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第二章
18,化け物について
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固唾を呑み、ヤエは弓矢男に問いかけた。
「あの山賊たちと北国が、化け物とどう関与しているのです?」
「北国は山賊どもを各地に送り出し、『幻草薬』の成分を含んだ粉末をばら撒いているようなのだ」
「幻草……薬?」
「幻草薬は人間や動物の精神を破壊し、化け物にしてしまう成分を含めるものだ。いわば猛毒だな。見た目はただの雑草に見える植物から作られるものだが、大量に口にすると人間でさえ死に至ることがある」
「……恐ろしい。なぜそんなものをばら撒いているのでしょうか」
「北の国は幻草薬を利用して、化け物を増殖しようと企んでいるようなのだ」
「え……?」
話を聞いているうちに、リュウキの声が低くなっていく。
「その門番も、山賊どもに幻草の粉を浴びせられたのだろう。幻草成分を浴びると、たとえ微量でも身体に多大な負担がかかる。精神力の強い者なら耐えられるが、そうでない人間は一日も経たずに精神が破壊され、正気を失った化け物になってしまうのだ」
「そんな……。北国の目的は何なんでしょうか」
ヤエの切実な疑問に、弓矢男は小さく首を振った。
「それは──言えない」
「そこまで化け物について知っているのに、肝心な情報は言えないなんてどういうことだ?」
口調からして、リュウキは苛々しているようだ。
「北国の目的を知ったところで、簡単に平和が戻ることはない。兎に角、二人は一刻も早くシュキ城へ向かうべきです」
「……何?」
男のその言葉に、リュウキもヤエも呆気にとられた。
「どうして、僕たちの目的地を知っているんだ?」
「それも、申せません」
──まただ。精神が破壊されるといった理由で答えられないのだろうか。
(やはりこの方は、私たちが知っている人物なのね……?)
ヤエは確信せざるを得なかった。
なんとか苛立ちを抑えようとするかのように、リュウキは深く息を吐き出す。
「君の話を聞いて一つ思ったことがあるんだけど。もしかして……僕とヤエは、その幻草成分とやらを浴びてしまったのかな」
神妙な面持ちを浮かべるリュウキは、昨日にはない暗い雰囲気が醸し出されている。
「ナナシという男も言っていたよ。記憶を無理に呼び起こそうとすると、精神が壊されると。僕たちはもしかして、化け物に豹変する一歩手前の状態なんじゃないのか?」
リュウキの手から、火が消え去る。しかしその両腕は小刻みに揺れていた。
リュウキが口にした疑問を聞いて、ヤエの胸が低く唸る。
──自分たちが、幻草成分を? もしもそれが事実だとしたら。
考えただけでヤエの胸の奥が冷たくなる。
弓矢の男は静かにため息を吐くと、再び口を開いた。
「そうですね。仰せの通り、お二人は幻草成分を口にしました。いつ化け物になってもおかしくない状態です」
「……えっ?」
その答えに、ヤエは開いた口が塞がらなくなった。
それでも構わずに語られていく信じがたい話。
「お二人はおそらく、強い精神力をお持ちなのでしょう。今も正常な心を持った人間として生きています。……しかし、思いがけない有害反応が起きてしまったようです」
「記憶障害の話か?」
リュウキの声は震えていた。
太陽の光はあたたかいはずなのに、その場の空気は冷たく重くなる一方。
「記憶が戻らないのも一つ。他にもあります」
──まさか、と思う。
ヤエはリュウキの顔を眺めてから、自分の両手を見つめる。
その途端、全身に驚くほどの悪寒が走るのだ。
「妖術のような力をお持ちですね。リュウキ様は身体から炎が噴き出るようになり、ヤエは悲しみや怒りに支配されると全身が凍てついてしまう。非常に珍しい例ですが、力を上手く利用すれば大きな助けとなるでしょう」
弓矢男はリュウキの瞳をじっと見つめ、言いづらそうに話を進めた。
「リュウキ様。一つだけ忠告をしておきましょう。今でこそ火の扱いに慣れているようでありますが、気を付けなければあなたの炎の力はいつかこの世の災いとなりましょう」
「災いだって? どういうことだ」
「感情が高ぶると目の前が朱色に染められますね? 化け物の場合は目が真っ赤になります。リュウキ様とヤエは完全なる化け物ではないので瞳の色が少し違いますが、朱色に変わっている折は精神がかなり危ない状態なのです。幻草薬の力は、時にその人間の感情まで殺してしまうことがある。ですから、気を付けてほしいのです」
決して、弓矢男は煽っているようには見えない。
リュウキの額から妙な汗が流れ落ちる。
「ヤエはいつまた凍りつくか分からない。悲しみや怒りに苦しめられると、そのまま生命を落とすことがあるかもしれん」
男のその言葉に、ヤエは息を呑む。だが弓矢男は、尚も冷静さを保ったまま。
「化け物にも様々。しかしこの門番たちは正気を失い、人を襲うようになった。言葉を失くし、感情や思考までも消えている。だから殺処分するしかないのです」
「待てよ。他に方法はないのか? いくら人を襲うからといっても……。元の精神状態に戻るまで隔離をするなり、どうにかなるんじゃないのか」
「そうですよ。ハクは……私の大切な家族は化け物ですが、優しい心を持っていますよ」
二人の訴えに、弓矢男は首を横に振るのだ。
「壊れた精神を回復させるなど容易ではない。処分していかなければ、この世は化け物に支配されましょうぞ」
「あの山賊たちと北国が、化け物とどう関与しているのです?」
「北国は山賊どもを各地に送り出し、『幻草薬』の成分を含んだ粉末をばら撒いているようなのだ」
「幻草……薬?」
「幻草薬は人間や動物の精神を破壊し、化け物にしてしまう成分を含めるものだ。いわば猛毒だな。見た目はただの雑草に見える植物から作られるものだが、大量に口にすると人間でさえ死に至ることがある」
「……恐ろしい。なぜそんなものをばら撒いているのでしょうか」
「北の国は幻草薬を利用して、化け物を増殖しようと企んでいるようなのだ」
「え……?」
話を聞いているうちに、リュウキの声が低くなっていく。
「その門番も、山賊どもに幻草の粉を浴びせられたのだろう。幻草成分を浴びると、たとえ微量でも身体に多大な負担がかかる。精神力の強い者なら耐えられるが、そうでない人間は一日も経たずに精神が破壊され、正気を失った化け物になってしまうのだ」
「そんな……。北国の目的は何なんでしょうか」
ヤエの切実な疑問に、弓矢男は小さく首を振った。
「それは──言えない」
「そこまで化け物について知っているのに、肝心な情報は言えないなんてどういうことだ?」
口調からして、リュウキは苛々しているようだ。
「北国の目的を知ったところで、簡単に平和が戻ることはない。兎に角、二人は一刻も早くシュキ城へ向かうべきです」
「……何?」
男のその言葉に、リュウキもヤエも呆気にとられた。
「どうして、僕たちの目的地を知っているんだ?」
「それも、申せません」
──まただ。精神が破壊されるといった理由で答えられないのだろうか。
(やはりこの方は、私たちが知っている人物なのね……?)
ヤエは確信せざるを得なかった。
なんとか苛立ちを抑えようとするかのように、リュウキは深く息を吐き出す。
「君の話を聞いて一つ思ったことがあるんだけど。もしかして……僕とヤエは、その幻草成分とやらを浴びてしまったのかな」
神妙な面持ちを浮かべるリュウキは、昨日にはない暗い雰囲気が醸し出されている。
「ナナシという男も言っていたよ。記憶を無理に呼び起こそうとすると、精神が壊されると。僕たちはもしかして、化け物に豹変する一歩手前の状態なんじゃないのか?」
リュウキの手から、火が消え去る。しかしその両腕は小刻みに揺れていた。
リュウキが口にした疑問を聞いて、ヤエの胸が低く唸る。
──自分たちが、幻草成分を? もしもそれが事実だとしたら。
考えただけでヤエの胸の奥が冷たくなる。
弓矢の男は静かにため息を吐くと、再び口を開いた。
「そうですね。仰せの通り、お二人は幻草成分を口にしました。いつ化け物になってもおかしくない状態です」
「……えっ?」
その答えに、ヤエは開いた口が塞がらなくなった。
それでも構わずに語られていく信じがたい話。
「お二人はおそらく、強い精神力をお持ちなのでしょう。今も正常な心を持った人間として生きています。……しかし、思いがけない有害反応が起きてしまったようです」
「記憶障害の話か?」
リュウキの声は震えていた。
太陽の光はあたたかいはずなのに、その場の空気は冷たく重くなる一方。
「記憶が戻らないのも一つ。他にもあります」
──まさか、と思う。
ヤエはリュウキの顔を眺めてから、自分の両手を見つめる。
その途端、全身に驚くほどの悪寒が走るのだ。
「妖術のような力をお持ちですね。リュウキ様は身体から炎が噴き出るようになり、ヤエは悲しみや怒りに支配されると全身が凍てついてしまう。非常に珍しい例ですが、力を上手く利用すれば大きな助けとなるでしょう」
弓矢男はリュウキの瞳をじっと見つめ、言いづらそうに話を進めた。
「リュウキ様。一つだけ忠告をしておきましょう。今でこそ火の扱いに慣れているようでありますが、気を付けなければあなたの炎の力はいつかこの世の災いとなりましょう」
「災いだって? どういうことだ」
「感情が高ぶると目の前が朱色に染められますね? 化け物の場合は目が真っ赤になります。リュウキ様とヤエは完全なる化け物ではないので瞳の色が少し違いますが、朱色に変わっている折は精神がかなり危ない状態なのです。幻草薬の力は、時にその人間の感情まで殺してしまうことがある。ですから、気を付けてほしいのです」
決して、弓矢男は煽っているようには見えない。
リュウキの額から妙な汗が流れ落ちる。
「ヤエはいつまた凍りつくか分からない。悲しみや怒りに苦しめられると、そのまま生命を落とすことがあるかもしれん」
男のその言葉に、ヤエは息を呑む。だが弓矢男は、尚も冷静さを保ったまま。
「化け物にも様々。しかしこの門番たちは正気を失い、人を襲うようになった。言葉を失くし、感情や思考までも消えている。だから殺処分するしかないのです」
「待てよ。他に方法はないのか? いくら人を襲うからといっても……。元の精神状態に戻るまで隔離をするなり、どうにかなるんじゃないのか」
「そうですよ。ハクは……私の大切な家族は化け物ですが、優しい心を持っていますよ」
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