディたんの解呪失敗。ヘルブリンの呼び出し。今全員殴り込み!」
「微妙に変なラップやめろ。無駄に腹立つ。あ~……すみません。今頭ん中整理するので少しだけお口チャックしててください」
色々詰め込まれすぎてて情報処理がいまいち追いつかない。死んだ筈のヘルブリンが生存してて、その奴が俺に呪いをかけてて、皆は呼び出しに応じて指定先のルディの実家(名ばかり)へ向かった。
どうしてそうなった。
項垂れ頭を抱える俺に、ナウシュヴォーナは水の入ったコップを差し出す。
「取り敢えずこれでも飲んで一回落ち着くでござるよ」
「あぁ、有難う……いやいやいや吞気に落ち着いてる場合じゃないから。レオ達が出掛けたのって何時!?」
「え、あ、指定時刻は今日の16時だったので今はそこから三十分弱かと」
「はぁ!?」
慌てて閉め切った窓、いやバルコニーへ続くそのカーテンを開け放つと、ナウシュヴォーナの言葉通り、そこには犬と狼の間、鮮やかな茜が広がっていた。
「マジかよ……どんだけ吞気に寝てたんだよ、俺。……あれ?」
硝子に映る自分の耳、誕生日プレゼントだと貰ったピアスの石が二つとも小さな亀裂が走っているのに気づく。
「最悪。死にたい」
「ちょちょちょっ、ユニたん、大丈夫でござるか!?」
「この世に自分の所為で仲間が敵地に乗り込む羽目になって、その間、吞気に寝て起きたら恋人のプレゼントが壊れても笑顔で大丈夫と言い張れる奴がいるなら連れてこい」
「それは無理」
これから急いで合流したとしても俺はどの面下げて会えばいいのか。
懐の大きい彼や皆なら怒らないと分かってはいるが、俺は自分が許せない。
外の騒がしさと同じくらい俺の中の俺が自分の不甲斐なさを責め立て……――。
「なんか外が騒がしいんだけど祭りかパーティーの準備でもしてるの?」
「あ、魔物が侵入してたようで」
「ふーん…………はぁあああ!?」
まもの、マモノ、魔物、MA M O NO。
「ユニたん、声大きい」
「いや大きくもなるから! 何がどうして魔物が侵入する話になってんの!? というか何平然としてんのお前!」
此処はお前の家だろうが、と襟首を掴んで振り回すとナウシュヴォーナはもう、もう解決はしてるにござると必死に弁明した。
「あ、なんかごめん」
「ゴホッ。いやよいでござる。外の事故処理指揮は兄上と二番目の兄上が出ているので拙者はユニたん、客人の護衛ということで此処に押しやられているのでござる」
「な、なるほど。けどなんで急に魔物が現れたんですか?」
確かに昨日の段階で魔物数が増えた為に交易品やら色々と入手し辛くなっていたのは耳にしていたが、侵入までは無かった。やはり魔寄せの水晶をまだ一つ残していたのが悪かったのか。
それともこれもヘルブリンの仕業か。
悶々とする俺にナウシュヴォーナが告げる。
「魔物というか正確にはアンデッドでござる。行方不明になっていた者達が突然貴族街に現れたのでござるよ」
「え、そっち」
「加えて城の方も。これはまだ情報規制されておりますが、アウグスブルク侯爵による謀反があり、今、皇都内は混乱しているのでござる」
「――はぁっ!?」
衝撃の三段突きである。
念のために三段突きが衝撃ではなく、“衝撃”の出来事が三つやってきたの意だ。
「一体何がどうなってってんだ?」
「拙者もその辺りはいまいち」
がしがしと頭を搔いて、深呼吸。
「良く分からないけどそっちはもうナウシュヴォーナさんに任せます。俺はこれからそのアウグスブルク侯爵邸に向かいます。レオ達と合流しないと」
「いやいやいや、駄目でござるよ! 拙者、レオたん達がユニたんの事を任せられたのでござるよ!」
「それはあくまで“寝てる俺”に対してでしょう?」
「ユニたん、それ屁理屈」
「屁理屈じゃなくて事実!」
高価な卓上に似つかわしくない、綺麗に折りたたまれた俺の装備を手に取り、手早く着用する。
急げば夜の帳が降りる前には辿り着けるだろう。
「それでも駄目にごーざーるー。まだアンデッドの残党がいるやもしれませぬし、大体ユニたんは後衛職で、荒事には向いてないでござろう!」
「大丈夫。油を染みこませた布と火種と瓶があればアンデッドだろうが大体なんとかなる!」
「それ火炎瓶っ!! なんとかなるかもしれないけども放火もセットでついてくるタイプのヤバイ奴!」
扉に向かう俺をナウシュヴォーナは必死にとめる。見た目は俺よりモヤシだというのに、力は俺より強い。
「重い! 離せ!」
「はーなーしーまーせーぬー」
無理矢理引き剥がそうにもビクともしない。なんでこういう時だけ雄味を出すんだ此奴は。
ギリギリと奥歯を噛み締め、俺はふっと体の力を抜く。
「……わかった」
「ユニたん!」
「悪いな!!」
そして思いっきりナウシュヴォーナの脛を蹴り上げた。
「!??!」
「ここで行かなかったら俺は一生後悔するから、じゃあな」
声にならない悲鳴を上げて悶絶するナウシュヴォーナに別れを告げ、俺は部屋を出て伯爵邸の台所に向かった。
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