【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん

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第二章

16,異変

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 翌朝。
 食糧や寝袋など一式を買い揃え、リュウキとヤエは出発の準備をしていた。
 昨晩から気になっていたが、リュウキの懐から湯水の如く金が出てくるのが不思議でならない。

「どういうわけか、海岸で目覚めたら既に金銭が荷の中に山ほど入っていたんだよね」

 ヤエの疑問に、リュウキはそう答えた。本人でさえも首を捻っていたが、ありがたく使っていこう、と深くは気にしていない様子。

「それよりさ、ヤエ。これからまた山を越えないとならないんだけど。北北西の山は標高が高い上に、北側は一年中冬のように極寒らしい」
「そうなのですか?」
「うん。今朝、宿主さんから聞いたんだ。シュキ城を目指すには、必ず北側を通らなきゃならないんだけど……一日で北北西の山を越えるのは人の足では不可能だと言われてしまって」
「それでこんなにたくさん買い物を……」

 リュウキの大きな荷物を眺め、ヤエは浮かない顔をする。

「女の子なのに野宿なんて嫌だよね。馬の一頭でも手に入ればまた違った。だけどこの村には馬がいないようだ。ごめんね」
「リュウキ様が謝ることではありませんよ」

 リュウキは神妙な面持ちで遠目を見やっている。その目線の先には──今から越えなければならない北北西の山が、圧倒的な存在感で立ち尽くしていた。
 山頂の更に上空に、巨大な黒い雲が浮かんでいるのが確認できる。

「野宿も大変だけど、下手したら凍えるね」
「……」

 その言葉に、ヤエは固唾を飲み込む。

「昨日、あんなにあたたかい山道で君は氷になっていた。その原因は分からないけれど、少し気を付けた方がいいかも」
「そうですね……」

 なんとも言えない緊張感が、ヤエの全身を冷たくする。更に体温を奪うかのように、風が荒々しく吹いてきた。
 そんな様子を見つめるリュウキは、表情を緩める。

「まあ、大丈夫だよ」
「えっ?」
「僕は炎使いだよ。もしものことがあったら、僕がヤエをあたためてあげる」
「それはどうも。お世話になります」

 ヤエが小さく返事をすると、リュウキは上機嫌になり、鼻歌を歌いながら歩き出した。

 ──この『ヤオ村』は朝早くからも人々が活動をしていて、大人たちは皆せっせと働いている。戦乱の世とは思えない、平穏な村だった。

 ヤエはふと考える。自分の故郷はどのような所だったのだろう、と。
 この村のようにのどかだったのかもしれない。思い出した暁には、いつか帰ってみたい。家族とも会ってみたい。
 そんなことを考えた。
 
「さて、約束通り武器を返してもらわないとね」

 ヤエがあれこれ頭を巡らせていると、いつの間にか村の出口まで行き着いていた。そこには、昨晩と同じ門番たちがいた。

 リュウキは二人に近づき、背後から声を掛ける。

「今日もご苦労様。もう出発するから、武器を返してもらおうか」
  
 ──違和感はそこからであった。

 小太りの門番が、リュウキの方にゆっくりと振り向く。なにも返事もすることもせず、俯きながらふらふらと近寄ってくるのだ。

 なんとなく、様子がおかしい。ヤエは眉間に皺を寄せる。

 門番の男は、長剣を両手で握ると、突然それを乱暴に振りかざしてきた。思いもよらない出来事。リュウキもヤエも後退りする。

「え、何。何すんのっ?」

 リュウキは目を見開いた。
 だがその横から、もう一人の門番が手を震わせながらリュウキ目掛けて剣を向けてきたのだ。

「おい! やめろよ。僕の顔を傷つけるつもりかっ」

 叫びながら、リュウキはその攻撃も交わした。 
 少し距離を置き、腰に手を当てながらリュウキは門番二人を睨みつける。
 
「リュウキ様……これは一体」

 彼らの目は虚ろで、それでいて力なく身体を左右に揺らしている。剣を構えるその両手は酷く震えており、力の強さが定まっていないようにも見えた。

「頭がイッちゃってるみたいだね。ここは僕に任せて」
「で、でも。誰か助けを呼んできます」
「待って。村の人を巻き込むわけにはいかないよ。この二人の動きは相当鈍いから、僕一人でも平気だ。炎の力を使えば何とかなりそうだよ」

 リュウキの言葉に、ヤエは呆気にとられていた。

「心配しないで。ちょっと気絶させるだけだ」

 優しく微笑むと、リュウキは再び門番たちに目を向けた。

 昨日まで正常だったはずの二人は、唸り声を上げながらゆっくりと接近してくる。

 右手を握りしめ、リュウキは意識を集中させるように瞼を閉じた。彼の全身がたちまち熱くなっていくのを、ヤエは空気から感じ取る。
 こめかみの血管が浮き出ると、リュウキの口から細かい火花が溢れ出した。

「集中力が必要なんだ。君たちを気絶させるほどの火を吹くのに、相当の気力がないとだめなんだよね」

 リュウキの瞳は水色のままだ。
 しかし、右手からはたしかに赤い炎が溢れ出てきた。

 今にも襲い掛かってきそうな門番たちに向かって拳をかざし、勢いよく手のひらを開くと── 

「熱いぞ。気を付けて!」
 
 リュウキの叫び声と共に、門番たちの全身が一気に炎で覆われる。二人は剣を振り回し、右往左往し始めた。
 
「リュウキ様、それでは全身火傷を負って死なせてしまいますよ」
「大丈夫、僕は罪のない人を殺めたりしない」
 
 リュウキが右手をゆっくり握っていくと、門番たちを包む火の威力が段々と弱まっていく。

「最後に火の玉で少しばかり衝撃を与えてあげれば、眠ってくれるはずだ……」

 眼球を大きく見開き、リュウキは燃え盛る炎を巧みに操っていく。彼の額からは汗が流れ出てきて、息も荒くなっていった。
 とんでもない光景に、ヤエは圧倒されるばかりだ。
 
 だが、その時である。

「──情けは無用ぞ」

 どこからともなく──男の声がした。
 冷静な口調である。言葉の裏に怒りのようなものが込められているが、悲壮感も加わっている、そんな声色。
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