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第二章
17,弓矢男
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不審に思い、ヤエは周囲を見回す。
探すまでもなく、声の主を発見した。村の出口の反対側に大きな梅の木があり、声の主はそこの陰からこちらを睨んでいたのだ。
しかも、その手の中には弓矢が。構えの姿勢を取っているではないか。
「リュウキ様、誰かが矢を放とうとしています!」
ヤエの叫び声に、リュウキはすかさず身を伏した。反射的にヤエも姿勢を低くする。
しかし矢の標的は、仰天するヤエたちなどではなく──
「……!」
数秒も経たないうちに放たれた矢は、狙いを確実に定めた。正気を失った門番二人の腕や肩に、矢が次々と襲い掛かっていったのだ。
門番たちは真っ赤な血を吐き、呻いて倒れていく。
まるで、時の流れが遅くなってしまったかのよう。
目を開いたまま、門番たちはそれぞれ矢が刺さったまま、どすんと地面に全身を打ちつかれる。ぴくぴくと身体中が小刻みに動いていたが、やがて何も反応しなくなってしまった。
──目を見れば分かる。門番の二人は、息の根を止められてしまったのだということが。
「鏃には化け物を殺す毒がついている。その者たちは即死だ」
「ウ、ソ……」
男の冷淡な言葉を聞き、ヤエは口を手の平で抑える。
その横で、リュウキは全身を震わせていた。握り拳に溢れ出る炎の塊を止めることができない様子で。あっという間に、彼の目は朱色に染め上げられていた。
弓矢を手に持ち、腰まで伸ばした茶に光る直毛を風に靡かせ、ゆっくりとこちらに近づいてくる弓矢男。まるで何事もなかったかのようにヤエたちの前で立ち止まる。
「どなた、ですか……?」
ヤエは警戒しながら、眉間に皺を寄せる。
男は見かけない鎧を身にまとっていた。全身瑠璃色で、両肩と胸元部分に立派な朱雀模様が刻まれている。
「氷の封印から解放されたようだな、ヤエ」
「えっ?」
見知らぬ相手から名を呼ばれ、ヤエは目を見開く。
いや──もはや驚愕するほどのことではない。ただヤエは思い出せないだけで、この男はもしかすると自分が知っている人なのかもしれないのだから。
ナナシの件もあり、ヤエは冷静にそう判断した。
「あなたも、私の知っている方……なのですか?」
「理解が早いな。わたしの顔を、思い出せるか」
「……」
ヤエはじっと弓矢男を見つめる。
細い目に映し出される青空色の瞳。整えられた眉毛と高い鼻。額には特徴的な傷の跡がある。
背丈はそれほど高くないものの、重そうな大きな弓矢を使いこなしている様からして力があるのだろう。
思い出そうとするも、やはりヤエにはこの男の正体が分からない。
返事に困っている中、隣でリュウキが火の玉を握り締めたまま怒りを露らにする。
「君はなんてことを……なぜこの人たちを殺したんだ!」
温厚な印象なリュウキにそぐわず、彼の口調はとんでもないほどに圧が掛かっている。
激怒するリュウキを目の当たりにして、ヤエは唖然としてしまう。
しかし弓矢男は、全く動じていない。弓を下ろし、小さく溜め息を吐いた。
「その者たちは精神が壊れました。情けをかける必要などありません。分かっていただけますか、リュウキ様」
「……何?」
当然のように名を呼ばれたリュウキは、たちまち怪訝な顔をする。
──この男は、リュウキのことまでも知っている?
しかも、なぜだかリュウキに対して拱手し、丁寧な口調で接するのだ。
「なぜ僕の名前を……。人殺しの知人なんて、とんでもない」
「正当な理由もなく、わたしがその化け物たちを殺めたとでもお思いですか」
「……化け物、だって?」
束の間、三人の空間に無音が過ぎ去る。
「この者たちのおかしな動き、呻き声、合わない焦点。確認しませんでしたか? 疑いようもなく化け物であります」
「待て、どういうことだ? この方たちが化け物とは……? 昨日までは普通の人間だったんだよ!」
リュウキが焦ったように問うと、弓矢男は首を小さく横に振る。
「昨晩この村に、灰色の鎧を着た山賊が押しかけていたはずです。蛇模様の衣装を身に付けていませんでしたか? その者たちは『北の国』による使者です」
ヤエはハッとした。昨晩、料理屋で暴れる五人の山賊たちのことをすぐに思い出す。
探すまでもなく、声の主を発見した。村の出口の反対側に大きな梅の木があり、声の主はそこの陰からこちらを睨んでいたのだ。
しかも、その手の中には弓矢が。構えの姿勢を取っているではないか。
「リュウキ様、誰かが矢を放とうとしています!」
ヤエの叫び声に、リュウキはすかさず身を伏した。反射的にヤエも姿勢を低くする。
しかし矢の標的は、仰天するヤエたちなどではなく──
「……!」
数秒も経たないうちに放たれた矢は、狙いを確実に定めた。正気を失った門番二人の腕や肩に、矢が次々と襲い掛かっていったのだ。
門番たちは真っ赤な血を吐き、呻いて倒れていく。
まるで、時の流れが遅くなってしまったかのよう。
目を開いたまま、門番たちはそれぞれ矢が刺さったまま、どすんと地面に全身を打ちつかれる。ぴくぴくと身体中が小刻みに動いていたが、やがて何も反応しなくなってしまった。
──目を見れば分かる。門番の二人は、息の根を止められてしまったのだということが。
「鏃には化け物を殺す毒がついている。その者たちは即死だ」
「ウ、ソ……」
男の冷淡な言葉を聞き、ヤエは口を手の平で抑える。
その横で、リュウキは全身を震わせていた。握り拳に溢れ出る炎の塊を止めることができない様子で。あっという間に、彼の目は朱色に染め上げられていた。
弓矢を手に持ち、腰まで伸ばした茶に光る直毛を風に靡かせ、ゆっくりとこちらに近づいてくる弓矢男。まるで何事もなかったかのようにヤエたちの前で立ち止まる。
「どなた、ですか……?」
ヤエは警戒しながら、眉間に皺を寄せる。
男は見かけない鎧を身にまとっていた。全身瑠璃色で、両肩と胸元部分に立派な朱雀模様が刻まれている。
「氷の封印から解放されたようだな、ヤエ」
「えっ?」
見知らぬ相手から名を呼ばれ、ヤエは目を見開く。
いや──もはや驚愕するほどのことではない。ただヤエは思い出せないだけで、この男はもしかすると自分が知っている人なのかもしれないのだから。
ナナシの件もあり、ヤエは冷静にそう判断した。
「あなたも、私の知っている方……なのですか?」
「理解が早いな。わたしの顔を、思い出せるか」
「……」
ヤエはじっと弓矢男を見つめる。
細い目に映し出される青空色の瞳。整えられた眉毛と高い鼻。額には特徴的な傷の跡がある。
背丈はそれほど高くないものの、重そうな大きな弓矢を使いこなしている様からして力があるのだろう。
思い出そうとするも、やはりヤエにはこの男の正体が分からない。
返事に困っている中、隣でリュウキが火の玉を握り締めたまま怒りを露らにする。
「君はなんてことを……なぜこの人たちを殺したんだ!」
温厚な印象なリュウキにそぐわず、彼の口調はとんでもないほどに圧が掛かっている。
激怒するリュウキを目の当たりにして、ヤエは唖然としてしまう。
しかし弓矢男は、全く動じていない。弓を下ろし、小さく溜め息を吐いた。
「その者たちは精神が壊れました。情けをかける必要などありません。分かっていただけますか、リュウキ様」
「……何?」
当然のように名を呼ばれたリュウキは、たちまち怪訝な顔をする。
──この男は、リュウキのことまでも知っている?
しかも、なぜだかリュウキに対して拱手し、丁寧な口調で接するのだ。
「なぜ僕の名前を……。人殺しの知人なんて、とんでもない」
「正当な理由もなく、わたしがその化け物たちを殺めたとでもお思いですか」
「……化け物、だって?」
束の間、三人の空間に無音が過ぎ去る。
「この者たちのおかしな動き、呻き声、合わない焦点。確認しませんでしたか? 疑いようもなく化け物であります」
「待て、どういうことだ? この方たちが化け物とは……? 昨日までは普通の人間だったんだよ!」
リュウキが焦ったように問うと、弓矢男は首を小さく横に振る。
「昨晩この村に、灰色の鎧を着た山賊が押しかけていたはずです。蛇模様の衣装を身に付けていませんでしたか? その者たちは『北の国』による使者です」
ヤエはハッとした。昨晩、料理屋で暴れる五人の山賊たちのことをすぐに思い出す。
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